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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
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最悪の答え

 首相官邸、総理執務室にて、

「なんだと!?」

 神原総理はそう言って思わず椅子から立ち上がった。部下の鎌田は神原の怒気に圧倒されながらも続ける。

「で、ですからつい先程、対核コンテナに収容していた源王城が怪人に…」

「それは聞いた!私が問いたいのは、自衛隊と米軍はその間何をしていたのかだ!怪人一体に敗北する戦力を送ってはいなかったはずだ!」

「それが、その怪人というのがレストアと呼ばれている指折りの怪人らしく…」

(まさか、あのレストアか……)

 神原はその名前を聞くと深くため息を吐いて椅子に座り込んだ。

「使い捨ての駒の様に最大戦力を単独投入。およそ正気とは思えん……」

 そう言って神原は頭を抱えた。

(源が拉致された今、我々はアメリカや諸外国への最も有力な交渉手段を失った。恐らくアメリカは海兵隊の派遣を中止か延期するだろう。国連も富士の工場地帯を維持する程度の軍しか送ってこないはずだ。そして、万が一にもこの軍事クーデターを対処仕切れなかったら…)

 日本は滅ぶ。神原はそこまで考えて体が震えた。

「……鎌田、源の奪還部隊は編成出来るか」

「前線は以前膠着しています。そこから兵站を引き抜けば、その均衡が崩壊する恐れが」

「では特戦群を……いや、奴らこうなる事を見越して特戦群を壊滅させたのか……」

 神原はまた頭を抱えた。

「総理、SATの予備隊であれば行動可能ですが…」

「……出羽のことがある。怪人に勝てるはずがない」

「では、対怪獣機構を……」

「国連からの支援が受けられなくなる可能性がある」

「では……」

 そこで鎌田は黙ってしまった。すでに取りうる選択肢は尽きていたのだ。それは神原も知っていた。

しかし、神原は思い出した。唯一怪人に対抗しうるあの班のことを。

「鎌田、怪獣特殊処理班はどうだ?」

「……!四日市で浄化にあたっています。すでにそれも完了しているかと!」

「分かった。すぐに連絡してくれ」

 神原の心に、一筋の光明が差し込んだその時、傍らに置いてある内線がけたたましく鳴った。

「はい、神原」

 それをとった神原に、電話主は絶望的な声で言った。

「……怪獣特殊処理班が連合軍に捕虜に取られました」


 長崎市の造船所地下には、神獣協会が一世紀をかけて建設した秘密基地があった。その最下層、実験区画では怪人と人間の技術者が、土台に設置された直径10メートルほどもある巨大な球を前に、先ほどの検査結果について議論していた。

「……ミアレ、この数値をどう見る」

人間の技術者は難しい顔をしてタブレットの画面を覗いている。

「予想通りだよ。良くも悪くも」

ミアレと呼ばれた怪人は画面を見ずに球を見つめていた。

「桁違いの精神構造に、その半分を掌握する同化プログラム。俺は全くの想定外だ。どれもゼロが5つは多い」

「アメリカのサンプルは所詮記録用だからね。あくまで我々の基本情報しか刻まれてない」

「それでも今までの適合者には充分照らし合わせることができた。一体どうなっているんだ、この源という男は」

「大君ギルガメシュの子孫だ。このくらいの値はでる。☆や、そうでなくてはならない」

「またそれか。そもそも、なぜ今になって大君の記憶と精神構造が覚醒した」

「君は聞いていなかったか。……彼は一度、我々が殺そうとしたんだよ」

「まさか、怪獣に撃墜されたっていう…」

「そう、だけど君も知る通り彼は死ななかった。その時に彼の精神は強い衝撃を受け、そして目覚めたんだ。大君としての記憶が」

 まだ潜在的だけど、とミアレは言う。

「あと一歩だったんだ。日本かアメリカに彼の秘められた絶大な力を御されるところだった」

「アシュキル殿下は相当焦っただろうな。神獣協会の存在を世にあえて現したのも、大怪獣を操ったのも、そして軍事クーデターを起こしたのも源が原因だったらしいじゃないか」

「まあね。でも殿下が焦ったとは考えずらい。あの方は僕たちの想像も及ばないほど冷静だ」

「……信頼しているんだな」

「感謝もしてる。一万年前、僕たちの命を救ってくれたのはアシュキル殿下だったから」

 そう言うミアレの顔はどこか辛い記憶を思い出している様な複雑な表情をしていた。

「なあミアレ、今源はどこにいる」

「ん?ああ、中央区画の空き部屋に軟禁されているらしいけど、もしかして会うつもり?」

「興味が湧いたんだ。どんな奴なのかって…」


 その頃、源は最下層中央区画の応接室にいた。源は居心地の悪そうに長椅子に座っている。その後ろにはレストアがいる。家具や装飾は必要最低限だったが、簡素さは感じなかった。

