ゴースト・レイス作戦 開演
防衛暦32年、6月2日午後19時。アメリカ陸軍及び大統領府直轄、怪獣殲滅大隊は特務潜入作戦『ゴースト・レイス』を開始。怪人を含める人員50名をニューヨーク天上階ワールドサテライトビルに投入した。
『こちらアルファレイス。ビル周辺に反応無し』
「了解。ゴースト、潜入する」
アーノルドはそうスーツの襟元の隠しマイクに囁くと、アーサーとリリーと共に豪華な装飾の施されたエレベーターを降りた。その先にはにこやかな笑みで迎える受付がいた。彼は言う。
「こんばんは。招待状はお持ちですか?」
その次の瞬間、受付の額に銃が突き付けられていた。アーノルドは言う。
「通報はするな。我々はMSBだ。特務作戦中につきここを通りたい」
銃を向けられた受付はたじたじになって答える。
「で、ですが……」
「ここに怪人がいる。俺の言いたい事は分かるな?」
受付はそれに激しく頷く。
「ど、どうぞ」
そしてアーノルドたちにボディチェックルームへの道を開けた。そして部屋の扉を開ける直前、アーノルドは後ろのアーサーに言った。
「頼んだぞ」
「了解」
そして扉が開くと、そこには2人の男が立っていた。いや、
「……怪人か」
その瞬間、アーサーがハイキックで右の男の頭部を砕くと、アーノルドがサイレンサー付きの拳銃で左の男の頭部を撃ち抜いた。そして床に転がるコアをアーサーが浄化した。
「やはり怪人だったな」
「隠そうともしてなかった。……それよりもこのスーツ、動きずらすぎる」
アーサーは手を拭きながらそう言う。すでにアーサーのスーツがよれてきている。
「仕方ないだろう。これでも表向きは上流階級相手の社交パーティーだ。ドレスコードは当然ある」
「隊長の言う通りよ。アンタの事だからどうせ、MSBの制服で乗り込むつもりだったんだろうけど」
リリーが言う。彼女もドレスを着ている。そんな2人を見てアーノルドが扉を開けつつ言う。
「まあ、安心しろ。2人とも見た目は上流だ」
「……入ったな」
源がホテルの一室で言う。目の前にはモニターが四つ、それぞれ上の階のベイリンのパーティー会場を映していた。防犯カメラをハッキングしているのだ。
「俺たちは引き続き待機だ。フロッグ、アルファレイスに伝達」
源がリビングからそう言うと、
「了解です」
一般隊員のフロッグは、寝室の机に広げた通信機器をいじり始めた。
「見ろ、ミナモト。ここの2人、明らかに会場の入り口を警戒している。気付かれた可能性がある」
カナは源の隣でモニターを指差す。源はそれを聞いて向かいに座るアンバーに尋ねる。
「分かった。アンバー、本当にベイリン側の部下は10人だけなんだな?」
「ああ、間違いない。奴は側近を大量に持っていたが、それは小型怪獣に使われている。そして残るは、側近の中でも特に有用だと判断された精鋭……」
「"死神の鎌"か。噂は聞いた事がある」
残虐で有名なベイリンの、忠実な部下たち。ベイリンの要望に応えるべく磨かれたその実力は、かの王族親衛隊にも比肩する。
「それを2人、不意打ちとは言えアーサーさんたちは瞬殺した……」
「そこが気にかかる。昨日とは動きがまるで別人だぞ」
「同感だ」
カナとアンバーは言う。だが、源の疑念はそこでは無かった。
(確かにアーサーさんの変化は気になる。だがそれよりも、このパーティーに招待されたのは全員名の知れた資産家たちだ。それをベイリンが何もしないはずが無い。だと言うのに動きが無さすぎる。小型怪獣といい、穏やかすぎるんじゃないか?)
「おお!なんとも美しい。彼女は君の連れかね」
その頃アーノルドたちは、とある資産家に行く手を塞がれていた。アーサーは慣れない敬語で答える。
「あーっと、ハイ。そうです」
「では貸し出してくれんか。なに、一晩だけでいい」
男はそう言ってとあるチップを渡してきた。
「1000でどうだ?」
アーサーはその意味を察して拳を固める。
「アンタ……」
(クソ上流階級が)
「これはこれは!ストレミング会長ではありませんか!」
そこにアーノルドが割って入る。
「誰だね、君は」
ストレミングが邪魔そうな顔をする。
「マイヤーです。ワシントンの三社会合で一度」
「ふむ……いや、知らんな」
「タイラントの役員の。本当にご存じありませんか?」
アーノルドはそう言いつつアーサーたちに目配せする。
『早く行け』
2人はそれに頷くとその場を離れる。そしてアーサーは周囲を見回す。
(広さは大体バスケコート2面分ってとこか?そして中二階に続く階段が一つ。……警備は怪人だな。)
そこにベイリンがいる。
(ミナモトたちもそれには気付いてるはずだ。作戦通り、まずは俺と旦那で側近を始末する)
「……リリー、ついてきてくれ」
アーサーはそう言ってリリーの手を握った。
「どこに行くの?」
「何人か裏に引きつける」
「分かった」
リリーはアーサーの手を握り返した。アーサーは若干体を固くする。
(こんな時に俺は……)
そしてアーノルドは、会場を離れる2人を見ると
「では、私はこれで」
そう言って自分もその後を追った。
「貴様ッ…!」
