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ハンドメイド狂騒曲~迷惑ママ大暴れ~

作者: 歩芽川ゆい
掲載日:2026/08/28

迷惑系ママです。

「ねえ! ちょっと聞いてよ!!」

「うわ、何? どうしたの?」


 ある日の幼稚園のお迎え時間。仲良しママさんたち4人が立ち話をしているところに、あるママさんがやってきた。

 それはちょっと評判の良くないママさんで、関わると碌な事がないからと皆から敬遠されているのだが、本人はそれに気が付いていないし、どうやら気にもしていないらしい。そんな人とかかわりになりたくない仲良しママさんたちは、いきなりの乱入に眉をひそめた。


「だからちょっと聞いてよ! この間ね、動画見てたらさ、着物からワンピースを作るって動画が出てきたのね」

「……はあ」


 それがどうした、と思うが、口を挟む間もなく乱入ママは話を続ける。


「それでさ、何となく動画見てたら、着物からワンピース作ったし、作ったのを売ってるらしいのね。趣味で始めたらしいんだけどさ、それで結構設けているっぽいの。で、その人に希望のデザインを選んで、着物を送れば作ってくれるって話もあってさ。旦那の実家に着ていない着物とか浴衣とかあったからさ、作ってもらおうと思ったのよ。

 だけどさ、その人、プロじゃなくて趣味で作っているらしいのね。だからさ、安く作ってもらおうと思って、動画から連絡してみたの」


『動画見ました。貰った着物があるので、それでワンピース作ってもらえませんか? タダで』


「え、ちょっと待って、タダって?」

「だってプロじゃないし、仕事じゃないみたいだし、お店でもないんだよ? ただの素人の趣味でしょ? 金払う必要ある?」

「いや作って貰ったらお礼するのは当たり前なんじゃ……」

「作りたくて作ってる人だよ? 着物はこっちから送るんだから、材料費とかかからないじゃん。それに作らせてあげるんだからこちらが感謝してもらわなきゃさ。だからタダだって高い方だよ。本来なら、こっちがお金欲しいくらいだよ」

「え、やば……」

「素人で金取ろうとかヤバイよね。それでさ、そうDMしたら返事が来たの」

「その内容で返事来たの!?」

「来たんだけどさ、それがこれ!」


 DM画面らしきものを迷惑ママは彼女たちに見せた。


*DMありがとうございます。確かにソーイングは趣味ですが、無料は無理です。

☆えー、作ってよ。せっかく着物旦那の実家から貰ってきたんだからさ。着物はこっちから送るんだから材料費タダだし、好きなハンドメイド、作らせてあげるんだから、ただで良いでしょ?

*無料は無理です。請け負いかねます。

☆そんなこと言っていいの? SNSで炎上させるよ? 少なくとも値引きぐらいしてよ

*どうぞSNSに載せてください。でも値引きですか……。それなら、先ずはその着物の映像を見せてください。


「ちょ、それ、脅迫……」

「本当のことを言うだけだもん、脅迫じゃないよ。で、持ってきた中から適当に選んで画像送ったのよ。そしたらさ、それはよくいだとか言い出すの。着物だって言っているのにさ。話全然通じなくて。本当にただの趣味なんだなーって」

「よくい?」

「(ヒソヒソ)……もしかしなくても浴衣、だよね?」

「(ひそひそ)ああ……」

「で、よくいならまずは洗ってくださいとか言い出して。そうしたら3千円値引きしますとか言うの。でも洗濯機じゃなくて手洗いだとか、専用の洗剤だとか言い出すのよ。旦那に調べてもらったら専用の洗剤って小さいのに千円とかするのね、そんなの買ったらタダで作ってもらう意味がないじゃない。だからほっぽって洗いましたーって返事しといたのね」


*どのくらい縮みましたか?


「まさか聞かれるとは思ってないから、洗ってないし、だから縮まないし、そんなのわからないからスマホで探して適当に書いたのね」


*……そうですか。それでは次に、浴衣を解体してください。やり方は動画を探せばありますから。

☆そんなのわかんないよ! やり方教えてよ!

*動画はこちらです(URL)。やってくれたら1万円値引きします

☆一万円! ならやる!!


「でもさ、その作業に2日かかったの。動画見ても全然わからないし、糸と間違えて生地切っちゃうし。ちょこっとだけどさ」

「でもやったんだ……。初めてで2日って早くない? 私も解体したことないから、そんなの出来るとは思わなかった。できるんだ、凄いね」

「ん、まあ、本当は3日かかったけど。食事とか作っているヒマじゃないのに、旦那とこの子がごはんとかうるさくて、『遊んでんじゃねえんだよ!』って怒鳴って無視してたら、旦那が作ってたみたいなんだけど。まあ一応解体できたのよ」


*解体した写真を送ってください。──ああ、ちゃんとアドバイス通りに部位と表裏が分かるように付箋も貼ってありますね。良いでしょう。

☆やった! じゃあこれ送るから作って!! ここまで私がやったんだから、もちろんタダだよね!

