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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
83/130

思い出す

「ここがエリア51……」

 源は車を降りた後、だだっ広い砂漠の真ん中でそう呟いた。周囲にはコンクリートで出来た地下への通用口が一つあるだけで、そのほかには地平線に薄っすら山が見えるぐらいである。

「こんなところに遺跡なんてあるのか、そう思ったな?」

 左隣のジウスドラ博士はそう言って源を見る。

「……まあ、正直」

「まだ目に見えねえだけだ。皇族の『保管庫』は地下深くに作られる」

 右隣のカナも言う。

(なんで両サイドを挟んでるんだ……)

 源は窮屈そうに言う。

「まず実物を見ましょうよ。その、『エトル』?を」

「それもそうだな。では早速案内しよう」

 ジウスドラは傍の風化してボロボロになった通用口を開けると、2人を中に案内した。そして錆だらけの長いはしごを降りると、そこには周囲に似つかわしくない近未来的なエレベーターがあった。

「これで10キロ下まで降りる」

 博士はさらっとそう言った。

「じゅ、10キロですか!?」

「それだけ厳重ということだ。いつの時代も無礼な輩はいる」

 3人がエレベーターに乗ると、徐々に取り付けられたディスプレイに現在の深度が表示されていく。どうやら気づかぬうちに動き始めたらしい。それも、時速300キロ以上で。

「こんな最新技術があったんですね……。日本でも乗ったことが無い」

「いや、これは40年前の技術だ」

「……え?」

 源は博士の返答に戸惑った。

(40年前って、このエレベーターが?)

「それってどういう……」

 源がそう言いかけた時、チーンという音がして扉が開く。そこには、どこか見覚えのある一人の男が立っていた。

「遅いぞ、ジウスドラ」

 男は降りてくる博士にそう言った。

「すまないな、アンバー」

(アンバー?)

 源はその名にきっき覚えがあった。確か……

「アンバー・ユグト・カンニバス……」

 レストアの実の弟で、玄武討伐の際に赤本たちと対峙した怪人である。

「アンバーでいい、大君」

 アンバーは少し嫌そうにそう言ってカナの方を見る。

「そして、久しぶりだな、トラグカナイ副隊長」

 カナはそれには答えずに言う。

「……なるほど。お前が裏切ったのか」

「そうだ」

「マザーコアの防御プログラムを劣化させていたのはお前だな」

「……そうだ」

 源は一連の会話を聞いて、混乱していた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!もしかして、アンバーはアシュキルたちを裏切って、破壊工作までしていたってことか?でも、それがなんでここに?」

「”たち”じゃない。俺が裏切るのはアシュキルただ一人。兄上に盾突くなど、毛頭ない話だ」

 そこに博士が補足を入れる。

「彼は協力関係かつ必要だから来てもらった。この『保管庫』には”鍵”がいるのだ。ほら、ついてきたまえ」

 博士はそう言って目の前に続く狭い通路を歩き始めた。その道中に兵士はおろか人影はなく、さらに壁や天井は石で出来ていた。その通路が段々と大きくなっていく。そして最後には、70メートルはあろうかという大きさの石の扉となって目の前にそびえたった。その光景は何処か、なんとかの研究室に似ていた。その扉の前で、アンバーは扉に張り付けられた電子機器をいじる。

