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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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ウルキ包囲戦

「ミナモト隊員!見つけました!銃器コーナーです!」

 不意に隊員の一人が言う。今源たちがいるのは2階のスーパーであった。

「本当か!」

 源はライトを掲げるその隊員の元へ向かう。が、

「これは……」

 そこには、照明弾どころか一発の銃弾すら無かった。ショーウィンドウのガラスも割られて中のものも全て無くなっている。

「まさかアモすらないとは……」

(生存者が護身用に根こそぎ持っていったのか?)

「申し訳ありません。確かにここが専用コーナーなのですが……」

「無いものは仕方がない。それよりフロアマップを見せてくれ」

 源は隊員から紙の館内図を受け取ると、それを覗き込んだ。

(1階は飲食店、2階はこのスーパーと家具雑貨類で3階がアパレル系。そして1階と2階の中央は吹き抜けで繋がっている……)

 この吹き抜けに小型怪獣たちは集まっているのである。

(怪獣どもは素体が昆虫だ。この暗闇の中で照明弾を使い、奴等を引き付けようと思っていたが……)

『明かりが足らないか……』

 源は考える。やはり館内の怪獣たちの駆除は諦め、民間人救助に回った方が良いのだろうか。

(それでもやはり、小型怪獣を無視できない。それに、あの怪獣を浄化した時、妙な手ごたえがあった……)

 源が黙ってその場に突っ立っていると、後ろから肩を叩かれた。

『おい、ミナモト。ちょっといいか』

 それはカナであった。

『え?ああ、なんだ』

『お前が照明弾を欲しがった理由って、あの怪獣どもの素体の習性を利用してその光におびき寄せるためだろ?』

 カナは源の考えを読んでいた。

『そうだ。だがこの通りの有様だ。光源が無さすぎる』

『でも民間人の救助に専念するには怪獣の数が多すぎる、か』

『……カナ、お前何か思いついたな?』

 源の問いに、カナは不敵な笑みを浮かべて答える。

『ああ、その通り。奴等を一網打尽にする案だ』

 カナの発言に隊員たちはざわめく。源はそれを制して尋ねる。

『その案とは?』

『”ウルキ包囲戦”と言えば分かるだろ?』

 源はそれを聞くと、一瞬考えてハッとする。

『……!もしかして、あのウルキか?』

『ミナモト隊員、ウルキとは?』

 そばにいた隊員が堪らず尋ねる。それに源は答える。

『ラケドニア時代の、ウルキ市街包囲撃滅戦のことだ。それをこのショッピングモールで行う』

 源はそう言うと、隊員たちに何事かを言い含めてフロアに散開させた。自分はカナと一緒にその場を移動する。目的地はフロア中央の吹き抜けである。

『まず中央までの一般隊員の経路を確保するぞ、カナ』

『……了解』

 その返答に源はチラッとカナを見ると、続けて言う。

『カナ、"教本どおりだ。気張るなよ"』

『……!』

 カナは無言である。

(……あれ?ウルキの時と同じ言葉でリラックスさせようとしたんだけど)

『カナ…?』

『りょ、了解。了解ですから……』

 あまりジロジロ見ないでください、と消え入りそうな声でカナは言う。

(コイツ、最近こうなる事多いな……)


 暗闇の中遮蔽物を利用して慎重にフロアを進み続け、やがて2人は中央の吹き抜けに辿り着いた。

『カナ、マップにマーカーで今の経路を引いてくれ』

『もう引いた。それよりも怪獣だ』

 源は無言で頷くと、腰のストラップから暗視ゴーグルを取り上げて見る。そこには全長2メートルほどのカブトムシが100体以上蠢いていた。

(なるほど。やはり一階に噴水がある。コロナ・パークといいこの小型怪獣どもは水場を好むな)

 さらに、

『人の死体が集められている……』

 先ほどから道端に転がっていた腹を抉られた死体。その犯人は当然、この怪獣たちであった。

(素体であるカブトムシは確か、木の樹液を舐めるためにヒゲ状の口を持っていた。それを恐らくベイリンは、無理やり肉食に変更したんだろう)

