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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
56/131

極めて簡潔

58話です

 国家緊急対策本部、大会議室では、神原総理が頭を抱えていた。そして、そんな総理にはお構いなく、立て続けに南部連合に関する情報が入ってくる。

「総理!連合側の声明発表に対する総理からの発表はいつ頃なされるつもりですか!」

「……2時間後だ。それまでは官房長官の方から情報を公開してくれ」

「ですが、連合軍の分隊が放送局のジャックを行っており、それに自衛隊はリソースを割けません!」

「電波塔の一部をバイパスして繋げ。許可は私が出す」

「了解しました」

 その官僚が去った後も、また別の官僚なり事務官なりが総理の元へと駆け寄ってくる。

「総理!アメリカ大使館から返事がきました!24時間後に本国から海兵隊を投入するそうです!」

「規模は」

「陸海空それぞれ一個師団です」

「まさか、それだけか?」

「恐らくEU、中韓諸国に気を使った形かと」

「あまりの大量派兵は良からぬ印象を与える、か。ここで国連共同宣言がマイナスに働くとは……」

「仕方ありません。まさかこの時世に軍事クーデターが、よりにもよって我が国で起こるなど想像も出来ませんでしたから」

「私も先人を恨むつもりは無い。この問題は必ず私の代で解決する。いいか、常任理事国にもアメリカに送った書面と同じものを送れ。この際借りを作らせても構わん。決して日本を絶やすな」

「ただちに提出します」

 その外交官が去った後、神原総理は目の前であわただしく作業する政府職員たちを見て深いため息をついた。

「はあ……」

(私がもっと早く対策していればこんなことには……)

 神原総理は自身の過失を責めた。

「総理、お時間宜しいですか?」

 そこに一人の男が声をかけた。見上げてみるとそこには、地球防衛省秋津副長官が立っていた。

「秋津副長官……いや、今は長官代理だったか。一体どうした?」

「出羽長官の件でお話が……」

「……なに?」

「実は、出羽長官の身に着けていたGPSに変化がありまして」

「変化だと?一体どういう事だ」

「それが、ごく微弱ながら長官の生体反応が検出されたのです」

 神原総理は思わず立ち上がっていった。

「それは本当か!」

「はい。体に流れる電気信号がごくごく軽度だったので当時は気付くことが出来ず……」

「今分かったのならば構わん。それで、出羽は今どこに?」

「四国です。恐らく長崎の『新首都』に連れ去る気かと」

「分かった。連合軍への対応を最優先にしつつ、出羽長官の動向も可能であればモニターしてくれ」

「もちろんです。では私はこれで」

 秋津がその場を去ろうとしたとき、神原総理は咄嗟に引き留めた。

「待て、秋津長官代理」

「私の説明に不備が?」

「いや、そうではない。秋津、君はこの戦闘行為において、怪獣が使用される可能性はあると思うか?」

「怪獣を使う?怪獣というのは元来、出現時期もその後の行動パターンも制御不能なのでは?」

「南部連合は守備隊と神獣協会が組んだ組織だ。そして神獣協会は玄武討伐作戦において玄武を無理やり起こした張本人だっただろう」

「ある程度のコントロールが出来ている、というわけですか。ですが総理。今現在日本列島に存在する怪獣は……」

 そこで秋津ははっとした。

「朱雀……!」

「そうだ。北の玄武と双璧を成す南の大怪獣。そして第一次進攻来の生き残り」

「アジア唯一の飛行型怪獣、ですか……」

「もしまた玄武のように朱雀を休眠から起こされれば、我々の日本周辺における制空権は失われる」

「ありえない話ではないですね……それに、連合側にとってそれほど有利なことも無い」

「連合軍とは別途、何かしらの策を講じる必要がある」

「……了解しました。自衛隊に掛け合ってみます」

「頼む」

 神原総理は秋津を送り出すと、すぐにアメリカ大使館に電話をかけた。

『はい、アメリカ大使館。……総理、一体何のご用件で?』

「大使と話がしたい」

 しばらくして通信が切り替わった。

『カンバラ総理、今我々も忙しい。重大事でなければ書面で……』

「源王城について、話がしたいのです。クリス大使」

『……秘匿回線に切り替えます。……それで、ミナモトになにか?』

「とぼけないでください、大使。貴方がたは、彼を喉から手が出るほど欲しがっていたでしょう」

『……それが何か?』

「今回の日本派兵、規模を大きくしていただきたい」

『見返りは?』

「期限付きで源王城をアメリカに派遣します」

『……!まさかそんなことが!』

「約束は守ります。正式な書面付きでね」

『それでは日本の国際的な立場が不安定になるでしょう。なにせ彼は天上分離の日の生き残りだ』

「私の提案は変わりません」

『……では一つ確認しておきたい。その提案は貴方個人のものか、それとも日本政府としてのものなのかを』

「いずれ政府の方針となります。ぜひ検討していただきたい」

『……了解しました。大統領にはその旨の報告書を作成します』

「助かります。では」

 神原総理は電話を切ると椅子から立ち上がり、会議室を出た。そして廊下の窓から外の景色を見た。上空には自衛隊の戦闘ヘリや輸送機、避難用の旅客機が飛び交い、街中では警察車両がけたたましいサイレンを鳴らしながら車道を駆けていた。そして首相官邸前広場には、今まさに防衛大臣を乗せたオスプレイが降下していた。

「遅くなり申し訳ない」

 防衛大臣は歩きながらそう言った。神原総理と防衛大臣は官邸内にある作戦室に向かっていた。2人を追いかけるマスコミが絶え間なくフラッシュを焚く。それを咎める余裕は無い。