「なんで、こんな巨大な……」

 源は思わず呟いた。

「そうか。まだ大君には大きく見えるのか」

 博士は言う。

「あの、それはどういう意味で……」

「大君、君はなぜ怪獣たちがあそこまで巨大で、私たち怪人がそうでないのか。そう思ったことはないか?」

「それはまあ、ありますけど……」

 質問の意図が分かりかねる。

「その答えは、コアの仕組みにあるのだ」

「コアの仕組み……。周囲の環境に適応する、過程変異ですね?」

 だが、博士は首を振る。

「それは間違いだ。”足りない”」

「……というと?」

「コアは未知の環境や状況に適応するために作られた生命維持装置。その仕組みには、実はある仕様が組み込まれている。つまり、”元の体に戻ろうとする”だ」

「元の体に……」

「コアの運用上、他の生物にコアが移る可能性は高い。その為の仕様だ。これは怪獣や怪人にももちろん適用されている」

「でも、怪獣は素体の要素が多く残っています」

「では変わっているところは?」

「主に皮膚組織や血液、骨。そして、大きさ……」

 そこで源はハッとした。この石の扉やカナの記憶を合わせ、ある一つの答えにたどり着いたのだ。

「もしかして……」

「そう。我々ラケドニア人の平均身長は、およそ60メートルだ」

 博士は続けて言う。

「それを踏まえて、怪獣の場合はその身長に”戻ろうとして”体が巨大化する。だが、過程変異のリソースを体組織の変形に割くことで、その補完システムは終わってしまう。逆に怪人の場合、素体である人間と”身長以外の要素は元の身体とほぼ一致”する。だから見た目は変わらず、過程変異のリソースは身体機能の向上に回される」

「………」

 源は声も発せずにその話を聞いていた。とても信じがたい話に、脳が混乱している。

「戸惑うだろうが、それもじき無くなる。鍵に触れれば、君は全てを知る。いや、思い出す」

 その時、ガコンと音がして石の扉が開いた。アンバーがこちらに歩いてくる。

「何の話をしていた。大君が青ざめているぞ」

「なに、必要な話の内の一つだ。気にするな」

 そして源たちは保管庫の中に入る。そこには、一辺10メートルほどの黒い立方体が整列する、長い一本の通路が現れた。そしてそのうちの一つの前で立ち止まる。石には楔形文字が刻まれている。

「これがギルガメシュ専用の記録媒体、『エトル』だ。君はこれに触れてくれ。そうすれば、自動的に君に必要な記録が脳内で再生される」

「これが、俺を覚醒させる方法ですね?」

「そうだ。これしか無い」

 博士は真っ直ぐにそう言う。嘘では無い。

「……わかりました」

 源は鍵の前に立つ。その時、源の脳内にはあらゆる記憶が流れていた。東雲たち怪獣特殊処理班の班員たちと初めて会ったとき。富士工業地帯でアーサーたちMSBとともにレストアと戦った時。トラグカナイを取り込んだ時。長崎でマザーコアを破壊した時。そして……

「……あれ?」

 源は思い出せなかった。

「俺って、自衛隊にいた時も、その前も……」

(思い出せない?)

 そこにカナが声を掛ける。

「おい、ミナモト。なに固まってんだよ」

「え?ああ、ごめん。カナ……」

 そして源は鍵に触れる。『大君』として覚醒するために。そして博士も呟く。

「頼むぞ、大君。いや、その血を継ぐ男よ……」


『承認 1級保護クリアランス解除 承認者名、出羽真』

 不意に、源の脳内にそう機械音声が流れる。音声は続ける。

『保護対象物 航空自衛隊管轄 B.C0030 1月7日23:10 事故音声記録1』

 その瞬間、源の意識は急激に落ち込み、気づくと源は狭いコックピットにいた。

(どこだ?ここ)

 源がそう考えるのと裏腹に、体が勝手に動き、慣れた手つきで計器類をチェックしていく。その時、無線が繋がる。

『エンジン異常無し。出力アイドルを維持』

 それはカナ、遠野彼方の声だった。その時ようやく、源は気付いた。

(カナだ!正真正銘!カナが生きてる。……つまり、これって……)

 源は先ほどの機械音声を思い出す。

『事故音声記録1』

(……これは事故記録だ。カナが死んだときの。そして、俺が生き残ったときの)

 源はその瞬間、一気に溢れてくる記憶に抗うように激しく体を動かそうとする。叫ぼうとする。

(止めろ!フライトを止めろ!)

 だが、体は動かない。ただ着々とシークエンスがこなされていく。カチカチとボタンを押す音が聞こえる。その音が、源にはただただ苦痛だった。

(もういい!やめてくれ!)

