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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
53/130

あなた以外に

52話です

 それはシータ隊に入隊して間もない時だった。厳しい訓練を終えて、東雲さんと宿舎に戻る時、俺はウルフ3の同僚、秋田に呼ばれた。どうやら秋津は、俺にトレーニング方法の相談をしたいらしく、隊舎内のトレーニングルームで俺は秋津にアドバイスをしていた。そんな時、

「おい!大変だぞ!」

 突然部屋のドアが勢いよく開き、息を切らした知り合いの隊員がそう言って俺たちを見た。

「そんなに慌ててどうしたんだよ」

 秋田がダンベルを下ろしてそう尋ねる。それに隊員は俺の方を見て答えた。

「ついさっき、東雲がアルファ隊の奴らに殴られてたんだよ!」

「は?」

 俺は思わず言った。

「……今、なんて言った?」

「東雲がアルファ隊の隊員たちに集団で暴行されてたんだ。それもウルフ1の奴らに……」

 俺はすぐに東雲さんの元に行こうとした。だが止められた。

「よせ赤本!いくらお前でもアルファの連中には敵わない!」

 秋田はそう言って俺の肩を掴んだ。

「、、秋田、お前は東雲さんがどうなってもいいのか?」

「いいわけがない。でもアルファ隊の隊員たちは特戦群の中でも別格だ。お前一人でどうこう出来る奴等じゃない。まずは隊長を呼ぶのが先だろうが」

「それじゃ遅い!もし取り返しのつかないことになったら、俺やお前たちは責任を取れないだろ!」

 秋田は何か言いたげに口を開いたが、すぐに閉じた。そして、

「……分かったよ」

 俺と秋田は、現場を目撃した隊員に教えてもらい、アルファ隊隊舎裏に向かった。消灯時間を過ぎた暗闇の中で、微かに声が聞こえた。俺は突っ込みたい気持ちを抑えて、気づかれないように建物の陰からそこを覗いた。

「……お前たち、除隊処分になるぞ」

東雲さんの声が聞こえる。あたりは暗くて隊員たちの顔は見えない。

「お前?ずいぶんな物言いじゃねえの、三下」

「今更何を言う。俺はお前たちに何もしていない。ただ一方的に殴られただけだ」

「何もしてねえだと?てめえ、言わせておけば……」

「なら俺が何をしたって言うんだ」

「……俺の弟を利用してシータに上がりやがったな」

「お前の弟なんぞ知るか。シータ隊に上がれたのは赤本と俺の実力だ」

「チッ!ふざけやがって。お前のせいで俺は…!」

 その時、俺はその後の嫌な予感を察して秋田に

「お前は隊長を呼んできてくれ」

 と言い残して物陰から飛び出した。そして東雲さんを取り囲む集団の後ろに立った。

「おい、クソ野郎」

 俺の声に隊員たちは振り返った。そして一人が言った。

「あ、赤本……」

「てめえら、東雲さんに手え出しやがったな」

 それに先ほど東雲さんと話していた隊員が答える。

「おいおい、チンピラかよ。それに、一人で来たのか?お前」

「そうだ」

「はは、マジで一人で来たのか。シータ隊に上がったからって調子に乗ってんのか?」

「そんなことで浮かれるほどバカじゃねえ。それより、東雲さんをこちらに渡せ」

「なんでお前の指示に従う必要がある」

「じゃあなんだ。俺を倒してから行け、とか言うのか?」

「倒す?バカ言ってんじゃねえ。俺たちはアルファ隊だぞ?シータの雑魚に負けるわけねえだろ」

「試してみるか?」

 俺は拳を握りしめた。隊員たちはそれに気づいて赤本に体を向けた。

「…後悔するぞ」

「お前がな」

 俺は強く地面を踏みしめると一番近くの隊員にハイキックを食らわせた。食らった隊員はすぐにその場に倒れた。

「手ごたえねえな」

「マグレだろ!」

 すぐに横から他の隊員が殴り掛かってきたが、俺はそれをギリギリで避け、体を傾けながら左フックをあごに当てた。また一人隊員が倒れる。俺はその時、明確な違和感を感じた。

(コイツら、本当にアルファ隊の隊員か?)

