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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
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交渉手段

57話です

「また腕をダメにしやがったな、お前」

 カナは呆れたようにため息をついた。

「少なくとも爬虫類までは変異出来なけりゃ実戦で使えねえぞ」

「分かってるよ。でもやっぱり形状の変化がキツいんだ」

 源は火傷の後のように爛れる右腕を上げて見せる。

 今源とカナは、精神座標の中で過程変異の練習をしていた。

 痛々しい右腕を見たカナは源に近づくと、その腕を遠慮なく握りしめた。

「痛いか?」

「いや、何も感じない」

「だろうな。今お前は皮下神経まで律儀に変異させようとしてるんだよ。それじゃあ骨や筋組織の分のリソースが足りなくなる。いいか、身体強化に関する過程変異は、その生物を模倣するんじゃなくて、その生物の特徴や利点を自身の体に取り込むことだ。そっくりそのまま体を置換する必要はない」

「特徴や利点……」

「そうだ。ただやり過ぎは良くない。ここは精神座標だから良いが、現実で今みたいなミスをすれば元の肉体には戻れないぞ」

「細胞の異常分裂だな」

「ああ、余りにも人体とかけ離れた過程変異をすれば、そのまま元に戻すことは困難になる」

「…分かった。もう一度やってみる」

 源は左腕を上げて目の前に持ってくると、じっとその腕を見た。それを横でカナが黙って見ている。

(その生物の特徴を付け足す……)

 源がその考え出した瞬間、左腕の形状がみるみると変化し、やがて鎧のような組織が腕を覆った。源は試しにその腕を動かしてみたが、変異前と同じように動かせた。

「どうだ?今回のは上手くいったんじゃないか?」

 源はカナに聞いてみた。が、カナの反応はあまり芳しくない。

「まあ及第点だな」

「結構自信作なんだが…」

「知るか。それより、そんなあからさまに変異してたら敵にすぐ対策されるぞ。できるだけ体内で完結させろ」

「あからさま、か。なあカナ、この鎧の部分を金属に出来たりはしないのか?」

「生物ではなく無機質に変異するのか?ダメだな」

「どうしてだ?見た目のカモフラージュは完璧じゃないか」

「バカ、もし自分の腕を鉄にしてみろ。どうやって元の腕に戻すんだよ」

「元って……ああ、そうか。人体の範疇を超えた過程変異は元の体に戻れなくなるんだったな」

「だから生物限定だ。そもそも、過程変異はただの簡易的な生命維持装置なんだよ。それをこんな風に利用する事自体が間違ってる。この仕組みは余りにも不便だ」

「元々、軍事的な用途は想定されていなかったのか?」

「そうだ。過程変異が開発された経緯は、地球型惑星の安全な探査の為だからな」

「またラケドニアか」

「その内お前も知るだろうよ。なんたってお前はあの方の……」

 その時、現実世界でズシンと鈍い衝撃が走った。

「地震?」

「それにしては衝撃が大きい。この分厚いコンクリートを貫通するくらいのバカでかい何かが外で起こってやがる」

 源は精神座標から目を覚ますと、辺りを見渡した。壁や床、天井に異変はみられない。

「一体なんなんだ…?」


 少し前、地球防衛省正面道路には、自衛隊と警察の車両に取り囲まれる1人の少女がいた。少女は道のど真ん中で腕を組んで、こちらに銃口を向けてくる人間達を観ていた。

「中々良い歓迎の仕方ではないか。兵が大幅に不足しているというのに、練度に衰えがみえん。そこの治安部隊も我に対する恐怖を見せまいとしているのが分かる」

 レストアは腰に手をやると、横の地球防衛省を見上げた。

「……ずいぶん大きく見えるな」

 そしてレストアは腕を下ろした。その瞬間、ガチャガチャと銃口を向ける音が四方から聞こえてきた。

「さて、我は地下に用があるのだが、その前に一つ、言伝がある」

 レストアが言ったちょうどその時、ごうごうと低く唸るような音と共に、強風がビル群の隙間に吹き込んできた。そして不意に辺りが暗くなったかと思うと、上空に巨大な翼が現れた。その翼は一度上空を通り過ぎ、レストアを取り囲む隊員達を騒然とさせた。それを見てレストアは言う。

「良く聞け、兵士ども。今上空を横切ったのは、まさしく朱雀だ。朱雀はこれより東京上空を旋回する。そして、もしも朱雀を撃墜し殺害すれば、渋谷経済特区に設置された爆弾が一斉に爆発することになるだろう」

 レストアは隊員達のどよめきを聞いてため息をついた。

「有効な交渉手段とはいえ、姑息な手を使うのには慣れんな…」

 そしてレストアは、その場にしゃがんで地面を触った。

「……この辺りだな」

(さっさと大君の元へ向かうとするか)

