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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第2章 王族親衛隊
40/129

腐れ縁

39話です

「荒巻陸将、こちらで何を?」

 宇都宮第6電波灯台の頂上階では、東京より派遣された陸上自衛隊、荒巻陸将が目の前の景色を見つめていた。

「いや、玄武の様子が気になってな。俺は進攻後の世代だから、実物は初めて見るんだ」

「陸佐、政府から通告のあった車列が検問を通過しました。すでに部隊が展開を始めているそうです」

「…そうか。では第3から第8までの電波出力を半径1キロに絞ってくれ」

「了解しました」

 電波灯台職員が去った後も、荒巻は眼前に迫る玄武を見ていた。圧倒こそすれど、そこに恐怖や畏怖の感情は無く、ただ一怪獣としか思えなかった。

(無理もない、私はアレと何の後ろ盾もなく戦ったことは無いのだから。せめてこのまま、蹂躙される恐怖も、死と隣り合わせの極限も、味わうことなくこの戦いを終わらせたい)

 荒巻はその場から立ち去ると、米軍の指揮官に面会に向かった。

「全員、準備は万全か?」

 装甲車の中で、東雲は皆に語り掛けた。2時間前に福島市外ですでに制服などには着替え終わり、千秋の提案で武器類は取り出していた。

「これから自衛隊側本部に向かう。そこで私と赤本、そして源は前線に向かう。他の班員たちは後方支援に回ってくれ」

「あの!」

 そこで白石が手を挙げた。

「玄武の浄化作業を行うんでしたら、私と千秋班員も同行するべきだと思うのですが」

「それはならん。玄武のコアは特別だ。白石や千秋の適合率では逆に精神を破壊される恐れがある」

「…分かりました」

 白石は渋々引き下がった。

「他に質問は…無いな。では行動開始だ」

 東雲はドアを開けると、そこから本部テントに向かった。

「処理現場とは雰囲気が違いますね」

 源は周りの兵士や隊員たちを見ながら言った。

「まあな。特殊部隊ならまだしも、今回は一般隊員が多く犠牲になった。殺気立つのも当然だろう」

「それは…赤本さんもそう思ったんですか?」

「どういう意味だ?」

「特殊作戦群の人たちです。赤本さんと東雲さんは何か因縁があるようでしたから。あ、不躾な質問でした。すいません」

「…多少はな」

「え?」

「入隊した当初、何かと気にかけてくれた先輩がいてな。その人が亡くなっていたのは、まあ悲しかった。それだけだ。他の隊員たちは訓練以外で喋った記憶もほぼない。俺は周りから浮いていたからな」

「どこかでその話を聞きました。僕は自衛隊の記憶はほとんど無いですから、彼らや赤本さんみたいに悲しむことは出来ないかもしれないです」

「ドライなんだな」

「そうかもしれません。ここに入る前、僕の自衛隊時代の友人という人と偶然会ったんですけど、彼は今の僕を見て、以前と変わったと言っていました。特に性格が」

「性格、か。昔のお前はどんな性格だったんだ?」

「斜に構えた性格だったと…」

「お前がか?信じられん」

「でもどうしてか、その時の方が今よりも幸せだったような、大切な何かを持っていたような気がするんです。僕はひねくれていたはずなのに」

「それを正す必要が無かったんだろう。その大切な何かに支えられていたから。そして今はその何かを失ってしまった」

「……そうかもしれません」

 源たちは宇都宮駅から少し外れた、県道と国道の交わる交差点に到着した。そこには自衛隊と米軍の指揮官が立っていた。

「まさか指揮官方にお出迎えいただけるとは…」

 東雲は若干その様子に面食らった。

「君たちは作戦の要だからな。特に彼は」

 米軍指揮官、ホーガン少将は源を見て言った。

「東雲班長、作戦に変更はない。予定通りに班を分け、移動を開始せよ」

 荒巻陸将はそう伝えると、東雲にあるカードを渡した。それは全面真っ黒ののっぺりとしたものだった。

「記録装置だ。所定の電波灯台に入ったらそれを管制員に渡してくれ」

「了解しました」

「ああ、健闘を祈る」

「では早速、我々のジープでシノノメたちを送ろう」

 ホーガン少将は裏に止めてあったジープを手配すると、東雲たちに貸し与えた。運転するのは東雲だ。東雲たちは市街地を通り、日光市に建てられている全長一キロの宇都宮第8電波灯台に到着した。敷地内の駐車場には米軍車両が複数停車していて、厳重な警備体制が敷かれていた。

「…彼らですかね」

「だろうな。すでに中にいるんだろう」

 東雲たちはジープを止め、建物の中に入った。中は意外と簡素なつくりをしていて、軍艦の船内のようにも見えた。最寄りのエレベーターで地下に降りると、管制室と書かれた部屋にたどり着いた。中には管制官とMSBのメンバーがいた。

