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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
89/131

ありえない

『アルファ、現在地は』

『一階フードコートです。プロパンガス配置完了しました。いつでも栓を開けられます』

『了解。ブラボーは』

『スーパーです。源隊員たちとは反対側かと』

『了解』

 源はまず、ブラボーの隊員たちと合流すると、火炎瓶を受け取った。

『いいか、これは時間差で投げ込むんだ。場所はフロアマップの赤マルに行け』

『了解です。お二人は?』

『照明弾を撃ち込む。反対側からな』

 それが作戦開始の合図となるのだ。移動の最中、カナが言う。

『ミナモト、まずは俺が一階入り口に撃つ。その5秒後、噴水に撃ってくれ』

(外の怪獣を出来るだけ取り込むつもりか……)

『……ああ、分かった』

 2人は先ほどとは反対側のスーパーに一度身をひそめる。その傍のテラスからは、淡い夕暮れが見えた。

(もうじき夜か。今まで以上に奴等が光に敏感になるだろうな……)

 源はふとそう考えると、やがて照明弾の装填された専用の銃を構える。そして無線に呼びかけた。

『作戦準備』

『アルファ完了』

『ブラボー完了』

 カナが腰を浮かせて周囲の様子を伺う。そして、

『……作戦、開始』

 その瞬間、パーンという軽快な発砲音とともにカナが照明弾を発射した。弾はちょうど一階入り口の手前に着弾して弾頭が発火、発光した。それに釣られた怪獣たちでにわかに館内は騒がしくなる。源は続けて照明弾を撃ちながら思い出す。

(ウルキは塀に囲まれた城塞都市だった。どうも物好きな貴族が作ったらしかったが、街の見通しは悪く、おかげで反乱分子の巣窟になってしまった。が、むしろそうなって幸運だった。四方が閉ざされた空間。風通しの悪く、人や物が密集するその構造……)

『……まとめて燃やすにはもってこいだ』

 源がそう呟いた瞬間、反対側の通路から何か燃えるものが落とされた。

(済まない、お前たち……)

 そして、吹き抜けに投げ込まれた火炎瓶は光に群がる怪獣たちの背中にぶち当たり、周囲に炎をまき散らした。

 その時だった。ドーンという激しい爆発音とともに巨大な火柱が立ち上り、吹き抜けを包んだ。その火は過程変異した怪獣たちの外骨格を焼き焦がし、柔らかい内臓を容赦なく炎で焼き尽くした。その跡には、何ともいえぬ生き物の焼ける臭いと、黒い炭の塊のようなものが噴水の残骸の周囲に散らばっていた。

『マジかよ……』

『本当に全部焼き殺しちまった……』

 隊員たちは思わず呟く。源たちは一階に向かうと、若干動揺する隊員たちと僅かな生存者をまとめて建物を出た。

(吹き抜けの周りに死体が無くて良かったな……)

 道中、源は思う。

(なんだか、懐かしい感情だ。完璧に任務を遂行したはずなのに、なぜか気分が晴れない。俺は、間違った選択はしていないはずだ)

『その通り、君とトラグカナイは最適な策を実行した』

『……!』

 不意にジウスドラと無線が繋がった。

『ジウスドラか!なぜ今まで無線が繋がらなかった』

『アンバーたちの対応に追われていた。すまない』

 源はカナに目で合図をすると、隊員たちと先を急がせる。目的地はMSBの車列である。そして源は一人になる。一つ聞きたいことがあったのだ。源は沈む夕焼けを眺めつつ尋ねた。

『なあ、ジウスドラ。今回の小型怪獣、おかしくないか?』

『……というと?』

『あくまで一部なんだが、どうも浄化の手ごたえが薄い。無いわけじゃないんだが、とにかく薄っすらとしか感じないんだ』

『あまり具体的ではないな』

『ああ、だからお前に聞きたい。なにか理由を知らないかと思ってな』

 ジウスドラは無線越しに長考する。彼にしては珍しい。やがてジウスドラは言った。

『……おそらく、デコイだろう』

『デコイ?』

『量の水増しだ。比較的仕組みの簡単なコアを大量に用意しておいて、そこにベイリンの部下たちプラス人工知能を入れるのだ。ベイリンといえど、流石にこれだけの量の人員は用意できまいよ』

『なるほど……』

 源は後ろを振り返る。そこには窓や排気口からもうもうと黒い煙を吐き出すショッピングモールがあった。

(駄目だな、どうも納得しきれない。ベイリンが本当にそんな方法を取るのか?それじゃあまりに……)

『……普通すぎる』

 源は思わずそう呟くのだった。


「このまま撤退?」

 源は装甲車の中で思わず聞き返す。それに隊員の一人、フロッグが答える。

「ええ。ケネディ空港のアーサー班も同じく撤退命令です」

「生存者の保護を切り上げてまでか?」

「そうなります。一応ラジオで屋内待機を要請するらしいですが……」

 それに源はため息を吐く。

「はあ……少し大隊長たちは焦りすぎじゃないか?」

 源の呟きにジウスドラが答える。

「大統領がたいそう激怒しているのだ。手塩にかけて維持、育成してきた東沿岸艦隊を見るも無残な姿にされたからな」

 今現在、東沿岸艦隊は旗艦を含めて4隻、ロング・ビーチで怪獣の中継ハブとして利用されているのだった。確認出来る限りではクルーの生存者はゼロである。

(大統領の指示か。なら仕方ないが……)

