第五話 王女アカシア
夏場の盛り、コウエニンティア王国国王ユリオプスと農林水産大臣と宰相スレインは王執務室で顔を突き合わせていた。内容は王国南側の都、田園都市ズヒェルでの害獣問題だった。
「網で覆ったり、獣人を通して野生のオオカミの匂いで近寄らないようにさせていましたが、それも効き目が薄くなってまいりまして。住民からも相談を受けております」
「できることもそう多くはないからね……猟師組合にも相談するか」
手を組んで肘をつき、口元を隠すユリオプス。国を運営するものとして勉学は励んできたけれど現在の知りえる技術で対応してきたものでは限界が来た。実際に農業を行う者と、生物学を専門にする者に比べればユリオプスの知識は浅い。
「しかし猟師組合に頼んだとして、被害すべてに対応はできないでしょうし、環境問題上長い目で見て最善策とも言えませんからね……」
スレインが一時しのぎの策に憂いを呈す。ユリオプスとスレインが頭を悩ませていると、大臣が言いづらそうに口を開いた。
「相談してきた住民が言っていたのですが、ズヒェルにすむ発明家のハッカにもこのことを相談したそうです」
一瞬にして二人の顔が渋いお茶でも飲んだかのように歪む。スレインは皺の跡が付いた眉間にさらに皺をよせ、その眉間を指で抑え込んで唸った。
「ハッカか……」
「対策資金を倍額吹っ掛けてくるな……」
「その、大変申し訳にくいのですが……」
大臣が節くれ立つ手で二枚の紙を差し出した。それは農林水産大臣、およびに国王に向けて害獣対策の申告書と資金支出の申請書であった。
〇
「で、私のところに来たと」
「その、すまない」
申し訳ないと頭を下げるウェルベライトに、向ける相手は別ではあるがフノボリは呆れ顔だった。
ウェルベライトは公務で動けないユリオプスの代わりに言伝を預かって、東の森に住むフノボリの家にやってきた。自分の向かいにフノボリが座り、フノボリの隣の子供用の椅子にレイシが座る。今日の手土産はスコーンだ。
「私の存在が公になってから分かりやすく頼ってきたね。あまり魔法には頼ってほしくはないのだけど」
「国王陛下は断ってくれても構わないとも言っていた。もともと無理を言っているし、何かしら助言を貰えればとのことなんだ」
「助言、助言ねぇ……」
人差し指で唇に触れながら、フノボリは考える。
「あの、ウェルベライトさん。発明家のハッカさんはどんな人なんですか?」
スコーンを小さな口で食べていたレイシが訊ねる。口元にクロテッドクリームをつけているのにウェルベライトが気付いて教えると、レイシは恥ずかしそうに手拭きで拭って「とれた?」と聞き返した。
「ちゃんととれてる。ハッカは……なんというか、大雑把というか。自由奔放な人物だな。元は王城で働いていたんだが、自分の好きなように発明ができないということでズヒェルの貸家に自ら出て行ったんだ。その、公費を予算以上に使って本来の依頼品以外にも寄り道的に発明品を作るもんだから国王陛下に苦情も来てな。何度かあった注意に辟易したらしい」
「王城で働いてたってことは、かなり頭のいい人?」
「そうだな。問題行動はあったにせよ、周りに頼られてたのは確かだ。だから今回もズヒェルの住民に相談を持ち掛けられていたんだろうしな」
「そうなんですね。ん、コホッ、ケホッ」
突然咳き込むレイシにフノボリが背中をさすり、紅茶を差し出す。
「大丈夫か? 風邪か?」
「うーん、なんだかここ最近ちょっと変な感じがして」
レイシが紅茶を口にする間もフノボリは背中に手を添えている。
「私の調合した風邪薬を飲んで良くはなってきてるんだけどね」
「お大事にな」
「うん、ありがとうございます」
ウェルベライトとレイシが話し終わると、ずっと考え込んでいたフノボリが頷く。
「うん、よし。私も手を貸そうか。ただ、そのハッカさんを主体にして、対策の名義もハッカさんにしてほしい。あまり目立つようなことはしたくないからね」
「ありがとう。国王陛下にもお伝えしておく」
後日、ユリオプスに呼ばれたフノボリとハッカが対策会議を王城の会議室で行ったそうだが、ウェルベライトにその全容は知りえない。おそらく近々フノボリはハッカの発明所の貸家に出動することになるだろうとは予測する。
そんなことを頭の片隅に寄せ、訓練所で手合わせ稽古をしていた時分。訓練所の広場に似つかわしくない人物が現れた。