 俺は蹴りをガードしながら尋ねた。

「……お前ら、本当にアルファ隊か?」

「そうだ!俺たちはアルファ隊だ!」

「では所属を言え」

「言うかよ。バレたらどうする」

「もうバレてんだよ。正直に言え!」

「な、なに?」

 俺がそう言った途端、隊員たちの動きが止まった。一際図体のでかい隊員が俺に尋ねる。

「お前、来たときは一人って……」

「はあ?お前、俺が言ったことを真に受けてたのか?一般人でもやらねえぞ、そんなミス」

「赤本てめえ!」

「もういい、これ以上醜態を晒すなよ、偽物」

「クソが!ぶっ殺してやる!」

 その隊員は腰に手を回した。

(まさか…!)

 隊員が取り出したのは銃だった。

(どこからくすねて…々)

「死ね!」

 ダンッと鈍い音が響いた。その途端に赤本の右耳が熱くなる。赤本はその場によろけて体勢を崩した。

(こいつ、発砲しやがった!)

「待て!訓練区域以外での銃の使用は禁止されて…々」

「これで終わりだ!」

 薄暗い中で見えた銃口は、確かに俺の眉間を狙っていた。そして……

「させるか!」

 その声と共に、隊員の後ろから東雲さんがその両腕を掴んで押し倒した。

「グ…々!この!」

 隊員は抵抗したが両腕を封じられていては思うように動けない。周りの隊員たちは戦意を喪失したらしく、もう殴り掛かっては来なかった。そして俺はやっと気づいた。この隊員たちの正体に。

「お前……土方だな?」

 俺の言葉に、うつぶせになる隊員はびくりと体を震わせた。

「………」

「はあ、やっぱりそうか。他の奴らもどうせエータ隊で、お前の取り巻きだろ?」

「…………」

「なんでこんなことをした。嫉妬でもしたか?東雲さんに」

「そんなことは…!」

「あるだろ。お前、力ばかり強くて筋金入りの負けず嫌いだからな。おまけにバカだ」

「クソッ…!」

土方は悔しそうにそう言った。それを俺は無視した。

「東雲さん、怪我は大丈夫ですか?」

「あばらは折れてるかもしれないが、それぐらいだ」

 俺はその言葉にほっと肩を落とした。

「そうですか……」

 そこに車のエンジン音が聞こえてきた。その音は次第に近くなっていき、やがてアルファ隊隊舎の駐車場に止まった。そして足音がした。

「おーい、赤本。大丈夫か?」

 と秋田の声がする。そして近くの街灯がつき、赤本たちはその明かりに照らされた。

 やはりアルファ隊と名乗ったこの隊員たちはエータ隊の土方たちだった。

「お、いた!無事か赤本!それに東雲も」

 秋津は俺と東雲を見て駆け寄ってきた。そして俺に言った。

「良く一人で無事だったな。だがもう安心だ」

「安心?誰を呼んできた」

「伊地知一佐だ」

 俺が目線を曲がり角に向けると、そこには伊地知一佐が立っていた。彼の目はいつもよりももっと鋭く、灯台のように俺たちを睥睨していた。そして言った。

「状況を説明せよ」

 最初に反応したのは土方だった。

「こ、これは赤本たちが…!」

「貴様に発言を許可していない。東雲、話せ」

 伊地知は有無を言わさず東雲に尋ねた。

「は、はい。およそ30分前、エータ隊ウルフ1の隊員らがアルファ部隊の名を語り、自分に暴行を加えてきました」

「証拠は」

「街灯の赤外線防犯カメラに映像が」

「了解した。少し待て」

 伊地知は部下にタブレットを持たせるとその画面をしばらく見ていた。そして言った。

「特戦群隊律、第3条の抵触を確認した。よって土方一等陸曹および、エータ隊ウルフ1の編成員を全員除隊処分とする」

「そ、そんな……」

 土方たちはがっくりとうなだれた。俺はそれを見て思わず眉をひそめた。

(ここまで阿呆だったのか、コイツらは。それが東雲さんを……)

