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妻、猫になり逃走中! 至急確保し溺愛せよ!  作者: 専業プウタ@コミカライズ準備中


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3.朝チュン

頭がまだふわふわしている。 うっすらと目を開けると、美しい美青年の寝顔があった。 長い黒いまつ毛がに艶やかな黒髪。 夜着にロイヤルパープルのガウンを羽織った無防備な寝姿。


「にゃん? (キルステン?)」

「おはよう。子猫ちゃん」


ゆっくりと目を開いた彼に私は心臓が止まりそうになる。 今、私は猫だが、ずっと好きだった彼と一緒のベッドの上にいる。 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいて、鳥の囀りが聞こえる。


気分は「朝チュン」だ。


私は興奮する気持ちを抑えながら、ことの顛末を彼に説明する事にした。


「にゃ、にゃーん。(昨日の飲み物、何か入ってたと思うの)」

「昨日は猫ちゃんは惚れ薬的な媚薬を舐めて寝てしまったんだよ。覚えてる?」


キルステンが私の猫耳の付け根を摩りながら尋ねてくる。なかなか気持ちよくて、彼が猫の扱いにも長けていたことに感心する。流石、私が惚れ抜いた男。


キルステンの説明から、私はグラスの中に媚薬が入っていたという事に驚いた。

一体、誰がキルステンに媚薬を盛ったのだろう。そして、ちゃんと溢れたシャンパンの異常に気が付き、成分を調べているキルステンが素晴らしい。シゴデキな本当に良い男だ。


「にゃん。にゃん、にゃーん。(私は大丈夫です。キルステン、元気を出して)」


「僕のことを心配してる?  僕は君の方が心配だけど⋯⋯。惚れ薬は抜けた? それとも、 僕のことを好きになっちゃった?」


人に心を簡単に許さないと言われるキルステンの表情が柔らかいのは猫相手だからだ。

見たこともないようなキルステンの優しい微笑みに心臓が跳ねる。


「にゃにゃ、にゃにゃ。(元から、キルステン一筋よ)」


私は自分が猫なのを良いことに、ベッドに座る彼の胸に顔を擦り付ける。すると、彼は指三本を使い円を描くように私の横腹を撫でてくれる。これも、非常に気持ちが良い。


私は人間の姿でやり残した事があった。

ずっと、キルステンに片想いしていたが、私はこの気持ちを彼に言葉で伝える事はなかった。


伝えたところで、彼を困らせるだけだと思った。 彼はアルマに出会うまで、人を愛することを知らない設定だ。


しかし、猫になった今。伝えられなかった想いを存分に彼に伝えている。


「朝食を食べに行こうか」


キルステンは指先で筋肉を揉むように私の前足を触っている。気分は初夜を明け、体を気遣われる花嫁。猫になった幸せを私は心から噛み締めていた。


「にゃ、にゃーん(はい、喜んで)」

私はキルステンと朝食を食べるのは初めてだ。 このように同じベッドで朝を迎えて、一緒に朝ごはんを食べるという至高の幸せを神は与えてくれた。


幸せに浸っていると、はらりと床にロイヤルパープルのガウンが落ちたのが見えた。驚いて見上げたら、キルステンが夜着を脱ぎ始めていた。


「にゃっ! にゃん。(きゃっ! そんなところで着替えないで)」


キルステンは唯一の皇位継承権がある者としての自覚があり用心深く、メイドに着替えも任せないと聞いていた。それだけではない、お風呂も介助なしで一人で入る彼はプライベートスペースに他人を入れない警戒心がある。しかし、無防備にも猫である私の前で着替えている。

(猫にも用心して! あなたを穴が開くほど見てるわ)


スルッと落ちた夜着から、キルステンの筋肉質な裸体が溢れた。

窓から差し込む光に照らされた彼の体が美しい。


「にゃ、にゃ。(本当に、良い体)」

キルステンは着痩せするタイプなのだろう。 夜着をを脱ぐと思いの他、細マッチョな体が現れた。


私の方をチラリと見るキルステンに私は謎の言い訳をする。

「にゃー、 にゃー! (見てません、見てませんよ!)」

私は必死に肉球で顔を隠した。


「ふふっ、そんなに興奮しないで。相変わらず訳が分からない子だな」


私が興奮している間に、彼はいつの間にか着替え終わっていた。彼は私の足の下に自分の腕を通して優しく包み込むように私をそっと抱き上げる。まるで、宝物のような扱いをされ感動しきりだ。私は彼に抱っこされたまま、皇族限定の食堂に連れて行かれた。


「キルステン皇太子殿下、聖女アルマ様がお待ちです」

食堂の扉の前で待ち構えていた執事に掛けられた言葉に、気持ちが落ち込む。

(もう、アルマとの恋が始まってるんだ)


アルマは遠くアルベール王国のポネイ村から来たから、皇城に泊まるのは当然。 原作では二人は劇的に恋に落ちて、夜を共にしたと記述してあった。 キルステンは優しいから寝入ってしまった猫を優先して、アルマを抱かなかったのだ。


「にゃあ! (邪魔者は消えます!)」

私はキルステンとアルマの邪魔になりたくなくて、彼の腕から飛び降りた。 そんな私を再び優しく彼が抱き上げる。


「どこへ行くの?  お腹が空いてるんだろ」

猫になってから、キルステンが私にかける言葉も声も優しくて頭がふわふわする。

執事が重い濃紺の扉を開けて、私はキルステンと食堂に入った。


「キルステン皇太子殿下に、聖女アルマがお目にかかります」


彼を見るなり立ち上がったアルマの肩までの金髪がふわっと広がる。美しい新緑を想起させるエメラルドの瞳がこちらを見ている。


「聖女アルマ⋯⋯座ってくれ。紹介する。子猫のエリナだ」

「にゃにゃ、にゃーん? にゃん (キルステン自ら、名付けてくれたんですか?  この上なき幸せ)」


私はあまりの嬉しさに彼の胸に再び顔を擦り付けた。すると私の喜びに応えるように彼が手のひら全体で体を撫でてくれる。


「可愛い猫ちゃんですね。でも、すみません。私、猫アレルギーなんです」 二人きりの食事を邪魔されたのが腹が立ったのか、アルマは顔を歪ませた。


「ならば、僕たちはテラスで食べようか」

キルステンが私に微笑みながら語りかける。

「にゃー?  にゃー? (良いんですか? アルマは?)」


私はヒロインのアルマよりキルステンが自分を選んでくれたことに感動していた。猫になっていて良かった。確実に神は存在した。


「そんなの悲しいです。私、キルステン皇太子殿下と直接お話できるのを楽しみにしてたんですよ。昨日は猫の騒ぎがあって、全く話せなかったのでお時間を頂きたいです」

アルマが下がり眉で、目を潤ませながら彼に懇願してくる。 女の私が見ても胸キュンする表情。キルステンの恋のスイッチが押されるのは時間の問題な気がしてきた。


ヒロインの魅力は絶大だ。


「猫と呼ぶな!  エリナだ」


いつも通り無表情なキルステンだが、私はその声色から彼が腹を立ててるのが分かった。 彼はまさかの愛猫家だったらしい。私を猫と呼ぶなら、お前も人間と呼ぶぞとアルマに言いそうな勢いだ。

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク、評価、感想、レビューを頂けると嬉しいです。貴重なお時間を頂き、お読みいただいたことに感謝申し上げます。

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