表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界での俺の物語  作者: モンモン
第1章 異世界召喚編
5/14

第5話 絶望の底で

しばらく歩いた後、再びゴブリンが現れる。

次は、集団で約10体いた。



「お、ゴブリンがいたぞ。まだお前らは戦術とか分からないだろう。みんなでやると逆に危ない、まずは武術系のスキルを持っているやつから行け。」




ガイルの指示に従い、俺と涼、凛を含めた武術系スキルを持っているやつが前へ出る。

しかし、大半の生徒は足がすくみ、動くことすら出来なかった。




だが、俺は不思議と怖いとは思わなかった。

みんなより前へ出て、剣を構えてゴブリンの方へと行く。


さっきガイルが見せてくれたように"加速"を使い、一番前のゴブリンまで間合いを詰める。


首を狙って斬りつけた…が攻撃が浅い。ゴブリンは死なずに反撃し、俺を斬ろうとする。

俺はそれを慌てて剣で受ける。その瞬間、横から別のゴブリンが飛び出して俺に斬りかかってくる。

剣をギリギリで回避し、後方に飛ぶ。


(どうする…!?)


混乱の中、冷静さを欠きどうすれば良いか悩む。




「天夜! 落ち着け! いつものお前ならできる!」


その時、ガイルが俺に向かって大声で叫ぶ。



その一言で俺は落ち着いて冷静になり、思考を"加速"させる。

すると、相手の動きがゆっくりになったように見える。




全身に"加速"を巡らせ、再び前へ。

最初に攻撃したゴブリンに向かって踏み込み、また首を狙う。今度は完全に首を斬り落とすまではいかなかったが、深くまで斬り込みゴブリンは反応もできずにそのまま倒れる。


もう一方のゴブリンは驚き一瞬固まるが、すぐに持っていた剣を振りかぶる。

だが、"加速"を使った状態の俺には、それはものすごく遅く見えた。

剣を軽々と躱し、ガラ空きだった首を斬る。ゴブリンはそのまま倒れた。



初めての戦闘で少し慌ててしまったが、なんとか倒すことはできた。

怖くなかった、とは思わない。しかし、意外なほど殺すことには抵抗はあまりなかった。

それが良いことなのかどうかは分からない…。







俺につられるように、みんなはゴブリンに向かって攻撃を始める。そして数分後、全てのゴブリンが倒された。




「最初にしてはみんないい動きができていたと思うぞ。

だが、まだ緊張してるな? 気を緩めろとは言わないが、緊張のしすぎも良くない。

そして、恐怖を捨てろ。殺すことに慣れろ。戦場で恐れた奴は真っ先に死ぬ。

そのことを忘れないようにしろ。んじゃ、このまま続けるぞ。」




戦闘が終わった後、5人が俺の元へ駆け寄ってきた。




「おい天夜、最初突っ込んでいった時はヒヤヒヤしたぞ!」

「そうだ! 何を考えているんだ!」


慌てた様子で、涼と凛が言う。


「いや怖くなかったし、誰も行かなかったからさ…じゃあ、俺がって思って…。」

「それでも1人で行くなんてことしないで! すごく心配したんだからね!」

「あぁ、悪かったって。」

「天夜くん。もう無茶しちゃダメですよ?」

「おう、分かった。」






一方その頃



「こんなのが魔物か、いいだろう。この僕が倒してやろう!」


薫はゴブリンに向かって剣を振りかぶる。

ユニークスキル"勇者"は、全ての能力が本来の力から常に2倍されるという、規格外のスキルだ。

ただ力を込めて振りかぶっただけの攻撃でも、威力は出る。


案の定、ゴブリンも攻撃を剣で受けようとしたが、剣が耐えきれず砕けてそのまま斬られる。傷は浅く致命症にはならなかったが、薫がさらにもう一度斬る。

そして、ゴブリンは息を根を止めた。



「フン、やっぱり僕にかかればこんなのは雑魚だったね。どうだい? 優奈、凛、葵。僕の素晴らしい動きを見てくれたかい?」


しかし、振り返った先に彼女たちはいなかった。

優奈たちは、いつもの天夜たちの輪の中におり、こちらには全くの無関心だった。



「…くそっ! 何でいつもあいつばかりなんだ!

