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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
80/130

人並み

「ミナモトオウジに会えないって、一体どういう事です」

 男は若干苛立ちながらも電話越しに尋ねる。

「ですから、大統領直々の命令なのですよ、ドールマン刑事」

「納得できかねる。そもそも、ミナモトを使った捜査協力を持ち掛けてきたのは貴方がたMSBだ。それも、『移動式電波灯台』なんて大仰な名前まで付けて」

「そう言われても、我々MSBは陸軍と大統領府の直轄部隊。とてもデリケートな立ち位置です。命令違反は出来ません」

 電話の向こうのカルロス・バレンタイン准将はアッサリとそう言った。ドールマンはスマホをフロアの床に叩きつけたい衝動に駆られながらも言った。

「……分かりました。ですが、MSBには引き続き捜査協力をお願いしますよ。CIAに出張ってこられて困るのはお互い様でしょう」

「勿論です。では、また」

 そこで通話は終了した。

「……どうでしたか?刑事」

 隣の部下が尋ねる。が、その答えはドールマンの顔に書いてあった。

「『できない』の一点張りだ。チッ、大統領はなにを考えてんだ……」

「こうなると、スケジュール全体を見直す必要がありますね」

「ああ。長くなるぜ、これは」

 ドールマンは部下とともにニューヨーク市警本部のとある会議室に入った。部屋の真ん中のホログラムディスプレイには、頭部を失った小型怪獣が映し出されていた。


「刑事はなんと?」

「カンカンだ。まあ、大統領の指示とは言え、こちらの持ちかけた話をこちらがドタキャンしてしまったからな。事件の規模を考えても、怒るのは必然だろう」

(ドタキャン…?)

「私たちは引き続き通常業務ですよね」

「ああ、そのつもりだ」

 准将はそう言って、何かハッとした顔をして言った。

「そうだ、忘れていた。アーノルド、トラグカナイとアーサーは”どう分けた”」

その質問にアーノルドが難しい顔をする。

「それなんですが……ミナモトがアーサーとのペアワークを申し出てたのでそのように。トラグカナイは正直未知数だったので、リーと雑用をなんとかさせています」

「ハハハ、あのトラグカナイが雑用か!よろしい、とりあえずは君の裁量に任せよう。何か不審な行動や異変を見つけたら私に直接言いたまえ」

「了解しました……」

 アーノルドは心の中でため息をついた。

 その頃、特務浄化部隊所属、リー・ガオウェンは倉庫でライフルの手入れを行っていた。が、後ろからゴソゴソと物音がする。そして、

「おい、人間。これは剣か?」

 トラグカナイはケースの中から旧式の長剣を取り出していた。リーはうんざりしながら答える。

「勝手に取り出さないでくれ。それに、刺されそうで危ない……」

「アホか。お前なんざいつでも殺せる。それにせ…博士からも言われているしな」

「そうですか……」

 リーは銃床を握ったままスツールに座りなおす。

(正直怪人なんかと関わりたくない……。僕、めちゃくちゃ舐められてるし)

「でも、みんな避けるんだよなあ……」

「おい、なにブツブツ言ってんだよ。これで切るぞ」

「………」

 リーは安全上の理由から銃火器の掃除を中止した。

 さらにその頃、アーサーとミナモトは寮の地下にある実戦シミュレーター室にいた。そこで何度か組み合った後、その真ん中で二人はあぐらをかいて座っていた。

「ヘンな動きするよな、ミナモトは」

 不意にアーサーが言う。

「変な動き?」

「動体視力は異様に良いのに、明らかに体が追いついてねえ。それも過程変異の後遺症なのか?」

「うーん。後遺症はむしろ、目の方だと思います」

「へえ、理由は?」

「元に戻しにくいからです、過程変異から。体の筋肉と違って、目も脳も神経も仕組みが複雑だ。だから”人並み”に戻せない」

「なるほど。まあ、制限進化じゃそこまでにはならねえ。よっぽど無理してたんだな、ミナモトは」

「………」

(無理しているのは、あなたの方だ)

「……ミナモト?」

「アーサーさん、実はジークさんについてお話ししたいことが」

 源がそう言った瞬間、場の空気が変わる。

「……なんだと?」

「ッ……!」

(怖い…!でも、いずれ解かなくちゃいけない誤解なんだ。なら、今この場で!)

 源は凄むアーサーに向き直ると言った。

「アーサーさんは勘違いをしています。ジークさんを殺したのはトラグカナイじゃない、アシュキルだ」

「だから?」

「……え?」

源は戸惑う。

「だからトラグカナイは悪くないって、そう言いてえのか?」

 アーサーは不気味なほど冷静だった。思えば再会した時から、どこか冷めていた。陽気に振舞ってはいても、以前のような底なしの明るさが無い。楽観より、諦観だった。

「アーサーさん、俺は……」

「ミナモト、お前は勘違いをしてる。トラグカナイの野郎がジークの仇だろうが、そうじゃなかろうが、俺にはどうでもいい。怪獣も怪人も、俺が全部ぶっ殺すからだ」

「………」

「不思議か?ミナモト。でもこれが俺の”素”だ。ただただあいつらが憎い。怪獣が憎い。怪人が憎い。なんでか分かるか?親が怪獣に踏みつぶされたから?孤児院が飛行型怪獣に食い荒らされたからか?それとも、ジークが殺されたからか?」