金の髪を高く結い上げ豪奢なワンピースを着た少女が、翡翠の瞳をまっすぐに稽古をしているウェルベライトに向けていた。年頃は十代後半ごろ。今やっていた手合わせを済ませて、ウェルベライトが近寄り声をかける。
「アカシア王女様、本日は剣のお稽古でしたでしょうか」
アカシアはにこにこと微笑みながら「いいえ。お勉強がひと段落しましたので、少々お散歩に。ウェルベライトさん、お疲れ様です」と応えた。
ユリオプスの妹、アカシア王女とウェルベライトはそこそこに長い付き合いのある仲だ。ウェルベライトが成人する前から、騎士団の中で歳が一番近いということで近衛として側につくことが多かったのだ。ともに幼いころに母親を亡くしたことや、獣人に興味があるということで二人は親交を深めていた。
王女という身分で剣を習う必要はないのだが、本人たっての強い希望でユリオプスに頼み倒し五年前から騎士団に交じり剣術を学んでいる。ウェルベライトもアカシアにわざわざ剣を習わなくてもと怪我等の心配の忠告をした。しかしアカシアは「騎士団の方や軍人の方の見るものを私も見たいのです。同じ重みを経験したいのです。私自身ももしものことがあったとき、獣人の皆さんを守れるように」と語った。その言葉にウェルベライトは王族の立場に胡坐をかかない姿勢は尊敬できるとは思ったが「王族であるがゆえに守れるものもあります。それをおろそかにしてはいけませんよ」と諭す言葉も送った。その時のアカシアは、ウェルベライトに言われたことにし対して、王女としてではなく、一人の少女として子どもらしく拗ねた表情を浮かべていた。
「最近のお兄様はまだかすかに残る魔女への人権の譲渡を危惧する声の対応に追われていましたが、落ち着き始めていたのです。ですがズヒェルの農家の皆様からのご相談で頭を悩ませているご様子で……。私も何かお手伝いできればとお声をかけさせていただいたのですが、大丈夫と言われてしまったのですよね。私も十七なのだから頼ってくれてもいいと思うのです」
「国王陛下としては、王女様にあまり心配をかけたくなかったのではないでしょうか。王女様がのびのびと好きなことができる様に。貴方様の心配もわかりますが」
木陰に椅子を用意してアカシアを座らせて、他の騎士の訓練を眺める。アカシアは彼らを見つめながら悲しそうに話す。
「ですが、もう成人したのですよ? 公務にも携わっていいのではと。私も王族の人間で、この国の国営に関わってもおかしくないですのに」
「きっと考えあってのことでしょう。それに王女様も一切公務に関わってないわけではありませんし……お兄様を信じてあげてください」
アカシアは沈黙で抗議を示す。しかしそれを向ける相手は違うことは理解しているのだろう。それ以上言葉で返すことはなかった。
しばし沈黙が流れて、ふと思い出したようにアカシアが話題を上げた。
「そういえば、最近隣国で怪盗騒動があったとか」
「怪盗騒動ですか?」
「ええ。国宝館の瑠璃の宝玉が盗まれて、捜索中なのですが難航しているとのことです。私も先日お話として聞きました。怪盗の名前は確か、『シバ』、だったはず」
「シバ……初めて聞きますね」
一応王族直属の武力部隊として国交の情報収集は欠かしていないのだが、今回の怪盗騒動は初めて知った。怪盗シバ、という名前も初耳だ。怪盗と言われるからには一度や二度の犯行ではないはず。なのに騎士団の中でもそんな噂は耳にしたことがなかった。今回盗まれたものから考えて、他国でも要警戒されてもおかしくないのになぜ。
考え込むウェルベライトに、アカシアは情報を付け加える。
「姿は、見つけた衛兵の情報ですと花の刺繍が入った羽織に黒の詰襟と幅広のズボン、腰に小さな金属の飾りがあり、赤い帽子を被っているそうで顔は目元の仮面で分からなかったと」
「まるで魅せるための恰好ですね。まさに怪盗というか、小説の中の姿というか」
「愉快犯の可能性もありますね。お兄様もこの情報は知っているので、フローライト様から情報共有があるかと思います」
「分かりました。十分に警戒いたします」
「さて、私の話ばかりしてしまいましたがウェルベライト様は何か楽しいことがあったりしましたか?」
深刻そうな話題から打って変わって、にこにこと訊ねるアカシア。楽しいこと、とアカシアと共通の『獣人に興味がある』という趣味趣向に思考を巡らせてレイシの姿が浮かんだ。
「魔女の拉致騒動前からなのですが、白うさぎの獣人と交友がありまして」