「……レストア、赤本さんたちはいつ到着するんだ」

「深夜だ。もう三回目だぞ」

「心配なんだよ。それに、俺は謝らないといけない……」

「何を謝ることがある。アカモトたちが捕虜に下ったのは、単純に力不足だったからに過ぎん。お前がいても結果は変わらなかっただろう」

「なにを…!」

「事実だろう。お前は戦力にならん。拳の握り方も知らぬガキが敵を殺せるのか?」

「そんなこと……」

「ではどうやって敵を、我を殺す。我を殺そうとするならば、人間の力では不可能だぞ」

「……カナの力を借りる」

「トラグカナイはあくまでお前の持つ剣に過ぎん。それを操るのはお前自身だ。自分の持つ力を振るうしかない」

「……そんな力、俺は持っていない」

「はあ、だから貴様は強くならんのだ。己れを見つめる事ができぬから弱い」

 レストアは苛ついた様子で組んでいた腕を腰に当てた。

「いいか、お前はギルガメシュの子孫だ。潜在能力で言えば我に引けを取らぬ。それをなぜ自覚しようとしない。何が怖いのだ、お前は」

「怖いなんて……」

(……いや、レストアの言う通りかもしれない。俺は怖いのだ。自分の中に、覚えのないもう一つの自分が、後世にその名を残すほどの絶大な力を持つ自分がいることが、それを過去から呼び起こすことが怖いのだ。その力に呑まれるかもしれないと思うと、踏み出す足がどうしても動かなかった)

 源はそう思うと拳を握った。

(きっともう、逃げることはできないんだ。俺がするべきは、自分の力を全て使い、自分に出来ることを全てするしかない)

 その時、ガチャリと扉が開いた。そして、どこか見たことのある人物が、いや怪人が入ってきた。

「待たせて済まないね、源君」

 それは金城実こと、アシュキルだった。アシュキルは源ににこやかな顔を向けると、向かいの椅子に座った。

「レストア、席を外してくれないか?」

 アシュキルはそう言ってレストアを退出させた。

「さて、君とこうやって会うのは初めてかな?」

「あなたは、アシュキル……」

「そう、アシュキル・バラン・リコアトル。アシュキルでいい」

「ではアシュキル、俺をここに軟禁してどうするつもりだ?」

「そう警戒するなよ。別に拷問やらなにやらをするつもりはない。ただデータを取らせてもらいたいんだ」

「データなら、さっき脳を検査された」

「それだけじゃ足りないんだ。もっと深い所を……」

「ギルガメシュか」

「……君が言うと少し変な感じがするね。まあいい、その通りだ。僕はギルガメシュをこの世に復活させたい」

「なんだと?」

 アシュキルの発言に、カナが脳内で声をあげた。

「アシュキルてめえ、そんなことをする為に…!」

「ん、この声はトラグカナイか。久しいね、副隊長」

「その名を呼んでいいのはあの方だけだ。てめえが言う資格はねえよ」

「そう怒るなよ、トラグカナイ。君は少し誤解している」

「よくもまあそんな事言いやがったな、クソ野郎。天上分離の日、あの方を殺したのは…」

「待ってくれ!」

 そこに源が割って入った。

「一体何の話をしているんだ」

「君は天上分離についても知らないのか?トラグカナイ、お前と言う奴は……」

「黙れ」

 アシュキルはそれを聞いてため息をつくと言った。

「まあいい、僕から説明しよう。まずはだ、源君。君はラケドニアについて知っているかな?」

「……聞いた事はある」

「そうか。いいかい、ラケドニアとは、この地球に一万二千年前まで存在していた高度知的文明の名だ」

「一万二千年前の文明?この地球にか!?」

「驚くのも無理はない。この事実を知っているのはごく限られた国の上層部と、怪獣や怪人の関係者だけだから」

 源は信じられないと言う表情をしてアシュキルの話を聞いている。

「ラケドニアは今のアフリカ大陸を中心に存在していた文明だ。そして、もう気づいているかと思うけど、すでにラケドニアは滅んでいる」

「それが、天上分離の日…」

「察しが良いね。そう、ラケドニアの王朝は天上分離の日と呼ばれるクーデター事件によって滅亡した」

「ではお前たちは…」

「その生き残りだ」

「……!ということは、今の今までこの地球で生き延びていたってことか?」

「それは少し違う。僕を含めて数人は、確かに今まで地球にいたが、トラグカナイや他の怪人たち、そして怪獣は地球を脱出した者たちなんだ。ほら、北極に隕石が墜落しているだろう。あれは我々の宇宙船だ。その中にコアに変えられた生存者が格納されていた」

「だから隕石が落ちた日にお前たちが……」

「ああ、船に搭載されていた生命維持装置が作動して、乗組員たちはその星の生物に意識を移し、君達の言うところの怪獣や怪人となった」

「まさか、そんな……」

「驚くのも無理はない。でもそれが事実だ」

 源は、それに答えることが出来なかった。まだ今聞いた情報を飲み込めずにいたのだ。そしてそれをアシュキルは静かに待った。数分間の沈黙が続いた後、源が口を開いた。

「……アシュキル、お前たちラケドニア人と、俺たち人間は一体どう言う関係なんだ」

「ラケドニア人は、君達人間の祖先にあたる存在だ」

 それは、源が想定していた限り、最悪の答えだった。




段々判明してきた

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