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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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最悪の予感

 ロングアイランド島、ロングビーチでは今まさに大怪獣への艦砲射撃が実施されようとしていた。艦隊はニューヨーク郊外、バイヨンヌに停泊していた旗艦、第六世代イージス艦『スパルタン』をはじめとした5隻。それらに搭載される計5基のパルス加速式二連装5インチ砲に専用弾薬が装填される。

「目標、敵大怪獣、距離50000メートル、進路180、速度5ノット。A.M.D.E.A.P弾装填完了、射撃準備」

 それを聞いた砲術長がやや緊張気味に言う。

「主砲、目標補足!」

「射撃計算中……弾着予測6秒、風補正完了」

 そして艦長が命令する。

(どうか、効いてくれ…!)

「主砲、撃て!」

「主砲発射!」

 その瞬間、ブーンという電子音とともに砲身の排熱口が青く光ったかと思うと、耳をつんざくような甲高い発射音とともに砲弾が発射された。たった5隻の艦隊から発射された10発の青白い光は、不気味な飛翔音とともにロングアイランド島の上空を掠め、狙い通り大怪獣の外骨格の隙間に突き刺さった。

「命中確認!全弾命中しました!」

「まだだ!注視すべきはまだこれから……」

 艦長は興奮するオペレーターにそう怒鳴ると、自身は電子双眼鏡を覗き込んだ。そして大怪獣もまた動きを止める。その束の間の緊張ののち、なんと大怪獣の弾痕からどす黒い血が勢いよく噴き出し始めた。

「目標、着弾跡から出血を確認!A.M.D.E.A.P弾、効果あり!」

「おおー!!」

 戦闘指揮所に歓声が上がる。A.M.D.E.A.P弾とは、対怪獣用掘削式炸裂徹甲弾のことであり、その名の通り目標に着弾したのち、弾頭が体内を掘削してその内臓付近で炸裂するという代物であった。

「……そうか。やはりアレは有効だったか」

 ホワイトハウス大統領執務室では、ローガン大統領が艦隊からの経過報告を聞いていた。そして思った。

(そう、それは当たり前なのだ。なぜならあの弾薬は、あの砲は、あの艦は、あの艦隊は、かつてのロサンゼルス沖海戦を参考にして、私自らが関わったのだから)

 34年前、彼が怪獣提督と言われるようになった由来、人類初の対怪獣艦隊戦。

「私は英雄などではない。あの日から一度も、あの記憶も、あの感情も決して美化したことは無い」

 秒単位で沈んでいく僚艦。沈みゆく艦を捨て、海に逃れた乗員たちをオキアミのように攫っていく怪獣たち。逃げ場のない恐怖と通常兵器の通用しない動揺。

(今でも鮮明に思い出す。悲鳴も、歓声も、諦観も、後悔も全て。あのような地獄は、二度と繰り返してはならないのだ)

 ローガン大統領は深くため息をつくと、上体を起こす。

(だからこそ奴は、ベイリン・ドルトー・レコアトルは必ず駆除しなくてはならない。奴はこの先、取り返しのつかない惨状を産む。そんな最悪の予感がしてならない)

 それは、彼の船乗りとしての勘であった。そして、彼の当時の部下たちは口を揃えてこう言う。

『ローガン艦長の勘はよく当たる』

 大統領は呟いた。

「アメリカを舐めるなよ、ベイリン」


 源たちを乗せた超音速旅客機は、今まさにジョン・F・ケネディ国際空港に着陸しようとしていた。

「おい!今入った情報だが、艦隊は上手くやっているようだぞ」

 アーノルドが隊員たちに言う。

(つまり、艦砲射撃が効いたってことか)

 源はそう考えながら身支度をする。

「カナ、これ持っててくれ」

「あ、ああ。分かった……」

 カナはどこか気まずそうに源のガスマスクを預かる。源はそれに若干の違和感を感じつつも、旅客機を降りる。タラップを降りると、目の前には輸送ヘリが止まっていた。源はアーノルドの言っていたことを思い出す。

「……あれで怪獣に最も近い電波灯台に向かうんだったよな」

(大丈夫だ。きっとやれる)

 源がそう思った時、後ろから歩いて来た誰かと肩がぶつかる。

「っと、すいません。アーサーさん」

「………」

 だが、アーサーは源の呼びかけに答えない。

(さっきからずっとあの調子だな……。まあジウスドラの言い方も結構キツかったし、無理もないか)

 やがてヘリは源たちを乗せてニューロシェルの電波灯台へと飛び立った。機内で、隣に座るジウスドラが源に話しかける。

「大君、少しいいか?」

「なんだ?」

「実は今回の浄化、トラグカナイに変わってほしい」

 源はそれを聞いて、表情も変えずに尋ねる。

「……コアに何が仕込まれているか分からないから、だろ?」

(相変わらず呑み込みが早い……)

「そうだ。大怪獣を発生させたのは十中八九ベイリン。そして奴がただ怪獣を出現させて終わりのはずがない。根拠もある」

 ジウスドラはそう言って続ける。

「飛ばないのだ、怪獣が。素体は甲虫、外骨格で相当な重量になるのは分かる。だがそれは過程変異で解決できる問題だ。さらにアレは大怪獣だ。コアは2個以上で中身は特権階級。飛べないはずがないし、飛ばない理由がない」

