第9話 始まり
ダンジョンから帰還した直後、魔力感知で異変を感じた2人は、急いで再度ダンジョンに入りクラスメイトの元へ向かって行った。
その先には、今にも魔物に襲われそうになっていた優奈がいた。
「助けて…」
「任せろ!」
ズパンッ!!!
目にも留まらぬ速さで放たれた天夜の一閃に、魔物は抵抗する間もなく倒れ伏した。
「…天くん?」
「おう。」
「天夜…なの?」
「あぁ、俺だよ。」
「天夜…。」
「みんな……ただいま!」
そう言うと、5人は一斉に天夜に駆け寄り、その胸に飛び込んできた。
「天くん! 天くん!」
「無事だったのか!」
「ずっと心配してたんだぞ!」
「ははっ、やっぱ生きてたね。」
「天夜君…うぅ…。」
「あはは、久しぶりだなぁ。」
「…天くん、また助けられちゃったね。」
優奈は涙目になりながらも、ぽつりと呟く。
「ん?」
「……あの日、助けてくれて。2ヶ月前も、自分を犠牲に私たちを助けてくれて。
今度こそ私たちがって思ってたのに、また今日も助けてくれた…。私、ずっと天くんに助けられてばかりだね…って思って……。」
「そんな事ねぇよ。」
「…でも」
「あの時、…両親がいなくなってずっと落ち込んでいた俺を、救ってくれたのはお前らだった。
ずっと側にいてくれたお前らは、俺の心の拠り所なんだ。」
5人は言葉を失い、黙って天夜を見つめている。
「だからな、そんなお前らを助けるなんてことは当たり前だ。お前らとずっと生きていくために、笑い合うために、俺はみんなと一緒にいるんだ。
お前らが俺に助けられてると思っていても、俺はずっとお前らに支えられているんだ。」
「天夜…。」
「…まぁ、ちょっと恥ずかしいこと言ったけどさ。
これからも、ずっと俺と一緒にいてくれるか?」
「「「「「…うん(おう)!!」」」」」
その後、彼らはこれからのことを話すため、ダンジョンの出口へと向かった。
「天夜…久しぶりだな。」
ダンジョンを出たところで、ガイルが俺に懐かしむような目で話しかける。
「あ、ガイルさん。あの時はありがとうございました。」
「…よせ、俺はお前を助けられなかったんだ。」
「それでも、あいつらを助けてくれてありがとうございます。」
「そうか、…済まなかったな。そして、よく戻ってきた。これからはどうするつもりだ?」
「そうですね、取り敢えずギル爺と話し合わないと。」
「ギル爺?」
「下層に落ちた時に助けてくれた人です。あ、ギル爺!」
天夜とガイルが話していると、こちらに向かってギルバードが歩いてくる。
「無事だったかの、天夜。」
「おう!」
「ギル爺って…まさか、あのギルバード!?」
「「「「「ええええぇぇぇぇ!?」」」」」
天夜以外の全員が、驚きの声を出す。
「え、みんな知ってんのか?」
「知ってるも何も、人類最強って言われてる人だよ!? "銀老のギルバード"っていえば、誰もが知るS級冒険者って教わるのに、…天くん知らないの!?」
優奈が驚いた声で、俺に問いかける。
「ほぇー、どうりで強かったわけだ。」
「いや、そんな反応なのか…。」
「ホッホ、天夜には言ってなかったからのう。」
「ってギルバードさんもあのダンジョンにいたんですか!? ってことはその前にここにいるってことは、ダンジョンをクリアしたのか!?」
「62階層まで落ちた時に助けて貰って、そこから修行しながら攻略して戻ってきたんです。」
「……これをクリアしてきたのか…。流石、人類最強だなぁ。」
「いや、ほとんど天夜がいたおかげじゃよ。ここまで早く帰って来れたのも、天夜のスキルがあったからじゃ。」
「確かに、天夜がとんでもなく強くなってる…。
これではもう、俺が教えることはないな。ギルバードさん、これからどうするか決めてますか?」
「そうじゃのう。取り敢えずここから離れてエルカトーレ王国へ向かおうと思うが良いかの?」
「もちろんです。こいつらにとっても、その方が良いでしょう。王には俺の方から伝えておきます。」
「すまんの。」
「いえ、元はといえば俺たちが原因ですから。」
「そっちの子らもそれで良いかの?」
ギルバードが、優奈たち5人に問いかける。
「はい! もう天くんと離れたくありませんし!」
「そうだな、ここに思い入れもあまりないしな。」
「ホッホ、良い友達を持ったのう天夜。」
「あぁ、最高の友達だ!」
その時、魔物の一撃で気絶していたはずの薫が、ふらつきながらも目を覚まし、天夜たちの前に立ち塞がる。
「待て! 何故3人ともそいつについていくんだ!? それに、僕達には使命があっただろう! それを忘れたのか!?」
薫の叫びに、葵が一歩前に出る。
「そんなの、知りません。勝手に召喚されて、使命って言われても私たちには関係ありません。
それに、ようやく天夜くんと再会したんです。邪魔しないでください!」
睨みながら言う葵に続き、凛も言い返す。
「そうだな。そして私の幼馴染を侮辱するような奴には、絶対についていかない。
ずっと言っているだろう、お前には興味がないんだ。分かったら、もう付き纏うな。」
「な、何でだ!? 何故僕よりそいつを選ぶんだ!? そんな奴より、僕の方が絶対に優れているんだ!
