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二択を拒否した俺、なぜか女神が嫁になり神々の世界で最強夫婦へ

作者: Chankoo7

挿絵(By みてみん)

【1】30歳の誕生日と、謎の女神


「誕生日おめでとう、俺」


俺はアルバイトを終え、自宅のアパートに帰ってきた。時計を見ると夜の11時。


俺の名前は雨宮 誠(あまみや まこと)。日付が変わると30歳になる。ずっと声優を目指してきたが、オーディションに落ち続け、養成所からも半ば見放されている。親からは「いい加減安定した仕事につけ」と責められる始末。正直、うまくはいっていない。


「はぁ……30になってしまった。この道を選んで後悔はないけど、心細いな……」


小さくため息をついたそのとき。 部屋の空気が変わった。


「おめでとう、雨宮 誠」


女性の声がする。振り返ると、部屋の隅に淡い光とともに一人の女性が現れた。銀色の髪をふわりとなびかせ、青い瞳が星のように輝いている。


「え……? だ、誰?」


「私はセレス。天上の女神。あなたは童貞のまま30歳になった瞬間、偶然運命に選ばれた。だからこうしてやって来たの」


あまりに突然のことで、俺は何も言えなかった。ただ、その神秘的な美しさには目を奪われる。人間離れしている……


「雨宮 誠。あなたには、二つの選択肢が与えられるわ」


セレスはスラリとした両手を小さく掲げる。


「一つは、絶世の美女との結婚。

誰もが羨む妻を得て、しかも逆玉の輿になれる。あなたは不自由のない幸せな生活を送れるでしょう」

「もう一つは、声優としての成功。

あなたの夢そのものね。チャンスをものにして出演オファーが途切れず、業界を席巻するような人気を手に入れられるわ」


どちらも俺が喉から手が出るほど欲しいモノだ。考えが追いつかない。 だが、セレスは真顔で続ける。


「どちらを選んでも、あなたは必ず“選ばなかった方”を後悔することになるでしょう。でも、どちらかは必ず得ることができます。あなただけ特別に」


俺は唇を噛む。 どちらも最高だ、俺なんかには恐れ多いくらいだ。思考が頭を駆け巡る。どっちを選ぶ……!?

(絶世の美女を!)

(声優の成功を!)

……どちらの言葉も出てこなかった。未来で必ず後悔している自分を想像しただけで、心が重くなる。

俺は自然と口を開いた。


「……どちらも選ばない。」


その瞬間、彼女の瞳がきらりと光る。


「“選ばない”……? それは興味深いわ」


俺が驚く間もなく、セレスは微笑んで手をかざした。


「その先の可能性、見せてくれる?」


俺は眩しい光に包まれた。


【2】神殿にて、女神を口説く?


気がつくと、俺は見知らぬ場所に立っていた。白い石柱が並び、壁には複雑な紋様が刻まれ、荘厳な雰囲気が漂う。


「ここは……神殿?」


驚きつつ辺りを見回すと、壁際にある椅子にセレスが腰掛けている。


「そう、天上界の神殿よ。一時的に“あなたを観察”するために招いたの」


「観察って……?」


「あなたの“選ばない”という意思。面白いと思ったの。誰もが欲しがる二択に飛びつかないなんて」


彼女はくすりと微笑んだ。神々しい美貌に、俺は息を飲む。


「……あの、セレス……さん?」


「呼び捨てでいいわ。女神の名なんて、かしこまるほどでもないから」


彼女は意外にもラフな口調で答える。俺はドキリとするも、おずおずと話し始める。


「なあ、俺さ……声優として、今まで頑張ってきたんだ。そりゃ美女と結婚もしたいし、声優として大成もしたい。でも、それでどちらかを“後悔する”のは、耐えられない気がするんだ」


つい本音が零れる。セレスは興味深そうに首を傾げた。


「それでも、どちらかだけでも手にしたいとは思わないの?片一方だけでも十分満たされそうだわ」


「……そもそもそんな贅沢、俺に似合うとも思えないし。それに、いざ手に入っても“本当に俺が得た”って言えるのか、分からなくなるだろ……?」


自嘲気味に笑う俺。しかし、セレスの瞳が一瞬大きく開いた。


「誠、あなたは……正直者ね。不思議な人」


そう言うと、セレスは椅子からすっと立ち上がり俺に近づく。白い衣がふわりと広がる様は、まさに神々の威厳そのもの。 けれど、その瞳にはどこか楽しげな色があった。


(さっきまでは究極の二択で頭がいっぱいだったけど、よく見たらこのセレスって女神、とんでもなく美人だぞ……!)