それを聞いたアカシアは目を輝かせて「まあ!」と声を上げた。
「その、くだんの魔女の弟子で人間の一歳児ほどの背丈の……空色の瞳が綺麗な女の子です」
「うさぎの獣人は確か大きくても百センチはあるはず……。まだ小さな子どもなのでしょうか」
「多分六歳くらいかと」
年齢と背丈を聞いてアカシアはさらに「まあ、まあまあまあ!」と表情をキラキラさせる。
自分も獣人には心惹かれるが、アカシアの獣人好きには負けてしまうなと思うウェルベライト。そういう人間が王族にいるのは獣人の国民にとってもありがたい話だろう。
「私もその方にお会いしたいものです」
「よければ、彼女に王女様がお会いしたいと申していたことをお伝えしましょうか」
「よろしいのですか?」
「アカシア王女様もお勉強やお茶会で気を張ることが多いでしょうし、もし話せるとなれば、多少の気晴らしになるかと。それに国王陛下との関わりがある者ですから顔を合わせても損はないと思われます」
「ありがとうございます、是非ともお願いいたします!」
嬉しそうな王女の顔を見れば、それだけ王族の国の運営以外の公務も苦労が多いのだろうと察せられる。
ただ、まぁ。
レイシにとっては緊張する場であることは確実だろうから、自分からも言葉を添えて安心させなければならないだろうなと思うウェルベライトであった。
後日、フノボリに家に行ってレイシに話すと「ぼ、ぼくが!? 王女様と!?」と心底驚き、戦々恐々としていた。やはり相手が王族と思うとそう手放しに喜ぶのは難しいだろう。耳を毛繕いしながら、どうしようどうしようと慌てながら必死に落ち着こうとしていた。
「無理にとは言わない。レイシもフノボリについていったりして忙しいだろう」
「む、むりはしてないです! けど、そんな高貴な人とぼくがあってもいいのかなって」
「いいんじゃない? ウェルベライトが信用して友達として話した相手だから、会いたいっていってくれてるんだろうし」
フノボリが紅茶を片手にキッチンに寄りかかりながらフォローを入れる。ウェルベライトも頷き言葉を添えた。
「獣人のイメージ改善に粉骨砕身してる方だ。本人も獣人を好きでいるし、気軽に話せるような関係になるために自分が率先して交流したいと思ってる。まあ、確かに王族という立場だから一般人からすると恐れ多いと思うのは仕方ない。けど、彼女も会いたいと思ってるのは本当だから」
「うん……ううん……」
レイシとしては、ウェルベライトやフノボリからの助け舟を出されても自分が会っていいものか、会いたいけど自分なんかが……と思考が行ったり来たりしているのだろう。
「ちなみに日取り的にいつ頃だと謁見できるのかな」
フノボリが何とはなしに聞く。
「勉強と公務の合間の縫って会うことになるはずだから、近くてもよくて明後日くらいか?」
「聞いておいてなんだけど、よくその予測立てられるね」
「王族直属の騎士団だからな、護衛や近衛で側にいることが多いから必然的にスケジュールを把握できるんだ。そのせいだな」
「……あ、あの、ウェルベライトさん。ぼく王女様に会ってみたいです」
ちょっとだけ不安そうな表情をしながら、レイシは意を決して騎士に告げた。ウェルベライトはうさぎの彼女を安心させるように笑って礼を言う。
「早速帰ってアカシア王女様にお伝えするよ」
席を立ってテーブルに立てかけた剣を腰に差しなおし玄関に向かう。フノボリが何か思うところがある様にウェルベライトを見ていたが、さほど気にしなかった。
アカシアにレイシとお茶会ができる旨を伝えると、さっそく家庭教師や専属メイドに事情を話しできるだけ時間を作れるようスケジュールの調整を頼み始めていた。
アカシアがウェルベライトと二日後の予定を王女の自室で確認していると、ユリオプスがやってきた。彼の耳に話が入ってきたのか、いっそ泊めてあげたらどうだろうと提案しに来たらしい。流石にレイシの了解なしにそれは良いのか、とウェルベライトから疑問が上がったがどうやらフノボリと予定のすり合わせは済んでいるらしい。
「害獣対策を手伝う代わりに今回の宿泊に融通してほしいってね。王城にレイシさんが来る日にフノボリがズヒェルに行くらしいから、ウェルベライト、翌日にレイシさんを連れて進捗がどうなのか確認しに行ってほしい」
「自分でよろしいのですか?」