*ですから無料は無理です。でもその解体した袖を、見ごろの脇に付けてくれたら3千円値引きします

☆ミシンとか無いし。無理。

*お子さんいらっしゃるのであれば、この先ミシンは必需品です。この機会に買ってしまいましょう。お安いの沢山ありますから。ああ、5千円とかは使い捨てなので、安くてもちゃんとしたメーカーの物を買ってくださいね。


「とか言いやがるから、旦那に買わせたの。だけどミシンなんて使った事も無いからさ、そう言ったら、ミシンについているちゅーとりあるをやり終わったら連絡しろとか言うから、1週間かかってやり終わって、連絡したら、袖を身頃の脇に付けてみろ、付けたら写真送れ、とか言うの。」


 ふざけんなと思ったけど、ミシン買っちゃったしさ、3千円値引きしてもらえるんならと思って、で、悪戦苦闘して何とか付けて、写真送って。糸始末が出来てないとかなんとか言われて、しゃーないからやってさ。

 そしたら次はそれに直接切り取り線を描けとか言い出して。何センチとか、ここからここまで直線を引けとか、そういう紙を写真で送ってきたのね。でもさ、チャコペン? とか無いから百均に買いに行って、で、適当に線を引いて写真送ったの。

 そしたらさ、その線の所に定規置いてもう一度送れとか言のね。置いてみたら貰った写真と㎝が違ってて。直そうにもさ、日にちが経ったら消えるチャコペンとか言うのを買ったから、こすろうが何しようが消えないのよ。しょーがないから四苦八苦して線を書き直して。それに1日かかっちゃったわよ。

 その写真送ったら、どの線が本物かわからないから、本物の線に付箋でしるしを付けろとか言われて。また定規で測りながら付箋を置いて。


 ようやく合格貰えたのが、線を引いてから4日後だったのね。もういつになったら作ってくれるのかとDMでブチ切れたんだけど。5千円値引きするからその線に沿ってカットしてって言うの。間違えて切ったら終わりだから気を付けて、とか言ってきてさ。それならお前が切れよ!って言ったら、切りますけど、その分りにくい線を直しながらだから、手数料として+5千円頂きますよとか言い出しやがって! ふざけんな誰が払うか、って、自分で切ることにしたんだけど、布って普通のハサミじゃ切れないのね。百均にも無かったから手芸屋で買ったから、大赤字よ。


 それで一か所ずつ切るたびに写真送れと言われたから、それも含めて時間かかったし、ガタガタになったけど、何とか切れて。


 次は肩と脇を縫えとか言い出して。まあちょっとミシン使えるようになってたし、直線だから行けるかな、ってちょーーーーーっと曲がりながらも縫って。それもDMで真っ直ぐ縫えないって文句言ったら、針の脇に目印付けると良いとか言うから、それやったら確かにあんまり曲がらずに縫えたけど。


 縫った所を開いてアイロンで押かけろとか、1センチに折ってアイロンかけろとかさらに折ってアイロンとかうるさくて。でもアイロン1か所に付き3千円値引きとか言われたらやらないわけにはいかないじゃない? アイロン台もアイロンも無かったから旦那に買わせたんだけど、全部で10か所くらいかけたから3万円の儲けよ。


 でさ、あれやれば3千円、これやれば5千円引きとか言うからやってたらさ。


「気が付いたら、ワンピースが出来上がってたの」


「え……? もしかして、今着ているのがそう?」

「え、凄いじゃない? 縫い目もそんなに曲がって無いし」

「うん、なんか所々糸が飛び出していたりはするけど、良い感じなんじゃない?」


 ママ友たちは彼女のワンピースを見た。袖も少しだがあるし、長さはロング丈かマキシ丈か。デザイン的には凝ったものではないが、とも布で作ったらしいベルトもなかなか良い。

 確かに不思議な柄だとは思ったけど、なるほど浴衣か、そしてそれなりに出来ているじゃないかと思った時。


「これは違うよ。最初のはガッタガタでさ、かっこ悪くて着てられないから、直せって言ったら、それをほどいて送ってくれなければ無理だとか言うし、そのまま送ってきたら製作費+5万とか言いやがるし、あったまきてほどいたらほどいたで、もう一度肩を縫って~脇を縫って~アイロンかけて~とか言われてさ、また気が付いたら出来上がってて。最初よりはマシだったけどやっぱりガッタガタで。もう縫い目も切れちゃったりしてそれ以上作り直せないから、新しい着物を選んで、写真撮ってこれで作れ、って言ったらそれは長なんとかだとかいうし、まあそれでも作ったんだけど」

