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妻、猫になり逃走中! 至急確保し溺愛せよ!  作者: 専業プウタ@コミカライズ準備中


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17.フランシス誕生

私は八ヶ月後の真夜中に男の子を産んだ。月の光を閉じ込めたような銀髪に高貴なアメジストの瞳をした子。彼にも呪いが遺伝してしまったようで、昼は猫の姿をしている。


私は考えた末に、生まれた子をフランシスと名付けた。ルスラム帝国の初代皇帝の名。平民らしい名前を付けるべきなのに、私は生まれたキルステンの面影のある子を見たらルスラム帝国の歴史を紐解いていた。


初代皇帝フランシスは決して裕福な生まれではなかった。しかし、持ち前の才覚で周囲は彼を君主のように頼っていた。フランシスは周囲の期待に応えるように法治国家を創る。そして、周辺諸国を統治し始め彼の創立したルスラム王国はルスラム帝国と呼ばれ始めた。


私は幼児期、親の期待に苦しめられた経験がある。その苦しみを分かっていても、子に期待しないのは難しい。


もっとも、私が生まれた子にフランシスと名付けたのは、自分が彼の可能性を潰さないという決意。


現状、昼間は猫になってしまうフランシスの未来は非常に制限される。彼が本来なら受けられるはずだった地位や教育を少しでも受けさせたいと願った。


フランシスも生後三ヶ月になった。首も座り少しずつ表情が出るようになり抱っこがしやすくなる。


フランシスはよく笑って、よく泣く子。表情のなかった頃は彼が何を考えているのか気になり右往左往した。しかし、何が不快か、何が嬉しいのか教えてくれるとフランシスとの距離が縮まり、自分の子育ての仕方の不安が少しずつ消えてきた。


フランシスの為なら何でもできる。

この気持ちは私がキルステンに向けるものに似ている。


そして、フランシスはキルステンに似て美しく上品な顔立ちをしている。

生まれたばかりの赤ちゃんは、皆ゴリラみたいだと聞いていたので驚いたものだ。


今晩も揺り籠に乗せたフランシスの寝顔を眺めながら、花屋の店番をする。

真夜中で客は少ないが常連のセレストさんが訪れてくれた。


「いらっしゃい。セレストさん」

「今日はスイカズラで花束を作ってくれる?」


私は頷きながら、彼女に何かあったのか心配になった。スイカズラの花言葉は『献身的な愛』。いつも明るく時には失言もするセレストさんが今日は神妙な面持ち。


「できました。どうぞ」

私の作った花束を見るなり、セレストさんはゆっくりと首を振った。


一瞬、私は不安になる。


「違うの。これは貴方の旦那様にあげて欲しくて買ったのよ。フランシスの瞳の色は綺麗ね。旦那様は何も言わないの?」


フランシスの瞳の色はキルステンそっくりの紫色。

私の瞳は琥珀色で、フェリクスはルビー色の瞳をしている。


「実はフランシスは祖父に似ているんです」


誤解を解く為に隔世遺伝という事にしようとした。

なぜか、セレストさんは真っ青になる。


「高貴なお貴族様との子かと思ったら、まさかのお爺様との子なの?」


私は一瞬彼女の言葉の意味を図りかねたが、やっとその意味を察する。


(私、貴族の愛人と勘違いされてた? かなり奔放な女と思われている!?)


「違います。あの、フランシスは⋯⋯」


「何も言わなくて良いわ。フランシスは瞳の色もそうだけど、それ以上にあの子には赤子なのに跪きたくなるような高貴さがあるじゃない。勝手におばさんが妄想しちゃったの。でも、どんなお相手の子でも自分の子のように接してくれる旦那様を大事にしなさいね」


セレストさんは私にスイカズラのお代を渡すと、ひらひらと手を振り去って行った。この国の平民の生活を知りたくて調べたが、彼女は自分の一日の給与の半分を花を買うことに使っている。私は彼女が汗水垂らしながら、夜に購入する花に使ったお代を私とフェリクスに使おうとした事に胸を打たれていた。


