33.僕を信じて
「アルマ、ビルゲッタには近づかないという約束を破ったな」
「ふふっ、キルステン皇太子殿下⋯⋯。余程、この男が憎いのですね」
(キルステンが切ったの?)
私を左手で抱き、右手には血の滴る剣を握るキルステン。
後ろのから近衛騎士たちが続々と部屋に入ってくる。
ふとアルマを見ると、どんどん傷口が塞がっているのが分かった。
「にゃー!(キルステン逃げて!)」
騎士たちがどんなに束になっても、こんな何でもできるような化け物に敵う訳ない。
「ビルゲッタ目を閉じてろ」
「ぎゃー!」
再び叫びが聞こえて目を開けると、フェリクスの姿をしたアルマが騎士たちに串刺しにされていた。
騎士たちが刺した剣には毒が塗ってあったのだろう。
みるみるアルマの体の色が腐ったような色に変わっていく。
「酷いわ。こんなこと私にするなんて、嫌いになっちゃうわよ」
アルマの姿がみるみる人間の私の姿に変わっていく。
キルステンはその姿を見るなり、彼女の首を切り落とした。
「にゃー!」
「ビルゲッタ目を閉じてろと言ったのに、全く言うことを聞かない子だな」
そっと私に軽くキスをしてくるキルステンに私はクラクラしてしまった。
魔法のキスで人間に戻ることのないことを悔やみながら、私はビルゲッタの姿で倒れるアルマを見つめる。
「アルマを火葬しろ」
「はっ」
騎士たちがアルマを連れ出そうとすると、息絶えたはずの彼女の目がギョロリと動いた。
「にゃー!(気をつけて!)」
「大丈夫よ。私がこの場で燃やすわ」
開け放った扉から現れたクリフトン様がビルゲッタの姿をしたアルマに手をかざすと炎が上がった。
アルマが消し炭になると同時に火が消えてホッとする。
(これが魔法の炎、自由自在ね)
「ああスッキリした。いっぺん、この女を燃やしてやりたかったのよ」
明らかに猫の私を見ながら呟いたクリフトン様には相変わらず嫌われてそうだ。
「クリフトン・アルベール。協力を感謝する」
キルステンの言葉にクリフトン様が優しく微笑み会釈した。
キルステンが私をそっと床に下ろしたので、私はフランシスの方に近寄る。
この騒ぎでも爆睡しているフランシスは間違いなく大物だ。
「これより、皇太子妃ビルゲッタとフランシス皇子を連れてルスラム帝国に帰還する」
キルステンの命を聞くなり、クーハンに乗せられる私とフランシス。
(ちょっと待ったー!)
抵抗する間もなく、私は皇室の馬車に押し込められた。
馬車に乗るなり、私を抱き上げ膝の上に乗せるキルステンが徐に小瓶を取り出す。
気がつけば馬車は動き出していた。
「飲んでくれ、猫の呪いが解ける薬だ」
私は思わず首を振った。
「お願いだ。僕を信じてくれ」
「にゃー!(信じてるよ)」
アルマと取引をして作らせた薬だ。
呪いは解けないとクリフトン様に言われたが、アルマならできるのではないかと私は疑っていた。
アルマは瞬間移動や聖女を装える回復魔法も使える魔女だ。
だから、彼女が消し炭になったのを見ているのに、私の中ではまだ彼女が生きているのではないかという不安が消えない。
慎重なキルステンのことだから、眼前の薬は効き目を確認済みだろう。
彼はとても切れ者なのに、今私が人間の姿に戻る訳にいかないと気付いていない。
(今、人間に戻ったら全裸だから!)
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