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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第3章 九州戦争
50/130

錆びれた才能

49話です

『新入生代表、赤本明石』

「はい」

 俺はだだっ広い会場の中で一人起立すると、1万人近くの同級生たちの視線を浴びながら壇上に上がった。そして学長ほか、教師や教官たちに礼をするとマイクに向かった。今まで経験したことのない量の注目を浴びて俺は若干緊張した。それもあってか代表挨拶の内容は一切覚えていない。気づいたら自分の席に座っていた。

「おい、赤本」

 突然、隣にいた同級生の男が話しかけてきた。

「今は学長の話を聞く時間だ」

「はあ?お前あんな退屈な話、真面目に聞いてんのか?」

「いいから前を向け」

「はいはい、流石は主席サマだよ、ったく」

 思えばこの時から俺は、周囲から孤立していたのかもしれない。防衛大学校の入学式が終わって、俺の元に様々な人が押し寄せてきたが、それに対して俺は、容量の得ない曖昧な回答しか出来なかった。周囲の人間は、それを有難いことに俺が普段寡黙で落ち着きがあるからだと思い込んだ。実際のところは緊張していただけなのに。それから俺は、人付き合いを最小限にして順調に訓練、学業に励んだ。

 特に訓練科目は人一倍頑張った。それは俺が目標とする自衛官、東雲侑一曹が自衛隊最高戦力である特殊作戦群に入隊していたからである。俺はそんな東雲さんに追いつくため、常に科目成績最上位をキープした。幸いにも俺は、身体能力が他に類を見ないほど発達しているらしく、それもあってかこれらの成績を維持し続けられたのだった。そんな生活が半年続いたころ、俺は教官室に呼ばれた。そこにはいつもの担当教官ともう一人、灰色の戦闘服に身を包んだ見るからに異質な男が俺を待っていた。灰色の男は言った。

「貴様が赤本だな?」

その声は相手に有無を言わせない圧迫感があった。俺はその時から緊張し始めた。

「は、はい。私が赤本明石ですが……」

「そうか。では12時間後に荷物をまとめてここに来い」

「それはどういう……」

「貴様を特殊作戦群に入れる。説明は以上だ」

 男は教官と言葉を交わすとすぐに部屋を出ようとした。

「ま、待ってください!」

 俺は思わず彼を引き留めた。彼は扉の開閉パネルに触れる直前だった。

「……一つだけ、貴様の質問に答えてやる」

 男は俺を見もせずにただそれだけ言った。聞きたいことは山積みだったが、その中でも一際重大な質問を俺は選んだ。

「特殊作戦群に、東雲侑という自衛官はいますか……?」

 その途端、明らかに周りの空気が変わった。

「……なんだと?」

 男はパネルから手を離して俺のことを見た。睨みつけたと言ってもいい。その目は息を呑むほど鋭く、そして冷たかった。さらに男は怒っていた。少なくとも不快感を覚えている様子だった。俺はたじろいだ。まるで強大な捕食者に出くわした小動物のように、その場に硬直してしまった。男は続ける。

「貴様、今東雲という名前を出したな?」

「知り合いで……」

「ふん、実にくだらん質問だ。そんなことを俺の口から言わせるな。いいか赤本、我々が求めるのは洗練された技と、それを支える卓越した力だ。それをよくよく覚えておけ。そうすれば貴様は強くなる。それ以外は考えるな」

 男はそう言って部屋を後にした。その後、教官から小言を言われたのは言うまでもない。

 12時間後、教官室にあの男は時間きっかりに現れた。俺が椅子から立ち上がって敬礼をすると、男は一瞥して言った。

「重心が左に傾いている。トレーニングの甘い証拠だ」

(まさか今の一瞬で、俺の体幹のブレを読み取ったのか?)

「……精進します」

「当たり前だ。特戦群に入る以上、人並み以上の努力は常にキープしろ」

「了解しました。あの、お名前をお伺いしても」

「伊地知二等陸佐だ。特戦群、アルファ部隊隊長を務めている」

「では伊地知陸佐が自分の指導を?」

「馬鹿を言うな。お前のような中途半端をわざわざ見るわけがないだろう」

 俺はその発言に少し反感を覚えた。先ほどから横柄な態度が目立つ。

「では自分はどの部隊に配属されるのです」

「エータ部隊だ」

「エータ……」

「最底辺ではあるが、皆お前よりはずっと強い」

「………」

「いいか赤本、お前にはこれでも欠片ほどの期待はしている。お前の錆びれた才能を部隊の中で磨け。そうすればアルファにまで上がることも可能だろう」

「そこに行けば自分は……」

「自衛隊最強の一員となる。そして対人戦闘においても、だ」

「対人?まさか人を相手にするんですか?」

「何を勘違いしている。我々が戦闘の対象にするのは馬鹿な活動家でも、図体だけの害獣共でもない。我が国を侵略せんとする他国の特殊部隊だ」

「そんなはずがありません。他国への加害行為は国連で禁止されたではないですか」

「それをかの列強国が律儀に守るはずが無いだろう。現に、今でも西暦時代のような破壊工作や妨害工作は行われている。それは日本でも同じことだ。三度の世界大戦と、未曽有の大量虐殺を経験しても、人殺しはいまだ正当化され続けているのだ」