「そうだな。ベイリンなら怪獣を移動させ、いち早く旧ニューヨークか天上階まで向かわせるはずだ。より多くの人間を殺すために」

 それに無言で同意しつつジウスドラは言う。

「その点、トラグカナイであれば起こりうる不意の事態に対処できる。奴の強みは君もよく知っているだろう」

「……ああ、そうだな。類まれな状況判断力と決断力。それを支える高い柔軟性。ベイリンに対峙する上では、俺でなくカナの方が相性はいいだろう」

「では、異論ないな?」

「もちろんだ」

 2人がそう会話を交わしたその時だった。虫が羽ばたくようなブーンという音とともに、何か黒い影が窓を掠めた。その直後、ヘリが激しく揺れると室内灯が消え、機内は非常灯の赤い明かりに照らされた。

「なにが起きた!」

 アーノルドは操縦手に無線で尋ねる。それに操縦手は、震える声で言った。

『その、目の前に。虫の大群が掠めて……』

「虫だと?もっと詳しく状況を説明しろ!」

『で、ですから。人間大のカブトムシのような虫が霧みたいに広がっていっているんですよ!一部はニューヨークまで到達しています!』

「なんだと!?」

 アーノルドたちは窓の外を見る。そこには大きな翅を広げ、黒い群れとなって移動する巨大なカブトムシの群れが点々と移動していた。

「これは……」

 その大元は恐らく、今さっき駆除された大怪獣の死骸であり、さらに艦隊に目をやると船体に虫たちが張り付いており、黒煙を上げていた。

「まさか、ここまでとは……」

 その光景を見てジウスドラは思わず呟く。

(これでは、奴の持つリソースほぼ全てではないか!それを使い捨てのようにばら撒くなど、何を血迷ったのだ!ベイリン!)

 その頃、ホワイトハウスでも、

「クソ!完全に裏をかかれた!」

 大統領は拳で机を強く叩いた。そしてテレビに映る、いたるところから煙を上げて船体を傾ける東沿岸艦隊を見て顔を怒りで歪ませた。そして唸るように呟いた。

「ベイリン・ドルトー・レコアトル。お前は絶対に、絶対にブチ殺してやる……」


「アハハハハ!ここまで上手くいってしまうと逆に困るなあ!」

 とある部屋で、ベイリンは嬉しそうにそう言って笑った。

「だが、介入ぐらいはしてほしかったぞ?ギルガメシュよ」

(まあ、それはまだ先のようだが、今回ばかりは1週間待ってやる。まずは生き残るんだな)

 ベイリンはテラスから室内に戻ると、傍に控えていた部下の怪人からワインを受け取った。

「モンラッシェの1945年でございます」

「うむ」

 ベイリンはワイングラス片手にいかにも高そうなソファに座る。そして別の部下にテレビをつけさせると、ニュースを見ながらワインを口に含んだ。

「フフ、中々美味いではないか。それに、映像からでも伝わるこの張り詰めた空気!実に上品なアクセントだ」

 ベイリンはそう言って左手に高々とグラスを掲げると、右腕を回して冷たくなった肩を組む。

「なあ、貴様もそう思うだろう?」

 ベイリンはそう言って右隣を見る。だが、そこには何もなかった。ただ、首から下の胴体だけがあった。

「………」

「好みではないのか。まあそれもそうだろう。余と対面した時も、何事かわめくばかりの能無しであったからな。まあ今は脳無しなわけだが……」

 ベイリンはそう言ってぐいとグラスをあおるとその場に立ち上がった。

「だが、この部屋はいい。貴様は見るに堪えない無能ではあったが、その金使いだけは誉めてやってもいいだろう」

 そう言って部下に空のグラスを渡すと、ベイリンは腕時計を見た。すでに小型怪獣たちが解き放たれて10分が経過していた。

(そろそろ、”下”の様子でも見てくるかな)

 ベイリンはそう考えるとニヤリと笑った。

「もう大勢死んでいるのだろうな。ああ、楽しみだ……」


 その頃源たちは、急遽進路を変更しMSBの本部へと向かっていた。アーノルドは本部から入った情報と司令をもとに、作戦を組みなおしていた。

「いいか、まずは小型怪獣の殲滅が最優先だ。その為に班で分ける。つまり我々特務浄化部隊はミナモト班とアーサー班に分かれる。ミナモト班はミナモト、トラグカナイ、アンバー。アーサー班は俺、アーサー、カートマンだ。そこに一般隊員が均等に分かれる。リーたちは引き続き後方支援を頼んだ」

「了解」

 そして一同は現在の被害状況を確認しながら対応策を練る。

「やけに単独行動が少ない。操られているのでしょうか……」

「そう考えるのが妥当だ。するとまずは頭を叩くのが一番だが……」

 そこで場に沈黙がおとずれる。やがてカートマンが言った。

「それって、ベイリン本人だったりします?」

 ベイリンはいまだ発見することすら困難であった。となると、

「やっぱり地道に倒すしか……」

「ですが、観測データだけでも1000体はいます。しかもまだ増え続けている……」

「まあとりあえずは、地面に降下している個体や、建物に張り付いている個体を各個撃破していくしかなさそうですね」

「……そうなるな。さらに詳細な情報が分かればいいが、そうもいかんからな」

 アーノルドは言う。だがその時、ジウスドラは別のあることを危惧していたのだった。

(小型怪獣……今の大君と合わせて良いのだろうか)

 かつてジウスドラは大統領に言った。もし小型怪獣と源が出会えば、

『彼が死ぬ。もしくは、彼以外が』

 その懸念は、いまだ消えていない。むしろ強まっていたのだった。



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