35.こんなにも愛されていた!?
キルステンの美しいアメジストの瞳は涙の膜が張り宝石のように輝いていた。
その美しさに取り込まれそうになりながらも、私は必死に自分の意図を説明する。
「にゃー!にゃん(逃げようとしてるんじゃなくって、服を着たいの)」
「君の怒りは全て受け止めるよ。君が僕を頼りないと思っているのも分かってる」
私はキルステンが誤解を解きたいのに、言葉が喋れないのがもどかしい。
人間の時は言葉が話せたのに、もっと彼の気持ちを聞けば良かったと後悔している。
前世からの初めての恋の相手キルステン。
私はただ、自分の気持ちをひたすらに彼に押し付け続けていた。
冷たくされても、どんな彼でも私は好きだと訴え続けた。
『どうしてそんなに冷たくするの?』と彼の気持ちを聞いてれば少しは違ったかもしれない。
結局、私の初めての恋は一方的で身勝手なままだった。
「にゃ、にゃん(キルステンに怒ってなんていないし、頼りないとも思ってないよ)」
「こんな風に抵抗できない状態で君をルスラム帝国に連れ戻すのを許して欲しい。僕にとって君だけが生きる希望なんだ」
「!!??」
キルステンの頬に美しい一筋の涙が伝う。
(⋯⋯こんなにも愛されていた?!)
私は混乱で頭がパニックになっていた。
もう、全裸だろうが薬を飲んでこの疑問を彼にぶつけても良いかもしれない。
でも、流石にこの狭い馬車の中で全裸で現れる自信がない。
「にゃーん!(せめてタオルを)」
クーハンの上に掛かっているタオルを咥える。
この大きさでは咄嗟な時に大事な部分がギリギリ隠せるレベル。
「眠いのか? 君のメイドから、君は昼夜逆転するような生活を送っているとは聞いていたよ」
「にゃ?(ヘルカ?)」
ヘルカはキルステンが私の為にと置いて行った。
彼女が買い物に出ていた時にアルマの襲来があったが今はどうしてるのだろう。
「眠って良いよ。これから僕たちには沢山の時間があるのだから」
キルステンが私をそっと抱き上げ、お腹の辺りをくるくる回すように撫でる。
これをされると睡魔に抗えない。
(ね、眠くなってきた⋯⋯)
私は吸い込まれるように夢の世界に入って行った。
『なんでよ、私だって愛されたかっただけなのに』
金髪の少女が震えながら泣いている。
今、私は夢の中にいる。泣いているのはアルマだ。
殺されそうになっても、化け物のようだと彼女に恐れを感じても、私は彼女を嫌いになれなかった。
彼女は私にそっくりだ。
アルマが欲しかったのは世界でも帝国でもなくて、キルステンの愛。
彼女はキルステンを殺そうと思えばいつでもできた。
最初は惚れ薬を使って自分を好きになってもらおうとしたアルマ。
失敗して突き放された後は、自分の姿を捨て私に成り代わってでもキルステンに愛されようとした。
原作『愛され過ぎちゃって困っちゃう』の最後は、「愛され過ぎて困っちゃうくらい、今、私は幸せ」という文で終わる。
「愛する人に愛されたい」というのは魔女だって同じ。
私と同じようにアルマもキルステンに恋をしていたのだろう。
失恋し心が折れても、諦められなくてもがき苦しんだ。
私も結婚して妻になってもキルステンに冷たくされて心が折れていた。
猫になったらキルステンから寵愛を受け、自分の姿を失っても彼に愛されたいと願った。
一方的で身勝手な愛。
夢の中だと分かりながら、私はアルマの肩に手を伸ばす。
振り向いたアルマは私を見るなり鬼のような形相に変わり、首を絞めてきた。
『お前さえいなければ、私は愛されたのに!』
苦しさで身悶えていると、突然遠くから私を呼ぶキルステンの声が聞こえる。
「ビルゲッタ!」
私はパチリと目を開けた。
眼前には顔を真っ赤にして私から目を逸すキルステンがいた。
「な、なんで、そんな格好で⋯⋯」
キルステンの戸惑った声に私は自分の姿を見る。
そこには一糸纏わぬビルゲッタ・ロレーヌがいた。
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