26.陰謀渦巻く皇宮(キルステン視点)
ビルゲッタを無理矢理にても連れて帰るべきだった。
僕はまたプライドが邪魔して、彼女に背を向けてしまった。
昔から、僕を一途に思ってくれていたビルゲッタ。
彼女の気持ちが他の男に向いたなど信じてはいない。
それでも、拒絶の言葉を投げかけられ縋るなんてできなかった。
もし時が戻せるならば、彼女と出会った時からやり直したい。
いつも頭の中は僕のことでいっぱいで、僕の隣にいる為に努力をし続けた彼女。
無償の愛を向けられることがなかったから、戸惑った。
冷たい態度をとっても彼女は変わらなかったから調子に乗っていたのかもしれない。
フェリクス・ダルトワが憎らしくて仕方がなかった。
困った時に彼女が頼るのはいつも彼だ。
彼女は僕に恥ずかしいくらいの熱量の「好き」をくれた。
でも、男として頼られない虚しさは日に日に僕の心を蝕んだ。
子供のように純粋な心を、持つ彼女の僕への気持ちは婚約者だから愛さなければならないという義務感がから来るのかもしれない。
いつかその心は他の男に奪われる。
そんな恐れからか、僕は彼女の気持ちを試すような事を繰り返す。
ビルゲッタは賢い。
昼間猫である自分を僕が守り切れないと判断したのだろう。
今の僕にできるのは皇室での確固たる地位を築き、ビルゲッタの呪いを解く鍵を見つけること。
皇宮に戻ると何だか騒がしい。
夜の静寂は破られ危険と陰謀が蠢いている。
僕が帰還するなり、グロスター公爵が足早に近付いていた。
父が皇帝になる前より宰相の地位にいた彼はこの帝国を所望している。
「公爵、こんな時間に皇城に何のようだ」
僕の冷ややかな言葉に咄嗟に焦ったような表情を作る彼。
口元がわずかに綻んでいるのを僕は見逃さなかった。
(何か企みが成功したという顔だな)
「皇帝陛下が危篤でして」
「父上が危篤?」
「はい。持病の発作かと思われますが、私が謁見中に突然胸をおさえて倒れました」
「そなたが毒でも盛ったんじゃないのか?」
僕の言葉に周囲の近衛騎士たちがざわつく。
皆、どこかでグロスター公爵がクーデターを企てているのではと思っているのだ。
「滅相もございません。私は皇帝陛下が小さい頃より見ていて息子のように思っております。むしろ、今、エマヌエル皇帝陛下に消えて欲しいと願っているのは殿下の⋯⋯」
いつも失態をしない男が失態をした。
おそらく皇帝に毒を盛る事に成功して浮き足立っていたところに、僕が思ったより早く帰ってきて焦ったのだろう。
そして、突然、毒殺疑惑をかけられた事に焦り失言をした。
「僕が皇帝陛下が消える事を願っている? 皇帝を息子扱い? 皇族侮辱罪だ。この者を捕えよ」
「はっ!」
僕が合図すると共に騎士たちがグロスター公爵を捉える。
「待ってください。キルステン皇太子殿下!」
「なんだ? 猫になる呪いを解く方法でも見つけてきたら、無罪放免にしてやっても良いぞ」
そんな方法ある訳ない。
散々探したが見つからなかった。アルマに何度となく尋ねたが、交わされてきた。
「キルステン皇太子殿下⋯⋯父親が危篤だというのに平然としておられる。優し過ぎる甘ちゃん皇太子だなんて甘く見ておりました」
拘束された状態で不敬な言葉を吐くグロスター公爵は本当に何か知ってるのかもしれない。
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