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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第2章 王族親衛隊
47/130

精神座標

46話です

 宇都宮でSATに取り押さえられてから、全身を拘束され、更に目隠しをされて源はとある部屋に連れてこられた。部屋に入れられてから、スピーカーがついた。

『あなたはこの部屋に無期限に拘束されます。目隠しと手足の枷は権限を所持する人物にしか解除できません。面会は1日につき1人に限定されます。そして、面会者への許可のない質問は認められていません。食事は朝と夜の2回です』

 報告書を読み上げるように淡々と機械音声が告げた。音の反響具合からこの部屋が正方形の隔壁に囲まれていることが分かった。恐らく核弾頭の爆発にも耐えうる耐久性がありそうだ。

(これが自分の選択の代償か…)

「そういうことだな。まあ死ぬまで出られねえかもしれないんだし、暇つぶしの方法でも考えたらどうだ?」

(それは、無責任すぎる…)

「へえ、お前が言うか」

(そんなこと分かってる。俺は自己中心的で精神の未熟なガキだよ。それを否定するつもりはない)

「じゃあどうする。ウジウジと自分の行いを省みて反省会でもするのか?気休めにはなるぜ」

(ただ反省するだけじゃ次には繋がらない。俺がするべきは、どうやってこの状況を抜け出して、どのように皆の信頼を取り戻すかの具体的な方策を考えることだ。もちろんそこに誠意はある)

「そんな上手いこといくと思ってんのか?そもそもお前の頭ん中覗いても、死んだ幼馴染のことばかりじゃねえか。誠意はどこだよ、誠意は」

(カナの事についてはまだ整理が付いてないんだよ。失うには余りに依存しすぎたんだ)

「その通り、お前は自分の軸がねえ。具体的な方策うんぬん言っておいて、頭では全く別のことを考えてる。目的もなくただ雑な思考を積み上げてるだけ。お前の精神は雑念ばかりで、くつろぐスペースもねえ」

(………)

「気の利いた文句の一つでも言ってみろよ。まあお前が何考えてるかは分かるけどな」

(……思いつかない。お前の言う通りだ、カナ)

「しょんぼりモードか。情けねえなあ、ミナモト」

(俺は……いやいい)

「何だよ、言いたいことがあんだろ?俺に」

(……俺はいままでどうやって生きてきたんだろう、って)

「はあ?俺が知るかよ。てめえで思い出しやがれ。大体それに何の意味がある」

(俺はカナを失う前と後で二つの性格がある。そしてその分、考え方も生き方も二つある。カナを失う前の俺は、カナと一緒に過ごすだけが生きがいだった。親が誰かもわからずに、物心ついた時から俺は施設で暮らしてた。愛情なんて向けられてこなかったし、その定型ももちろん知らなかった。全部がゼロからのスタートで、カナと出会うまではずっと孤独で不安だった。だからカナを頼ったし、唯一愛情を向けてくれるカナを自分なりに愛してた。多分昔の俺がお前と会ってたら、お前のことは浄化してただろうな)

「そうかもな。その時のお前は、少なくとも決断力はあったし、ぶれない芯もあった。その形がどうであれ、今のお前よかマシだな。」

(ああ、その時の俺はお前の言う通りだったとは思う。そして、カナを失った後はまた違った)

「精神的支柱を失って、ただの空っぽな抜け殻になった。特筆する所もねえ、面白みのない真人間だな」

(そして今は、それらが混ざり合って落ち着かない。そうだ、俺には何か絶対的な柱が、それこそ人生を掛けたような確固たる柱が無いと判断が鈍り、やつれてしまう)

「まあそんな所だろうよ。にしても気づくのが遅すぎるがな」

(でも気づけた。まずは全ての原動力となる目的を探さないと…」

 その時、ビーという警告音と共に、壁に埋め込まれたスピーカーがついた。

「源君、聞こえるかね」

 その声は出羽長官だった。長官は続ける。

「またやらかしてくれたな、君は。よりにもよって核弾頭に推進装置を付けてしまうとは…」

 出羽長官はそこでため息をついた。

「だがそれも過ぎたことだ。これ以上の追及は無意味だろう。そこでだ、君には命を懸けて、自身の利用価値を世界に示してもらう」

「………」

(利用価値だって?)

「疑問に思うだろうが、つまりは怪獣、怪人討伐における戦略的価値のことだ。以前話したが、君の力は規格外だ。日本の、ひいては世界の脅威になりかねない。だが、それも使いようによっては変わる。いいか源君。君がこの状況を逃れるためにはもうこれしか残っていない。つまり……」

(つまり?)

「君に過程変異を覚えさせ、北極に送る。そして全ての根源を破壊するのだ」

(覚えさせるって……)

「北極には第一次進攻の直前に落着した隕石がある。怪獣怪人たちはここから世界に放たれた。そして、この隕石は今でも奴らの力の源となっているんだ」

(それを俺が破壊すれば、全ての怪獣怪人は力を失う…)

「これが何を意味するのか分かったかな?君の適合率をもってすれば、過程変異によって膂力は何倍にも上がるだろうし、怪獣にも真正面から対抗できるはずなのだ。その成功例もいる。さらに、理論上は北極海域の怪獣の巣を突破できる」

(俺が過程変異を……そして北極に行く)

 源はその時、自分がいかに幸運かを理解した。

(目的、あるじゃないか。それも飛び切りでかいのが)

「源、引き受けてくれるな?お前自身の声を聞かせてくれ」

 マイクが室内に繋がれた。また返事は一つしかないのだろう。だが、今度は自分の意志で選択する。

「僕が、全てを終わらせます」

「それでいい。では、世界に掛け合ってくる。一週間ほど待っていてくれ」

 源はそれに頷いた。出羽長官が去った後、源はカナに問いかけた。

(見つかったよ、目的が)

「そうだな。難易度で見れば丁度いいんじゃねえの」

(カナは反対しないのか?)

