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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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まがい物

 ビルのような屈強な四肢の足先から伸びる、3メートルはあろうかという巨大な爪が斜面を抉る。黒く固い表皮を鎧の様に纏い、その二対の赤い目は山の頂を見据えていた。特別指定大怪獣『ジャガーノート』は、今まさにロッキー山脈を登り始めていた。目指すは怪獣収容施設”シャッター”。周囲の小都市などには見もくれず、ただ”シャッター”を目指す。幸い、素体であるアムールトラはヒグマすら殺す最強の虎。ジャガーノートは凶悪な牙をむき出しにして、笑う仕草をした。

『ああ、楽しい!抗う力も持たない生物を踏み殺すこの心地よい感触!余の通った後には擦り切れた荒れ土が広がるのみ。それに、ああ、楽しみだ!100年以上かけて用意してきた計画が潰れるその時が!』

 ジャガーノートはふつふつと湧き上がってくる快感を押し殺して前進する。

『だが、ピークはまだ先。貴族どもを解き放ち、人間を皆殺しにした後の、打算的だったお前の歪んだ顔!それを心の底から嘲りこう言ってやるのだ。”お望み通り、英雄が来てやったぞ”と。フフ、アハハアハ!余は楽しみだぞ、ジウスドラ!』

 やがてジャガーノートはロッキー山脈の頂に立つ。

『あれが”シャッター”だな?家来どもの言っていた通り、上級指令を発信する塔が周囲を囲んでいる』

 そしてジャガーノートはまたもや笑った。

『赤子には飽きた。この大地を赤と黒で弄ぶのが楽しそうだ。フフフ、どのような惨事になるか、さっぱり分からんなあ……』


「決まりだ。『ジャガーノート』の精神構造がベイリンのものと一致した」

 その少し前、アーノルドは”シャッター”に向かう車内で隊員たちに言った。

「そうは言っても、なんで王族クラスが”今”出現するんです。それも怪獣になって」

 カートマンが尋ねる。

「それが一番楽しそうだからだ」

 トラグカナイが答えた。

「楽しい?どういう意味だ」

「奴は他者を不幸にすることに幸福と快感を覚える異常者だ。考えてみろ、怪獣30体弱が同時に解き放たれれば、いくつの都市が滅ぶか分からねえ。数えきれないほどの人間が死ぬ」

「……それだけか?」

「そうだ。大した目論見も打算もねえ。ただ”楽しそうだから”怪獣になり、”楽しそうだから”怪獣を解き放とうとする」

 カナの言葉に隊員たちは黙り込む。『よりにもよってそんな奴がアメリカに……』みなそう考えていた。アーサーと源を除いて。

「目的が絞られてんなら、むしろ都合がいいだろ。俺たちはそのベイリンを殺して浄化すればいいだけだ」

「同感です。MSBだけでなく、州軍の全面協力があれば倒せる。現に、一度倒しているわけだし」

「………」

(……分かってねえ。理屈で考えたら駄目なんだよ。アレは、異常なんだ)

『美味いか?トラグカナイよ』

『おいしい?お姉ちゃん』

 カナは拳を握りしめる。カナはその時初めて、使命を感じた。

(絶対に殺す。殺さなくてはいけない)

 その為には源と、そして博士の協力が不可欠であった。

「着いたぞ、シャッターだ」

 数分後、源たちはシャッターの境界線に設置された電波灯台の前にいた。

「おい、カートマン。アーサーたち射撃班を迷彩でカモフラージュしてくれ。それと、ここから10個先までの電波灯台を同期させる。源、今度こそ頼むぞ」

「はい!」

「………」

 カナは電波灯台を見上げる。

(奴はそう易々と殺される男じゃない。反撃される可能性も十分ある。そうなると、やはりミナモトの持つ大君の精神?を引きずり出すしか対抗策はないな。長崎の時と同じ状況にする必要がある)

 カナはそう考えつつも、口には出さない。やがて、2人は高さ1キロもある電波灯台の最上部、”光源”にたどり着いていた。そこには半球状のドームと、その真ん中に疑似コアが設置されていた。