僕は勇者なんだぞ!? 勇者より優れているやつなんか、いる訳ないだろう!」
歪んだ叫びに対し、天夜はゆっくりと告げる。
「なら、試すか?」
「っ!? 急に何を?」
「そろそろ鬱陶しいと思ってたんだ。ずっと難癖付けられる、こっちの身にもなれ。だからここでどっちが強いか、はっきりさせよう。」
「はははっ! 急に何を言い出すかと思えば、そんなことか! いいだろう、ここで僕の方が優れていると証明させよう!」
「よし、なら早速やるか。」
そうして2人は距離を取り、戦いの準備をする。
「天夜! ボコボコにしちゃえ!」
「天くん、頑張ってー!」
「おう! 任せろ!」
「天夜。」
「あ、ギル爺ちょっと待っててくれ。すぐ終わるから。」
「一撃で終わらせてはならん。まずは、足を潰すのじゃ。その次に腕、身体とどんどん追い詰めてから、最後に脳天にかかと落とし。きっちり分からせてやるんじゃ。」
「いや、そこまでやらないよ!?」
「む、そうなのか。」
薫は、剣を構える。その表情には焦燥と怒気が入り混じっていた。
一方で、天夜は剣を抜かず、素手で静かに拳を握った。
「何のマネだい? 早く剣を構えなよ。」
「いや、お前如きに剣はもったいないからな。」
「チッ、…どこまでも舐めやがって! ここで勝って、3人を貰うのはこの僕だ!」
「俺が勝ったら、もう関わってくんなよ。」
「うるさい! 死ね!」
薫が叫び、渾身の力で剣を振り下ろす。
だが、天夜はその一撃を軽やかに避ける。
「なっ!?」
驚いた表情を浮かべたが、すぐさま次の攻撃を放つ。
それも、空を切る。
その後、何度も斬りかかるが、天夜の身体にはかすりもしない。
全ての攻撃を、無駄のない洗練された動きで避け続けた。
「何故、当たらない!?」
薫が焦りの声を上げる。
「俺がこの2ヶ月、何もしてなかったと思うか?」
「うるさい! 僕は勇者だぞ! こんなことが、あってはならない!」
「…現実を見ろよ。お前の剣は俺に一度も届いていないし、あの3人は、お前には振り向かない。」
「うるさい、黙れぇぇぇ!!!!」
薫が、さらに怒りと魔力を込めて斬りかかる。
だが、天夜はそれを親指と人差し指だけで止めた。
「っ!?」
「まずは、1発!」
天夜の少し力を込めた拳が、薫の腹に突き刺さる。
鋭い音とともに、薫の身体が弾かれるように吹っ飛び、地面を転がる。
苦しげに胃の内容物を吐き出しながら、彼は身をよじった。
「グハァッ!?」
「…ふぅ。」
静かに息を吐いた天夜は、ゆっくりと歩き出す。
「ひっ!? く、くるなぁぁぁぁぁ!!」
地面に這いつくばりながら、薫は恐怖に顔を歪め、必死に後退ろうとする。
「や、やめろぉぉぉ!! 僕に近づくなぁぁ!!」
天夜は何も言わず、薫の目の前に立つ。
そして、拳を高く振り上げた。
「ひっ!? …あぁ……。」
「…終わりか。」
拳が下ろされる直前、薫は失禁し、白目を剥いてそのまま気絶した。
「…よし、すっきりしたし、行こうか!」
天夜はそう言い幼馴染たちの元へ歩いていく。
5人は、呆気に取られながらも、少しだけ誇らしげに笑っていた。
そこへ、ガイルが話しかけてきた。
「もういいのか?」
「えぇ、もう充分です。」
天夜が短く答えると、満足げに頷いた。
「そうか、こっちは俺がどうにかしとく。お前たちは気にせず、そのまま行け。」
「ありがとうございます。ガイルさん、…お世話になりました。」
「おう…。俺はお前が、…お前らがこれから何を成すのか、楽しみにしているぞ。」
「ガイルさん、本当にお世話になりました。…あなたのおかげで、天くんともこうやって再開できました。」
「あなたが居なかったら、ここまで強くなれませんでした。本当に、ありがとうございました。」
「……あぁ、またな。」
そう言ってガイルは俺たちから離れ、薫を回収しに行った。
「…ここから、だな。」
静かに呟いた天夜に、5人が頷く。
「そうだな。…こっちに来てから3ヶ月か。」
涼が思い出すように、呟く。
「天夜くん、もう私たちの側からいなくなっちゃダメですよ?」
「そうだ、しっかり監視しないとな。」
葵と凛が、俺に釘を刺すように言う。
「ははっ、もうどこにも行かないって。」
「…ここから、僕たちの冒険が始まるんだね。」
一樹が言った言葉に、6人が不安と期待、そして覚悟を決めた顔をする。
「この先、何があってもこの6人はずっと一緒、こっちに来た日に天くんが言った言葉だよね?」
「あぁ、…この先何が起こるかなんて誰にも分からない。それでも、お前らとならどんなことだって乗り越えられる。お前らと生きていく為に、俺は強くなって戻ってきた。」
「…私たちももう、守られるだけじゃない。天夜程とはいかないが、少しは強くなった。…だから天夜も、無理はしないでくれ。」
「あぁ、頼りにしてるよ。」
語り合う6人の元へ、ギルバードがゆっくりと近づいてきた。
「天夜。」
「ギル爺、お待たせ。いつでも行けるよ。」
「そうか。なら、早速行くとするかの。」
「おう!」
そうして
天夜・涼・一樹・優奈・凛・葵の幼馴染6人の
新たな冒険が始まった。
第1章 異世界召喚編 完