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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
59/131

くれぐれも

58話です

 レストアが地球防衛省の地下に侵入した頃、赤本たちは浜松中継基地に到着していた。元市役所内に設営された本部では隊員たちが慌ただしく作業している。その間をかき分けて大会議室の最奥に行くと、現場の最高責任者である坂口二佐が赤本たちを出迎えた。坂口は東雲たちを見ると、パイプ椅子から立ち上がって握手を求めた。そして言った。

「よく来てくれた。白い制服だからすぐそれと分かったよ」

「それは良かったです。それで、戦況は?」

「やはり気になるか……。正直言って、前線は膠着しつつある。満を持して出現したであろう3体の怪獣たちも、一体を除いて駆除されて、戦力はいまだ拮抗したままだ。つまり、状況に変化はない」

「前線に投入されている南部兵が小規模だったと聞きましたが……」

「ああ、戦力の温存だろうな。だが、南部軍に航空戦力はゼロだ。兵站の差は空で埋める。現に、富士大隊の精鋭部隊が大阪府の一部地域に空爆を実行している。これ以上は君たちにも言えないが、相手方の被害は大きいそうだ」

「では私たちは予定通り、四日市の怪獣を浄化すれば良いのですね」

「そうだ。だが、今回は特に用心してくれ。君たちも知っての通り電波灯台の一部が破壊されている。その影響で、東京に留まっている朱雀が現れる可能性もある。それに、怪人が侵入していてもおかしくない」

「東京ですか……」

(源は無事だろうか……)

「やってくれるな?」

「はい、必ず」

 東雲たちはその場を後にすると、駐車場に停めていた自分達の車両の荷台を開け、荷物の点検を行った。

「千秋、これも持って行け」

 赤本がそう言って千秋に手渡したのは、術刀だった。

「あの、このメスは赤本さんの物では」

千秋は術刀を抱えて困惑していた。

「たまたま使っていただけだ。俺よりも力のあるお前が使うべきだと思ってな」

「分かりました……」

「心配するな、使い方は教えてやる」

 赤本はそう言ってカッターメスを腰ポケットに入れた。

「赤本、お前はこれを持って行け」

 東雲はそう言って赤本に拳銃を渡した。

「見たところ空気銃では無いですが…」

「怪人対策だ。気休め程度だが、無いよりはマシだろう」

「了解です」

「じゃあ段取り決めだ。状況が状況だから一から工程を組みなおすぞ」

 東雲は荷台から折りたたみ式のテーブルを引っ張り出してくると、車の横に設置した。そしてその上に地図を広げた。赤本たちがその周りに集まる。東雲は地図の一点を指さして言った。