「残りはどうするんだ。爆撃するにしても範囲が広すぎるだろ」

「そこなんですよ」

 フロッグがタブレットを源に手渡す。隣のカナもその画面をのぞき込む。そこには、

「これは爆撃予定範囲か……」

 見たところ、コロナ・パークを含めた内陸部にしか爆撃の予定はない。

(少し、狭すぎるな……)

「残りはどうするんだ。空港もニューヨーク近郊も範囲外だぞ」

「それがどうも、あの『対怪獣機構』に協力を要請したらしいんです」

 源はそれを聞いて驚く。

「対怪獣機構だって?あれは国連非公認の組織だろ」

「ですが腕は確かです。ほら、浄化できる人材のいない南半球諸国では重宝されているでしょう?」

「………」

 源は無言でタブレットを返すと腕を組む。

(確かに精鋭ぞろいだとは聞いたことがあるけど、本当に大丈夫なのか?)

「……まあ、もうどうしようも出来ないんだろうけど」

 源はそう呟くと、軽く伸びをして座席にもたれた。今日はどうも疲れたのだ。いまさらのように、ついさっき床に叩きつけられた痛みが効いてくる。源はそのまま、ゆっくりと目を閉じた。


 翌日、MSB本部の大会議室では大隊員たちが集まり、バレンタイン大隊長の説明を聞いていた。

「……ということで、州軍の夜間爆撃が実行されたのがココとココ。つまりはコロナ・パーク周辺だな。結果は上々、骨董品だったクラスター弾は小型怪獣に通用したわけだ」

 バレンタインは隣のモニターに黒焦げになった怪獣の死骸を映す。

「ここで着目すべきはやはり、外骨格の炭化だろう。過程変異をしているのにも関わらず、あっさりと焼け死ぬ脆さ。これは小型怪獣の頭数を増やす上でのコストカットの一つだと考えられる」

 さらにバレンタインはある映像を映す。それに隊員たちはざわつく。

「参考までに、これが対怪獣機構の実働部隊『防衛戦隊』の戦闘力だ」

 モニターには、まるで巨大な足で踏み潰されたかのように、グシャリと潰れる怪獣の残骸が映っていた。

「あれを、人間が……」

 源は思わず呟く。

(脆いとは言っても、あの怪獣たちの外骨格は相当に硬いはずだ。対物ライフルでなければ抜けないほど。それをこんな風に……)

 源は隣のカナに尋ねる。

「なあカナ。あれ……」

「ああ。素手で砕いてやがる。レストアでもこうはなんねえぞ……」

 カナも少し驚いていた。源は改めてモニターを見る。

(一体どんな組織なんだ。対怪獣機構……)

「では続けるぞ」

 不意にバレンタインが言う。

「まだまだ我々の仕事は終わっていない。これを見ろ」

 バレンタインは今度は隣にホログラムを起動する。そこにはニューヨークの地上階と天上階が立体に浮き上がっていた。

「この中の"どこか"にベイリンが潜伏している。さらに取り逃がした小型怪獣もだ。これを見つけ出さなくてはいけない」

 そこで手が上がる。

「情報部のイーサンです。ここで全体に共有したいことが……」

「よし、話せ」

 バレンタインはイーサンをモニターの隣に移動させる。イーサンはメガネの位置を直すと、話し始めた。

「つい1時間前に市警から入った情報です。天上階基底部および全建造物のスキャンが完了したと……」

「天上階って、市警の連中はそんなところまで疑っているのか?」

「全くだ。あそこは対怪獣設備で言えば世界一のはずだろう」

 隊員たちは口々に言う。が、

「その結果として、それと思わしき反応を3つ確認しました……」

 イーサンは自分でも信じられないという風にそう言った。隊員たちはどよめいた。バレンタインはそんな隊員たちを何とか制止しつつ次の発言を促す。イーサンは再びメガネをなおすと続ける。

「反応を観測した地点は、中心部北1-1-3『ワールドサテライト』ビルの112階フロアとのことです」

「そこにベイリンもしくは他の怪人がいると?」

「そうなります……」

 イーサンは絞り出すようにそう言った。バレンタインはそれを聞いて難しい顔で少し考えると、やがて言った。

「……では情報部はそのスキャンデータを独自に解析してくれ。実働第一、第二中隊は引き続き旧ニューヨークの警備、駆除活動。そして特務浄化部隊は天上階に上がり待機しろ。いいな」

(まずは切り替えだ。状況は一変したのだ)

「了解!」

「ではただちに解散。いいか、市民にはけどられぬよう慎重に行動しろ」


 その数分後、狙いすましたかのようなタイミングでバレンタイン宛てに一通のメールが届いた。バレンタインはそれを見て思わずスマホを握りつぶしそうになった。

(ベイリンめ……)

「『招待状』だと?」


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