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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
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英雄の血

 周が医務官とともに光学迷彩を手に入れている頃、源は未だ部屋に留まっていた。

(やっぱり俺も行くべきじゃないだろうか……)

 源はおもむろにソファから立ち上がると、そうカナに問いかけた。カナはうんざりとした感じで答える。

「だからダメだって言ってんだろうが。お前が派手な行動を取れば、ほぼ確実にそのことがアシュキルやレストアに知られる。まずはアマネとか言う女の出方を見ろよ」

 もう3回目だぞ、とカナはため息をついた。

「大体、そんなに心配なら気配でもなんでも探ればいいじゃねえか」

(気配を探るって、そんな漫画みたいなことできるかよ)

 またしてもカナはため息をついた。

「そのための過程変異だろうが……」

(あのレッスン1ってやつか?)

「そうだよ。感覚器官の強化及び拡張、それを使えって言ってんだ」

(……分かった、やってみる)

 源は目を閉じると全身を脱力した。極力脳以外にリソースを割かないようにするためである。体の運動を意識から遠ざけ、さらに無意識の奥へと押しやる。深層意識を何度か知覚したことのある源にとってそれは、常人と比べて遥かに容易だった。そしてようやく準備が整う。ほぼ全意識を脳に集中させて、そして強くイメージするのだ。

(さらに遠く、近く、細かく、詳細に情報を取り入れ分析する……)

 そうして源は段々と意識を脳から下ろしていく。目や鼻や耳や皮膚を通り、爪の先まで意識を流し込む。その流れの後には、神経を増やし、繋げ、合成し、常人の何十倍も強化された感覚器官がなんの違和感もなく動き始める。

(……出来た)

 源は手のひらを見つめながら言った。今の視力ならば手の指紋の間までも見ることが出来るだろう。

「まあ及第点だな」

 一部始終を見ていたカナはそう言う。

「改善の余地アリだ。まず脱力が足りねえし、なげえ。あれじゃあいざ敵と相対した時にあっさり殺されちまうぞ」

(ああ、そうだと思う。それにしても、カナはこの流れをほんの一瞬でこなすんだろ?やっぱりすごいな、お前)

「……今更かよ。それより、アマネの居どころは分かったのかよ」

(もちろん。千尋ちゃんは今、ここから1キロ弱離れた空間にいる。周りに失神した人間の気配がある。怪人のもだ。それと多分、千尋ちゃんは一人じゃない。意識のある人間が一人いる)

「多分協力者だろうな。アマネ一人でこの階を通り抜けるのはまず不可能だ」

 その時、周の気配に動きがあった。

(一人気配が増えた……)

「増えた?外から誰か入ってきたか」

(いや、それとは方向が違う。むしろ入り口よりも反対の、部屋の奥のような……まさか!)

「捕虜収容房、だな」

(それなら周囲の失神した人間たちと怪人にも説明がつく)

 つまり一連の流れとしては源か東雲たちを助け出す為、収容房に向かい、護衛を倒した。そして誰か一人を助け出した。

(一人ってことは班長たちじゃない。一体誰だ?)

「それを実際に確かめればいいんじゃねえのか?」

 カナは言った。つまり、今が周の元へ向かうタイミングだと言うことだ。

(レッスン2か……)

「エネルギー消費の効率化と身体増強。出来るよな?」

(出来なきゃ死ぬんだ。今度こそ成功させてやる)

 源は今度は目はつぶらなかった。その代わり、手を強く握りしめた。爪が手のひらに突き刺さり、血が滲むぐらい強く、限界を超えて強く握りしめた。すると、体内の臓器や腕や足の筋肉が蠢き始めた。源の経験からくる豊かなイメージによって体組織が急激に作り変わっているのだ。だが問題が起こる。

「ッ……!」

 突如源の全身に強烈な痛みが走り、源は思わず手を開いて地面に這いつくばった。

「クソッ!どうして……!」

「まだ足りねえか……」

 ふとカナは呟いた。そして言った。

「おい、ミナモト。一つ提案がある」

(なんだよ、かしこまって……)

「俺にお前の体を貸せ。アマネの元に向かうまでで良い」

(分かった)

「は?」

(だから、カナの提案を受ける。多分俺はまだステップ2には進めない。ここは一旦カナに体を貸した方が理に適ってる)

「おま、お前それで良いのかよ……」

 カナは戸惑いながらそう尋ねる。

(納得はしてない。だけど、多分それ以上に千尋ちゃんや皆の事が大事だ。俺のエゴは最後でいい)

 それを聞いたカナは動揺した。

(コイツ、こんな精神状態でなんで平然とそんなことが言えるんだ!泣きたくなるほど悔しがってるってのに…)

 やはり似ていた。その都度否定してもやはり否定しきれない。この男は、源王城と言う男はやはり、かの英雄の血を継いでいるのだ。カナは無意識のうちに、源に畏敬の念を覚えいていた。内に抱く思惑を一時中断せざるを得ない程に。

