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異世界での俺の物語  作者: モンモン
第1章 異世界召喚編
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第6話 ギルバード

『ユニークスキル《異空間》が皇帝(エンペラー)スキル《異次元》に進化しました。』




突然、頭の中に星の声が響く。



(星の声!? 何でこんな時に…くそっ、死ぬ!)




死ぬかもしれない時に、星の声のことなんて考えていられなかった。

そして、床が後数メートルというところまで来ていた。





──だがその瞬間、何故かワープを作ることが出来る気がした。


俺はその時、無意識に"加速"で思考を最大限加速させていた。

迷っている暇はない、一か八かワープをイメージした。



まず、ワープしたい場所を頭の中で強く思い浮かべる。

俺の真下と、その横。そして、異空間の出口を上向きにするように頭の中でイメージする。



すると、イメージ通り俺の真下とその横に、俺が入れるくらいの黒い穴が現れる。

俺の身体はそのまま入り口に吸い込まれ、そして横にある穴から上に放り出されるように出てきた。



勢いのまま宙を舞い、何度か同じ要領でワープを繰り返す。

そしてようやく、俺は地面へと無事に着地した。








「ハァハァ、………生きてる。」


荒い息をつきながら仰向けに倒れる。

見上げた空は闇に包まれ、先ほど落ちてきた穴など、どこにも見えなかった。

それほど深く果てしないほどの距離を、俺は落ちてきたのだ。



「何でワープ使えたんだ…? 何か、進化したって聞こえたけどそれか? ステータス…は見れないか。」


ステータスは、魔道具がないと見れないことを思い出す。



「…ここ、どこだ?」


身体を起こし、周囲を見渡す。

天井や壁などが岩で出来ており、うっすらとした闇に包まれたその場所は、まるで巨大な洞窟のようだった。



「めっちゃ落ちたよな…。まさか50階層より下だったり……っ!?」





大きな音がした方を振り向くと、そこいたのは5メートルはあろうかという化け物だった。

頭には鋭く生えたツノ、手には金棒のような得体の知れない武器、まるで絵に描いたような怪物がいた。




「嘘だろ!? …ん? 何かおかしい?」


しかし、その化け物は既にボロボロだった。

至る所から血が流れており、目の前の俺にも気付かない。

こんな化け物をここまで追い詰める奴がいるとは考えたくないが、誰かの仕業と考えるしかない。




ズパンッ!!