「俺は元々こんな時代に未練はねえ。殺されようがなんだろうが別に構わねえよ」

(……そうか。ところでカナ、北極の隕石は一体、お前たちの何なんだ?)

「墓だよ。俺たちの精神をこの地に縛り続けている、呪いの墓標だ」

(あれは宇宙船なのか?)

「そうだな。そう言う風に呼べる」

(お前もその隕石に乗ってきたのか?)

「そうだ。あの石ころに押し詰められたのさ」

(じゃあどこの生まれなんだ。どこのどんな星から来た)

「どこかだって?ここだよ、俺は地球で生まれたんだ」

(……なんだって?)

「そのまんまの意味だ。おい、冗談じゃねえよ。何訝しんでやがる。俺は地球の第一階層、ウル出身だ」

(階層って……アメリカにでも生まれたのか?)

「アレは俺たちの真似だ。あの大陸には名残がまだあるからな」

(一体いつ生まれたんだ?お前)

「人間の尺度で測ると、ざっと1万年前だな」

(そんな昔にか?人間が生まれる前じゃないか)

「それは少し説明が面倒になる。それからの変遷については有識者に解説を頼め。俺は面倒くさくなった」

(面倒って……)

「過去のことは語らない主義なんだ。あまりいい思い出がねえ」

(それは俺が見た記憶の…)

「おい、その話題を出すな。ぶち殺すぞ」

(…すまない)

「ふん、やっぱりお前は最悪だ、クソガキ」

 それからカナは源の呼びかけに応えなくなった。そしてきっかり1週間後、また出羽長官が尋ねてきた。

「朗報だ、源君。国連からの許可が下りた。これからは君に日米共同で最新技術を教え込む」

(これから、は。だって?俺は赤本さんたちと……)

「特殊処理班は心配しなくてもいい。白石と千秋の二人で通常の浄化作業は成り立つ」

(そういうことじゃ…!俺はまたあそこで……)

「では拘束を解く。その後精神鑑定を受けた後、渡米してもらう」

「待ってください!」

 源が思わず口を開く。それを検知した監視システムが作動した。

『対象の危険行動を感知。緊急通報します』

「おい、セキュリティを黙らせろ。源の話を聞く」

 出羽長官はシステムの一部を停止させると、マイクの音量を上げた。

「……渡米の前に、特殊処理班の面々に合わせてくれませんか?」

 源の頼みに出羽長官は拍子抜けした。ここで申し出を拒否でもされたら全てが水泡と帰すのだ。

「構わんが、あまり時間はとれんぞ?」

「承知の上です。彼らには、言わなければいけないことがあります」

「分かった。都合をつけておこう」

 源は拘束具を外されると、視界のまぶしさに思わず目をつぶった。手足も痺れて、動きがぎこちない。

「すまなかったな。そうでもしないと大臣たちが黙らなかったのだ」

 源はうなじに取り付けられた制御装置をいじられ、エレベーターに乗せられた。そして狛江主任の待つ、第一研究室に向かった。

「もう三度目かな、源君」

 狛江主任はいつもの様子で源に話しかけた。目の前にはスポットライトで照らされた椅子が置いてあった。あまりに簡素だったので、源は今から何をするのかを測りかねた。

「この椅子にいまいちピンと来ていないみたいだね。これでも技術の結晶なんだけど。まあいい、とりあえずその椅子に座ってくれよ。これで君の頭の中の状態を調べさせてもらう」

 源は言われるままに椅子に座った。別に変わったところもない。ただ横に一台、ホログラムが立ち上がっただけだ。それも真っ暗で何も映していない。

「じゃあ目を瞑ってくれ」

 指示の通りに目を瞑った。すると、意識がどこかに飛んでしまったように体が軽くなる感覚に襲われた。そして視界が急に明るくなり、目を開くとそこはあの白い空間だった。目の前には、どこから持ってきたのかソファに座るカナがいた。今度はちゃんと服を着ている。それも高校時代の制服だ。若干気分が高揚するのを抑えてカナに近寄った。

「……カナ?」

「………」

 無視である。まだ源が過去の記憶に言及したことを怒っているのだろうか。

「なあ、すまなかったって。何度も謝っただろう?誓ってもうしないからさ。それに、その姿で無視されるのは傷つく」

「……条件がある」

「条件?」

「俺の素体を用意しろ。そしたらナカナオリしてやるよ。あと、お前中継されてるぞ」

「え?」

『なんだ、気づいてたのか。王族親衛隊は伊達じゃあないね』

「その名をだすな、人間」

『そう警戒しないでくれ。源君も、さっきのところはカットしておくから気にしないでくれよ?」

「カットって……」

 俺がカナに謝ってるところか。あそこもモニタリングされてたのか?

「それにしてもこの空間はすごいね。果てが見えないほどの精神座標だなんて、聞いたこともない」

「精神座標?」

「ちょっとした専門用語さ。まあいい機会だ、この空間の検査がてら、特別に講義をしよう」


難しい

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