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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
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目醒めぬ才

 警備兵を倒し、エレベーターに乗り込んだ周たちは、次の段取りを考えていた。

「光学迷彩も万能じゃない。あと数分もしたら充電が切れる」

 医務官は言う。それに出羽は、

「確か光学迷彩は実体ホログラムの集合体だったな。であればホログラムを細かく分けて監視カメラの隠蔽に使えばいい」

「そうしたら俺たちは無防備になる。階層が上がるにしても警備兵の装備は強力ですよ?」

「対人戦闘において、最終的な勝敗を分けるのは個人の技量だ。どんな重火器でも引き金を引かなければ弾は撃てない」

「………」

 医務官はまだ出羽の実力を疑っている様だった。第三次大戦の英雄といえど、それも30年前のことだ。現役の頃の様にはいかないと、医務官はそう分析していた。

「……とりあえず、長官殿の意見に従います。他に良い案が浮かばない」

「分かった。周、お前もそれでいいな」

「……はい」

 周は答える。出羽はその返事に違和感を覚えた。

「どうかしたか、周」

「い、いえ。少し、疲れが……」

 周はそう言いかけて、その場に倒れた。

「な!」

 驚く医務官をよそに、出羽は素早く周の脈を調べた。

「少し脈が荒い。恐らくは疲労による失神だろう」

「疲労……過程変異か!」

(それにしても早すぎる。恐らく通常の稼働時間より半分。過程変異のブランクがあったのか?)

 医務官は考察したが、どれも推測の域を出ない。それよりも、周をどうするかが問題であった。

「長官殿、彼女は……」

「ああ、私がおぶっていく」

「……は?」

「東雲たちが収容されている場所はこのエレベーターを出て5分ほどのところだ。周は体重も軽いし荷物にならないだろう」

「それは……」

(軽いって言っても最低30キロ以上はあるだろうに……本気で言ってるのか?この人は)

「……疑うのも分かるが、かといって周をどこかの空き部屋に隠しても助けには戻れない。これが最善だ」

 出羽は何事も無かったかのように周をおぶってグロックの安全装置を確認している。

「……分かりました。ただ、彼女は俺がおぶっていきます」

「だめだ」

「なぜ…!」

 医務官が反論しようとしたとき、出羽はおもむろに持っていたグロックを医務官の額に向けた。そして言った。

「信用できない。例えば君が周を殺すかもしれない。一人で逃げ出すかもしれない。スパイかもしれない。可能性はいくらでもある。君はその全てを否定できるか?」

 そう言われて医務官はたじろいだ。

(当たり前のことだがこの人、生粋の軍人だ…!)

「答えてくれ」

「………」

 医務官は答えられずにいた。そして場の緊張がピークに達した時、エレベーターの扉が開いた。出羽はグロックを下ろすと、声は出さずに口で

『ついてこい』

 と言って周をホログラムで覆った。そしてエレベーターから降りた。

 降りた先には警備兵が三人、こちらに背を向けて立っていた。その内の一人がこちらに振り向こうとしたとき、出羽は胸のアーミーナイフを取り出して、素早くその兵士の喉を掻き切った。そしてそのままの勢いでナイフを逆手に持ち替えると、右隣の兵士の喉も切り裂いた。ほんの1秒の間に、2人の兵士は言葉にならない声を上げてその場によろめいた。そして、それに左隣の兵士が気づき、腰のグロックに手をかけた時、すでに兵士は首から大量の血を噴き出してその場に倒れていた。

「行くぞ、一々時間をかけられない」

 そう言って曲がり角を覗く出羽に、医務官は言葉を失っていた。医務官は、今起きた一部始終を飲み込めずにいた。

(早すぎる…!いくらなんでもこれは、これはおかしい!たった2秒で3人を無力化するなんて、今の今まで聞いたことも見たことも無い!それにあの落ち着きよう。収容房にいたときから感じていたあの違和感。そうだ、彼はずっと俺も彼女も見てなかった!ただ通路の先、兵士が来るであろうポイントを常に警戒していた……)

 医務官は生唾を飲み込んだ。

(これが関東軍の英雄、対馬の生き残り……)

 すでに医務官の頭の中には、出羽に対する侮りや疑いは一切なかった。そんな時に出羽は医務官に尋ねた。

「……医務官、光学迷彩をくれ」

「は、はい」

 医務官はすぐに半透明のローブを出羽に渡した。受け取った出羽は、躊躇いなくローブの端をナイフで裂くと、グロックにその切れ端を巻き付けた。

「あの、一体何を……」

「見ての通り、カモフラージュだ。消音器もない拳銃はいざと言う時以外には使えない」

 出羽はそう言うと、医務官に監視カメラの偽装を指示した。医務官は指定された監視カメラにホログラムを飛ばし、その機能を遮断した。

「……上出来だ。行くぞ」

「はい」

 出羽たちは、通路が無人であることを確認すると、移動を開始した。その道中、監視カメラが出羽達の姿を捉えることは無かった。出羽の指示した監視カメラは全て、東雲たちの収容されている部屋への最短ルートに設置されているものだった。そして、ついに出羽達は目的の部屋のある通路にたどりついた。だが問題が発生した。

「怪人…?」

 通路の先には、重武装の兵士に交じって、比較的軽装の兵士が2人混じっていた。どちらも武装は無く、ナイフすら持っていない。

「長官殿、相手は6人で内2人は恐らく怪人です。どうしますか?」

「………」

 出羽は冷静に案を練っていた。

(人間の兵士4人はライフルを構えてもいない。怪人の兵士が一緒にいるからか……怪人の方は拳を軽く握って臨戦態勢。生身で突っ込んでも怪人は落とせない。やはり光学迷彩を……)

 だが出羽はさらに考えた。

(……それでは周をこの医務官に任せることになる。それでは余りにリスクが大きい。となると……)

 この場から動かずに、かつ周を背負ったまま倒すしかない。出羽はその時初めて緊張した。

(やはり足が竦むか)

 出羽はその時、あろうことか少し笑った。そしてそれを医務官は見ていた。

(笑った……なぜ?諦めたのか?)