 アーサーが息を整える。そして叫んだ。

「全部正解だ!!全部奪われた!だから俺も全部奪う!殺してやるんだよ!そこに区別はねえ」

 アーサーは肩で息をしながらその場に立ち上がる。そしてタオルと水筒を手に取ると、源に背を向けて、おもむろに出口に歩き始めた。

「アーサーさん……」

「……リリーには、俺が今言ったことは黙っておいてくれ」

 アーサーはそれだけ言うと部屋を後にした。一人残った源は、後を追おうとして立ち上がったが、歩き出せない。

(……そうだ、誤解していたのは俺だ。アーサーさんはトラグカナイだけが憎いんじゃない。怪獣も、怪人も全てが憎いんだ。富士で初めて会ったとき、あの時から溜まっていた深い憎しみが、親友であるジークさんの死をきっかけに噴出したんだ)

「はー……何やってんだ、俺」

(謝らないと……)

 源はアーサーを追って実戦シミュレーター室を後にした。幸い、アーサーはすぐに見つかった。更衣室である。部屋の真ん中のベンチにアーサーは腰かけていた。

「……さっきはすまねえな、源」

 アーサーはこちらを見ずにそう言う。

「謝らないといけないのは俺です。すいませんでした」

「いいよ、別に」

いつもと明らかにアーサーの様子が違う。

(………)

「隣いいですか?」

「え?ああ、まあ……」

 源が隣に腰かけると、まずアーサーが口を開いた。

「……トラグカナイがジークの仇じゃないって、本当なのか?」

「はい」

「見たんだな、目の前で」

「……はい」

 源は何もできなかった。

「そうか……」

 アーサーはそれ以上は言わなかった。ただ前かがみに水筒を両手に握りしめて、地面を見つめていた。やがて、アーサーが言った。

「チッ、そういうことかよ……」

「え?」

「いや、なんでもねえ。それよりそろそろ正午だ。メシ食いにいこうぜ」

「は、はい」

(なんだったんだ?今の独り言……)

 2人は平服に着替えると、アーノルドたちと合流して本部の向かいにあるレストランに入った。

「ここが行きつけなんだよ」

 リーが源に説明する。一向は最奥のテーブル席二つに、分けて座った。アーノルド、源とトラグカナイ。そしてアーサーたちである。

「まあ、察してくれ」

 アーノルドはそう言ってランチセットを頼んだ。源とカナも同じものを頼んだ。やがて出てきたのはハンバーガーセットだった。肉は人工肉だが見た目は中々である。源とカナはそれを一口ほおばってみた。すると、

「おいしい!」

「まあまあだな」

 2人ともあっという間に完食してしまった。

「気に入ったか?」

「はい!お前もそうだろ?カナ」

「まあ、肉は上手かったな」

 カナにしては高評価である。やはりニューヨークともなると、人工肉であっても上質なものが手に入るのだろう。と、

「あ、ソースついてるぞ」

 源がおもむろにカナの口元をナプキンで拭った。

「ッ……!」

「おい、のけ反るなよ」

「おま、こっちくんじゃねえ!」

 カナは慌てて口元を拭くと、源を睨みつけた。

「正気か、お前はよ」

「なにがだ?ああ、そうか。距離が近いってやつか。すまん、カナ」

「………」

(コイツとことんだな……。つーか俺もなんで焦った。今までそんなこと思わなかったのに……)

 カナは疑問を抱きながらポテトを食べた。

 その様子を見ていたアーサーたちはというと、

「ホントにあれが『万能のトラグカナイ』?やっぱり信じられないわね」

 隊員リリー・シルビアが言う。

「同感ですね。あの博士から釘を刺されているにしても、という感じです。それにしても疲れた……」

 リーが深いため息をつく。

「………」

「おいアーサー、どうかしたか?」

 アーサーの様子を見かねたカートマンが尋ねる。

「別に何も」

「ウソね。いまさら隠し事?」

 リリーが即座に否定する。リリーはアーサーとジークの幼馴染であった。アーサーは向かいに座るリリーをチラッと見ると、視線を落とした。

「……ミナモトと、ジークの話をしたんだ」

「……!」

「たいした話はしてない。やっぱり良い奴だよ、ミナモトは」

 アーサーはそう言ってようやくハンバーガーを食べ始めた。それを見つめるリリーの表情はどこか険しかった。

(昔、同じようなことがあった。私たちが出会った、フィラデルフィアの災害孤児院。そして13歳の時に孤児院は、前触れもなく飛来した飛行型怪獣によって破壊された。園長先生も、友達も、私たちを残してみんな怪獣に食べられた。その葬式の後、集団墓地の前に立ち尽くしていたアーサーと、今のアーサーは同じだ。でも、あの時励ましてくれたジークはいない)

『アーサーは弱えからな。俺が守ってやんだよ。アイツが死んじまうのは、なんか気に入らねえ』

 どうすればアーサーは立ち直るのか。そもそも方法はあるのか。リリーは一人悩んでいたのだった。

 そして1週間後、源たちの元にとある連絡が届いた。

「ネバダ州で”封じ込め”中だった大怪獣が活動を再開した」

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