フランシスは私が真夜中に産んだ子。セレストさんの言う通り生まれながらの皇族とはこうも高貴なのかと思う程、やんごとないお方のオーラを纏っている。


店番をしながら、フランシスに花冠を作ることにした。

本来ならば、フランシスはゆくゆくはルスラム王国の皇帝になる。

しかし、現状、昼間は猫の彼にそんな未来はない。

自分の愛しい子の可能性を私が取り上げてしまった。


通常、花冠というと野花であるシロツメクサで作るものが有名だ。

でも、私は前世で母と色とりどりの花で作るリースを作った事がある。

四十センチくらいの大型リースを作れば花冠になるのではないかという算段。


『気品』や『誇り』と言った花言葉のあるパープルローズに、色とりどりのラナンキュラスを贅沢に使いリースを作る。


「おい、エリナ!」

リース作りに没頭していると、急に後ろから話しかけられる。

作りかけのリースを取り上げまじまじと見つめるジャスパー。


「リースを返してください。作ってる最中です」

私の言葉にジャスパーは呆れたように肩をすくめた。


「目立たないようにという約束だ。こんなものを店に出したら、花好きの奴らが飛びついて話題になっちまうだろ」


「違うんです。これはフランシスの誕生を祝福して作っているものでして」


私が説明をし終わらない間にジャスパーは困ったような顔になり、作りかけのリースを渋々と返してくれた。


「あのなー。こんな生まれたばかりの生きるか死ぬか分からない子にプレゼントってメンタルがあんたお姫様なんだよ。この国の平民の子は貧しい。三歳まで生きられる子が半分。その上、子供の頃から朝から晩まで働き詰めだ。親からプレゼントどころか食べ物を貰えない子もいる」


ジャスパーが私の耳元で囁きながら伝えようとしている事は私も理解していた。そして、側から見れば不遇にも見える自分たちの生活に不満を持たず当たり前のように受け入れているのがアルベール王国の民。


この国の平民たちは自分たちが貴族に搾取されている事に気が付かない。私は烏滸がましくもアルベール王国の現状に問題意識を持っていた。


「分かっております。この子が将来受けるだろう地位を奪った戒めの意味もあり私は手を動かしていたのです」


ジャスパーは私が作ろうとしているのが花冠だと気がついたようだ。私の肩をトントンと叩き作りかけの花冠を返すと店の奥に入っていた。私も花冠の続きは店番が終わってから作ろうと思った。


私が部屋でフランシスを寝かしつけていると、フェリクスがノックをして入ってきた。


「エリナ、朗報だ。クリフトン様がお会いしてくださるらしい」

「本当に?」


私は嬉しくて思わずフェリクスに抱きついた。彼は当たり前のように私を抱き返す。ここで暮らし始めて一年近く。彼と苦労しながらも、なんとか生活して来た。

クリフトン・アルベールはアルベール王家に産まれた魔女らしい。変わり者で男には優しいが女には厳しい。それゆえに、フェリクスの来訪には応じたが、私は断られ続けていた。王家の血筋の魔女に会えば私の呪いも解けるかもしれないという思いと、きっと無理だという諦めの気持ちが交差する。


「大丈夫だ。エリナ。きっと、上手くいく」

「ありがとう。フェリクス。はい、これ、セレストさんからよ」

「おっ、スイカズラじゃないか! これで花酒でも作って飲もうかな」

「フェリクスはお酒を嗜むの?」

フェリクスは首を振りながら笑っている。


「スイカズラの花酒には薬効があるんだよ。抗菌効果もあるからエリナもうがいに使うと良い。お母さんが体調を崩したらダメだろ。フランシスを守るのは俺たちしかいないんだから」

「ありがとう。フェリクスの言う通りだわ。フランシスの為にも私がしっかりしないと」

呪いを掛けられた私は、子を抱えながらも昼間は猫になってしまう。呪いが解けない場合も想定し、これからは私が猫の状態でもフランシスを守らなければならない。

(フェリクスをいつまで私の都合で縛り付けて良いのか⋯⋯)


フェリクスが私の作ったローズとラナンキュラスの花冠を切なそうに見つめながら口を開いた。

「フランシスにか?」

私は静かに頷く。


「呪いを解く事を諦めないのはもちろんだが、どんな事になってもフランシスが苦労しないようにしたいな」

「うん、そうだね」

これから起こりうる様々な状況について想いを巡らせていると、ふと首に冷たい手の感触を感じた。


「フェリクス?」

フェリクスが私の首に手を回しネックレスを付けてきた。いつかのダイヤモンドのリングをかけたネックレス。


「ごめん。ビルゲッタ。やっぱり、俺はお前の夫になりたいしフランシスの父親になりたい。二人とも目に入れても痛くない程愛おしいんだ」


フェリクスは深呼吸すると、私に二回目のプロポーズをした。

周囲に誰もいないのを良いことに、私の本名を呼ぶ彼。

彼は真剣な話をする時は、私を偽名で呼びたくないようだ。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク、評価、感想、レビューを頂けると嬉しいです。貴重なお時間を頂き、お読みいただいたことに感謝申し上げます。

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