「長なんとか……? 私、着物には詳しくないけど、長が付くなら長襦袢?」

「今ググったら長羽織って言うのもあるみたいだけど、それじゃあそんなに長いワンピースには出来ないよね。」

「えっと、でもそれは長襦袢じゃないよね?」

「うん、だからこれは5着目なんだって」

「ご、五着目!?」

「だからか、綺麗に作れてると思った」

「ねえ、ハンドメイドだとはわかるけど、良い感じにできているよね」

「それにしてもそんなに作ったの? っていうかよくそんなに着物があったね」

「着物はたくさんあるんだよ、旦那の実家に。旦那の母親に聞いたらよくいなら持って行っていいっていうから、あるだけ貰ってきたし。そりゃあいいんだけど、動画の人さあ、結局1着も作ってくれてないの!」

「え……」

「ちょ……、まだ言ってたの?」

「だって! 作ってくれ、って頼んでるんだよ! なのに作ってくれないんだよ! 酷いと思わない!?」

「えっと、自分で作ったらどうだったの? 大変だったんじゃない?」

「そりゃ大変だよ! こっちはミシンも触った事のない素人だよ! その素人相手に作らせるとか、もう慰謝料ものだよ! だから次は作れ、って言っているのに、いつの間にか出来ちゃってるんだから!!」


 ママ友たちは顔を見合わせた。これはもしかして、自分で作れたことの自慢だったのか?と。

 一人がおずおずと言ってみる。


「でもさ、その初心者がそんな素敵なワンピース作れたんだから、良かったんじゃない?」

「うん、実はハンドメイドに向いていたんじゃないの?」

「才能あるのかもね。もう少し極めたら、今度は作る側に回れるんじゃない?」


 その言葉に彼女はプクーーと頬を膨らませた。


「どうしてみんな同じことを言うの? そりゃあ私が天才だからかもしれないけど、作る、って言ったんだから約束守って作れよ、って思うの! ねえ、子供だってさ、約束したら果たさなきゃいけないじゃない?」

「えっと……子供のくだりは同意なんだけど」

「やっぱりそうよね!! 約束は果たさなきゃね!! ね、酷い話でしょう!?」

「酷い話……なのかな」


 ママ友たちが困惑する中、一人が言った。


「その、ワンピースの作り方とか、ミシンの使い方とか、教えてもらった訳じゃない?」

「そうよ? こっちは素人なんだから、当たり前じゃない」

「その教えてもらったお礼はしたの?」

「はあ? 作ってくれ、って言っているのに、作ってくれないで勝手に作り方を送ってきているんだよ? そんな勝手なものにお礼なんてするわけがないじゃない!」

「いや、教えてもらったらそれはお礼しなきゃ……。子供の習い事だって月謝とか謝礼とか払うでしょう?」

「習い事教室の先生はプロだから、それはお金を払うのは当然だけど、しょせん作ってみた動画を上げているだけの素人なんだから、お金なんて払う必要がないじゃん。だいたいこっちは作って、って言っているのに、勝手に教えてくるんだからさ。この子のもさ」

「ちょっとまって、お子さんのワンピースも、もしかして浴衣から作ったの?」


 今更だが、ちょっとかわいいワンピースを着ていると思ったら、その記事は浴衣っぽかった。子供は嬉しそうににっこりと笑う。


「この子が、旦那の実家にあった子供用の浴衣を見つけてこれで作ってくれ、っていうから。動画の人に今度こそ作ってくれって言ったら」


「「「「「気が付いたら出来上がってた」」」」のよね」


 皆でハモったあと、ママ友一人が言った。


「それだけ作れるんなら、私にも作ってくれない? 浴衣なら来てないのあるから渡すから。生地はわたすんだから、タダでいいよね?」

「はあ? こんな大変なモノ、タダで作るわけがないじゃん! どれだけ時間かかっていると思ってんの? 自給換算したら超高値だよ! あ、でも時給分くれるなら作らなくもないけど?」

「でもあなた素人よね? 最近までミシンに触った事もない素人よね? ならお金なんて取れないじゃない?」

「はあ? 素人に作れなんて言う方がおかしいんじゃない? それでも作れと言うなら、時給分はらってよね!」

「自分は動画主さんに払わないのに?」

「だから! 作ってもらってないんだってば!」

「でも作り方を教えてもらったんでしょう? 動画を見てではなく、全部やり方を教えてもらったんでしょ?」

「だから! あっちが勝手に教えたんだから、礼をする必要はないでしょ! なんでみんなわかってくれないかな! もういい!!」


 そしてママさんは子供の手を引いてプンプンしながら帰っていった。


 残されたママ友たちは、呆れながら、やはりかかわると碌な事にならなかった、とため息をつき、面倒見のいい動画主さんに同情しながら、これ以上絡まれないように、さっさと帰るべくそそくさと帰っていった。

 

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