「これが四日市コンビナートだ。ここに目標の怪獣の死骸がある。諏訪部、ルート確保はどの程度可能だ?」

 それに諏訪部がタブレット片手に答える。

「うーん……いつもより生体情報が少ないから特定しづらいんですが、そもそも基礎処理班が現場にいない以上、体組織の爆破は必要になると思いますね」

「現地に行くのは我々だけだからな……爆薬は何キロ必要だ」

「計算上はC‐4を5キロづつ、2回表面爆破すれば表皮は突破できる、ハズです」

「計10キロか。かなりの重装甲だな、今回のは」

「素体がアルマジロですからね。しかも、よりによって日本では初確認されたタイプだ。面倒くさい」

「爆薬に関しては自衛隊に俺から掛け合っておく。緑屋、体内の状況はどうだ」

「これが何とも言い難い……」

 緑屋は難しい顔をして持参のノートパソコンの画面を見つめた。

「何か不具合が?」

「いや、そういう訳では無いんですが、いかんせん表皮が分厚すぎて測定器の調子が悪い。戦闘機からの簡易的な観測じゃあ中の様子は測れない」

「現地で詳細なデータがいる、か」

 これは本来、基礎処理班が行う作業であったが、有事のためそれが出来ない。

「それでなんだが、白石。済まないが、今回はお前に浄化は任せない」

 それに白石は驚いた表情で東雲を見た。

「え……な、なんでですか?」

「その精神状態では浄化の際に危うい。万が一が起きてでは遅いんだ」

「そんな……」

 白石は表情を曇らせた。それに緑屋が肩に手を置いた。赤本は東雲に言った。

「東雲さん、もしかして…」

「……ああ、今回の浄化担当は千秋だ」

「わ、私ですか?」

 千秋が思わずそう言った。

「東雲さん、千秋に怪獣の浄化経験は…」

「それは源も同じだっただろう」

「アイツは特別なんですよ……」

 赤本の一言に気まずい沈黙が流れる。

「……とにかく、千秋が浄化担当だ。いいな」

 それに一同は黙って応えた。

 四日市コンビナートに怪獣特殊処理班の車列が到着したのは夕方だった。怪獣の死後3時間が経過していた。

「臭うな……」

 東雲は車両から降りるとそう呟いた。対岸の人工島にはコンビナートのタンクを優に超える半球状の巨体が地に伏せていた。背中には数本のこれまた巨大な金属棒が突き刺さっている。そしてうっすらと腐敗臭があたりに漂い始めていた。

「東雲班長」

 不意に横から声を掛けられた。横を見ると自衛隊員がこちらに歩いてきていた。

「護衛隊長の方ですか」

「村山一曹と申します。浄化作業はいつ頃行われる見込みですか?」

「もう今すぐ始める予定です。場所が場所だ、時間経過で体内のガスから石油タンクに引火しかねない」

 怪獣の横たわる人工島は石油貯蔵槽だったが、その下敷きになったタンクには奇跡的に石油は入っていなかった。

(もし引火していれば浄化は不可能だっただろうな……)

「東雲班長、我々は安全上の理由でこれから少し内陸に移動します。今のところレーダーに不審な対象は確認されていませんが、くれぐれもお気を付けください」

「やはり護衛は無しですか……」

「申し訳ありません。今はどうしても人員の損耗を避けなければいけないのです。本当に申し訳ない」

 村山は歯がゆそうにそう言って頭を下げた。

「頭を上げてください。僕も自衛隊でしたから事情は良く分かります。責めるつもりは一切ありません」

「そうですか……では、我々は一度車列を移動させます」

「ええ、いつもありがとうございます」

 村山はそれに軽く礼をすると先頭車両に戻っていった。

「さて、機材を出すか」

 東雲も車両に戻っていった。

 10分後、東雲たちは連絡橋を渡り人工島に入っていた。もちろん防爆装備を制服の上から装着している。ただ、それでもまだ危険性は減らない。

『緑屋、ガス濃度に変化はないか?』

『今のところは。でも死骸の体内温度が微増しているから、くれぐれも慎重に』

 対岸の装甲車の中で、無線越しに緑屋は言った。今回の浄化作業は危険すぎるので、東雲、赤本、千秋以外のメンバーは装甲車の中で待機している。

 東雲が横たわる怪獣の頭部に回ろうとした時だった。

『東雲さん、ちょっといいですか?』

 赤本がそう言ってきた。赤本に呼ばれるまま、東雲は死骸の裏側に回った。するとそこには、怪獣の表皮に空いた、綺麗な円状の穴があった。

『これは一体何なんでしょうか……』

『自衛隊の攻撃か?』

『それにしては不自然です』

 千秋は術刀を抜いた。

『怪人か?千秋』

『その気配はありません。ですが……』

『ですが、なんだ?』

『……もしかしたら内側から開けられたのでは、と』

『なんだと?』

『いえ、根拠のない空論ですからスルーしていただいて結構なんですが……』

『まあ警戒しておくにこしたことはないだろう。緑屋、聞いてたか?』

『もちろんです。体内環境に関しては諏訪部と白石にモニタリングさせます』

『分かった。それで、この穴をどうするか……』

『俺はここから入ってもいいと思います』

『爆薬を使うより安全だと?』

『ええ、クリアリングを徹底すれば危険は外より少ないと思われます。トラップの類も見当たりませんし』

『私もここから入るのがいいかと』

『……分かった』

 そして、東雲たちは死骸の側面に空いた穴から怪獣の体内に侵入した。



遅くなりました

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