 正直不愉快だった。そして、そんなことを思う余裕は俺には無かったのだ。

「そして、同隊律への抵触により、赤本明石一等陸曹、東雲侑一等陸曹を除籍とする」

「……!」

「まさか!赤本たちは被害者ですよ?」

 秋田は抗議したが、伊地知のその決定は覆らなかった。

「内容がどうであれ、この両名が暴力を不当に行使した事実は変わらん。それを特別扱いすることは決してない」

「ですが……」

「秋田、もういい」

 俺は言った。東雲さんも、

「赤本の言う通り、そこまでしてくれなくても大丈夫だ。助かったよ、秋田」

 俺と東雲さんの考えていることは同じだった。いくら抗議しようがこの男の意志は揺るがない。そして自分達にも落ち度はある。だが、それでも受け入れがたい。

「伊地知一佐、俺たちはいつここを出れば?」

 俺はつとめて冷静にそう尋ねた。伊地知は答える。

「明日だ。土方たちは今日中にここを出てもらう」

 (明日だと?)

「明日って、なぜ俺たちは少し遅いのです」

「……お前たちに名指しでオファーが入っているのだ」

 俺たちはそれに顔を見合わせた。心当たりは一つもない。

「一体誰からですか?」

「地球防衛省、出羽長官だ」

「ちきゅ、本当ですか?」

 俺は思わず声を上げた。オファーというのはなんと、あの地球防衛省からのスカウトだったのだ。

 翌日、俺と東雲さんは中央管理棟の応接室で出羽長官と初めて顔を合わした。

「君たちが赤本と東雲か。よろしく」

「よ、よろしくお願いいたします」

 俺は少し緊張しながら長官と握手をした。

「よろしくお願いします」

 一方で東雲さんは落ち着いていた。家柄的に身分の高い人物には慣れているのだろう。俺たちはそれぞれ椅子に腰かけた。

「それで、早速本題に入るんだが、君たちは怪獣をどうやって駆除するか知っているか?」

長官はそう聞いてきた。それはもちろん、

「対怪獣兵器による殺害、ですか」

「実はそれだけでは怪獣は完全には死なない」

「それはどういう……」

「実は、怪獣にはコアと呼ばれるものがある。これは怪獣の源であり、これが残っている限り怪獣は復活する。そして、このコアを破壊するための行為、浄化を行う特殊部隊が存在するのだ」

「特殊部隊……」

「名を怪獣特殊処理班と言う。今は一班だけだが、今回新たにもう一班新設しようと思っているのだ」

「もしかして、それに自分たちを?」

「そうだ。君たちには浄化を担当する人員の護衛をしてもらいたい。怪獣の浄化にはそれ相応の危険が伴うからな」

「それは、願ってもない話ですが、、なぜ俺たちを?」

「簡単なことだ。私は実力のある人材が欲しかった。特に対人戦闘においてのだ。そして、それ以上に他者を思いやることが出来る人物が欲しかったのだ」

「他者を思いやる……」

「そうだ。特戦群にはこの前者を満たす隊員たちは多くいるが、後者を満たせるのは君たちぐらいだ」

「そんなことは……」

「ある。こと特殊処理班ではチームワークが大切になってくるが、その適性を君たちに見たのだ」

 それを聞いて俺は思った。

(今までは、たくさんの人を助けるにはここで一番になることが最善だと思っていたけど、まさかここに来て選択肢が現れるなんて。それもより魅力的な条件で…)

「引き受けてくれるか?」

 長官の問いにお俺と東雲さんは答えた。

「はい。ぜひ働かせてください」

「そうか。では手続きを済ませておこう」

 俺と東雲さんはその後、自衛隊を名誉除隊し、環境衛生庁の処理科、特殊処理班の班員となった。俺は副班長、そして東雲さんは班長として。

「なあ赤本。本当に俺が班長でいいのか?」

「今更何をいってるんですか。あなた以外に班長はいませんよ」

「……そうか。じゃあ行くぞ、赤本」

「はい!」

 俺たちは他の班員たちの待つ執務室の重いドアを押し開けた。

急ぎすぎた感

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