「これが彼女以外なら他の人に頼んでたけど、フノボリが関わってるからね。外交官のウェルベライトに行ってほしいんだ」
「かしこまりました」
頭を下げ了承の返事をする。アカシアはお泊りと聞いて「ではレイシさんでも食べられるお料理をお願いしないとですね!」とうきうきしていた。
そうして二日後の午前。フノボリに抱き上げられてレイシが王城にやってきた。アカシアの側で待機していたウェルベライトが迎えに出ると、フノボリは「よろしく頼むよ。アカシアさんによろしく」と言ってレイシをウェルベライトに引き渡す。
「ここからズヒェルへは馬車で?」
「うん。事前にズヒェルからの作物を運ぶ馬車に乗せてもらえるように交渉したから、それで向かうよ」
「向こうでは、泊まる場所はあるのか?」
「ユリオプスがズヒェルの軍の南部支部に泊めてもらえるように言ってくれたらしい。そこで寝泊まりする」
「そうか……気を付けて、一応貞操面でも」
「いざとなれば暴れるさ、ありがとう」
レイシとウェルベライトに手を振ってフノボリは王城を去っていく。
うさぎの彼女をアカシアのもとに案内したかったが、アカシアはレイシが来た時点でまだ公務が続いていた。それがひと段落すれば予定通りレイシとお茶会兼昼食会ができるだろう。レイシに応接室に案内し、ひとまず先に獣人の使用人に紅茶を用意してもらう。ウェルベライトもアカシアの元に戻らなければならないので「何かあれば獣人の彼に言ってくれ」と話し、応接室を出た。
アカシアの自室の前で待機して三十分ほど。正午の時間に近づきつつある頃にアカシアは公務から解放された。部屋から出て真っ先に目に入った、待機中のウェルベライトに「レイシさんは……」と訊ねる。
「応接室でお待ちです。一緒に向かいましょう」
早歩きで向かうアカシアについていく。応接室の部屋の前でアカシアは深呼吸をしてノックをする。「はーい!」と元気な声がして、中からドアが開けられた。開けたのは獣人の使用人だ。
「あら、ノアド。レイシさんのお相手をしてくださっていたのですね」
「はい。王女様のお客様と存じておりましたが、レイシ様が心優しく話しかけてくださって」
恭しく頭を下げる犬の獣人ノアドと話すアカシアにレイシは両手を振りながら「そんな、いえ、ぼくこそ!」と訂正しようとする。
「ノアドさんが、以前師匠とここに来た時に話しかけてくださった方だって気付いて! 色々と昔のこととか聞きたくて、その、恐れ多いけど話しかけさせてもらったらたくさんお話聞かせてくれたんです! それにすごく優しくて!」
ここでウェルベライトはレイシの髭や毛並みがぶわりと膨らんでいることに気付く。
もしや緊張のあまり興奮しているのでは?
アカシアに一言断り、レイシの座るソファまで行くと、レイシの背を撫でた。
「レイシ、大丈夫だ。緊張しているかもしれないが、ゆっくり深呼吸して」
「は、はい……」
自身の胸に手を当て深呼吸をするレイシ。その間も座らず待つアカシア。やっと落ち着いたところで、アカシアは「こちら、座っても大丈夫ですか?」とレイシの隣を確認する。
「ど、どうぞ!」
「ふふ、ありがとうございます」
隣に座ったアカシアをレイシは呆けたように見つめた。
「改めまして、コウエニンティア王国王女のアカシア・フロワ―ロと申します」
「あ、あ、レイシです! よろしくお願いします!」
深呼吸をしたばかりなのにガチガチに緊張するレイシに、アカシアは朗らかに笑い優しい手つきでレイシの手を握った。
「そんなに緊張されないで。私はウェルベライトさんのお友達とお友達になりたくて、今日こうしてお会いしているのです」
真っ直ぐレイシの目を見てそう告げる。レイシもその言葉にやっと気持ちが落ち着いたのか、肩の力を抜いて笑った。まだぎこちない笑顔だったが、二人の間に流れる空気は穏やかなものだった。
「さて、挨拶もしましたし、まずは昼食にしましょう。食堂まで案内しますね」
アカシアが率先して部屋から出ようとするのを、ノアドが慌ててドアを開き全員が出るのを待つ。ウェルベライトがレイシを抱き上げようとすると「大丈夫!」と制されてしまった。少々過保護すぎたかもしれない。しかし、というべきか、やはり、というべきか、レイシの歩幅で歩くのは皆にとってはゆっくりで。それでも誰もレイシに文句は言わなかった。アカシアに関しては愛おしそうにずっとにこにこしていた。