僕の方が優れているのに何で見向きもしない!

どうすればいいんだ…!?」



訓練のことなど、薫の脳裏からは消えていた。

頭の中を占めていたのは、どうすれば彼女たちを振り向かせられるか、その一点のみだった







──────




「よし、問題なく5階層まで来れたな。最初にしては中々良かったと思うぞ。

今日の訓練はここまでだ。少し休憩してから帰るぞ。」



ガイルの声に、全体が安堵の息をついた。

目標だった5階層まで行くことができ、死者や怪我人もなしで訓練を終えることができた。

クラスのみんなは緊張を解き、休憩することだけを考えていた。




「ふぅ、…ようやく終わりか。なんか、長く感じたな。」

「ずっと緊張してる状態だったもんね。」

「そういえば、天くんは何でもう1つのユニークスキル使わなかったの?」


優奈が俺に問いかける。


「ああ、さすがにこの人数だったら邪魔かなって思って。」

「じゃあ、"異空間"は1人で戦う時用ってことですか?」

「少ない人数なら大丈夫だと思うぞ? この6人くらいなら平気だな。」



その時、涼が何かを見つけたように指を指す。


「ん? あそこ何やってんだ?」


視線の先には、薫とガイルが言い争っていた。



「おい薫! 何をやっている、もう訓練は終わったんだ! 勝手な行動はやめろ!」

「うるさい! 僕に指図するな! 僕は勇者なんだぞ!」


ガイルが制止するも、薫は聞く耳を持たない。



「そっちは行くな! クソッ、聞いてねえか…。おい!」


ガイルさんは騎士を呼んだ。


「はっ!」

「俺はあの馬鹿を連れ戻してくる。それまでこいつらを頼んだぞ。」

「分かりました!」



今俺たちが休憩している場所は、4階層から降りてきた階段がすぐ近くにある所だ。

広さは普通の体育館程度。薫は階段とは逆側にある通路を目指して歩いて、ガイルはそれを追っていた。



「くそっ、どいつもこいつもむかつく奴ばかりだ! 

今日はまだあの3人に、いいところを見せれてない! このまま帰れるか!

かっこいいところを見せて、絶対にあの3人を僕のものにするんだ!」



苛立ちのまま歩く薫の視界に、床の一部だけが異なる色をしたタイルが映る。


「何だこれは!? …そうか、魔物のトラップか! 

これを踏めば、魔物が出てくるんだな!

よし、出てきた魔物を全部倒せばきっとあの3人だって、僕の方に来るはずだ!」


勝手な憶測が、彼の興奮をさらに煽る。



「なっ!? それを踏むな!!」


ガイルの声が届くよりも早く、薫は足を踏み入れてしまった。



「よし、来い魔物! 僕が全部倒してやる!

……っ!? な、何だこの揺れは!?」




突然、地響きのような音が鳴り、床全体が地震のように揺れ始めた。


「…ッ! クソ、やばい…!」


即座に階段にいるみんなに向けて、叫ぶ。


「全員、今すぐ階段を上がれ!! お前もだ!」

「嫌だ! 僕は、まだ魔物を…!」

「黙れ!!」


怒声と共に、薫の腹部に拳を叩き込み、意識を刈り取った。気絶した薫を抱え、4階層へと駆け上がる。

その後、彼はすぐさま俺たちの援護に戻ってきた。






俺たち6人は、運悪くクラスの中で階段から最も遠い場所にいた。



「おい! 速く行くぞ!」

「やばい、上から何か降ってくる!」

「前に飛べ!」


頭上から、巨大な岩の塊が音を立てて落ちて来る。それを避けるため、6人は前方へジャンプする。

しかし、岩が床に衝突し、爆発するような衝撃と共に床が砕けた。


避けきったはずの俺たちの足元ごと、床は崩壊し6人全員が、奈落の闇へと落下していく。



「きゃあああああ!!」

「お前らぁあああ!!!」



ガイルの絶叫が、崩れ落ちる音にかき消されながら届いてくる。

俺たちは真っ逆さまに、深淵へと落ちていった。



(くそっ! こっから助かる方法は!? そうだ!あれ使えば! 俺を除いて5人、"異空間"で出せる手も最高で5本!

