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妻、猫になり逃走中! 至急確保し溺愛せよ!  作者: 専業プウタ@コミカライズ準備中


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9.猫の私は自由だ!

キルステンは執務室で仕事を開始する。私は応接セットの濃紺のベロアのソファーの上に乗せられた。キルステンは鈴を鳴らしメイドを呼び、何やら指示を出している。


私の心は沈んでいた。


コトンとテーブルの前にカラフルなマカロンが置かれる。


「おやつだ。食べるといい」


キルステンは少しそっけなく言い放った。先程、私がすんなりと彼の方に行かなかったから腹を立てている。


私はゆっくりと首を振り丸まった。胸が詰まってお腹なんて空いていない。


「ご機嫌斜めになる時もあるんだな」

「にゃあ(猫ですから)」


ビルゲッタだった時、私は彼にとって愛する妻でも婚約者でもなく犬だった。常に尻尾を振り彼の機嫌を伺った。いつもそっけないご主人様のお役に立とうと立ち回った。


「むくれてても、可愛いだけだぞ」


キルステンは立ち上がり、ソファーに移動してくる。

私を抱き上げようとしてくるので、私は伸びをしてそれを避けた。

そんな私を彼は楽しそうに見つめている。

彼の優しい視線に心臓が跳ねる。


「そうだ、後で一緒にお風呂に入ろう。外に出て汚れただろう」

涼やかな顔をしているキルステンの提案に、私は心臓の鼓動が強くなる。

(そんな恥ずかしい事を言える人だったなんて⋯⋯)


私は夫婦になったら、彼と薔薇風呂に入るのを夢見ていた。


「にゃ、にゃーん? (薔薇の花びらを、浮かせてはどうかしら?)」


「随分、元気になったな。そんなに僕とお風呂に入りたかった? じゃあ、真っ赤な薔薇の花びらを浮かせて薔薇風呂にして一緒に入ろうか?」


「にゃー! にゃん!(きゃー! 猫語解読されちゃった!)」


言葉は通じていないのに、通じ合っているようなくすぐったい時間が流れる。

私が想像していたキルステンとのハネムーンタイムがそこにあった。


扉をノックする音と共に美しい金髪を靡かせた美女が入ってくる。


聖女アルマだ。


「約束はしてないぞ」


冷たく言い放つキルステンに微笑みで返すアルマは強心臓。

そのまま、私の向かいの席に座り、黄色いマカロンを一つ口に放り込んだ。


「それは、エリナのだ」

「キルステン皇太子殿下、猫はマカロンは食べませんよ」


皇太子であるキルステンの前に、アルマは不敵な表情で堂々としている。

私はキルステンの膝の上に乗り、丸まって寝たふりを決め込んだ。


「私、キルステン皇太子殿下との結婚の話を受け入れましたわ」

アルマの言葉に私はますます丸まった。


「何を言ってるんだ? 僕は既に結婚している」


「ビルゲッタ様、失踪したという話でしたね。先程、彼女の悪い噂を耳にしました。次期皇帝として、彼女は切った方が賢明ですわ」


私は思わず顔を上げると、バッチリとアルマと目が合った。

アルマは私を見るなり、クスリと嫌な笑いを浮かべる。


「悪い噂?」

「いかがわしい、仮面舞踏会に出入りしてるとか?」

「ビルゲッタが? そんなはずはない」


アルマはさっきから、チラチラと私を見ている。

私がビルゲッタだと彼女が知るはずがない。

そうであれば、彼女はキルステンの寵愛を受ける猫の私を恋のライバルとして見ているのかもしれない。


先程のマカロンを食べる仕草は、「貴方の男は私のものよ」という挑戦状。


そして、アルマと友達のような関係性が築けると期待した私は馬鹿だ。

彼女は私を嵌めようと、昨日の仮面舞踏会に連れて行った。


アルマはヒロインなのに、かなり強かな性格をしている。最も、強かなくらいの方が皇族として生きて行くには良い。


(でも! なんか、嫌!)


キルステンに対する彼女の態度も、昨日と比べ悪くなってるし彼女を認めたくない。私は目の前の残ったピンクと水色のマカロンを口にかき込む。


「エリナ?」


キルステンの驚いた声が遠くなる。マカロンに何か入っていたのか、強い眠気が襲ってきて私はそこで意識を手放した。


瞼が重い。ゆっくりと目を開けると、夜着のキルステンに抱き込まれながらベッドに寝そべっていた。おそらくマカロンには睡眠薬が入っていた。黄色いマカロンを食べたアルマが平然としてたのを見るに、薬が仕込まれてたマカロンは二つ。そして、アルマは私が薬入りマカロンを食べるように誘導した可能性が高い。

私はキルステンの拘束から逃れようと身を捩る。ふと、視界に真っ白な女の裸体が飛び込んできた。

(私、また、人間に?)


なんとかキルステンを起こさないように、ベッドから脱出する。無造作にベッドサイドに置いてあったロイヤルパープルのガウンを羽織ると、キルステンの上品な香りに包まれた。


バルコニーのガラス扉を微かに叩く音がする。私は濃紺のカーテンをそっと開けた。


カーテンを開けた先にいたのは、月明かりに照らされた白い騎士服を着た若い青年。ルビーのように光り輝く赤い瞳が、私を心配そうに見ている。


私はゆっくりと音を立てないようにガラス扉を開いた。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク、評価、感想、レビューを頂けると嬉しいです。貴重なお時間を頂き、お読みいただいたことに感謝申し上げます。

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