食堂についてからは、長いテーブルの長辺と長辺で向かい合わせに座って昼食のサンドイッチをいただいていた。食べてる途中でレイシが「ウェルベライトさんは食べないんですか?」と聞いてくる。
「俺は後でいただくから大丈夫だ」
気にするようなことではないという意味で伝えたのだが、レイシは遠慮していると受け取ったようで、まだ食べてないサンドウィッチをウェルベライトに差し出した。レイシの食事だし、本当に遠慮しようとするとアカシアから「騎士様が淑女の施しを遠慮なさるのは、ね?」といたずらっぽく言われてしまった。レイシの親切心を無下にするのは確かに悪い。レイシの手ずからサンドイッチを食べる。キュウリのサンドウィッチが瑞々しくておいしい。
「ありがとう、レイシ」
ウェルベライトからのお礼の言葉にレイシは照れくさそうに「えへへ」と笑った。
食後の紅茶を飲みながら、アカシアはレイシからいろんな話を聞いた。魔女のフノボリと一緒に暮らしていること、薬を作っていること、ウェルベライトと友達になったこと、今も首にかけてる海兎貝のネックレスはウェルベライトとの友情の証ということ、などなど。話しているうちにレイシの緊張も解けて、気が付けばアカシアとも素の笑顔で話すことができていた。
楽しい時間はあっという間で、食堂にアカシアのメイドがやってくる。
「アカシア王女様。そろそろお時間に……」
「あら、もう? ごめんなさい、レイシさん。まだ話していたいのだけど時間になってしまったわ。今日はお泊りになるのよね? 夜にまた話しましょう?」
「はい! ぼく待ってます!」
レイシに頭を下げ、食堂から出ていくアカシアをドアが閉まるまで見送り、ドアが閉じてからウェルベライトは声をかけた。
「俺も一度本部に戻る。また戻ってくるからそれまで待っててくれるか?」
「はい、大丈夫です!」
「よろしければ、中庭に行かれますか? ハーブや薬草を育てているのでレイシ様にとっても興味深いかもしれません」
「いきます!」
ノアドとにこやかに話すレイシに一安心し、二人に一時の別れの言葉をかけて食堂からウェルベライトも出た。
廊下ではアカシアがウェルベライトを待っており、「途中までご一緒くださいますか?」と声をかけた。ウェルベライトは快諾し、一緒に廊下を歩く。
「仲良しさんなのですね?」
王女様は楽しそうに聞いてくる。その言葉に含みがあることをウェルベライトは分かっていた。我ながら振り返ると行動があからさまだっただろうかと少し気まずくなる。頬を掻き「まあ、それなりには。友人ですので」と目線をそらす。それをアカシアはふふふ、と笑って「今はまだ、ですよね? ウェルベライト様とレイシさんがどうなるか楽しみです」と、ウェルベライトの胸の内を知ってか期待の言葉をかけた。
「まだ自分は彼女とどうなりたいかは……」
騎士の言葉に王女様は目を丸くし、一瞬、一瞬だけ、痛みに耐えるような表情をしてから「よろしいですか?」と可愛らしい不機嫌な顔で人差し指で騎士の胸を突いた。
「レイシさんは聞く限り、あまり街の方と交流をしていないそうです。お師匠様のフノボリ様と一緒にいることが多くても国民と話すことは少ないと。しかしこれからはフノボリ様がお兄様のお手伝いをすることにより、レイシさんもこの国の者と交流する機会が増えます。獣人の方々と交流する機会も増えていきます。そうなったときに、横から奪われてもよろしくて?」
「しかし、相手は六歳ですよ?」
「ウェルベライト様もご存じのはずですよ。獣人は種族によって寿命が短いと。そんな中でまだ六歳だからと躊躇している場合ですか! 気持ちは早めに伝えるべきです!」
息を巻いて訴えるアカシアを両手で制すウェルベライト。付き添いのメイドもアカシアに声をかけ落ち着かせている。
アカシアはふー、と息を深く吐き改めてウェルベライトに向き合った。
「私はウェルベライト様の恋を応援しますからね。思いを告げず諦めるなんてことがありませんように!」
分かれの通路に差し掛かり、「それでは」と頭を下げアカシアは自室に向かっていった。
夕食後、レイシと話したあとのアカシアはレイシを大変気に入ったらしく「一緒に寝ますの! いいですよねお兄様!」とユリオプスに直談判しだが、「明日はレイシさんもズヒェルに行って移動に疲れるんだから控えなさい」と言われアカシアは渋々諦めた。
そんな二人を見てレイシはウェルベライトにこっそりと「仲良しなご兄妹なんですね」と耳打ちしていた。