その後は、少しだけ異空間が使えなくなるが、こいつらを助けることができる! …よし!)



「お前ら、しっかり受け取ってもらえよ!」

「っ!? 天夜!?」

「何をっ!?」



俺は他の5人の落下軌道の下に異空間の穴を出現させ、そこから5本の黒い手を出す。

それぞれを身体を受け止め、勢いよく上へと投げ飛ばす。



「ガイルさあああぁぁぁん!!!」


俺は全力で叫び、ガイルに希望を託す。



「…っ!? クソッ! おい、手伝え!」



ガイルは俺が呼んだ意味をすぐに理解し、一瞬顔をしかめるがすぐに騎士に指示を出す。

放り出された5人をキャッチして、階段へ走る。



「天夜あああああぁぁぁぁ!!!」

「いやっ! 離してっ! 天くんがっ!!」

「うるせえ! 早く行くぞ!」

「いやあああああああああ!!!!」


優奈たちの悲鳴を背に、ガイルは歯を食いしばりながらも、4階層へ上がっていった。






その後、天夜を除いた5人は4階層に無事辿り着いた。



「うぅ……天くんが…天くんが…!」

「…くそっ、何であいつは…!」

「そんなっ! そんな…嘘ですよねっ!?」

「…おい、早くここを出るぞ。」


ガイルが低い声で告げる


「でも! まだ天夜が戻って来てないだろう!」

「それよりも! ……みんなの安全が優先だ。」

「なんで!? 嫌だよ、早く天くんを助けに行かないと…!」

「無理だ。あそこの下は6階層ではなく、もっと下だった。

…もしかしたらまだ人類が到達していない階層かもしれん。そんな場所に、今俺たちが向かったって…全滅するだけだ。

…分かってくれ、今は撤退するしかない。」


その言葉に誰も反論できなかった。




ダンジョンを出た後のクラスは、沈黙に包まれていた。

優奈たち5人の表情は、まるで心の一部が砕けたような顔をしていた。






───────






「死ぬかな、俺……。」



底の見えない落下の中で、そんなことを考えていた。



(俺が死んだら…みんなどう思うんだろ……。)



涼、一樹、優奈、凛、葵。

5人の顔が、脳裏に浮かぶ。出会った時や遊んだ時の記憶が、無意識に再生される。




(…ははっ。やっぱり、まだ死にたくねえや。

…あいつらがいるしな。さて、どうするか…。)



頭の中にまず浮かんだのは、魔法だ。

この世界は地球と違い、魔法がある。風とかで浮けないか、と思ったがまずそんな魔法は持っていない。

俺が持っているのは、ユニークスキルである"加速"と"異空間"だけだ。



(やっぱ可能性があるとしたら"異空間"か。

何か出来ないか? …そうだ!)



考えたのは"異空間"でワープを作ることだ。


俺の下に異空間の入り口を作り、その横に出口を作る。

出口を上向きにすれば、上に放り出されるように今までの勢いが消えて、上手く着地出来るようになる可能性がある。



しかし、ここで問題が発生する。

どれだけ強く"異空間"でワープをイメージしても、穴が出てこない。



(クソッ! 何で出来ない!?)


かつて、ガイルさんが言っていた言葉を思い出す。


ーー「スキルってのは、"熟練度"によって扱える内容が全然変わって来る。

スキルの進化とは少し違うが、できることが大幅に増えるぞ。」




(何でこんな時に! まだ足りないのか!?)



だんだんと、地面が迫っていく。

だが、それでも諦めきれない。



(まだ、死にたくねえ!

もっと…! もっとあいつらといたい!

あいつらと笑って、泣いて、怒られて、遊んで、一緒に戦って……!


あいつらに、生きて会いたい!!!)












『ユニークスキル《異空間》が皇帝(エンペラー)スキル《異次元》に進化しました。』






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