俺もまた、その色鮮やかなセレスの瞳に惹かれ始めていた。


「私、あなたがどんな人間なのか知りたいわ。……いい声をしているしね」


「へ? こ、声?」


「あなたの声は、心地いい波動を帯びている。もしあなたが本気で喋ったり、歌うとどうなるか、興味あるわ」


セレスは艶やかな微笑を浮かべる。気のせいか頬が少し紅い。


──ここだ。 女神が俺の“声”を評価しているなら、もしかして……俺の武器を使って、彼女を“口説く”ことができるのか?


なんという発想かと自分でも思うが、「与えられるだけ」では嫌だという気持ちが高まっていた。俺が俺として、この圧倒的存在に正面からぶつかる……!


俺は声のトレーニングで培ってきた"発声”を意識する。 ちょっとした一人芝居のように、低く響く声で、素直な想いを語った。


「……ずっと夢を追いかけてきたけど、挫折続きでさ。俺自身、何が正解か分からなくなってた。

けど……あなたに“選べ”って迫られたとき、気づいたんだ。  どっちかを手に入れたとしても、結局俺は“どこかに嘘”を感じてしまう。  だったらいっそ、俺自身が本当に納得できる道を探したい。

――そして、今はただ、君を笑顔にできる男になりたいって、そう思ってるんだ」


言葉を紡ぎながら、自分でも不思議と熱がこもっていくのを感じる。 セレスは、じっと俺の瞳を見つめていた。


「……そんなこと言われたの、初めてだわ」


女神である彼女が、困惑したようにつぶやく。ほんのり上気した頬は、神々しいというより、どこか人間らしい。


「私を口説くつもりなの、誠?」


「そうだ。……俺は、自分の意思で君と一緒にいたいんだよ」


そう言い切った瞬間、セレスの瞳が潤んだように見えた。


「……いいわ。面白い。では、私もあなたを受け入れてみましょう」


次の瞬間、神殿の空気がわずかに震え、俺はセレスの腕の中へと引き寄せられた。


唇が触れ合う。 鋭い光が脳内を走るような感覚に襲われ、俺の意識は心地よい余韻と共に遠のいていった……。


【3】すべてを手に入れた俺。そして決意。


「……うっ……」


目が覚めると、そこには俺のアパートの天井が見えた。いつもよりやけに綺麗に見える天井。……でも神殿じゃない。 あれは夢だったのか、と一瞬思いかけたが、腕には銀色の長い髪をした女性がしがみついている。


「おはよう、誠」


「セレス……!」


寝ぼけ眼で微笑む彼女は、間違いなく昨夜の女神だ。


起き上がって部屋を見渡すと、様子が明らかに違う。高級ホテルのような調度品が並び、キッチンには見慣れない食器や器具があった。


さらにスマホを見れば、声優養成所から「先日のオーディションに受かった」という連絡が入っている。


「これ……全部、叶っちゃってるのか?」


不合格続きだったのに、いきなり大成功? しかもセレスという“絶世の美女”が俺の横にいる? まさか、二択をどちらも選ばなかったら、二つとも与えられた、だなんて……。


「ふふっ。私、あなたが“どちらも選ばない”って選択、興味が湧いたの。  だから、両方叶えることにしたわ。声優の成功も、絶世の美女との生活も」


「女神としての務めと言うより、私の意志なの。

これならあなたは“後悔しない”のかしらって。……さあ、これから朝食を作るわ」


 そう言ってセレスは台所に立った。  あまりの展開に思考は追いつかない。


 それから数日が経った……。事態は驚くほどスムーズに進んでいる。それも、すべてセレスの力なのだろう。


 例えば、俺の声優業。  いきなり 人気アニメの追加キャスト に抜擢されたかと思ったら、その翌週にはCMナレーションまで決まる。あまりにトントン拍子だ。


「本当に、すごいな……」


 アフレコ現場からの帰り道、思わず漏らす。  すべてが順調すぎる。普通は収録で本調子なんてなかなか出せないものだ、それがセレスが微笑んでくれただけで、不思議と落ち着く。そして本番では驚くほどの集中力が発揮されるのだ。


(俺のこの声は……“天から与えられたもの”なのか?どこまでが俺の実力なんだ?)


 考え込んでいると、スマホが震えた。見れば、SNSでファンが爆増していた。

「雨宮 誠さんの声、めっちゃいい!」「このキャラの声優さん、要チェック!」  そんな書き込みが大量に見られる。


 さらに俺の部屋に帰ると、女神こと“嫁”のセレスが出迎えてくれる。  エプロン姿で作る料理は完璧そのもの。部屋に置かれているインテリアは急速に高級感が増していく。


そして外せないのが、セレスとの「アッチ」の話だ。

セレスは “傾国” の美貌で、しかも彼女がその気になればどこまでも男を高みに連れて行ける技術を持っている。


巷では「アンフェタミンは性交渉の5倍の快楽」などと言われることがあるが、彼女との性交渉は、どう考えても、アンフェタミンとやらの5倍は快楽があるんじゃないか? 常人なら中毒になるところを彼女が力でどうにかしてくれているのだろう。


