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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
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有意義な会話

(は、早く場所を変えなければ…!)

 東雲は迷彩を解くとすぐに屋上を駆け下りた。心臓が早鐘の様に鳴っている。それは、初めて人を殺したからに他ならなかった。だが、それに動揺している時間は無い。すぐに次の目標を射殺しなければ班員が殺される可能性が高まる。東雲は2階トイレの窓をそっと開けた。対岸では隊員たちがこちらに銃口を向けていた。

(撃ち合わないのか?なぜこんなにも流暢に構えられる……)

 東雲は敵の対応に疑問を抱いた。そしてまたライフルを構えると、車の車輪を狙って撃った。弾はゴムの部分に命中し、すぐに空気が抜け始めた。それを受けて隊員たちはようやく一斉に発砲した。バリバリと目の前の木々が粉々に砕け散り、事務所の窓ガラスは全て砕け散った。東雲は窓際に隠れながら弾倉を確認した。

(あと一発……せめて敵の隊長を倒せば)

 赤本たちが対岸に渡る隙を作れる。東雲はまた階段を下りて一階から外に出た。すでに橋の横の検問所には赤本が術刀を持って控えている。千秋の姿は見えない。恐らく東雲が解除した立体ホログラムを使っているのだろう。東雲は事務所の左に行き、その場に伏せると、ほふく前進で目の前の砕けた木の根元に移動した。ちょうど茂みが前を覆っていてこちらの姿は見えない。

(確実にいこう。焦るなよ、俺)

 東雲は薬室を確認すると伏射の体勢を取った。そして照門を覗いた。そこには、すでに隊員たちはいなかった。

「な……!」

 東雲が驚くのも束の間、真後ろから声が聞こえた。

「不注意だぜ、人間」

 そして風を切る鋭い音とともに、鈍い金属音が聞こえた。東雲が振り返ると、そこにはアーミーナイフを振り下ろす一人の隊員と、それを受け止める一本の腕があった。その腕は次第に姿を現していき、そして最終的に千秋の姿を露わにした。千秋は装甲を纏った自身の右腕で東雲に振り下ろされたナイフを防いだのだ。隊員はナイフに力を籠めるが、千秋の腕はびくともしない。

「クッ、この力!お前人間じゃ……!」

 千秋はそれには答えず東雲に言う。

「班長!早くこいつの頭を!」

 東雲はやっと気づいた。目の前にいるこの隊員は、人間ではなく、怪人だということを。東雲は素早くライフルをその怪人の頭に向けた。

「ま、まずい!」

 怪人はそれに気づいてナイフから手を離した。が、遅かった。東雲は一瞬の迷いなくその怪人の頭を撃ちぬいた。弾丸は頭蓋の中のコアも貫通して後頭部を抜けていった。そして身体は大きくのけぞり、そのまま力なく倒れた。

「……千秋、助かった」

「いえ。それよりも……」

 その時、ガンッという金属音がした。そして、その音は千秋から聞こえた。千秋を覆う装甲版の胸部には、大きな穴が開いていた。千秋は言葉も発せずにその場に膝から崩れ落ちた。

 東雲は絶句した。

「千秋!東雲さん!」

 遠くで赤本の声がする。東雲がその場に体を起こして見ると、そこには数人の隊員たちの死体の中で、左肩を抑えて膝をつく、赤本の姿があった。そしてその周りには、光学迷彩用のローブを纏い、銃を構えた隊員たちが囲んでいた。その内の一人が東雲に声をかけた。

『貴様が班長か?そうであるならば聞け』

 その隊員は拳銃を取り出すと東雲に向けた。

『これより、南部軍事協定第4条に基づき、お前たち怪獣特殊処理班を拘束し、捕虜とする』

「……!捕虜だと?」

『拒否するか?』

 隊員は引き金に指をかけた。後ろの隊員たちも赤本に狙いを定める。

『拒否するならば全員殺す』

「……」

 東雲はすぐに考えた。

(ここから赤本と俺だけでこの人数を相手取るのは不可能だ。自衛隊の到着も早くてあと5分くらいだろう。それに、千秋が……)

 東雲は自身の不甲斐なさに拳を強く握ると言った。

「……投降する」

『了解した。暫定的に私が貴様らの生殺与奪権を持つ。くれぐれも変な気は起こすなよ』

「分かった……ただ一つだけ」

『……なんだ』

 東雲は両膝をついて動かない千秋を見て言った。

「この班員の応急処置を願いたい」

『断る』

「ッ……!捕虜規定に最低限の生命の保証について書かれていないのか?」

『……チッ、どうせ助からんぞ』

「体は丈夫なはずだ。早く処置を!」

『……右から2人、この班員を担当しろ』

 その隊員の指示で、赤本を囲んでいた輪から2人、隊員が千秋に駆け寄ってきた。東雲と話していた隊員はすぐに次の指示を出し始めた。

『目標班員2名をただちに拘束。死体からはドックタグを回収、残りは全て燃やせ』

 南部連合の隊員たちは、拘束した東雲、赤本をすぐに車に乗せると、後続の車両に千秋を乗せてその場を走り去った。自衛隊の護衛部隊が現場に到着したのは、その30秒後だった。


