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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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狂ってる

 源たちはMSB本部で装備を整え、車列を組んでクイーンズへと向かっていた。

「最新の被害状況は」

 装甲車の中でアーノルドが尋ねる。

「ロングビーチから半径10キロは制空権を取られています。どうやら大怪獣の死骸から東沿岸艦隊を中継地点としているようです。そしてクイーンズのコロナ・パーク、ケネディ国際空港に大半が集中しています」

(空港が取られたのか……)

「了解。同様の情報をミナモト班と共有しろ。それと、空港にはアーサー班が向かう」

 それにカートマンが尋ねる。

「隊長、ミナモト班はあの面子でいいんですか?正直ミナモトでは……」

「今は違う。それにトラグカナイもいる。あいつらはラケドニアでも有名なコンビだったそうだ」

 その頃、源たちはアーノルドの指示をもとに車列を分け、自身の班を連れてクイーンズへ向かっていた。

「大君、気分でも悪いか?」

 車内でジウスドラがそう聞いてくる。

「え?ああいや、問題ない……」

(緊張しているなんて言えない。でも仕方ないだろ?こうやって部隊を率いるのは1万年2千年ぶりなんだから)

 源は微かに震える手を握りしめる。そして深呼吸をすると車内を見た。装甲車の窮屈な座席に重武装をしたMSBの隊員たち。そして戦闘服の上からMSB特務浄化部隊の白いベストを着たカナたち。みな一様に源を注視していた。その理由はもちろん源からの指示を待っているからであった。この場での指揮権は源にある。

(深呼吸だ、俺。昔を思い出すんだ……)

 源はなんとか自分を落ち着かせるとみなを見回して言った。

「今一度、作戦概要を確認する。フロッグ、味方戦力は」

 フロッグと言われた隊員は端末を取り出して言う。

「は。我々実働隊B班、通称ミナモト班は3個小隊180名に加えて怪人2+1名。うち後方支援を除き前衛150名であります」

「敵戦力は」

「クイーンズ周辺では現在その数227体まで増加中。休止中の個体を合わせると307体であります」

 若干車内がざわつく。

「……よし。では作戦変わらず、小隊規模で3つ部隊を分ける。第一小隊は俺、第二小隊はフロッグ、そして第三小隊はアンバーに小隊長を任せる」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 不意に声が上がる。それはあるMSB隊員だった。

「誰だ」

「第三小隊のジョーンズです。いくらなんでも怪人が隊長をするなど……」

「彼とは協力関係にある。信用できないのも分かるが、こればかりは譲れない」

「それほど隊長殿が”信用できる”怪人なのですか?彼は」

「無礼だぞ、ジョーンズ一等陸士」

 源はそう言いつつもアンバーの方を横目で見る。すると、

(分かっていたことだ。こちらでなんとかする)

 アンバーは口の動きだけでそう言っていた。源は考える。

(この段階で部隊が立ち行かなくなるのは避けたい。だが今はそのための手立てがない。やはりアンバーに任せるしかないか……)

 源は言った。

「各車に伝達、作戦に変更は無し。繰り返す、作戦に変更は無し。我々は現地に到着次第、三個小隊に分かれ、コロナ・パーク周辺の小型怪獣の殲滅および、民間人の救助を行う」

(まずは手の届く範囲からだ。決して欲張らない)

 席に座ると、足元に置いてあった刀のような武器が目についた。

(量子加工式の複合実体剣。ジウスドラが俺のために作ってくれていた俺専用の剣……)

 ギルガメシュはその生前、一流の剣士としてもその名をはせていた。

(あの頃の活躍が出来るとは思えないけど……)

 源は再度深呼吸をする。それは単に落ち着くためではなく、気持ちを切り替えるためであった。

「……やるか」

「………」

 それを横目で見ていたカナは、対物ライフルを担ぎながら思う。

(……似ている。いや、同一人物だから当たり前か。それにしても、ミナモトは多分緊張しているな。大君では有り得ないことだが……)