 作戦室に入ると、すぐに壁一面がホログラムに覆われた。盗聴防止である。

「さて、何から話しましょうか」

 防衛大臣は椅子に腰かけると向かいに座る神原総理に言った。大臣の隣の席には陸上自衛隊、児玉陸将が控えている。

「……今現在どこまで進攻されているのかを知りたいですね」

「前線はすでに大阪旧市街地まで後退しています。自衛隊の対欧が後手に回っている、というのもありますが、それ以上に敵の装備が違う」

 大臣は児玉陸将の方を見た。児玉陸将は言う。

「我々陸上自衛隊の個人装備は、99式5.56ミリ電磁ライフルに同型機関銃、そして9ミリ拳銃です。対して南部連合陸軍の個人装備は、AK型アサルトライフルの独自改良版、その名も3号自動小銃のみです。ですが、連合陸軍の兵士は皆特殊作戦群の運用していたパワードスーツを着用しているのです。これによって身体能力だけで言えば我々の10倍は増す。それは、何故か白兵戦を好む彼らに非常に有利に働く」

「装備の差……神獣協会が一枚嚙んでいる可能性が高いですね」

「それだけではないのです。先ほど私は、敵陸軍兵士が白兵戦を好むと言いましたが、それがどうやら旧日本軍を模倣しているらしく、特にその精神性を倣っているようです」

 大臣が続ける。

「故に彼らは死に対する抵抗や危機感がやや希薄です。一体どのようにして守備隊隊員にそのような教育を施したのかまだ突き止めていませんが、この思想はかなり強く兵士たちに染み付いている」

「それならば洗脳も疑うべきでしょう。神獣協会は怪人たちの組織だ。奴らは脳波について我々の先を行く技術と知識を有しています」

「なるほど。それと一つ、電波灯台に関してなのですが……」

「電波灯台になにか?」

「どうやら連合陸軍の兵士が北端の電波灯台で確認されたらしく、それも破壊工作を行っていたそうです」

「すでに対応を?」

「最寄りの駐屯地から3個小隊を派遣しました」

 児玉陸将が答える。

「少数でも連合軍が居住圏まで到達していたとは……」

「居住圏内の駐屯地は全て閉鎖済みですから、そこを狙うつもりがあったのかと」

「それに怪獣、か」

「ええ、朱雀を出してくる可能性がありますから」

「……大臣、この争いにはいつめどが立つと考えますか?」

「まだ分かりません。なにせ敵方の行動パターンがことごとくセオリーを外れています。まるで未知の古代戦術を相手にしているような違和感があるのです」

 自衛隊上がりの防衛大臣はそう言って首を振る。

「想定は不可能、ですか」

「そう言わざるを得ません」

「了解しました。万が一にも居住圏内への侵入は阻止するよう引き続きお願いします」

「心得ています。では」

 防衛大臣と児玉陸将は部屋を後にした。この後地球防衛省に行かなくてはならないのだ。神原首相も記者会見の準備に取り掛かった。

 緊急記者会見の会場では、ざわざわと記者たちの声が響いている。同業者から一つでも多くの情報を引き出したいのだろう。それも真偽は問わず。そんな中、突如として一斉にフラッシュが焚かれた。壇上に神原総理が上がってきていたのだ。神原総理は一礼すると、いくつものマイクに向かって話し始めた。

「まずはじめに、国民の皆様へ、政府からの発表が遅れましたこと、深くお詫び申し上げます」

 総理は頭を下げた。そして言う。

「今日本は未曽有の危機に瀕しています。そして、それは一刻を争う事態でもあります。よって、これからお伝えするのは現時点で確定している情報のみとなります。不確定な情報は政府機関にて随時精査し、順を追って公表していきます。まず一つ目に、南部連合について分かっている情報をお伝えします。南部連合は、政府から一方的に離脱を宣言した元本土守備隊と、人間並みの知能を有する怪人たちの組織、神獣協会の協力によって作られた自称国家となります」

 そこで大きなざわめきが起こる。神獣協会についての情報を公の場で公表したのは初めての事だった。

「……神獣協会についてはまだ未知の部分が多く、説明は一旦控えさせていただきます」

 ざわめきが大きくなる。だが神原総理は続ける。

「次に、現在の南部連合軍の侵攻状況ですが……」

 そこで会場は一度静まる。

「連合軍は現在、長崎県旧長崎市を首都と呼称し、そこを起点に四国地方と中国地方を横断して大阪旧市街地へと進攻しています。よって前線は旧大阪市を基準に南北に延び、主に平野部において戦闘が続いています。また、山岳部での戦闘についてはそのような情報は入っておらず、敵航空機につきましても、自衛隊のレーダー設備において確認されませんでした」

 そこで一度記者からの質問が飛ぶ。

「日高新聞の新田です。南部連合軍の具体的な戦力は明らかになってはいないんですか?」

「本土守備隊の資料を参考にしますと、戦力は陸海空合わせておよそ30万人と仮定されます。また、陸上戦力については約20万人だと」

「では、今現在前線に出張っている戦力は一体どのくらいなのです」

 神原総理は部下からおよその数字を耳打ちされた。

「およそ15000人だと……」

「なにかしらの陽動の可能性は?」

「十分あり得ます」

「その対策はもちろんしているのでしょう?」

「アメリカ合衆国および、国連に軍の出動を要請しています」

「一国の内部紛争に国連が介入を?」

「目下交渉中です」

 そこに一つの連絡が入った。それは極めて簡潔なものだった。神原総理は部下から渡された書面を、険しい表情で読み上げた。

「ただいま入った情報です。本時刻より丁度1分前、大阪、奈良、京都にそれぞれ一体ずつ怪獣が出現しました。そして、鹿児島、宮崎県境に位置する高千穂山にて休眠中だった大怪獣、『朱雀』が活動を再開しました」


たいへん

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