37.フランシスの父親
私にはアルマの気持ちが理解できる気がした。
自分が王族から捨てられた存在だと気付いた時に復讐心が芽生えただろう彼女。
そして彼女は一国を滅ぼせるくらいの魔力を持っていた。
化け物のような力があっても、心は化け物ではなかったのだろう。
血の繋がった王族、自分の生まれた国を自ら滅ぼすことはできない。
それでも、復讐心は消えず苦しい。
そんな時に、麗しい帝国の皇太子に恋をした。
愛した男に自分の代わりに復讐を果たして欲しい。
まるで、童話に出てくるお姫様のように傷付いた心を彼に救われたい。
「もう、止めよう。あんな化け物の事を考えても仕方がない」
「いいえ。キルステン、考えよう。アルマが何を考えていたのか。もしかしたら、まだ生きてるかもしれないわよ」
私の言葉にキルステンが目を丸くする。
確かにアルマはクリフトン様に私たちの目の前で消し炭にされた。
でも、もしクリフトン様がアルマの血筋を疑っていたらどうだろう。
魔女である孤独感に共感していたとしたら⋯⋯。
幻覚魔法を使って、どこかにアルマを転送していたとしたら⋯⋯。
クリフトン様の魔力がどれ程のものでどれくらいの事ができるのかは分からない。
回復魔法は苦手だと言いながら、フェリクスを治療するのは早かった。
本当は莫大な魔力を持っていて、恐れられないように隠しているのかもしれない。
私の知っているクリフトン様は人の心に敏感だ。
私がフェリクスの好意を利用している事にも直ぐに気付き批判してきた。
「まだ、生きていると言えば、エマヌエル皇帝陛下もだ」
「エマヌエル皇帝陛下のお体はお悪いの?」
キルステンが当たり前のように話してきたことは驚くべき事だった。
エマヌエル皇帝陛下は毒を盛られ苦しんでいた。
アルマに駆け落ちしたような妻より父親を助けて欲しいと言わないのかと尋ねられたらしい。
キルステンは、迷いなく私を選んだ。
元々、エマヌエル皇帝とキルステンの間には親子の情がない。
キルステンの顔立ちが皇帝陛下の愛した妻に似ているから、見るだけで苦しくなり避けているという噂もある。
私には唯一の皇位継承権を持つ息子を立派に育てる為に、エマヌエル皇帝があえて冷たく振る舞っているように見えていた。
実際、エマヌエル皇帝が私との結婚に反対しアルマとの結婚を薦めたのは息子に幸せになって欲しいからな気がする。
私の行動や言動はしばしばエマヌエル皇帝を苛立たせた。
「何の毒を飲ませられたの?」
「皇帝がいない方が僕と君はやりやすい。院政をされても面倒だ」
「何を言ってるの? フランシスのお祖父様よ。孫の顔を見せてあげたくないの?」
思わず大きな声が出てしまった。
キルステンは何も悪くない。
幼い頃に母を亡くし、父親は大帝国の皇帝。
息子として可愛がられたことなどないのだ。
「フランシスが僕の子だと認めるんだな。僕をフランシスの父親にしてくれるのか?」
「当たり前よ。だから、何の毒を飲んだか教えて。ここはまだアルベール王国内で様々な花が手に入るわ。解毒剤を作れるかもしれない」
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