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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
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外部の協力

 源がアシュキルと対面したころ、東雲たちはその上の階の収容房にいた。

「すまない、私が人感センサーを注視していなかったばかりに……」

 緑屋はそう言って先ほどの事を詫びた。

「それを言うなら僕だって同じだ。君だけの責任じゃない」

「私だってそうです」

 諏訪部と白石がそれに反論する。

「でも……」

 なおも言おうとする緑屋を東雲が制した。

「それくらいにしておけ。反省はいいが、後悔は何も生まん。それよりも今は、ここからどうやって出るかが重要だ」

 赤本は壁を、その材質を確かめるように触って言った。

「恐らくこの壁は。いや、部屋全体が西暦時代の工法に拠って造られています。少なくとも今みたいな3Dプリントじゃない」

「裂傷破壊は無理か……」

 そこで会話は途切れた。居心地の悪い沈黙が流れる。そして、それを破ったのは白石だった。

「源さんは、どこにいるんでしょうか……」

「兵士たちの情報が正しければ、おそらくはここにいるんだが……」

 東雲が答える。東雲たちは長崎に移送される途中、源が南部連合に拉致されたことを兵士の無線越しに知っていたのだ。

「アイツは怪人たちから大君と呼ばれ特別な扱いを受けていました。独房に入れられている、みたいな事は無いように思います」

「そうだな。奴らはそれほど源に入れ込んでいた」

「だとしたら源君が重要になってきますね」

 諏訪部が言う。

「2人の予想が正しければ源君はどこか適当な部屋に軟禁されているか、それよりも自由度の高い扱いを受けている可能性が高い」

「つまり源に外部から手助けをしてもらう、ということか」

「そうです。正直、僕達だけでここから脱出するのは不可能に近い。源君でないにしても、外部の協力は不可欠だと思います」

「その通りだな。とすると、他に挙げられるのは……」


 その頃、千秋こと周は、ベッドの上に横になっていた。

「ここは……」

 周が体を起こそうとすると、不意に胸に鈍い痛みが走った。

「ッ……!」

 周が下を向くと、胸の辺りに包帯が巻かれていることに気づいた。

(そうだ。私、四日市で心臓を撃たれたんだ……)

 周は傷を庇うようにゆっくりと起き上がると辺りを見渡した。その光景を、周は良く覚えていた。真っ白で清潔な室内に、奇抜な見た目の医療機器。

(ここは、医療抗?)

 医療抗とは、かつて富士工業地帯に置かれていた神獣協会本部で、人体実験を受け続けた周が実験後にいた、いわゆる医務室であった。

(じゃあ私がいるのは協会本部……でも、本部はすでに閉鎖されているし……)

 その時、不意にドアが開き、白衣を着た男が入ってきた。男は体を起こしている周を驚きの顔で見つめると、

「し、信じられん。まさか自然治癒でここまで……」

 と呟き、急いで機器の画面を確認した。それを周は何も言わずに観察していた。

(見ない顔……新しく配属された医務官かな。私が起きている事に驚いていたし、多分人間だ)

 医務官はなおも信じられないという表情でモニターを見つめていたが、ついに周に話しかけてきた。

「……もしかして君は、怪人なのか?」

「まあ、半分は……」

「半分!そうか、彼らならそういう芸当も可能なのか……」

「あの、貴方は医務官ですよね」

「ん?ああ、そうだが」

「ここはどこなんですか?」

 その問いに医務官は手を止めて周を見た。そして言った。

「長崎だ」

「……!そんなところまで!」

「驚くのも無理はない。なにせここは連合の大本営だからな」

「やはりここは南部連合の基地なんですね……」

「そう落胆するな。別に君を拷問したりする訳じゃない。そもそも君はまだ11歳だ」

「………」

(この人、私を11歳だと思っているんだ。そこまでの情報を与えられるほどの地位じゃないんだろうな)

「……あの、私お手洗いに行きたいんですけど」

「それならそこに尿瓶が……いや、すまない。ついてきてくれ」

 医務官は周の点滴を外した。そして2人は部屋を出た。周は予想より簡単に外に出られた事に戸惑いながらも、歩きながら周囲を観察した。

(壁の質感的に、作りは古いみたい。多分コンクリートの上から強化壁を貼り付けてる)

「着いたぞ」

 少しして不意に医務官は立ち止まると、目の前の扉を指差した。

「あそこがトイレスペースだ」

「ありがとうございます」

 周がその扉に入ろうとした時、医務官に呼び止められた。

「あ、待ってくれ」

「なんでしょう?」

「そこのトイレは設備が古くてな。30年も前のものなんだ。だから……」

「大丈夫です。使い方は分かりますから」

 周はそう言うと扉を開けた。その先は少し開けた空間になっており、左右に男女の表記がなされたドアがあった。周は女子トイレに入ると、まず天上を確認した。そして洗面台の上にそれを発見した。

(やっぱり通気口がある。あの医務官はここの設備を30年前のものだと言っていた。それに室内の作り。そもそもこの建物が作られたのは西暦なんだ。だから自動ドアは無いし、通気口もある。そして……)

 別の部屋に通じるようなダクトもあるはず。

 周は最初から東雲たちがこの施設に囚われていると予測していたのだった。

(まずはダクトを見る。そして医務官を無力化させて潜伏するんだ)

 周は洗面台の上に登ると、なんとか背を伸ばして真上の通気口を開けようとした。と、不意にガチャリというドアを開ける音がしたかと思うと、誰かがトイレに入ってきた。それはレストアだった。レストアはドアを開けると、まず目の前の洗面所を見た。そして周を発見した。

「さてと……ん?貴様、見ない顔だな」

 周はちょうど蛇口を捻ろうとしていたところだった。

「あ、えっと……」

「迷ったか」

「は、はい!ちょっとケガをしちゃって」

 周はそう言いつつ、内心安堵した。

(あと少しで通気口を覗こうとしたのがバレる所だった……。それにこの女の子、多分怪人だ)

 レストアは手を洗う周をじっと観察していたが、

「分からなければ近くの大人に聞け。技術者連中は案外優しいぞ」

 と言って個室に入っていった。周はペーパータオルで手を拭くと、すぐにトイレを後にした。

「お、戻ってきたか」

 通路ではあの医務官が壁に背をもたれて周の事を待っていた。周はそんな医務官に尋ねた。

「あの、今トイレに入っていった女の子って、誰だかわかりますか?」

「女の子?ああ、レストアさんのことか」

「……!れ、レストア!?」

「なんだ。知ってるのか?」

「いえ、なんとなく聞き覚えのある名前だったので……」

(まさか彼女がレストアだなんて。いつ肉体を変えたんだろう……)

「確かレストアさん、上司がいうには中身は男らしいんだが、どうもそういった意識が希薄らしくてな。それよりも適合率を優先したらしい」

 周はそれを聞いてゾッとした。周が人体実験を繰り返されたのは、今のレストアのような怪人の素体になるためだった。

(私や子供たちがあの協会本部から救出されていなかったら、今頃素体に……)

 そう思うと、周は自然と拳を握っていた。

(……今度は私が助ける番なんだ。だから、レストアなんかにビビッていられない)

 周は決意を固めると、前を歩く医務官に気づかれないぐらいの声量で呟いた。

「過程変異」

投降頻度落ち気味

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