『だから1番柔らかい腹部だけが捕食されている……』

 源は思わず顔を歪ませた。そのタイミングでカナが言う。

『ミナモト、多分ここからなら投擲出来る。一階から向かう必要は無いと無線してくれ』

『あ、ああ。そうか、分かった』

 源たちは一旦その場から離れると、近くのトイレに入る。

『こちらミナモト。アルファ、ブラボー応答せよ』

 源はその場にしゃがんで無線に呼び掛ける。カナはその隣で洗面台に腰掛けると、ふうと息を吐く。

(緊張は無い。ただ手の震えが止まらない。さっきはミナモトも手が震えていたのに、今は止まってる)

『俺だけかよ、こんな風になってんのは……』

 カナは呟く。

(多分嬉しいんだ。この状況が……)

 そして腰を上げると、振り返って鏡を見る。非常灯の赤い光に照らされた『自分』の顔は、まるで昔とは違っていた。

(遠野彼方。なるほど俺とは似ても似つかねえキレーな顔してやがる。やつぱりこんなのが好みなのか?)

『ミナモト、少し聞きたいことが……』

 カナがそう言いかけた時、源が立ち上がり言った。

『カナ、援護を頼めるか?』

『は?え、援護?』

『今第一第二の分隊から入った情報なんだが、どうも外からの怪獣の集結具合が予想以上だ。それに、2階のテラス席の方からもまだ侵入してきているらしい。これをある程度間引く必要がある。このままでは一般隊員たちが移動できない』

 源はそう言いつつすでに剣の鞘を握る。

『他の隊員は?』

『俺とお前で充分だろ』

 源はさらっと言う。カナはその様子に少し面食らいつつも答える。

『それは、まあ……』

『じゃあいくぞ。ほら』

 源はカナを連れて通路に顔をのぞかせた。

(左に行くと吹き抜け。一旦右回りで迂回した方がいいな)

 源は後ろのカナに言う。

『弾薬変えとけ。誘導弾だ』

『アレはたったのマガジン一つだぞ?慎重すぎだろ』

『全弾当てればいいだけだ。そういうの得意だろうが』

(コイツ、記憶を取り戻してから……)

『……チッ、了解』

 カナは仕方なく腰に下げていた一つ6キロもあるマガジンを取り出す。カナの肉体はジウスドラの計らいにより疑似的な過程変異が可能であった。カナは軽々とそのマガジンをライフルに取り付ける。

『装填完了。いつでも』

『………』

 源はカナを手で静止ながら、じっと薄暗闇の中で通路を睨む。やがて、源が口を開いた。

『……今!』

 その瞬間、2人はその場から駆け出す。そして突き当りを曲がると、そこには家具店の広い展示コーナーが広がっていた。

(ここを真っ直ぐ突っ切ればテラス席に行ける。けど……)

 2人のその場に立ち止まる。二人の目の前には、黒光りする巨体に三叉槍のような角を突き出した小型怪獣が立ちはだかっていた。その奥にも5体。

(まずはコイツらからだな)

 源は剣を抜きつつカナに言う。

『手前は俺一人でやる。奥の5つ、骨格の隙間をぶち抜け』

『了解』

 カナがその場にしゃがんで対物ライフルを構える。源はそれを横目で見ると自分も剣を構える。

(……暗いな。でも、暗視ゴーグルは視界がブレるから使えない。つまり俺の五感が頼りだ)

 その時、源はアーサーに言われた言葉を思い出す。

『動体視力だけ異様に良い』

 それは度重なる過程変異の後遺症であった。

(……やれるさ。きっと)

 そして源は言った。

『……行くぞ、カナ』

 そう源が言い終わるや否やカナが発砲する。ガーンという鈍く重い銃声がフロア中に響く。その音に紛れて源は、目の前の怪獣の真後ろに回り込む。そして、剣を両手に握りこむと怪獣の背にその切っ先を深々と突き刺した。刺された怪獣はその瞬間少し痙攣すると床に倒れ込む。

(まずは一体……)

 源は剣を引き抜くと後ろを振り返る。そこにはその場に倒れてピクリとも動かない怪獣が4体。そして、

『ッ……!』

 源は怪獣の痛烈な突進を間一髪で受け止める。そしてそのまま展示用の棚をぶち破って床に投げ出される。源は痛むわき腹を庇いつつ上体を起こす。目の前にはその羽をまるで威嚇するように広げ、こちらに真っ直ぐ向き合う怪獣がいた。その背には一つの弾痕があった。

(着弾点をズラしたのか!クソ!こっちに感づいていたんだ!)