 カナはぎゅっとライフルを握る。

(……駄目だな。どうしても考えてしまう。こんなこと、思うだけでもいけないのに。致命的なノイズになりかねないのに……)

「アレは、大君なんかじゃない」

 カナは誰にも聞こえない声でそう呟いた。


『ひどいな、これは……』

 源は思わず呟いた。源たちを乗せた車列は、州間高速287号線の高架上に停車していた。そして車外に出た源はまず、マスク越しでも分かるその臭気に顔を歪ませたのだった。

『それは恐らく怪獣の分泌液だ。成分を解析したが、どうも嫌がらせ程度にしかならない有毒性の低い代物だ』

 後方支援であるジウスドラは無線越しにそう言う。

(どこまで悪趣味なんだ、ベイリン……)

 源は隊員たちが降車したことを確認すると、全体通信で言った。

『総員、時計合わせ。本時刻より小型怪獣殲滅および、民間人救出作戦を開始する。州軍が到着するまで時間を稼ぐぞ』

『了解!』

『では作戦開始だ。ただちに散開せよ』

 源たちはすぐに三方向に分かれて駆けだした。源率いる第一小隊はコロナ・パークに向かってこのまま直進する。源は思った。

(反対車線が無人だ……。乗り捨てられた車すらない)

『ジウスドラ、民間人はどうした。車どころか避難者も見当たらないぞ』

『前方1キロ、コロナ・パーク前のジャンクションだ。どうやら検問中らしい』

『検問だと?』

 源は部隊を止めて部下から双眼鏡を借りて覗き込んだ。そして絶句した。

『な!なんだあれは!』

 そこには黒く蠢く塊のようなものが高速道路を塞いでいた。

(怪獣が密集しているのか!それで車がせき止められている……)

 よく見るとその付近にはいくつか車が転がっている。

『なるほど、誰も逃さないつもりか……』

 源は双眼鏡から目を離すとみなに呼びかけた。

『予定変更だ。高速を降りて下道を突っ切るぞ。12時の方向1キロ先に怪獣の集団が進路を塞いでいる』

『了解』

 先行した数名が安全を確認すると、源たちはすぐに高速を降りる。そこで源は隊員に尋ねた。

『おい。照明弾はいくつある?』

『え?5つですが……』

『少ないな。とりあえずは温存した方がいいか……』

 その隊員は源の質問の意図を計りかねたが、カナが源に言う。

『ミナモト、この近くにショッピングモールがある。そこに代替品なりが売っているはずだ』

『コストコか……』

(あそこなら民間人も逃げ込んでいるはずだ。これは一石二鳥か)

『……よし、決まりだ。第三第四分隊は俺とコストコに移動。残りはカナが指揮を執って付近の住宅を捜索してくれ』

 それを聞いたカナは驚く。

『な!なんで俺がミナモトの方じゃねんだよ!』

『あそこの周りは確か中層ビル群で遮蔽物が多すぎる。危険だ』

『ッ……!』

(またコイツは私を…!)

 カナは源につかみかかりたい衝動をなんとか抑えて詰め寄る。

『おい、いい加減にしろよ?俺は王族親衛隊副隊長、万能のトラグカナイだ。その実力の程を一番よく知ってんのは、誰でもないお前だろうが!』

『だが……』

『民間人の救助なんざコイツらで充分だ!それよりも、得体のしれない怪獣の方にリソースを回した方が理にかなってんだろうが!』

(こんなこと言わせんじゃねえ!)

