第三章
二人は夕日に暮れる公園を後にし、薄暗い街路を歩き始めた。健太は携帯電話を取り出し、画面を見つめながら言った。「梨香、俺たちの最初の目的地は父さんの研究室だ。そこには父さんの遺した重要な資料があるはずだ。」
梨香は兄の隣を歩きながら、不安と興奮が入り混じった感情を抱えていた。「健太、それが見つかれば、彼らに対抗できるの?」
健太は頷いた。「そうだ。父さんの研究は彼らにとっても重要だからね。彼らの動きを封じることができるかもしれない。」
しかし、その言葉を聞いても、梨香の心には不安が残った。彼らが父親の研究に何を求めているのか、そしてそれがどれほどの価値があるのか、彼女にはまだ分からないことばかりだった。
街路には人通りがまばらで、時折冷たい風が通り過ぎる。梨香は周囲の建物の影に目をやりながら、運命を左右する出来事がこれから待ち受けていることを思った。
「梨香、大丈夫か?」健太の声が彼女の心を呼び戻した。
彼女は微笑んで答えた。「大丈夫よ。健太が一緒にいるから。」
これから進む先が未知の闇に包まれていても、梨香は兄と共に前進する決意を固めた。
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街灯の明かりが次第に明るくなり、夜の訪れが迫っていることを告げていた。梨香と健太は、父の研究室がある大学のキャンパスに到着した。しかし、校舎の正面の入り口は閉ざされ、夜間のセキュリティは厳重だった。
「どうしよう、健太。正面の入り口は閉まっているみたいだけど。」
健太は携帯電話を操作しながら考え込んだ。「裏口を探そう。」
彼らはキャンパスを一周し、建物の裏側に小さな入り口を見つけた。しかし、それも当然のことながら施錠されていた。
「どうやって入ればいいの?」梨香は不安げに尋ねた。
健太は少し考えた後、ポケットから小さな鍵を取り出した。「これを使ってみよう。俺が連中の所から逃げ出す際に、父さんの研究室の鍵を見つけて持ち出したんだ。」
彼が鍵を扉に差し込むと、鍵がピッタリと合い、扉が開いた。
「本当に父さんの鍵なのね…」梨香の声が小さく震えた。
健太は微笑みながら梨香の手を取り、彼女を引き寄せた。「父さんは俺たちを助けてくれる。今もそうさ。」
健太は以前にここに来たことがあるようで、梨香はどんどんと進んでいく健太の後を置いていかれないようについていった。そして、二人は父親の研究室へ辿り着くと、足を踏み入れた。彼らのこれからの運命を助けてくれる父の資料が、この部屋の中にあると信じながら。