それほど、彼女との愛は濃密で、身体の奥底から悦びを感じるのだ。しかも消耗するどころかどんどんみなぎってくる。


全てが恵まれている。俺は贅沢を言っているのかもしれない。けれど、心にぽっかり穴が開いたような気分だった。


「でも、これじゃ……なんか俺、ただ与えられてるだけって感じだ……」


セレスは小さく笑う。 「大丈夫よ。あなたには“素質”があるわ。私を口説き落とすほどの強い意志と、魅力的な声。あなたの今の生活はあなたの力で手に入れたのよ」


そう言われても、これではセレスに依存してしまっている状態だ。精神的にはヒモなのである。セレスが俺に与えてくれるように、俺もセレスに与えたい。 俺は身を起こした。


「……俺、こんなんじゃ、男として情けない。俺だって、女神の君を支えたいんだ。……どうしたらいい?」


「簡単よ、誠。  

"天上界"に行って、そこで神々の試練を受けるの。合格すれば、あなたも私と同じステージに立てるわ。でも天上界の神々の生活にも、努力や勇気、葛藤や困難といった悩みってあるのよ。人間の生活と変わらないわ」


女神として崇められる存在を“支える”には、俺も神々の持つ力を得るしかない。しかも天上界の住人になると、相対的に今のチートみたいな生活ではなくなってしまうのか……。

いや、それがいい。是非そうしたい。


「……分かった。やってみるよ。君を幸せにしたい」


セレスは満足そうに微笑んだ。


【4】神々の仲間入り、そして限りない悦び


後日、セレスに導かれた俺は、再び神殿らしき空間に降り立つ。前回と違うのは、「試練を受ける」と分かって来たこと。


そこには他の神々もいた。皆一様に俺を見ている。


「人間が、神になろうなんて……どれほどの覚悟がある?」 「ふん、声は悪くないようだが、口先だけでは無理だぞ」


様々な声が飛んでくる。だが、俺は負けなかった。自分の力でセレスと幸せを掴むんだという思いが、俺の胸を熱くする。


いくつもの試練が課された。 神々の力を宿すための儀式、精神の純度を試される問答、そして"煉獄"。


最初は手こずったが、ずっとセレスが寄り添って支えてくれる。俺は力を増していった。 やがて、他の神々も「こいつ、只者じゃない」と認め始める。


「これが最後の試練よ、誠」 セレスは俺の肩にそっと手を置いた。


「あなたが私を口説き落としたように……神々をも魅了してみせて」


俺は胸を張り、神々が集う広間で堂々と“声”を響かせた。


……気づけば、神々は静かに息を呑んでいる。神殿を満たす響きは、長い余韻を残した。


「……合格、だ」 長老格がうなずく。


「人間が神になるなど珍しいが……お前は受け入れよう」


こうして俺は、正式に神々の仲間入りを果たした。 「声と純愛を司る神 マコト」の誕生である。


その夜、セレスと共に神殿の一室を訪れた俺は、新たに得た力を確かめるように彼女を抱きしめる。


「あなた、本当にすごいわ。私を幸せにすると言ってくれたの、嘘じゃなかったのね」


恥じらいを含んだ表情で微笑むセレス。 胸の奥が熱くなる。俺の身体は以前とは比べ物にならないほど活力に溢れていた。


“交わり”──それはもはや、身体だけの快感ではなく、魂同士が融合するような深い悦び。 世に言われる快楽の次元をはるかに超えた、限りない恍惚に満たされる。


「あぁ……誠……」

セレスの吐息が甘く震え、俺もまた全身が幸福の絶頂を味わう。 共振する悦びの波が、二人を包み込むのだ。


こうして俺は、遠回りだったが、ようやくかけがえのないものを手に入れた。 ──それはただの棚ぼたではなく、俺自身が選んで、努力して、セレスと一緒に掴んだものだ。


翌朝、俺はそっと彼女の髪を撫でた。


二人で見つめ合い、微笑み合う。


神殿の外には、壮大な神々の世界が広がっている。俺たちは、そこでもきっと様々な試練に遭遇するだろう。俺は元人間だからな。

けれど、もう怖くない。運命の女神とこんなにも微笑み合えているのだから。

最後までお読みいただきありがとうございます!

この話は「金の斧・銀の斧を男の願望の究極の二択にし、正直者の男は女神も含めて全て手に入れましたとさ」という着想で書きました。

本作は短編として完結していますが、もし好評をいただければ神界での試練や新展開など、長編版の構想もアリかも? なんて考えています。

よろしければ感想やご意見など、お気軽にお寄せください!


これで短編作品としてひとまず完結になります。

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