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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
57/130

こんな形で

56話です

 怪獣出現の10分前、連合陸軍中尉、神田明は自身の部隊を引き連れて、神獣協会の怪人たちと兵庫県三田市に訪れていた。

「確か素体は哺乳類だと言っていたな、人間」

 部隊の先頭を歩く怪人が、後ろの神田に声を掛ける。

「ええ、自衛隊の兵器群を考慮して霊長類を選びました」

 神田はそう言って後ろを振り返った。その隊列には野砲の他に軍用トラックが一台混ざっており、その荷台は布で覆われている。

「まあ貴様ら人間に近いほど、我らも動きやすくはなる。ただこの身長は受け付けないが」

「もう少しで目標地点ですから、どうか」

「分かっている」

 しばらく三田の市街地を歩いていくと、学校のグラウンドらしき場所にたどり着いた。その真ん中には連合軍兵士が数名立っていた。いずれも制服が文官のものとなっている。彼らは正門を開ける神田たちに合図を送ると近づいてきた。

「またギリギリの時間に来たな、神田中尉」

 文官の内の一人が意地の悪い顔をしながらそう言った。神田には謝ることしかできない。

「申し訳ありません。砂嵐が予想より酷く……」

「そんな話は聞いていない。早くそこの素体を出したまえ」

「了解しました……」

 神田は部下に合図を送り、トラックから布をかけられた積み荷を降ろした。それを怪人たちは退屈そうに眺めている。

「手筈通り、素体のマウンテンゴリラです」

 神田の紹介で積み荷から布が取り払われた。するとそこには、長方形のケージの中で窮屈そうにするゴリラが収まっていた。それを文官たちは隅々まで観察した。万一素体に不調があれば円滑な作戦行動に響くことになる。

「……道中で何か不備はあったか?」

「いえ、特には。出発前の健康診断も良好でしたし」

「そうか。ではケージごと校庭中央に置け」

 文官の指示通り、ケージを校庭の中央に安置すると、文官たちと神田、そして一部の隊員を除く人員は避難を開始した。怪人たちは校庭に残っている。怪人の一人が神田に言う。

「……あれが君たちと同じ霊長類なのか?」

「そうですね」

「もっと誤魔化しようはあっただろうに……」

 その怪人はため息をついた。そして隣の怪人といくらか話をすると、ポケットから小さい植物の種のようなものを取り出した。

「……それがコアですか?」

「簡易的ではあるけど、まあそうだな。ほら、お前たちももう退避しろ。過程変異に巻き込まれるぞ」

 怪人はそう言いつつ1人でケージに近づいていった。神田たちはそれを見るとその場を後にした。

「さて、後は我々の仕事か」

「埋め込むだけだ。時間はかけるなよ」

 怪人たちはケージの前に立つと、手のひらに載せた小さなコアを柵越しにゴリラに飲ませた。

「起動まで後何秒だ?」

「30秒だ。予定通りだな」

「では退避しよう。人間に近い素体とはいえ、コアが脳と適合するかは分からないからな」

 怪人たちはひとっ飛びにその場を後にした。

 この三田市の他に、和歌山市、猪苗代市の2つでそれぞれ素体が用意された。和歌山市にはミツオビアルマジロ、猪苗代市にはブチハイエナが置かれ、怪人にコアを接種させられた。そしてきっかり30秒後、過程変異が始まった。

「これが過程変異…」

 それを遠巻きに見ていた神田は思わず息を飲んだ。遠くに見える校庭の中央が一気に黒い球に覆われたかと思うと、それが一気に膨張して四方に伸び、それぞれが四肢を形作った。そして最後に巨大な頭部が生え、地響きと共に怪獣が姿を現した。その腕は地上のどんなビルよりも太く大きく、そして機能性に富んで見えた。

「流石はティレ様だな……」

 隣から怪人たちの声が聞こえる。どうやらこの怪獣のコアにはティレと呼ばれる意識が入っているようだ。怪獣はこちらを鋭い目で一瞥すると、体の向きを変えて歩き始めた。これから怪獣たちは真っ直ぐに目的地へと向かうのだ。最も人間の集まる場所へと。

 神田は至近距離で見る怪獣に圧倒されていた。その巨大な体には破滅的なエネルギーが秘められているように感じた。

(俺たちは今までこんな化け物と戦い、そしてあろうことか、それを新たに作り出してしまったのか……)

 神田はごくりと生唾を飲み込んだ。そこに部下が歩み寄ってきた。

「隊長、司令部から通信が」

 と言ってその隊員は無線機を神田に手渡した。

「あ、ああ。ご苦労」

 神田はそれに慌てて答えた。そして無線機を受け取ると耳に当てた。

「はい、神田です」

『神田中尉、そちらの怪獣は無事過程変異を終えたか?』

相手は陸軍作戦部の上官だった。階級で言えば大佐である。

(なぜ作戦部が……)

神田はその意図を汲みかねたが、相手の問いに答えた。

「はい、予定通りですが」

『ならいい』

「……それはどういう意味で?」

『その怪獣のコアは他より特別でな。万一にも過程変異が失敗すると不都合が起きるのだよ』

「そう言った意味では問題ないかと。現地の怪人たちの反応はむしろ良好です」

『では引き続き任務にあたれ。詳細な情報はこちらで確認する』

「了解しました」

 神田は電話を切るとため息をついた。そして呟いた。

「……俺一人じゃキツイよな」

(また昔みたいに、隣で俺を助けてくれよ…)

 神田は吹き付ける砂風に、思わず襟元を閉めた。


 同時刻、河口飛行場にて富士航空隊の航空機が続々と滑走路に滑り出していた。それぞれが寸分たがわぬ動きで、極めて効率的に飛び立っている。キーンという特徴的な甲高い音とともに、三友重工が開発した反重力エンジンの青い光が、機体尾部の細いスレッドから漏れ出ていた。その青い軌跡を追うように、地上では陸上自衛隊計4師団が大阪に向かって進軍していた。並行して工兵部隊が簡易道路を敷設していく。この大規模行進は全て12時間以内に開始され、居住圏には自衛隊が最低限の人数となった。

 そんな時だった。

「総理!大変です!」

 首相官邸にとある報告が届いていた。それを神原総理は聞いて自分の耳を疑った。

「電波灯台が、爆破された?」

 その報告が上がってくるほんの数分前、なんと福井県福井市から滋賀県旧長浜市まで続く電波灯台が何者かの手によって一斉に爆破されたのだ。そして、

「総理!朱雀が、朱雀が居住圏に侵入しました!」

 さらに、

「それと同時に一体の怪人が渋谷経済特区で確認されました!」

 神原総理はそれを聞いて頭を抱えた。

「元からこれを狙っていたのか…!」

 そのまた数分後、東京中央基地の自衛隊員5000人とアメリカ海兵隊300人が臨時に渋谷に派遣された。


 その頃、怪獣特殊処理班はというと、自衛隊に同行して大阪へと向かっていた。その目的は勿論、怪獣討伐の事後処理である。

「こんな形で本来の業務に戻るとはな」

 赤本は車内でそう呟いた。

「危険度で言ったら怪人退治と同レベルだけどね、今回のは」

 諏訪部がそれに答える。

「分かってる。気を抜くつもりは毛頭無い」

 そして車内に沈黙が流れる。そしてその重苦しい雰囲気は源にも伝わっていたのだった。




短くなってしまった

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