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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第2章 王族親衛隊
46/130

別れの言葉

45話です

 壊れた改札を抜けて出てきたのは赤本たち特殊処理班と、米軍指揮官ホーガン少将だった。数人の将校と兵士を連れている。いずれも服は汚れ、何人かは包帯を巻いていた。

「予定通りだな」

「そうですね。生存者はこれで全員ですか?」

「そうだ。自衛隊側はかなり早い段階で壊滅していたらしい。それも怪人に襲撃されたとのことだ」

「怪人ですか……あの被害状況をみれば納得です。ただ、検問の方は死体に弾痕以外の外傷は特にみられませんでした。人間の、それも対人戦闘に特化したある一部隊によるものかと」

「ああ、そちらの情報は千秋が確認してくれていた。その千秋については…」

 赤本は周の方を見た。欠損部はホログラムで覆われていて中が見えない。赤本はその意外な素顔というものを見ようとしたが、どうも実現しそうになかった。

「千秋さんに関しては僕も把握しています。実はちょっとした知り合いで」

 源の説明に周の体がかすかに反応した。

「そうだったのか」

 そこに東雲が後を継ぐ。

「では、一旦地下に戻って安全を確保する。ホーガン少将もそれでよろしいですね?」

「構わないが、ミナモトはここに残り拘束したのち、日米の監視下に置く」

 それに特殊処理班の面々が反応する。もっとも、周はその意味を察して黙り込んだ。

「それは一体なぜですか?」

 東雲の問いにホーガン少将は答える。

「君たちは知らないだろうが、彼の体には今、怪獣の意識が混ざっている。それがどれだけ剣呑な状態であるかは君たちの経験上、容易に想像できるはずだ。世界一の適合率を持つ人間に大怪獣の意識が入っているんだ。すでに私たちが皆殺しにされていてもおかしくない」

「そんな!彼は意識も記憶も正常じゃないですか」

 赤本はそんな答えの分かり切ったことを少将に問う。

「すでに肉体が怪獣の支配下に置かれ、その上での偽装の可能性もある。こんなこと、言わせないでくれるか?」

 少将は赤本を睨んだ。冷静さを欠いた赤本の質問を強く指摘していた。

「そんな……」

 白石がその場にしゃがみこんだ。緑屋と諏訪部がそれを慰める。この二人は告げられた新事実に対して驚くほど冷静だった。

「どのような経緯にせよ、政府の行動は適切だ。それに源が殺されるわけでも無い。悲観しすぎるなよ、白石」

「緑屋の言う通りだ。断片的な情報から全体を推測するべきじゃない。それはそれとして、源君は無責任すぎるとは思うけどね」

 諏訪部の言葉が源に刺さる。確かに源は、自分のこの選択が周りにどう影響を及ぼすのかをよく考えていなかった。自身の自己満足と逃避のために、デメリットは隅に追いやられていた。

「今更責任なんか感じるんじゃねえよ。これはお前の選択だろうが。だいたいお前は意思に一貫性がねえ。そんなんで他人の死を背負うなんざ、傲慢も甚だしいぜ」

 カナの呆れた声が頭に響く。

「源、お前はどうなんだよ」

 不意にそう問いかけられた。その声は赤本だった。その声に先ほどの動揺は無く、あるのは元軍人としての冷静さと慎重さ、そして彼自身の疑念だけだった。

「僕は……」

 その答えに源は詰まった。その場の全員が源の発言に注目している。

「僕は、自分の意志で玄武を自意識の中に取り込みました。その過程で失っていた過去の記憶を取り戻し、玄武とも対話をしました」

 また言葉に詰まる。場を包む静寂が痛い。源は生唾を飲み込むと、話をつづけた。

「信じられないと思いますが、僕は玄武に哀れみを感じました。その感情は、あくまで僕自身の利己的な発露にすぎないのですが、それでも哀れに感じました。彼らの過去は僕たち人間と驚くほどに通っていた。感情の機微も、情も非情も、醜さも人間のそれと寸分たがわなかった。ですから僕は、その、浄化できなかった。………申し訳ありませんでした」

 まず口を開いたのは緑屋だった。

「そんな謝罪はいらない。源、お前自分がなにしでかしたのか理解してんのか?お前は、私たちやその他大勢の信頼を裏切ったんだ。コアの浄化という義務を放棄して私情に流された。それがこれから起こることの全てを招く。もう一度言うぞ、この場限りの安い反省なんざ必要ねえ。信用を回復するために、今できることを全身全霊で取り組め」

 鋭い口調で緑屋は弾劾した。それに続いて赤本も口を開く。

「緑屋の言う通りだ。源、お前のその選択が良い方向に向かうもので無ければ、俺はお前と仕事は出来ない。」

 赤本は突き放すようにそう言った。その時遠くからバタバタとプロペラの音が聞こえてきた。ホーガン少将は腕時計を確かめると

「もうそろ時間だ。ミナモトを迎えに自衛隊機が来た。別れの挨拶は済ませておいてくれ」

 と源たちに言った。日本語は分からないはずだが、場の雰囲気で大体は察せられたのだろう。

 次に諏訪部が言った。

「僕は基本、こういうのはノーコメントだけど…白石ちゃんを泣かせるのはダメでしょ。自分の意志ばかり優先させると、いつか自分に殺されるよ?」

 源はその言葉に白石を見た。白石は起きあがって涙をぬぐっている。源はその姿にじわりと後悔の念が湧き上がってきた。

「やっぱり女に入れ込んでるような奴はダメだな。後先考えないくせにすぐ意味もない後悔なんざし始める」

 カナはどうしようもないという風に源を罵った。源はそのどれにも答えることは出来なかった。すると、段々と大きくなるプロペラ音と共にドカドカと足音が聞こえ、駅の四方から盾を装備したSATの隊員たちがぐるりと源たちを取り囲んだ。そしてその包囲陣の一角から、スーツ姿の男が数人歩いてきた。そしてホーガン少将と言葉を交わすと、源の方を見た。少将は言った。

「今からミナモトを拘束する。別れの言葉は済んだな?」

 それを確認する間もなく源は、スーツ姿の男が持っていた制御装置をうなじにつけられた。すると体の力が抜け、それを隊員たちが手枷と足枷をかけ五感を塞ぎ、瞬く間に駅の奥へと連れ去られた。

「ま、待ってください!私…!」

 白石が慌てて源に近づこうとしたが隊員たちに阻まれ近づけない。周は人垣の上から源の姿を見送ったが、言葉を交わすことは無かった。


日本政府始末書より一部抜粋

 防衛暦31年、8月26日旧宇都宮駅にて対象、源王城を拘束。対象は大怪獣玄武の意識を取り込んでおり、対象の適合率の高さから非常に危険であると判断された。よって地球防衛省最深部、保管室にて対象の軟禁を実施。その際、能力を制限する専用機器を対象に装着。今後の対応については各国との専門家会議によって決定される。また、今回の駆除作戦において、自衛隊組織に回復不可能の損害がでたとして、本土守備隊が防衛任務の主導権を移譲される。さらに、本作戦において人対人の戦闘の痕跡が確認されたため、公安警察が調査を開始した。国民には、玄武の進攻に伴いテロ組織の襲撃に会ったと説明。

 同年9月2日、対象の処罰が決定される。

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