とその時、その化け物が真っ二つになり、上半身が崩れ落ちた。




「ん? なぜこんなところに子供がおるんじゃ? おぬし、何者じゃ?」


死んだ化け物の後ろにいた、化け物を真っ二つにしたと思われる老人から話しかけられた。

だが、俺はあまりにも衝撃的すぎて声が出なかった。



「ん? どうしたんじゃ? …ああ、そうか忘れておった。人に名を聞く時は、まず自分からじゃったな。

ごほんっ。…では改めて、ワシはギルバードという者じゃ。そこそこ名は知れ渡っていると思うが、知っておるかの?」



俺は聞いたこともない名前に、無言で首を横に振った。



「そうか、なら構わん。して、おぬしの名は?」


俺は先程の衝撃が頭から離れず、声を絞り出すように言う。


「俺は天夜……です。」

「ほう、テンヤというのか。変わった名じゃのう。貴族なのか?」

「ち、違います…。」

「ホッホ、そんな無理にかしこまらんでもええわい。……ふむ、もしかしてテンヤは異世界人か?」

「な!?」


咄嗟に警戒し、腰の剣に手をかけた。


「そんな警戒せんでもええわい、ワシはテンヤと戦う気は全くないからの。

先月、ドミナ帝国が異世界から勇者を含む何十人かを召喚したと全世界に発表してのう。

そして、ワシの名を知らないほどの無知、貴族でもないのに姓を持ち、このダンジョンにおる。

…どう考えても、おぬしが異世界人の可能性が高いじゃろう?」


言われてみれば、確かにそうだ。俺は少しずつ警戒を解いていった。


「して、なぜテンヤはここにいるか聞いても良いか?」



俺は悩んだ末に、これまでの出来事を話すことにした。





「ほう、……そんなことがあったのか。よく生きていたのう。」

「ああ、それはユニークスキルのおかげで助かったんだよ。」

「む! テンヤはユニークスキルを持っておるのか?」

「2つ持ってるぞ。」

「何と! それはすごい! どういうスキルなんじゃ?」

「"異空間"と"加速"ってやつ。…あ、でもさっき進化したって星の声が流れたんだよ。」

「な、なんと!? 召喚されて1ヶ月で、皇帝(エンペラー)スキルに進化したのか! 何という才能じゃ……。」


驚くギルバードに、俺も逆に質問をする。


「ところで、ギルバードさんはここで何してたんだ? 後、ここが何階層か分かるか?」

「さん付けなんてしなくてええわい。ワシがここで何してるかじゃったな、このダンジョンを制覇しようとしてたんじゃよ。

そして、ここは62階層じゃよ。」

「62!? やばっ…! ていうか、制覇ってできんのか? 最高でも50階層しか行ったことないって言われていて、それで何階層まであるか分かんないだろ?」

「それを今から確かめに行くんじゃ。

それに、おそらく人類最高も50階層じゃない。50階層以降は一方通行で、戻るには制覇するしかない。…途中で倒れていった冒険者の痕跡もたくさんある。」

「……マジか。」


今まで誰も制覇出来なかったダンジョンを制覇しないと地上に戻れないと言われ、気持ちが一気に沈んでいく。


「そこでじゃ。1つ提案なんじゃが、テンヤは地上に早く戻りたいか?」

「そりゃ、戻りたいよ。…心配させてる奴らもいるし。」

「なら、ワシの弟子にならんか?」

「弟子? 俺が?」

「そうじゃ。実はワシ、地上ではちと有名な方で、少し腕に覚えがあっての。

だが、ワシ1人では、このダンジョンの制覇に何年かかるか分からん。

そこでテンヤをワシが鍛えれば、もっと早く地上に戻れるじゃろう。」

「…俺がいたら逆に邪魔になるだけで、ましてやもっと早く制覇なんて出来ないと思うぞ?」

「そこは安心せい。テンヤは立派な才能を持っておる。もっと自分に自信を持ってええんじゃ。

それにな、テンヤは武術をやっておるじゃろ?」

「何で分かるんだ? 確かにやってるし、"武芸の才"は持っているけど…。」

「やはりの、実はワシも"武芸の才"はないが、武術をやっておるんじゃ。

極進流(ごくしんりゅう)武術というのをやっとっての、かなり昔からあるんじゃよ。ワシはその16代目の師範になってから、もう60年くらいやっておる。

そしてテンヤ、おぬしには次の師範になってもらいたいんじゃ。」

「…何で俺なんだ? その極進流をやっている他の奴にやってもらった方が良くないか?」

「実はのう、この流派をやっとるのは今はワシだけなんじゃ。

理由は簡単、難しすぎて誰もついてこれん。」

「……そんなの、俺に出来んのか?」

「ワシの目に狂いはない。おぬしならワシを超え、この世界で最強になれる。そう確信しておる。」



真っ直ぐな目で、俺を見据えるその眼差しに、嘘はないように見えた。



「テンヤ、ここはおぬしらがいた世界とは違う。命が軽く簡単に人が死ぬ。何が起こるか分からん。

そんな時に自分に力があったら、なんて後悔をする時が来るかもしれん。自分の大事なもんを守るために、失わないためにここでしっかりと、力をつけていったらどうじゃ?」

「…そうだな、やってみるよ。」

「おお! まことか!」

「ああ! もう一度あいつらと会うために、もう二度とあいつらと離れないために、…俺は強くなりたい!」

「よくぞ言ってくれた…! よし、ワシが必ずテンヤを強くしてみせるぞ!」



こうして、俺とギルバードという老人との修行が始まった。





───────





一方、ダンジョンから帰ってきたみんなは、各自の部屋に戻っていた。

その中でも、5人は天夜の部屋に集まっていた。



「天くん…。」


優奈が膝の上に手を重ねてつぶやく。


「なんで、…あいつばかりこんなことが起きるんだろうな。」


涼が悔しげに唇を噛み締める。


「あぁ、私たちは天夜に救われてばかりだ。」


凛が俯きながら言う。


「天夜君と出会った時も、そうでしたね。」


葵の声は静かに震えている。


「それなのに、…僕たちはまだ天夜に何も出来ていない。」


一樹がぽつりとこぼす。




「それは違うと思うぞ。」


その空気を断ち切るように、低く落ち着いた声が響く。



「あ、ガイルさん…。」

「あいつはお前らを助けて自分が落ちるのに、全く躊躇わなかった。それは、ちょっとの付き合いの奴らが出来ることじゃねえ。

お前らがあいつに何もできてないって思っていても、少なくともあいつの中のお前らの存在は大きいものだと思うぞ。」

「そう…なんですかね…。」


涼が呟くように言う。


「ああ、少なくとも俺はそう思う。それにな、今からでもできることはあると思うぞ?」

「できること……?」

「強くなることだ。」


力強い声が響く。


「…強く、なる。」

「…この世界は、お前らがいた世界よりもずっと危険だ。簡単に人が死に、今日みたいなことや人が突然居なくなるなんてことが頻繁に起こりうる世界なんだ。

…まだ若いお前らには厳しいことかもしれないが、殺るか殺られるかの世界、自分に力があったならと後悔している時にはもう遅い。

だからな、この先そうならない為にもここでしっかり力をつけておけ。次は天夜を、自分の大切なものを守るために、後悔しないために今ここで出来る限りのことはしておけ。」


5人はそれぞれの想いを胸に、黙って聞いていた。


「……今日はもう遅い。しっかりと身体を休めて、自分のすべきことを考えろ。

それと天夜を助けてやれなくて、…すまなかったな。」


それだけ言い残すと、ガイルは静かに部屋から出ていった。

5人は少し話し合った後、各自の部屋に戻っていった。







翌朝

訓練の前に5人はガイルさんの前に揃っていた。


皆、決意の表情を浮かべている。


「お前ら、どうするかは決めたか?」

「はい。…天夜は、いつも俺たちのことを最優先に思ってくれていた。

…いくら怪我しようとも、いくら他の人に嫌われようとも、ずっと俺たちの側に居てくれた。」


涼が天夜との出来事を、思い出すように呟く。


「そんな天夜が、眩しくて…かっこよくて…いつか隣に立てるようになりたいと思っていた。

……だからこそ今度は私たちの番なんだ。私たちが天夜を守れるくらいに強くなりたい!」


凛が力強く、ハッキリと宣言する。


「そして一刻も早く、天くんを助けに行きたい!

強くなって…今度は私たちが天くんを支えてあげたいんです!」


それぞれの想いを聞いたガイルは、ゆっくりと頷く。


「そうか…。よし、ならお前達5人は俺が個別で訓練をしよう。厳しくいくから覚悟しとけよ!」

「「「「「はい!!」」」」」



彼らの目にはもう、迷いはなかった。







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