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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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あの日、あの場所で

「どうだ?ジウスドラ」

 MSBの地下にある研究室では、源の頭に無数のケーブルが繋がれたヘルメットが被せられていた。その傍に立つジウスドラは、手元の端末を見て言った。

「……駄目だな。今度は"やりすぎ"だ。海馬が吹っ飛ぶ」

「またか……」

 源はヘルメットを外して人間の研究員に渡す。そしてジウスドラに尋ねる。

「……なあ、ジウスドラ。この調子だと、あとどのくらいかかる」

「早くて7、いや5……3日だな」

 それを聞いた源はため息をつく。

(天上階入りは2日後。潜入作戦は3日後だ。それまでに間に合わない……)

「どうしても間に合わせられないか?」

「そのつもりだが、どうも君のコアが変なんだ」

「変?」

 ジウスドラは源に端末の画面を見せる。そこには心電図のようなものが写っていた。

「これが、通常のコアの発する電波の波形だ。見ての通り波が規則的で安定している。そして、」

 ジウスドラは画面をスライドさせる。

「これが君の脳波。波形が不規則で安定していない」

「つまり?」

「現行の専用制御機器では君の脳波に対応しきれず、最悪の場合暴走する」

 ジウスドラは自分の脳を指差して言う。

「つまり爆発だ」

「こんなこと……」

「ああ、君のソレは今日初めて観測された」

「ベイリンか?」

「恐らく違う。遺伝子複合型のコアはそのサイズと構造故にアクセスが非常に難しいと考えられる。専用の機械と類い稀な技術者が必要だ。つまり原因の究明にはラケドニアまで遡る必要がある。だが、今それはさしたる問題ではない。人間の技術者ならともかく、」

 他の研究員がまたかと言う顔をする。

「私なら対処可能だ」

「その日数がさっきの……」

「ああ、3日で機器を改良する」

「必ず?」

「言わせるな。それを」

 ジウスドラはそう言って笑った。


「招待状?」

「ああ、ついさっき大隊長宛てにEメールで届いた。送り主は情報部の言っていたビルの当該階。内容を要約すると、そこで『パーティーを開く』そうだ」

「チッ、どんだけ俺たちを馬鹿にするつもりなんだ?ベイリンは」

 カートマンはそう言って更衣室のロッカーを強く閉めた。と言っても、肝心の制服は血塗れなのでクリーニングである。

『……今お前は、”私が怪人だから”と私の話を否定した』

 空港での戦闘は苛烈を極めた。遮蔽物の少なさに加え、生存者の多さと敷地の広大さ。それら全てが怪獣に有利に働いていた。だが、我々は怪獣駆除の専門組織である。小型怪獣だろうが何だろうが、持ち前の技術と経験で対処できる。我々が勝利する。

『お前は私の話を聞き、理解する前。さらに理解した後でさえもなお、『怪人』というフィルターを通して物事を理解しようとしている。いや、呑み込もうとしている』

 それに、奴等は予想よりも弱かった。昆虫型の怪獣は総じて強固な外骨格が特徴であったが、今回の個体にはそれが無かった。手抜きの様に見えるほど。

『他者の言葉を受け止めず、憎しみの殻に閉じこもり、じっと全てが”勝手に”解決される時を待っている』

 もちろん俺も戦った。撃破数は俺が1番。腕は鈍っていない。俺は充分戦える。

『逃げているのだ、お前は。何事かの受け入れがたい現実から目を逸らし、別の何かを睨みつける。酷く幼稚だ』

 俺は……

『自力で解決しようともせず、誰かに助けを求めるわけでも無い』

 ………

『自分で選択しろ。最低限それが出来なくてはベイリンには到底敵わない』

「分かってんだよ、そんな事!」

 アーサーは力任せにサンドバックを殴る。彼の他に誰もいないトレーニングルームには、ジャラジャラと鎖が揺れる音が響く。

「あー、クソ……」

 アーサーは足元の水筒を取り上げて一気に飲み干す。

(……駄目だ、忘れようとしても忘れられねえ。寝ても覚めても、戦っている時も、ずっとぐるぐる頭ん中を回ってやがる)

 その理由を、アーサーは気付いていた。

(俺は、このままじゃ駄目だ。ジークの事を引きずり過ぎている。そして、ジウスドラの野郎はそれに気付いてやがった。だから、悔しかったんだ)

「そんな事、俺が1番分かってるってのに」

 変わらなければいけない。目の前に壁がある。越えなければいけない。だが、高い壁だ。

(越えるためには然るべき方法がいる。でも、それがいくら考えても分からねえ。ガキの頃とは違う)

 誰にも頼れない。

(でも、越えなきゃ死ぬ。ベイリンに殺される。そして、旦那も多分それに気付いてる。それでも俺を作戦に加えた)

 信じているのだ。俺が自力で乗り越える事を。

(あと3日だ。あと3日で乗り越える方法を見つける)

「必ず……」

 アーサーはそう呟いたのだった。


 源は夜、カナの部屋を訪れていた。

「カナ、いるか?」

 源がそう言ってノックすると、カナが扉越しに言う。

「……なんだよ」

「一緒に晩飯でもどうかな、って」

「お前と?」

「2人で。どうだ?」

「……5分待て」

 それからきっかり5分後、ガチャリと扉が開いた。そこには、ジーパンに白系のTシャツ。その上にスカジャンを羽織ったカナが立っていた。髪はポニーテールにまとめてキャップを被っている。