 源は静かに絶叫する。そして場面は変わる。

『一度基地へ帰投するぞ』

『ですが、まだ地上部隊が交戦中です』

『巻き込まれる危険がある。それに、嵐だ』

 キャノピーを激しく雨粒が叩きつける。

(そうだ。全部、全部思い出してきた。俺は飛行型怪獣の迎撃にカナと駆り出され、そして機体を破損した。だから任務を中断して基地へ帰ろうとした。でも……)

『発射するべきだったジャベリンミサイルが残っています』

(そうだ。カナは任務遂行を提案した。カナは自分よりも他人を優先する癖があった。この時も、自分の安全よりも地上部隊の掩護を優先しようとした。でも、俺は反対した)

『まず基地へ戻り、東京から援護部隊を要請した方が確実だ』

(俺はこの嵐の中戦い続ける仲間より、自分とカナの命を優先したんだ。でも、その選択に迷っていた。そしてカナもまた……)

『ですが……』

『遠野3尉…!』

(俺は思わず高圧的に言ってしまった。心の動揺が出てしまった。そして……)

『……源2尉、レーダーに反応が』

(ああ……)

『なに?……進路維持だ。迂回をしていては燃料が尽きる』

『……了解です』

 その時、機体が激しく揺れ爆発音がする。

『ッ……!まさか奴が!』

(………)

『源2尉!貴方から脱出を!』

(…………)

『それでは君が間に合わない!まず君からだ!』

(……………)

『……王城、ごめんね?』

(……やめてくれ)

『よせ!せめて君だけでも!』

『大好きだったよ、王城』

『待ってくれ!』

(いかないでくれ……)

『生きて、王城』


「そんな顔をするな、トラグカナイ」

(え…?)

「ですが!ですが……このままでは貴方は!」

「ああ、”そうなる”。でも、僕は大罪人だ。ああ、そうだ。僕は殺される。僕の全てだったラケドニアに殺される。トラグカナイ、僕はもう何もしたくない。だからお前に全て任せる。火であぶるなり海の底に沈めるなり、どうとでもしてくれ」

「大君……」

「なんだい?」

「わ、私は…!」

(なにか温かい水滴が頬に落ちる感覚だ。泣いてるのか……)

「私は、貴方が!貴方を!…………どうか!生きてください!死なないでください!」

(……聞こえない。音だけがしていた。目は見えなくて、ただ誰かに抱き上げられていた。それはトラグカナイで、俺は……)


「……ああ、そうか。そうだった。俺は殺されたんだ。いつか、想像もつかないほど昔に」

(そして言われたんだ、”生きて”と)

「……ごめん、カナ。また約束は守れそうにない」

(やっと思い出した君の声も、顔も、初めて手を繋いだ時のことも。そしてラケドニアのために共に戦ったことも。それら全部が、俺を動かしてる)

「……殺す。飛行型怪獣も、俺にあらぬ罪を被せた黒幕も。俺から全てを奪った奴等を全て。全部、仇を取ってやる」

 そして源は目を覚ます。振り向くと、そこにはカナたちがいる。

「どうだ?大君」

 博士は少し緊張気味に尋ねる。

(……そうだ。ジウスドラはよく俺を手伝ってくれていた)

 そして源は答えた。

「ああ、思い出したよ。ジウスドラ」

「……!」

「成功したのか!」

「大君!」

 カナたちは驚きの表情を作る。そして源は、いまだ驚きを隠せないでいるカナに言った。

「すまなかったな、トラグカナイ。俺は、君との約束を果たせなかった」

「お、あ……!」

 それに、カナは見たこともない表情で赤面すると俯く。床には、気のせいか数滴のシミが出来ている。

「べ、別に。気にしておりませんので、その……」

「……そうか」

 源はジウスドラとアンバーを見る。

(まだ、終わってない)

「2人とも、頼みたいことがあるんだが……」

 その時源は、ようやく確固たる意志を獲得したのだった。

伏線回収していきたい

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