「……分かった。ただし俺が代わるのはアマネの元までだ。そこから後はお前でなんとかするんだな」

(ああ、頼む)

「………」

 その瞬間、源の意識はすうと薄れていき、そしてそれと入れ替わるように、カナの意識は段々と現実味を帯びてきた。そして数秒もすると、カナと源の意識は入れ替わった。

「器用だな、カナ」

(静かにしとけ、気が散る)

 カナは体を動かしてみて、その特徴を把握していた。

(間合いは十分。素の身体能力は中の上か。いや、それよりもこの体、よく馴染む)

 カナは一通り体を動かしてみて、おもむろにテーブルの端を掴み、そして軽々と持ち上げた。

(細かなコントロールも出来るのか……)

 カナはますます源の恵体ぶりに感心した。

「なあカナ、そろそろ……」

(あ?ああ、そうだったな。少し急ぐか)

 そしてカナは言った。

「過程変異」

 その瞬間、同じ階にいた怪人全員と上の階にいたレストアが、ほぼ同時に突如現れたその強烈な気配を敏感に感じ取った。カナはそれを予測していた。だから変異したのは脚部だけ、逃げに特化した対応策だった。

「行くぞ」

 カナは鋼鉄の扉を蹴り飛ばすと、真横にいた兵士の首をへし折り、胸の手榴弾のピンを抜いた。ドアを蹴破った轟音を聞きつけ現場に駆けつけた兵士たちは、手榴弾の爆発に巻き込まれることとなった。その頃には、カナは中央の実験区画を猛スピードで駆け抜けていた。その刹那、カナはあるものを発見する。それは区画の中でも一際大きい円柱の透明な容器だった。その中に浮かぶ赤い球に、カナは見覚えがあった。

(大規模データベース……こいつらこんなものまで作ってやがったのか)

 カナはそのまま実験区画も抜け、警報の鳴り響く中、ついに収容区画まで到達した。そして減速しようとしたその時。カナの真横、いくつかに分岐する通路に一人、あの男がいた。

(アシュキル…!)

「久しぶりだね、トラグカナイ」

「チッ…!」

 カナはまたもや加速し、アシュキルを通り越した。そしてそのまま収容房に続く通路を通りすぎ、突き当たりの壁に衝突した。カナは大きく凹んだ強化壁からめり込んだ体を剥がした。そして目の前には周たちがいた。

「源、さん?」

 周は恐る恐ると言った感じでカナに尋ねた。

(この女、中身が源じゃないと感付いてるな。過程変異か?)

「……大丈夫、問題ない」

 カナはそう言って服についた埃を払うと、源に語りかけた。

(おい、もう変わっていいぞ)

「……その時間は無いと思うぞ」

(何?)

 源の答えに、カナが周越しに通ってきた通路を見ると、そこにはアシュキルが立っていた。それも、特に殺気立った気配をカナにだけ伝えている。

(……悪趣味な野郎だぜ。源、交代は一旦無しだ)

 カナは周たちに言った。

「左に行けばエレベーターがある。それを使って上がってくれ」

 それに周が反応した。

「……!源さんも一緒に行かないんですか?」

「追手が来てる。誰かがここで足止めする必要があるだろう」

「それなら私が…!」

「駄目だ、確実に死ぬ。俺でなければ」

「……わかりました」

 周は渋々折れた。出羽長官は状況を察してか話しかけては来なかった。そして周たちがエレベーターに向かう直前、周はカナにだけ聞こえる声で言った。

「もし源さんを死なせたら、その時はタダでは済ませないぞ」

「……いいから行け、小娘」

 カナは周たちを送り出すと、アシュキルに相対した。

「もう話は済んだかな?」

 アシュキルはポケットに手を突っ込んで、待ちくたびれた、という風に言った。

「なぜ奴らを殺さなかった」

 カナはアシュキルの様子に若干苛立ちながら尋ねる。

「上にはレストアがいる。それに、こちらの方が大事だ」

「とんだストーカー野郎だな。だから大君に避けられる」

 カナがそう言った時、にわかに空気が重く冷たくなった。無意識のうちにカナは冷や汗をかいている。

「脳の無い煽り文句も健在のようだね、元副隊長」

「そういうお前は気味のわりい陰湿さが増してやがるな」

「ははは、そう死に急ぐことも無いだろうに」

「死ね、アシュキル」

「残念、そっちが命日だ」

「あ?」

「お前を殺す、トラグカナイ」

 アシュキルは銃をポケットから取り出し、源の心臓を撃った。弾丸は確かに心臓を貫通し、カナの意識は薄れ始めた。薄れゆく意識の中で、アシュキルの声が響いた。

「お前はハナからお呼びじゃないんだ。さっさと彼に変わってくれ」

 そして強い痛みと共に、源は目を覚ました。アシュキルは言う。

「さあ、話の続きをしよう」


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