表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

【1】美姫三人、おまけが一人

 

 モレッティ家の娘は四人。

 長女のマイラは春のように優しく、美しい。次女のレイラは夏のように勇ましく、三女のセアラは冬のように鋭く賢い。

 そして四番目のニコラは暑くもなく寒くもなく。きれいな花が咲くでなし。そう、まるで秋のように……中途半端。


 うん、よっくわかってる。さすがに面と向かって言う人はいないけど、噂ってそれとなく耳に入ってくるしね。

 別に今さら、気にしてないわ。四人も居れば一人ぐらい、『はずれ』が混じってるものよ?

 その辺、お父様とお母様は心得てるから助かっちゃう。生まれてきてから14年、そろそろお友だちは花嫁修業や行儀見習いが始まる頃だけど、私は割と自由にやらせてもらってる。

 必要なことは、みんな姉さまたちが教えてくれるし。

 ダンスにお作法、お裁縫。勉強に、剣の稽古だって完ぺきなんだから! ……そりゃ、ちょっとは向き不向きがあるけど。

 マイラ姉さまは、いつも言ってくれるわ。


『ニコラにはニコラの素敵な所があります。まだ、それに気付く人に出会っていないだけなのですよ』って。


 だから安心して、今日は留守番させてもらえるって信じてたのに。


『でも、まず出会うためには、人のいっぱいいる所に行かなければね?』

 

 姉さまって、時々地道に強引だ。にっこり笑って、有無を言わせない。

 あれあれっと思ってる間に髪の毛がとかされ、お気に入りの水色のドレスを着せられて。(ほんと、しっかりしてる! これ選べば私がご機嫌だって、わかってるんだから)

 気がついたら、馬上槍試合の会場にぽんっと放り込まれてた。

 馬のいななき、鎧や剣のがちゃがちゃ触れ合う音、ぴーちくぱーちくけたたましい、観客席の御婦人方の金切り声。

 もしも猫みたいに耳が動かせるなら、まちがいなく伏せたい所。


(何で私、ここにいるんだろ?)


 眉の間にしわ寄せて、首をすくめながら思ったわ。


(あー、帰りたい……)


     ※

 

 試合の前は、会場の御婦人たちはみんな張り切ってる。

 年は関係ないの。大人も。子供も。要するにレディって呼ばれる年ごろの人はみんなそわそわしてる。さりげなくハンカチを手に持ってひらひらさせたり。ちっちゃなバッグから出し入れしたりで、いそがしいったらありゃしない。

 それもこれもみんな、妙てけれんなあの風習のせい。

 誰が始めたのか知らないけど、試合に出場する騎士はみんな、自分じゃなくて『私のレディ』の為に戦うことになってるのね。


(何でそんなめんどくさいことするんだろう? 訳わかんないし)


 恋人とか奥方のいる騎士は、その人のために。

 そうでない若い騎士は、会場をうろちょろして、これぞと心に決めたレディの前に跪く。

 その騎士がお気に召したら、レディはうやうやしくハンカチを賜わるの。

 騎士はそれを受け取り身に付けて、レディの名誉をかけて戦うって訳。


 要するに、試合にかこつけて、気になる女の子にアピールしようって魂胆よね。ほんと、男の子の考えなんていつでも同じ。底が浅いって言うか、単純って言うか?

 試合の日に持たされるハンカチがやけに大きくって、派手な色なのはそのせいね、きっと。

 そもそも何でハンカチ? 別に旗でも盾でもいいじゃない。いっそリボンとか。

 ひらひらの大きなリボンを結んで、颯爽と試合してる騎士さまたちの姿を想像してみる。

 うーん……いまいち、可愛くない。

 って言うか、変。笑える。


「ぷっ、くくくっ、あはっ、あははっ」


 がまんできなかった。レディっぽくない『はしたない』笑い方だけど、どうせ誰も見てない、聞いてない。

 会場をうろつく騎士は沢山いるけれど、誰一人、私の所に来るはずなんてないんだから。

 これまでもそうだった。

 今日だって同じ。

 姉さまたちの周りには、順番待ちの列ができている。ハンカチだって一枚二枚じゃ足りないから、いつも束で持ってくる。

 それこそ『ハンカチ屋が開けますわね』って、ばあやがしょっちゅう冗談言うくらいに。


 西の辺境の護り手にして騎士団を統べる長、ド・モレッティ伯爵の娘は四人。

 春のように美しくたおやかな一の姫。

 冬のように聡明で賢い三の姫。

 二の姫は自ら鎧兜に身を固めて戦う。

 みそっかすの四の姫に目を留める者なんか、だぁれもいやしない。


 うらやましいってわけじゃない。だけど、そばにいるとどうしても、取り残された気分になってくる。


(これ以上、ここにいちゃいけない)

(ここに居続けたら私……きっと姉さまたちを嫉んでしまう)


 それは、とっても嫌な気持ち。煮えたぎった硫黄の杯を飲み干すほうがまだマシ。(やったことないけど)


 こっそり客席から抜け出したけど、誰にも呼び止められなかった。姉さまたちの周りに集まった騎士たちが、壁になってて見えなかったみたい。

 胸の底がつきゅんっと疼いて、鼻の奥に塩からい味がこみ上げてきた。


(……いけない)


 ぐっと歯を食いしばって飲み込んだ。


「いいの。私は平気。レイラ姉さまの応援に来ただけなんだから!」


 ファンタジーの登場人物だって、毎日毎日、世界の危機に立ち向かってる訳じゃない。

 朝起きて。ご飯を食べて。働いて、恋をして。

 そんな『普通の』暮らしをしてる人たちもいる。

 世界の危機に立ち向かうのと同じくらい、それは、きっと、大切なこと。

 だって勇者も天使も神様も、皆の笑顔を守るために戦ってるはずなのですから……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