「過程変異」

 そう言ってレストアは自身の右腕を振り上げた。自衛隊隊員たちはそれにすぐさま発砲した。が、レストアにはすでに銃弾は効いてはいなかった。そのまま右腕を地面に振り下ろしたのだ。そして轟音と共にアスファルトが砕け散り、地面に大穴が出来た。

 地面の崩落と共にレストアは、その大穴に侵入していた。

「ここが地下か…」

 レストアは床を数回ぶち開け、地球防衛省地下施設の第一層に到達していた。周囲は居住施設が広がっており、どうやらここが避難施設であることが分かった。

(やけに人間の気配が多いと思ったら、ここはシェルターであったか。道端が無人の様子を見ると、皆室内で待機しているのであろう)

 レストアは構わずまた床を破った。

 数分後、源たちは次第に近づいてくる振動の正体を突き止めようとしていた。

「またこの音だ。連続して揺れている」

(ここの迎撃システムだろうよ。それに警備兵か)

「それにしては衝撃が大きい。大口径火器を使用しているのか?」

(だろうな。言い換えれば、野砲レベルの火力でなければ対応できない何かがこちらに向かってる)

「この感じは野砲も効いていないみたいだけどな」

(ああ、まあ十中八九怪人だろうよ)

 その時、ゴーンという音と共に部屋の壁にヒビが入った。

(…来やがったな)

「過程変異しておいた方がいいか?」

(やめとけ、今の状態じゃあ足手纏いだ。それよりも、殺されないように交渉するんだな)

「アドバイスとかないか?」

(あるかンなモン)

「自力でなんとかするしかないな…」

 そしてコンクリートの砕けるバキバキという音がしたかと思うと、壁の一部が崩れ落ちた。砂煙が舞う中で、そのシルエットはぼんやりと浮かんできた。それはずっと小柄で華奢だった。だが、そのイメージはすぐに崩れ去った。

(まさか、レストア様か!?)

 カナの信じられないという声に答えるように、煙の向こうから相手は言った。

「我こそは、レストア・ユグト・カンニバス。貴方は源王城だな?」

「そ、そうだが。まさか、本当にレストアなのか?」

 煙が晴れつつある中で、源は自分の目を疑った。目の前に立つ少女は、自らをレストアと名乗ったのだ。

「戸惑うのも無理はない。だが我はレストアだ。トラグカナイも気づいているだろう」

「カナ、そうなのか?」

(ああ、間違いなくレストアだ。でもまさか今ここに来るなんて……)

「どうやらトラグカナイも困惑しているようだな。だが安心しろ、以前みたく貴方を殺すことは今の所ない。それだけは確かだ」

「ではなんの目的でここに?」

「この狭い箱から貴方を救出しに来たのだ」

「救出……」

「そうだ。そして我と共に九州に来い。アシュキル殿下が貴方に直接会いたいと言っている」

(絶対に辞めておけ、と言いたいところだが、そんな事言えばレストアに何をされるか分からねえ…)

(一旦地上まで上がるべきだな)

(それが最善になる……)

 カナは苦々しくそう言った。余程レストアと行動するのが嫌なのだろう。

「分かった。地上まで同行しよう」

「あっさり受け入れるのだな。こちらとしては多少の荒事になると予見していたのだが」

 そんな事になれば源が生存する可能性はほぼゼロになっていただろう。

「まあいい。帰りはさっさと行こうではないか」

 そう言ってレストアはおもむろに源に近づくと、さっと源を持ち上げた。

「な、何を…!」

「これが1番手っ取り早いのだ。許せ、大君」

 源はレストアに抱き抱えられて地上に上がった。

 そしてボロボロになった道路の上で源は今まで起こった一部始終を教えられた。

「そんな……じゃあ赤本さんたちは」

「それは無事だ。今はハママツという土地に留まっている」

「無事だったか…」

 源はとりあえず安堵した。だが、危機的な状況であることに変わりはない。

(おい、ミナモト。南部連合につく可能性も残しておけよ)

 カナはすでに日本政府を見かぎり始めている。

(それは最終手段だ。出来ることは全てやりたい)

 源はレストアと向かい合って言った。

「レストア、もし俺がお前たちの提案を拒否したらどうなる」

「殺すことになる。それは確かだ」

(どうする、カナ)

(変なこと考えずに素直に従っとけ。流石にレストアには勝てねえ)

(どうしてもか?)

(どうしてもだ。言っとくが、引き分けはねえぞ。降参は受け付けられねえ)

源は腹を決めた。

「……お前と一緒に九州へ向かう」

「ではついてこい。大阪を突っ切るぞ」

 源はそれに従って無人の道路を歩き始めた。正確には、生きている人間のいない道路だ。道端には自衛隊員や機動隊の死体が転がっている。

(返り血一つ浴びずに倒したのか……)

 源はごくりと生唾を飲み込んだ。

 依然として上空では、巨大な翼が太陽を遮っている。




なんとかします

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