「………」

 源はその姿をまじまじと観察する。

「なんだよ。ジロジロ見て」

「いや、似合ってるなと……」

「……くだらねえ事言ってないで行くぞ」

 カナは心なしか俯きながらそう言うと、さっさと廊下を歩き出した。

「その服、いつの間に買ったんだ?」

 エレベーターの中で源が尋ねる。

「別に。そこらへんの古着屋だ。私服の一つでもねえと面倒だろ」

「……何というかお前、案外律儀だよな。服のセンス良いし」

「案外ってなんだよ」

「いや、ラケドニアの時はずっと親衛隊の制服着てただろ?」

「あれはその、機能性が……」

「まあ似合ってたからそんなに気にならなかったけど」

「………」

 カナがキャップを深く被る。また、である。

「……なあ、お前なんで事あるごとに顔を赤くしてるんだ?」

「な!?お前なあ!!」

「ちょ!襟掴むなって!Tシャツ伸びるだろ……」

 その時、エレベーターの扉が開く。

「「あ……」」

「いや、大丈夫だ。俺はなんも見てねえ」

 カートマンは目を瞑って首を横に振るってみせる。エレベーターが閉まる直前、カートマンは少しニヤつきながら言った。

「"朝帰り"は事前に連絡だぜ。ミナモト」

「下品な奴だな、アイツ」

 カナはMSB本部前の大通りを歩きながら言う。

「そう言うなって。カートマンさんは優しいよ」

「ソレとコレは両立するだろ」

「……まあ、それは置いといてな、ハンバーガーはどうだ?向かいの通りの」

「ああ、前食べたところか。いいぜ」

 幸い店は空いていた。2人は端の方の席を選んで座ると、ハンバーガーセットを頼んだ。

「ここは人工肉だけじゃなくて、半分本物の肉を使ってるらしいぞ。美味いわけだ」

 源はメニュー表を見て言う。

「場所が場所だ。多少金額が上がっても買いにくる奴がいるって事だろうな」

「……昔とは違うな」

「どうせ、じきに同じになる。俺たちは変わらない」

「そうとも限らない」

 カナは源を見る。

「どういう意味だ?」

「ラケドニアの二の舞いにはさせない。アシュキルも、ベイリンも俺が止める」

「それは……」

 源は真っ直ぐにカナを見つめて言う。

「大君として、だ。まずは君に言いたかった」

「………」

『僕は僕の責務を果たす。1つの例外もなく』

 カナは源を見つめ返すと、至極冷静に言った。

「死なないで」

(もう2度と)

「……ああ、分かった」

 そこにハンバーガーが運ばれてくる。

「食べよう」

 だが、カナは手を付けない。

「カナ?」

「まさか、今ここでそんな事を言われるとは、その、思わなくて。だから……」

「……そうだな。俺はいつもタイミングが悪い。ほら」

 源はナプキンをカナに渡す。カナはナプキンを目に当てながら言う。

「私は分からない。今の貴方は揺れている。ミナモトと、大君に。どちらでもあるし、どちらでもない」

「俺は……」

「答えられない?」

「……そうだ。だって俺は源王城として生きてきたし、何よりギルガメシュの特殊なクローンだ。本人じゃない。俺の中ではそう思ってる」

 カナはそれを聞いて言う。

「それは違う。貴方は気付いているでしょう?私や先生、アンバーにレストア。そしてアシュキル。今ではベイリンまで、貴方を理由に、目標に、使命に、復讐に今を生きている。一万二千年を越えて。全ての中心は貴方なんです」

「でも俺は、分からないよ。俺には君たちだけじゃなく、赤本さんたちもいる。大事な人たちが。どちらかを選ぶなんて出来ない」

「そんなはずない。私の知る貴方は、大君は肝心な所で選択を間違えない。絶対に」

「絶対は存在しない。俺も間違える。現に俺は、間違えた。あの日、地上で君に看取られた時だ。ラケドニアに見捨てられ、そしてラケドニアさえも滅んだ日」

「天上分離……」

「俺はあの日、あの場所で選択を間違えた。あげく君に、あんな事をさせてしまった」

「………」

「もう間違えられないんだ。もう、あんな思いはしたくない。させたくない」

「……無理です」

「え?」

「貴方は必ず選択する。ミナモトか、ギルガメシュか。ギルガメシュか、アシュキルか。そして、人類かラケドニアか。私はそれを見届けるためにここにいる」

「……その結果死んでもか?」

「本望です」

(その為に私は生きている)

 カナは一瞬の迷いなく言う。源はそんなカナを見て、思わず視線を逸らした。

「……ダメだ。結論を急ぎ過ぎている。今は食事に集中しよう」

「………」

「そんな顔をしないでくれ。事を急いては仕損じると言うだろう?焦りは思考を単純化させる。それは危険だ」

「……先生の言葉ですか」

「ジウスドラはいい事を言う。彼は俺たちの事をよく理解しているよ」

 カナはそんな源をジッと見据えると、やがて観念したように大きなため息をついた。

「……はあ、分かりました。では引き続き、貴方はミナモトとして扱う」

「ああ、そうしてくれ」

 カナはその時ようやく、食事に手を付けた。

「……美味いな、このハンバーガー」

「だろ?ベイリンの件が終わったらまた食べにこよう」

「今度こそ、か」

「勘弁してくれ……」


 それから2日後、源たちMSB特別浄化部隊は天上階に移動したのち待機。

 そして3日後、潜入作戦が開始した。



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