 医務官はうっすらと不安を感じた。出羽はそんな医務官に言った。

「医務官、いざと言う時は周を連れて逃げろ」

「周を連れて、って長官殿。俺のことは……」

「信用はしていない。だが、君には借りがある」

「借りだなんて、それなら俺も……」

「いいから『はい』とだけ言え。借りうんぬんはただの理由付けだから、勘ぐらなくていい」

 そういう出羽は、先ほどとは変わってどこか悲しそうな顔をしていた。まるで過去の記憶を思い出すような、そんな顔をしていた。

(長官殿が、あんな顔を……)

 医務官はそう思うと、もう反論することは出来なかった。そして出羽は、周を医務官に預け、自分はなけなしの光学迷彩を右腕に巻くと、曲がり角から迷彩をかけた右腕を露出させた。兵士たちはもちろん気づいていない。

(初弾だ。初弾が最も重要。生死を分ける分岐点だ…!)

 出羽は片腕で狙いを定めると、ピタリと制止した腕の先、人差し指をわずかに曲げて引き金を絞った。パーンという軽快な発砲音と共に、出羽の撃った初弾は、怪人の首を貫通してそのままもう一人の怪人のこめかみを深く穿った。

「な、なにが…!」

 目の前で大量の血を噴き出して倒れる二人の怪人に、兵士たちは慌ててライフルの安全装置を解除した。だが、その間は彼らの頭を銃弾が貫通するには十分な時間だった。立て続けに鳴り響く発砲音とともに、4人の兵士たちの内3人が一瞬で絶命した。そして残った最後の一人は、顔面に戦友のぶちまけた脳髄を浴びてその場にへたり込んだ。

「行くぞ!今がチャンスだ!」

 出羽は医務官にそう言って曲がり角から飛び出した。そして座り込む兵士にグロックを向け、そして止めた。出羽はその兵士を無視してドアの隣にあるパネルに銃弾を撃ち込んだ。するとシステムはダウンし、ドアのロックも解除された。そして開けた扉の中には、東雲たちがいた。

 東雲と赤本、そして諏訪部は白石と緑屋を庇うようにこちらを警戒していた。そして現れた人物を見て、驚きと共に警戒を解いた。

「出羽長官…!」

「話はあとだ、すぐに地上に出るぞ」

 それに東雲が言った。

「長官、後ろの彼は?」

 医務官はなんと説明すればよいか一瞬迷った。が、出羽が言った。

「ここの協力者だ。周とともに私を救出した」

「周……千秋ですか!千秋は生きているんですね!」

「ああ、この通りだ」

 出羽は医務官の背負う周を見せた。

「失神ですか……」

「過程変異の影響だろう。それより東雲、義手はどうした」

 出羽の目線の先には、所在無げに揺れる、空の右袖があった。それに赤本が答える。

「義手も装備品扱いで没収されたんです」

「分かった。では」

 出羽がそう言いかけたところで、白石が口を開いた。

「あの、源さんは……」

「ああ、無事だ。だが最深層に留まってアシュキルの足止めをしている」

「………」

 複雑な表情をする白石に、出羽はあえて声を掛けなかった。そして言った。

「いいか、まずは自分たちの安全を考えろ。そして必ず生きてここから脱出する」

「はい!」

 東雲たちは応えた。

(いい仲間を持ったな、源、周)

 出羽は心の中でそう呟くと、周囲の安全を確認して部屋を出た。そして声がした。

「ひ、東E区画に脱走者あり。繰り返す、東E区画に……」

 そこで出羽は兵士の頭を撃ちぬいた。出羽の額には汗が滲んでいる。

(しくじった!なぜ私はコイツを殺さなかったのだ!)

 出羽はすぐに東雲たちに言った。

「すまない、ここがバレた。エレベーターまで走るぞ」

 出羽はグロックの弾をリロードした。

 数分後、出羽たちは最寄りのエレベーターへと駆けていた。東雲たちは兵士の死体から武装を奪っており、道中の敵をなんとか撃退していた。

 そして中央エレベーター乗り場まで到達したとき、そこには彼がいた。それも、出羽や東雲たちが尻込みするほどの怒気を周囲に放ちながら。彼は言う。

「……何時までも何時までも、貴様らは我等から、戦争から、闘争から逃避し、挙句に面白みも無い病床の上で死に果てる」

 その時、後ろでエレベーターが開いた。彼は続ける。

「我は何時まで待てばいい!何時まで我は、赤子をあやすが如くに、貴様らを見守ってやる必要があるのだ!もう我は待たんぞ、アカモト!此の死地でさえも目醒めぬ才ならば、我が直々に貴様の全てを一片も残さず殺し尽くしてやる!奮い立て!力を、血を、肉を見せてみよ!」

「レストア……」

 赤本は呟いた。レストアの気迫に押され、赤本の頬を嫌な汗が伝っている。恐怖を感じている。さらに、レストアの後ろ、エレベーターから降りてきた彼らに、今度は東雲が絶句した。

「伊地知大佐…!」

 それは、かつて協会本部で全滅したはずの、自衛隊特殊作戦群、アルファ隊であった。

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