「そんな……」

「悲観はするな。むしろ幸運に思え。我らのような野蛮性を持った人間が、それを正当に行使出来るのだ。この仕事はまさに天職と言えるだろう」

 俺にそう話した伊地知の目を今でも覚えている。嗜虐心と若干の興奮を帯びたその目は、この男の内に秘める露悪的な思考と嗜好を十分に示唆していた。その時から俺はこの男が嫌いになった。

 特戦群の機密基地は富士山の麓にある河口駐屯地に併設されていた。一見、駐屯地横の宿舎のようにも見えるようカモフラージュされていたが、隠し監視カメラの数は尋常では無かった。

 俺は基地の正門に着くと、重厚な門がゴロゴロと開き俺を迎えた。

 目の前の中央棟に歩いていく間、敷地内に人影は一切なかった。建物の窓も全て締まり切っていて、さながら監獄だった。この第一印象は、その後変わることは無かった。

 中央棟の受付に案内されて、俺はエレベーターで地下に降りた。そこは地上とはまるで別世界だった。地下施設とは思えないほど広大なグラウンドに市街地、それに飛行場が付いている。この広大な地下空間において、俺の乗ったエレベーターは取るに足らない鉄の箱だった。そしてエレベーターは、敷地中央の巨大なドームに入っていった。

「なんだここ……」

 俺は思わずそう漏らした。ドームの中は何もなく、ただ一つだけ中央に球体が設置されていた。この球は何本ものケーブルが地面に伸びていて、この殺風景な空間においてはまさに異物だった。俺はエレベーターから降りると、あろうことかそこに案内された。

「この球体に触ってください」

「これに、ですか……」

「はい。検査はすぐに終わりますので」

 このグロテスクな球体で何を検査するのだろうか。俺は渋々素手で球体の表面を触った。触ってすぐ、

「もう大丈夫ですよ」

 と言われ、俺は表面から手を離した。流石に早すぎないか?俺はこれがどういう検査なのかを疑問に思ったが、受付曰く、

「怪獣駆除における重要な検査でして」

 とのことだった。伊地知は特戦群を対人部隊だと言っていたのに、なぜ怪獣が出てくるのか。俺はまたもや疑問に思いながらドームを後にした。そして初めて特戦群の隊員たちと会った。それは今までの中で最悪の出会いだった。ドームを出たすぐのところにある歩道で、灰色の戦闘服を着た隊員たちが4人俺の行く手を阻んでいた。4人組の一人は言う。

「お前が新入りだな?」

「……そうですが」

 その瞬間だった。声を掛けてきた隊員が一気に俺との間合いを詰め、みぞおちに回し蹴りを食らわしてきた。

「ッ……!」

 俺は声も出せぬまま、その蹴りをもろに食らって後ろに吹き飛んだ。

(早すぎる!なんだあの蹴り!)

 俺はなんとか起きああろうとしたが、当たり所が良すぎて立つ気力すら湧かない。そんな俺を見て隊員たちは失笑した。

「反応すら出来ないのかよ、新入り」

「なあ、もしかしてコイツ東雲より弱いんじゃねえの」

「かもな」

 俺は咄嗟に言った。

「アンタ今、東雲って…」

 今度は俺は胸倉を掴まれた。先ほどの隊員が俺を睨みつける。

「新入り、俺からお前に一つだけ忠告してやる。特戦群における上下関係は絶対だ。いついかなる時でも敬語は徹底しろ」

「……分かりました。ですが」

「二度お前を蹴らせるつもりか?」

「申し訳ありません……」

 その時やっと俺は解放された。

「チッ、エータの雑魚が」

 隊員たちは俺をそう罵ると、寮らしき建物に消えていった。戦闘服には、デルタ隊のワッペンが貼られていた。

(デルタ隊の隊員であの練度……ならアルファ隊の伊地知陸佐は一体どれだけ強いんだ?)

 俺は地面に放置していた荷物を担ぐと、痛む腹部を抑えながらエータ隊の隊舎に向かった。

 隊舎にはすでに隊員たちが控えていて、ズラリと並んだ隊員一人ひとりが俺の一挙手一投足に注目していた。その時俺はやっと悟った。この特殊作戦群において最も重要とされるのは、個人の身体能力と技能であると。そしてついに俺は見つけた。

「東雲、さん?」

 隊列の最奥に、東雲さんは立っていた。あのころとは全く違う姿で。

過去編まとまらない

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