 その頃源は、レストアと共に都内某所を歩いていた。大通りには郊外に逃げようとする車の渋滞が出来ており、ひっきりなしにクラクションの音が鳴り響いている。そんな中、源たちは人混みをかき分けるように歩道を歩いていた。そして、なぜかレストアはその身体にも拘わらず、歩くのがとても速かった。

「オイ、レストアが見えなくなったぞ」

(でも今なら……)

「だから無理なんだよ。今だってこの人混みの中、お前の場所を正確にキャッチしてる」

(全部筒向けなのか……)

「当たり前だ。奴はあの方に並ぶ才能の持ち主だった」

(ギルガメシュにか?)

「……そうだ。だから戦ってもまず勝てねえんだよ」

(それは、カナでもか?)

「は?」

(カナでもレストアには勝てないのか?)

「なんで俺なんだよ。そんなの……勝てるわけねえだろうが」

(でも記憶を見た限りだと、俺の知る中でレストアを除いてカナが一番強かった)

「俺は強かねえよ。だから……」

(だから?)

「クソッ、しゃべりすぎた。良いから歩くことに集中しろ」

(分かったよ)

 源は人混みをやや強引にかき分けると、レストアの真横に追いつくことに成功した。

「どうだ。有意義な会話はできたか?」

 レストアはそう尋ねてきた。源は答える。

「アンタからはどうやっても逃げられない。その結論に落ち着いたよ」

「そうか、それは賢明だ。相変わらず自己分析が上手いようだな、トラグカナイは」

 レストアはどこか懐かしそうに言った。

(だそうだ、カナ)

「だから苦手なんだよ、レストアは」

 カナは不本意そうだ。

「トラグカナイで思い出したんだが……」

 レストアは不意に空を指さした。上空では今まさに朱雀が通過して、巨大な影が横切った。周囲から悲鳴が上がる中でレストアは続けた。

「あの怪獣、中身はセイレアだ」

 その言葉に驚いたのはカナだった。

「な、セイレアだと!?」

(知り合いだったのか?)

「……俺の同僚だ」

 レストアは尚も語る。

「思い返せばもう1万年以上も前か。なんとも不思議な感覚だな」

 それに源は思わず尋ねた。

「……レストア、もう教えてくれてもいいんじゃないか?」

「なんのことだ?」

「お前たちについてだよ。俺も、社会も、お前たちの事を知らない。一体なんなんだ、教えてくれよ」

「てっきりトラグカナイから聞いているものかと思ったのだが……。なるほど、逃避的な優しさも変わっていないわけだな」

「俺の質問に答えてくれ、レストア」

「我からは教えられんよ。そもそも、すでにお前は思い出していてもおかしくは無いのだ。これだけの環境が揃っていながら、自分に関することすら分かっていないのは、お前の怠慢に他ならない」

「そんなことを言われても……」

「どうすることも出来ない、か。まあ、所詮は子孫だ。期待しすぎるのも良くない」

 レストアはため息をついた。それに源は若干に苛立ちを見せた。

(期待しすぎるのも良くないだと?勝手に期待して勝手に失望しているのはそっちじゃないか)

「ここで曲がるぞ」

 そんな源の胸中はいざ知らず、レストアは着々と目的地へと向かっていた。2人は大通りから細い路地に入り、しばらく歩いていくと、人気のない裏通りにでた。周囲の建物から察するに、ここは進攻前の街並みがそっくりそのまま残っている様だった。そんな閑散とした道の隅に、これまた古めかしいガソリン車が止まっていた。

「あれに乗るぞ」

 レストアに言われるまま車内に乗り込むと、戦闘服でもない普通の服を着た運転手が何も言わずに車を出した。と、その時運転手に電話がかかってきた。運転者はそれを黙って聞くと、恐らくレストアに向かって言った。

「作戦が成功したようです」

 それにレストアはニヤリと笑って答えた。

「よくやったと伝えておいてくれ」

「……おい、一体なんのことだ?」

 源はレストアに尋ねた。レストアはやや上機嫌で言った。

「決まっているだろう。怪獣特殊処理班の班員を捕虜にしたのだ」

「な……!」

 源は言葉を失った。レストアは続ける。

「これでアカモトと殺し合いが出来る。なあミナモト、お前も見知った顔がいた方が気が楽だろう」

 そう言うレストアの表情には、凍り付くような殺意が垣間見えていた。







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