マラソン大会
「私さ、走るの遅いから一緒に走ろうね」
「私も、長い距離、一人で走るの苦手なの」
「よかったー。ビリになっても二人ならこわくないもんね」
「そうだよね」
「じゃぁ、約束だよ」
「うん、約束」
いよいよマラソン大会当日。
「あードキドキして昨日眠れなかったよ」
「私も眠れなかった」
「でも、一緒に走るから少し安心だね」
「そうだね」
「ねぇ、はぐれないように手をつなごうか」
「うん。そうしよう」
二人は手をつないで、スタートを待った。
私たちは、待っている間からすでに手をつないでいた。
お互いに緊張のせいか手は湿っていた。
ついに私たちが走る時がきた。
「いよいよだね」
「うん。いよいよ」
「よーい」
「パーン」
勢いよくピストルの音が鳴る。
ついにスタートした。
これから長く辛い孤独なたたかいが始まる。
でも独りじゃないから安心だ。
そんなのんきな気分でいたのもつかの間。
私は、いつの間にか独りになっていたのだ。
さっきまで手をつないでいたあの子はどこへ。
あれだけ一緒に走ろうねと言ったあの子はどうしたんだろう。
まだ最初だから少しぐらいとばしてもよいかな。
ちょっとだけスピードアップしたその先にあの子の姿をようやく見つけた。
追いつけそうでなかなか追いつけない距離。
でも私は何とかあの子に近づきたくて、必死に走った。
やっと追いついて話しかけようとしたら、今度は別の子と手をつないでいた。
なんだ、私じゃなくても誰でもよかったんだ。
私は、違ったのに。
そっか、なんだ、やっぱり私は独りなんだ。
そんな事を考えていたら突然視界が真っ暗になった。
足が痛い。どうやら派手に転んだようだ。
もう走るのどうでもよくなっちゃった。
よろよろ歩きながら私はどんどん抜かされた。
もうビリでもいいや。
あの子に裏切られ、転んですりむいたところも痛い。
「ねぇ、大丈夫?」後ろから声をかけられた。
「よかったら、一緒に走らない?」
私は、やっぱり独りじゃなかったんだ。
「ありがとう」
そして私は、無事にゴールまで走り抜いた。
「本当に一緒に走ってくれてありがとう」
「別に気にしなくていいよ。それよりも転んだ所の傷大丈夫?」
「大丈夫だよ」と言いながらも私は泣いていたので、心配そうな顔をしたその子の困った顔が今でも忘れない。
後日、一緒に走ろうと言ったあの子が私に話しかけて来た。
「ごめんね。一緒に走ろうと言ったのに先に行ってしまって」
「いいよ。別に気にしてないよ」
「でも、スタートしたとき手を離したからいけないんだよ」
え、うそだ!向こうからから手を離したくせに。
「へぇ、そうなんだ。でも私一度だけ追いついたんだよ。気づかなかった?」
あの子の目が一瞬泳いだのを私は見逃さなかった。
「うん、ぜんぜん気づかなかったよ。来年こそ一緒に走ろうね」
うそつき。わたし、一緒はもうごめんだ。
心で誓いつつ、笑顔で嘘をついた。
「うん。来年こそ一緒に走ろうね」
女同士の友情なんて紙一重。
向こうから誘って来ても簡単に人を裏切る人もいればその逆もしかり。
今日は味方でも明日には敵になっている場合もある。
私もまだまだ勉強中。見分けるのが難しい。
だけど本当に困っている時に助けてくれたあの子は、今は私の親友。
あの時私を裏切った人々にも感謝しなければ。
マラソン大会は、男同士の場合は、どうなるのかな。
一緒に走ったり、手をつないだり、、、
あ、でも今の時代ならあり得るかもね(笑)
そんな妄想が今日もループする。