『カナ!』

 源は無線で呼びかける。が、

『音につられてもう4体追加だ!そっちはカバーできねえ!』

(誘導弾はどうしても遅くなる初速を補うために炸薬の量が多く、銃声も大きい。つまり俺の判断ミスか!)

『了解!』

 源はなんとかその場に立ち上がるとまた剣を構える。それと同時に、数発の銃声が響く。

(カナも残弾あと3発ってところか。早く加勢しなくては……)

 だがそれには、目の前の怪獣を倒さなければいけない。源は深呼吸をして冷静に状況を分析する。

(カブトムシの弱点は腹と背中。つまり固い骨格の中だ。そして目の前の個体は翅を広げている……)

 どうも飛んで加速するつもりである。

『当たれば今度は死ぬな……』

 そう考えると、源はふと昔の記憶を思い出した。

『一対一の状況での鉄則は、相手の動きを読むことだ。これは基礎の基礎。息をするのと同じようにそれをこなすことで、一流の剣士へと近づく』

 ジウスドラか。何かの指導書を読み聞かせていた。相手は確かカナだった気がする。

(動きを読む、か)

 源は怪獣を改めて見据える。姿勢はやや前傾で、足は自然に開いている。やはりこのフロア内を源目がけて飛ぶつもりらしい。

(相手も怪獣のくせしてコッチの出方を伺っている。ならば……)

 その時源は、かつての勘を取り戻しつつあった。そして、なんと剣を鞘に納めた。

『お前から来いよ、怪獣』

 源は、ベストからアーミーナイフを取り出して構える。その瞬間、激しい羽音とともに怪獣がこちらに突っ込んできた。源はそのすさまじい突進のさなか、その場にしゃがみ込むようにして怪獣の攻撃を間一髪で除けると、そのまま浮き上がった怪獣の真下に潜り込んだ。

(予想通りだな)

 そしてその胸にナイフを突き刺した。さらに源はナイフの柄を強く握りこみ、怪獣の動きを利用して一気に腹まで引き裂いた。ズンと床が揺れる。そこには、壁に角を突き刺したまま動かない怪獣と、その真後ろに立ち上がる源の姿があった。源は顔についた怪獣の体液を拭うとカナの方を見る。

(相変わらず無茶をする……)

 カナは今まさにライフルの銃床で怪獣の角と鍔迫り合いをしていた。

『カナ!一旦下がれ!』

 源の無線に、カナはライフルを手放して後ろに飛びのく。そして源の元まで後退する。カナは後ろをチラット見ると尋ねる。

『……おい、そこの頭突っ込んでるのミナモトがやったのか?』

『ああ、そうだ。アイツが飛んできたから、下に潜り込んでナイフで腹を縦に裂いた』

(なんつー殺り方してんだ……)

『……やっぱりアンタ、大君だよ』

 源はそれには答えずに言う。

『カナ、この状況どう見る』

『ライフルも手放しちまったし近接戦しかできねえが、この通りリーチが足りねえ。何より数が多すぎる。ざっと20体以上はいるぞ』

『その内こちらに気づいているのは3体ぐらいか……』

 源は剣の柄に手を添えながら少し考える。そして言った。

『……吹き抜けにいこう。今から作戦を決行する』

『はあ?まだコイツらが……いや、確かにそうだな』

(目的は吹き抜け周辺に集まる怪獣を減らすこと。その目的はこの通り達成されている。つまりここに集まっている20数体は放置しても構わない)

 カナは拳銃を手に取る。そして言った。

『……移動だな』

『生存者はいたか?』

『いねえよ』

『よし、じゃあ行くぞ』

 2人はその場から逃走すると、先ほどのトイレに身を隠した。そして無線で呼びかけた。

『アルファ、ブラボー応答せよ。繰り返す……』

『アルファです。可燃物およびプロパンガス目標数確保しました』

『こちらブラボー、火炎瓶作成。いつでもいけます』

 源とカナはお互いを見合う。2人は黙って頷いた。源は言う。

『では所定の位置につけ。作戦準備』

『了解』

 そして2人もその場を後にするのだった。

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