32.猫VS魔女
「意外と勘が鋭いじゃない。仮面舞踏会にはノコノコついて来たくせに」
「にゃー!(やっぱり、アルマなのね)」
私は長い時間フェリクスと過ごして来たから気がつけただけだ。
こんな風に完全に他の人間に変身できるのでは捕まえようがない。
「にゃー?(狙いは何)」
「何言ってるのか、分からないし煩い」
私は首根っこを掴まれフランシスから引き離された。
「にゃい!(離せ!)」
私は精一杯手を伸ばして、アルマの顔を引っ掻く。
「痛っ! 最悪。よく自分に尽くしてくれた男の顔を平気で引っ掻けるわね。あんたって実は性悪よね」
「にゃい!(お前が言うな!)」
私はもう一度アルマの顔を引っ掻いた。
すると、アルマはニヤリと笑い姿を変え出す。
目の前に現れたのは艶やかな黒髪に憂いを帯びたアメジストの瞳を持つ美男子。
「にゃ、にゃい!(キルステンになるなんて許さん!)」
私は怒りのあまり両手でアルマの顔を引っ掻きまくった。
前世からの推しへの冒涜は許せない。
すると、アルマは再びフェリクスの姿になる。
「はぁ、あんた何なの。ただの乱暴な女じゃない。キルステン皇太子殿下もなんでこんな乱暴な雌猫に拘ってるんだか。私とあそこまでの取引をして⋯⋯」
唇を噛み苦虫を潰したような表情になるアルマ。
(キルステンがアルマと取引をした?)
私は急に不安が襲ってくる。
私のお腹の傷を治そうとしてアルマを帝国に引き入れてしまった時のように、私のためにキルステンが再びリスクを冒してしまっているような気がしたからだ。
「にゃー?(どういう事?)」
「私、俄然、彼が欲しくなったわ。あんな一途な男の愛を受けて暮らせたら本当に幸せよね」
アルマは私の首根っこを掴んだまま、空いた片手で窓を開けた。
「さようなら、ビルゲッタ。今日から私がビルゲッタ・ルスラムよ」
私はこれから自分が何をされるのか一瞬で理解した。
アルマは窓から私を放り投げ殺そうとしている。
そして、私に変身して私になり変わるのだ。
「にゃー!(やめて!)」
手足を必死に動かし抵抗するも、自分の無力さを痛感するだけ。
絶体絶命のピンチに私は残していくフランシスと愛するキルステンを思った。
(キルステン、最期に一目会いたかった)
ギュッと目を瞑った瞬間、アルマの耳をつんざくような叫びがして目を開く。
「にゃー!(キルステン!)」
気がつくと私はキルステンに抱き抱えられている。
こんな場所にいる訳がない彼の登場に私は驚いていた。
見下ろすとフェリクスの姿で肩から脇腹にかけて大きく切られたアルマが転がっていた。
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