「静かにしとけ」
非常階段にゴンと鈍い音が響く。その踊り場には頭を砕かれた怪人が2人倒れていた。アーサーはコアを浄化しながら考える。
「手応えねえな……」
(こんだけやればそろそろ気付かれるか?いや、多分もう気付かれてんな)
「……分かんねえな。なんでベイリンの奴はこれでも動かねえ」
(スタンスは一貫してる。だからこそ違和感がある。何というか、嵐の前の静けさのような……)
アーサーは返り血を拭き取ると、非常扉を開けた。そこにはアーノルドがいた。
「リリーはどこに?」
「バーカウンターだ。それよりお前、体は大丈夫か?もう四つも浄化してるだろ」
「問題ありません」
「じゃあ心は」
「どういう意味か……」
「分かっているだろう。オブジェクトと最初に対峙するのはお前だ。心に迷いがあればそこに付け入る隙が生まれる。本当に死ぬぞ」
「………」
アーサーは拳を握る。そして言った。
「……そんな事、まだ分からねえ。でも、俺はこの場にいる。すべき事がある」
アーノルドは思い出す。あの時の事を。
「だから、俺は変わりたい。いや、変わる。アンタはそれを見ていればいい」
『俺は生まれ変わるんだ。このクソみたいな所から抜け出して。オマエは関係ねえ』
アーノルドはアーサーの肩に手を置いて言った。
「分かった。……頼んだぞ、アーサー」
「はい」
そして2人が二重扉を開けると、会場の照明が暗くなっていた。そしてスポットライトが階段に当てられる。
「出てきやがるのか……」
アーノルドが無線に呼びかける。
「予定変更だ。オブジェクトが現れる」
そしてどこからともなく拍手が沸き起こる。その拍手に答えるように重厚な扉が開き、そして一人の男が現れた。男はにこやかに階段を降りると、その場で部下からマイクを受け取った。
『紳士淑女の皆さん、初めまして。クラウス・レオ・ヴィルヘルムの社交パーティーへようこそ。戦後アメリカの都市復興を担い、今ではこの天上階に暮らす”特権階級”の皆さまに敬意と賞賛を込めて、まずは私から乾杯の音頭をとらせていただきます』
クラウスと名乗る男は、シャンパングラスを受け取ると高々と掲げた。そして男が口を開く。その時だった。
「アーサー」
「分かってますよ!」
アーサーは男目がけて走り出した。そして男もまた、アーサーを見据えて言った。
「では皆さん、さようなら」
そう男が言った瞬間、招待者の頭部が一斉に爆発した。
「ッ……!」
アーサーは全身に血を浴びて立ち止まる。
「な、何が…!」
アーノルドは余りの光景に言葉を失っていた。そこには、頭を失い力無く床に倒れる招待者たちがいた。
「なんなの、これ……」
男は言う。
「乾杯」
そして脳漿と血の混ざったシャンパンを口に含む。
「……ふむ。良い餌を食らっているだけある。中々の味わいだ」
「お前は……」
「わさわざ名乗る必要もあるまいな」
男はグラスを傾ける。
「待て、そこを動くな」
咄嗟にアーノルドが銃をベイリンに向ける。だが、ベイリンは懐から拳銃を取り出すと自分に向け、そして引き金を引いた。パーンという音と共にベイリンの頭が弾ける。そして口だけになったベイリンは言う。
「撃っても構わんぞ。"こう"なっても余は死なん」
(なるほど、想像以上のイカレ具合だ)
アーノルドはアーサーとリリーを一度下がらせると尋ねる。
「……ベイリン・ドルトー・レコアトル。電波灯台の中に大怪獣を発生させたのはお前だな」
「そうだ。あのチビ共も余が中につめた。プレゼントという奴だ」
「とんだ冗談だな。それで何人死んだと思っている」
「ふむ、まあ5万も死ねば良い方だろう」
「2万8千人だ!やはりお前が首謀者だな」
「だからそうだと言っている」
ベイリンはため息をつく。
「それにしても、もう少し動揺するかと思っていたが、どうも反応が薄いな」
「大いにしている。この束の間でアメリカの最上位権力者が半分死んだ。それにクラウスCEOもな」
「このガワの話か。確か軍需企業の創設者で、軍との提携で財を成したのだったな」
「この拳銃がそうだ。お前、どこまでこの国を破壊するつもりだ」
ベイリンはそれを聞いて少し笑った。
「フッ、”どこまで”と来たか。そんなものは知らん。終わりなどハナから定めていない。ただ、余が満足するまで気ままに壊すのみ。自由に、軽快に、爽快にな!」
ベイリンはグラスを掲げて見せる。
「……やはり貴様はどうしようもない汚物だ。ここで死ね」
アーノルドがアーサーに目配せをする。それを察したベイリンは言った。
「それでは面白くない」
その瞬間、一発の銃声が会場に響いた。それに走り出したアーサーはまたも足を止めた。そして絶句した。
「リ……」
アーサーの目線の先、リリーのドレスに弾痕とともに血が滲んでいた。丁度肝臓の辺りだった。そしてベイリンの横には、光学迷彩を脱ぎ捨てる部下がいた。その手には拳銃が握られていた。リリーの倒れる音がアーサーの耳に反響する。
「お前……」
「よせ、アーサー!」
「お前はぁ……!!」
アーサーは走り出した。それを見たベイリンは呟く。
「さあ、幕開けだぞ?大君」




