第七章
梨香と健太は、隠された部屋で見つけた資料のうち、重要そうなものを家に持ち帰り、再び調べることにした。かつて共に暮らした実家に帰り着くと、二人はその後も父の残した資料を再度読み返した。しかし、二人が立ち向かうべき謎は、深まるばかりだった。
ある日、梨香が古いメモを読み返していると、急激に強烈な頭痛が襲ってきた。彼女は目を閉じ、深呼吸をして痛みを和らげようとした。
「梨香、大丈夫か?」健太はすぐに梨香の側に駆け寄り、心配そうに声をかけた。
「うん、大丈夫。ただ、急に頭が痛くなって…」梨香は微笑んで健太を安心させようとしたが、その瞳には不安が見え隠れしていて、顔は真っ青だった。
梨香が頭を抑えた瞬間、彼女の中に眠っていた記憶が断片的にだが次々と蘇り始めた。父が彼女を利用して人を殺させたこと、そして健太がその記憶を操作し、彼女の記憶を改竄していたことが、おぼろげに思い出された。
「健太…、私、思い出したの。父さんが私を使って人を殺していたこと…そして、あなたがその記憶を書き換えていたことも…」
健太の表情は一瞬硬直し、その後、深いため息をついた。「梨香、君を守るためだったんだ。父さんは君の力を使うことを止めるつもりがなかった。それどころか、幼い君の脳が異常をきたしても、実験を続けていたんだ。僕は君を守りたかった。」
梨香は涙を浮かべながらも、冷静に言った。「でも、健太、私はその記憶を背負わなければならないわ。あなたが私を守ろうとしてくれたことはわかるけど、それで自分がしたことが消えるわけじゃない。」
それから、不思議そうに梨香は言った。「あと、健太がいなくなった後なのに、あなたを見た記憶があるわ。なぜかしら。」
その時、突然、部屋の外で物音がした。玄関の鍵が開く音がした時、健太と梨香は顔を見合わせ、その場に緊張感が走った。
「誰かが来る…連中かもしれない。」健太は静かに立ち上がり、部屋の入口のほうを見た。
扉が静かに開き、数人の黒いスーツを着た男たちが現れた。彼らは健太を監禁していた連中のようだった。
「協力してもらおう。君たちの力が必要なんだ。」
梨香は彼らに驚きながらも、記憶が蘇ったせいなのか、冷静に対処することができた。「私たちの力をどう使うつもりなの?」
彼らの中のリーダーらしき男が冷静な表情で答えた。「君たちの力がなければ、君たちの父親の研究は完成しない。我々はそれを完成させなければならないんだ。」
健太は一歩前に出て、毅然とした態度で言った。「父さんの研究を完成させることはできない。それは危険なものなんだろ。」
リーダーは一瞬の間を置いて言った。「本当に何も覚えていないんだな。まあいい、君たちに選択の余地はない。我々と協力してもらう。」
梨香は深呼吸をして、冷静に言った。「私たちの力を使って、誰かを傷つけることは絶対に許さない。自分の力をどう使うかは自分たちで決めるわ。」
リーダーは微笑んで言った。「いいだろう。今は君たちの好きにさせよう。どうせ君たちはもう戻れないところまで来ている。まずはそれを知ればいい。」そう言うと、スーツの男たちは素早い動きで、二人の家から出て行ってしまった。
梨香と健太は、真相を知るために、今は藁にでも縋りたい気持ちだった。そして、父の死と自分の力に向き合わなければならないというプレッシャーを感じていた。
そして、健太は先ほどリーダーらしき男が言った、「本当に何も覚えていないんだな」という言葉が、妙に耳に引っ掛かっていた。