24.精一杯の嘘
「⋯⋯ビルゲッタ、大丈夫か? フランシスは?」
大丈夫ではないのはフェリクスだ。
フェリクスの顔は青痣だらけ。
右腕がだらりと下がり、骨が折られてるのが分かる。
(この状態で私の護衛騎士にする?)
キルステンの顔を覗き見ると、見たこともない冷たい表情をしていた。
「ここに、ソレを連れてくるな」
キルステン空気が凍りそうな冷ややかな言葉に寒気がする。
美しく冷たいアメジストの瞳は見たこともない冷たい光を放っていた。
「申し訳ございません。ビルゲッタ様が目を覚ましているという報が届いていなかったので、もう一度命令の確認をしようと思った所存です」
両側にいた騎士たちが頭を下げる。
彼らはフェリクスの同僚だった人間だ。
騎士の命である利き腕を折って、酷い暴行した上で確認する命令は一つしかない。
キルステンはフェリクスに死罪を言い渡したのだ。
先程、フェリクスを私の護衛騎士にすると言ったのは私の反応を伺う為だろう。
私は緩くなったキルステンの拘束を離れフェリクスに駆け寄った。
「ビルゲッタ?」
後ろからキルステンの戸惑うような声が聞こえる。
私はそっと目を瞑り、冷静さを取り戻した。
(もう、彼は私が愛した男じゃないわ)
「元皇太子妃ビルゲッタ・ルスラムとして命令します。フェリクス・ダルトワ卿から離れなさい」
私の言葉を聞くなり、慌てて両側の二人が慌てて拘束を解く。
今の私の立場に権限なんてないけれど、二人の騎士たちは元同僚のフェリクスを処刑することに迷いがあったようだ。私が出した逃げ道に飛び付いた。
足から崩れるように倒れそうなフェリクスを私は包み込むように支えた。
左足の膝の角度がおかしい。
この足も折られている。
(全部、私の責任だわ)
涙が込み上げるも、唇を噛んで耐えた。
私に泣く資格なんてない。
不安から安易にフェリクスを頼ったのも、キルステンを信じきれず逃げ出したのも私のせい。
「フェリクス、愛してるわ」
私は精一杯の嘘をついて彼を抱きしめた。
私のフェリクスに対する気持ちは愛ではなく、罪悪感だ。
逃げる為には彼が必要、フランシスを育てるには父親がいた方が良い。
振り返れば彼の好意を私はずっと利用してきた。
「はぁ?」
キルステンの心底驚いたような軽蔑したような声が背中から聞こえる。
「キルステン皇太子殿下、そういう事なので私の事は放っておいてください。私はもう貴方を愛してはいません」
まるで自分の声じゃないような低い声が体から出る。
あえて敬称で呼び、敬語を使い彼と距離をとる。
私も彼から罰せられるかもしれない。
今の横暴な彼なら、不貞を働いたと私を罵り足を折り腕を折るかもしれない。
でも、私はフェリクスと同等かそれ以上の罰を受けるべきだと思っていた。
「ビ、ビルゲッタ? な、何を言って」
「気安く呼ばないでください。もう、私は貴方の妻ではありません。私とあなたは既に離婚したはずです」
「離婚⋯⋯本当に僕と離れても君は平気なのか?」
「私は自分から離れましたよ。その時点で察してください」
キルステンの顔が見れなくて、私はフェリクスの肩に顔を埋めた。
完璧で美しい皇太子キルステン。
彼には昼間猫になり、悪評のついた私よりもずっとふさわしい人がいる。
私のせいで変わってしまった彼。
きっと他の人を愛するようになれば、支配者としては物足りないと揶揄されるくらい優しい彼に直ぐに戻れるだろう。
「ビルゲッタ、フランシスは置いていく。少し頭を冷やしてくれ」
キルステンが静かに呟いた声が頭に響いた。
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