『いいかミナモト、こちらが合図を送ったらすぐにコアに触れろ。トラグカナイはミナモトの様子に少しでも異変を感じたらコアから引きはがしてくれ』

「……分かってる」

 やがて地上では、砂漠迷彩を施した対獣ライフルの照準ディスプレイに巨大な熱源が写った。

「来やがったな……」

 カートマンはそう呟くと、巨大なバイポットを地面に突き刺し、巨大な銃身、いや砲身を抱えるアーサーに合図を送る。

『隊長、アーサー。来ました」

『……了解。射撃開始』

 アーノルドがそう合図を送った瞬間、ズンという鈍い音と衝撃波とともに、ダーツの矢のような徹甲弾がジャガーノートの目の一つに突き刺さった。

「グアアアア!!」

 ジャガーノートは雄たけびを挙げてその場につんのめる。その周囲には砂埃が舞い、地面が揺れた。

『効果あり。次弾装填』

 アーサーは言った。それと同時に源にも無線が届いた。

『浄化開始』

「了解!」

 源が光源に触ろうとしたとき、不意にカナが源の肩に手を置いた。

「カナ?」

「聞け、ミナモト。今から俺の意識をお前に移す。そうしたらそのコアを触れ」

「……!何言ってんだよ!それは博士の保険じゃ……」

「このままだとお前が死ぬっていってんだよ!だから俺がサポートする!」

「突然そんな……」

「早くしやがれ!理由は後で説明してやるから!」

 源は何か言おうとしたが、今まで見たことのないカナの切羽詰まった様子に、ただならぬ気配を感じた。そして瞬時躊躇うと、言った。

「……分かったよ」

「よし」

 その瞬間、カナの体から力が抜ける。それと同時に首の後ろのチップが緑に点滅した。

(触れろ、ミナモト)

「ああ」

 源は両手で”光源”に触れた。すると、源の目の前にはとある教室が現れた。

「……!ここ、俺の通ってた!」

(あの日の教室……)

「そうらしい。みすぼらしいが、風情がある良い建物だな」

 後ろから声がした。源が驚いて後ろを見ると、そこには制服姿の、源の容姿をした男が席に座っていた。男は言う。

「汚すにはもってこいだ」

「……お前が、ベイリン・ドルトー・レコアトルか?」

「そういうお前はギルガメシュだな?それにトラグカナイも。懐かしい面子だ」

「……生憎、俺はお前を知らない。それよりも、なんで俺の深層意識が変化してる。お前の仕業だろ?」

「ただ記憶を投影しているだけだ。大した技術じゃない。それに言ったろ?ここは汚すのにもってこいだと」

 ベイリンはそう言って指を鳴らした。すると、ベイリンの隣の席に制服姿のカナが出現した。

「なに…!」

「カ、カナ!?」

「そう怖がるなよ、トラグカナイ。それにしても、こうして話すのはフェルリナ以来か?」

「貴様ッ!どの口で!」

「そう!その顔!やはりお前はそこらの死に顔よりもずっと面白い顔をする」

 ベイリンは愉快そうにそう言った。その光景を見て源はただならぬ予感を感じていた。

(コイツ、アシュキルとは全然違う。まるで力ばかり強い子供を見ているようだ。何をしでかすか分からない。敵わない。そう感じさせるオーラがある……)

「当然だ。余のコアは最新型。余に性能で勝るコアなど存在しないのだ。余の精神に干渉したのは早計だったな、ギルガメシュ」

 ベイリンはそう言うと、ふと考える素振りを見せ、途端に表情を明るくした。

「……そうだ!いいことを思いついたぞ!」

 そしておもむろに椅子から立ち上がると、なんと隣に座るカナの首に手をかけた。

「グ……!」

(体が動かねえ!)

 ベイリンはゆっくりとカナを持ち上げる。

「な!止めろベイリン!クソ!なんで体が……!」

「そこで見ていろ、ギルガメシュ。特別に、お前の目の前でトラグカナイを殺してやる事にした」

「何を言って……」

「ほら、戸惑うな。叫べよ」

 ベイリンは首を絞める力を強くする。

「ッ……!」

 すでにカナは声も出せない。

(誤算だった!まさかここまでとは!)