 カナの怒気に源は思わず開けた口を閉じた。そして言った。

『……分かったよ。代わりにレイン曹長、お前が第一第二の指揮をとれ』

『は!』

『では移動開始だ。行くぞ、カナ』

『……了解』


 暗い店内には、随分前からカチカチという不気味な音が鳴り続けていた。先ほどまで大怪獣の駆除の様子が生中継されていたテレビは、中継ヘリの撃墜と停電によって真っ暗なままであった。

「お父さん、私……」

「シッ!ヤツらに気づかれる!」

 男は7歳ほどの娘の口を慌てて塞いだ。もう30分以上この本棚の裏に隠れ続けていた。他にも数人が同じ場所にいたが、全員出て行ってしまった。だがもう悲鳴も聞こえない。ただ重苦しい静寂と暗闇。そして気味の悪い羽音と雑音が鳴るだけである。

 もうあの小さな怪獣たちはこの建物全体を掌握したのだろうか。

(ああ、神よ。どうか私たちに救いの手を……)

 男は藁にも縋る思いで、手を合わせた。その時だった。どこからかガラスの割れる音と数発の銃声がしたかと思うと、辺りが騒がしくなり始めたのだ。そして地面が振動し、カチカチという雑音が酷くなる。

「……も、もしかして救助か!?」

(助かるんだ!)

 男は途端に表情を変えて怯える娘に囁く。

「大丈夫、きっと助けが来たんだよ」

「おうちに帰れるの?」

「ああ、もちろん……」

 男がそう言いかけた時だった。バーンという大きな音とともに隣の本棚が倒れた。すると男の背後に鼻をつく臭いが漂い始めた。

「ッ……!」

(なんだこの臭い!もしかして……)

 男が思わず振り向いた時、そこにはわずかに光を反射して輝く、二対のどす黒い複眼と巨大な角がこちらを見ていた。

「あ、」

 男は悟った。

(死んだ……)

 その時、どこからともなく声がした。

「死ねぇ!」

 その声とともにガーンと言う鈍い音がしたかと思うと、なんと背後にいた怪獣はその場によろけて倒れた。その固い表皮には大きな弾痕と亀裂が入っていた。さらに暗闇の中でキラリと長い何かが光り、先ほど開いた弾痕に深々と突き刺さった。それは剣だった。その剣の持ち主は、黒い返り血と傷だらけのガスマスク越しに後ろを振り向いて言う。

「いい腕だ、カナ。射撃の腕は鈍ってないみたいだな」

 それに対物ライフルを担ぎ、黒髪をポニーテールにまとめた女がいかにも不機嫌そうに答える。

「ふん。いいから生存者を保護するぞ」

「分かってるよ。おーい、大丈夫ですか?」

 こちらにライトが照らされる。その呼びかけに男は答える。

「あ、はい!大丈夫です!」

 男は娘を抱きかかえてその場に起き上がる。そして愕然とした。ライトに照らされたその床には、腹部を抉られたような死体があちこちに散乱していたのだ。男は咄嗟に娘の目を塞ぎ後ずさる。

「あの、本当に大丈夫ですか?」

「……だ、大丈夫じゃない」

「え?」

「大丈夫なわけないだろ!こ、こんなこと。なんでアンタらはこの状況で平気でいられるんだ!」


 源は目の前の生存者の言葉に少し戸惑った。

(この状況?えーと、ああ。そういうことか)

「もちろん我々もこの惨状には目を覆いたくなります。ですが、我々の仕事は貴方がたの救助と怪獣の殲滅。私情でそれを疎かにはできません」

 それを聞いた男は理解できないと言う風に首を振る。

「そんなのおかしい。MSBだろ?アンタら。やっぱり狂ってる……」

「チッ。助けてやったってのに随分な言いぐさじゃねえか」

 カナが男を睨みつける。

『よせ、カナ。きっと気が動転しているんだ。イーサン、彼らを一階に連れていってくれ』

『了解です』

 源は部下の一人に親子を預けると自分達はフロアのクリアリングを続けた。

(まだ2階。銃器店も見つかっていないし急がなくては……)

 源はそう思いながらも先ほどの会話を思い返していた。

『やっぱり狂ってる』

(……まともじゃ駄目なんだよ。正気でいられるうちは、自分を超えられない)

 源は自然と、走る足に力を入れていたのだった。


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