 カナの動きは封じられていた。源に呼びかけることも出来ない。

(……詰んだか)

 カナの意識は徐々に薄れつつあった。それを源は敏感に感じ取っていた。

「おい!やめろ!やめてくれ!」

「もう一声!」

「ッ……!頼む!どうか彼女を解放してくれ!」

 ベイリンの口角が徐々に上がる。

「敬語は?」

(この野郎!)

「……ど、どうか。トラグカナイを解放してください……」

「フ、フフ。アハハハハ!嫌だね!」

「貴様……」

「ワンチャンあると思った?ねえよバカが!お前もコイツもここで死ぬ。ラケドニア有数の戦士の死因は窒息死!ハハッ!楽しいなあ!いい時代だなあ!ラケドニアなんかより自由に遊べる!弟たちにも見せてやりたいなあ!そうだ、アシュキルに後で見せてやろう。アイツもいい顔するんだよなあ。そうしたらアシュキルも殺して、レストアも殺して……。あれ?そしたら誰もいなくなるな。まあいいか!足りなくなったら増やせばいい!」

 ベイリンはニタニタと笑いながらそう叫ぶ。源はその異常な様子に、体が震えていた。

(化け物!こいつは化け物だ!殺す以外に幸せを知らない化け物だ!)

 浄化なんてできっこない。ここで2人ともコイツに殺される。

(俺は、俺たちはとんでもない奴と関わってしまった……)

 そう考えると後悔の念が今更のように湧き上がる。

「おいギルガメシュ!どんな気持ちだ?どんな気持ちで立っているんだ?どんな気持ちで息をしているんだ?どんな気持ちで生きているんだあ?アハハハハ!」

「………」

 源は目に涙を浮かべていた。この状況を前にして、源の心は、本人の気付かぬうちにある一つの限界を迎えようとしていた。

 その時だった。

『涙など、やはり似合わないな。大君』

「……!あなたは!」

「この声、ジウスドラか……」

『お久しぶり振りで御座います。第一皇子様』

「芝居はいい。よもや貴様、余の邪魔をしに来たな?」

『滅相もありません。私はただ、日を改めたいだけで御座います』

「日を改める、だと?」

『はい。実は、そこの男はまだギルガメシュでは無いのです。気配が似ているだけなのです』

「……言われてみれば、そうだな」

『でしょう?ですから、紛い物ではなく本物の大君を私が用意致します。それまでしばしお待ち頂きたく……』

「………」

 ベイリンはその時初めて長考した。

(本当はジウスドラの計画を台無しにしてやるはずだったが、こちらの方が気になる。本物のギルガメシュは、この男以上の逸材らしい)

「……楽しそうだ」

『皇子?』

「わかった。特別にお前の意見を聞いてやる。だが期限を設けよう。1週間だ。1週間でギルガメシュを連れてこなければ貴様と貴様の全てを殺す。いいな」

『は。もちろんでございます』

「よし。今から楽しみだぞ!」

 ベイリンがそう言った途端、源とカナの意識は現実に戻っていた。

「ここは…!」

(戻れたのか?)

『全く、何をしているんだ……』

 不意に脳内に声が響く。

「博士!」

『ギリギリ間に合ったはいいものの、私が交渉していなければあのまま死んでいたぞ?』

「………」

「焦りすぎました」

 隣でカナが言う。カナの意識は肉体に戻っていた。

『まあ、そうだろうな。それと、明日には予定を早めて遺跡群に向かう。いいな?』

「博士、それは……」

『ああ、君の記憶を全て引き出す。どんな手を使ってもだ』

「……分かりました」

『トラグカナイ、お前は私の補佐を頼むぞ』

「了解しました」

 そこで、アーノルドからの無線が入る。

『よくやった、2人とも。ジャガーノートが完全に沈黙した。コアの自壊も確認されている』

「………」

『ミナモト?』

(きっと、肉体を捨てたんだ。今頃は怪人にでもなっているんだろうか……)

 源は拳を握りしめる。

(アイツを止める。あんな奴の勝手にはさせない)

 翌日、源とトラグカナイはネバダ州のとある軍事施設にいた。

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