「久しぶり、でもないですね」

 アーノルドは東雲に向けて言った。東雲は、

「つい最近、飲食店で偶然会ったそうですね」

 と若干けん制した。女性陣からの苦情を考慮してのものだ。

「あれは我々の失態だ。本当に申し訳ない」

「過ぎたことです。もうこだわりません。それより、貴方がたの浄化担当はどちらに?」

「こちらのジーク・フェンリムが担当します。我が隊のエースです」

「ハハ、エースって」

 アーサーがそれを聞いて噴き出した。当の本人はぎりぎり手を出さないように我慢している。

「特殊処理班からは源が担当します」

「それがよいでしょう。では班長はこのまま管制室に残っていただきたい」

「分かりました。隊長はどのように?」

「護衛をします。追手の怪人たちはまず間違いなくここを狙ってくるでしょうから。それと、アカモト班員を貸し出してもらいたい」

「…レストアを引き付けるためですか?」

「あくまで引き付けるだけです」

「東雲さん、アイツは俺が必ず止めます。ですから…」

「それは君が決めることではないだろう」

「ですが……」

 東雲は少し考えると、深いため息をついた。

「はあ、分かった。ここはお前に任せよう」

「決まりだな。アレク、カートマン、アカモト、ついてこい」

 アーノルドは3人を連れて建物の外に出ていった。東雲は管制官に例の黒いカードを渡していた。

「おい、お前がミナモトか?」

 不意にジークが源に声を掛けてきた。

「そうです。あなたはジークさんですね?」

「肩のワッペン見りゃわかるだろうがよ。それにしてもずいぶん細え体してんな。浄化の途中でぶっ倒れんなよ?」

「はは、善処しますよ」

 源は少しこのドイツ人が苦手になった。何というか、チンピラのようである。

「ミナモト、俺たちはまず上に登る。そこでコマンドからの合図を待つ。オーケー?」

「了解です」

「よし、ついてこい」

 源はジークと共に、電波灯台の最上部、光源に上がった。

「これが光源…」

 源は目の前の光景を見て驚きを隠しきれなかった。それは灰色の金属球だった。しかもいくつもの管が地面から伸びて球の下部に接続されている。まるで血管のようにも見えるグロテスクなそれに、源は見覚えがあった。

「怪獣のコア…」

「んあ?こりゃあ疑似核だ。正確にはコアじゃねえ」

「この疑似核と同じものを以前浄化したことがあるんですよ」

「あー、確か日本が一基オリジナルで作ってたか」

「はい。浄化したのはそれが初めてです」

「その時のデータが世界中の政府機関で出回ってるってわけだな。まさかアーサーの野郎を超える奴が現れるとは思ってもなかったぜ」

「アーサーさんを超える?僕がですか?」

「オマエに決まってんだろ。アーサーの野郎はな、ミナモトが現れるまで、適合率70パーセントで世界で一番の適合率だったんだ。スラム出身のクソガキがだぜ?」

 ジークの声はどこか明るかった。まるで輝かしい過去を語る老人のようにそれを懐かしんでいた。

「そうなんですか?知らなかったです」

「無理もねえよ。金も学も、もちろん名声も無かったんだ。政府に拾われてからも裏方の仕事ばかりで、あのキレーな顔すら一般には公開されなかった」

「ジークさんはアーサーさんとはどんな関係だったんですか?」

「…ただの幼馴染だよ。いや、腐れ縁だ。たまたま難民キャンプが一緒でな。そこで会ってから今の今まで一緒だ。うっとおしい限りだぜ」

「なんだか羨ましいです。僕には、そう言った人は…」

 そこで源は強い違和感を感じた。

(僕には、幼馴染と呼べる人なんて一人も、一人もいなかった、のか?)

「おい、ミナモト。急に黙り込むんじゃねえよ。なんか恥ずかしくなってくるだろうが」

「え?ああ、ちょっと考え事を…」

(また後で考えよう)

 電波灯台駐車場では、護衛を退避させたアーノルドたちが束の間の一服を楽しんでいた。

「随分ごぶさただったからか、いつにもまして美味いな」

 アーノルドはもう紙たばこ5本目である。

「アカモトも吸うか?」

「肺に悪いので」

「電子もダメなのか?アカモト」

 カートマンは残念そうにたばこの煙をふかした。

「旦那もカートマンもなんでそんな葉っぱウマそうに吸うんだか」

 アーサーも喫煙はしないらしく、けむそうにマスクを付けた。

「あのマスク、あそこまでファンが巨大なのはなぜですか?」

「鎮静剤が入ってるんだ。制限進化は強烈な痛みを伴うからな」

「鎮静剤というのは?」

「まあ、医療用の薬物だな」

「薬物って…」

 赤本は源と同じ反応をした。

(このアメリカ人たちは薬物を吸いながら戦闘しているのか?信じられん)

「そう引くなよ。お前も体験すれば分かる。これが細胞一つ一つが針で貫かれるような気味の悪い痛みなんだよ」

 カートマンは嫌そうな顔をする。

「まあ俺たちは行きにセカンドまで上げたからな。後は戻るだけだ」

 アーサーは準備体操を始めた。

「アカモト、お前のその武器の方が気になる。なんだよそのでけえメスは」

 カートマンは赤本が手に持つケースを指さした。

「これは術刀だ。怪獣の体組織を切断するのに使う」

「カタナか!いいねえ、日本らしい」

「カタナでは…まあいいか」

 赤本はケースから鞘に収まった術刀を取り出した。と、その瞬間無線が入った。

『玄武が目標地点に到着、その後予定通り進路を転換し第8電波灯台に進行中。現時刻より北伐作戦を開始する。繰り返す….』

「…旦那」

「ああ、こっちもお出ましだ」

 遠くで聞こえる爆発音とともに、山のあちこちから発砲音がした。そして数個の人影が森から飛び出して、駐車場に降り立った。

「久しいな、アカモト!」

 特に小柄な一人が、見た目にそぐわぬ豪胆な声でそう一喝した。その少女はアカモトを見据えると、ニヤリと笑った。赤本は術刀を抜いて応えた。

「人違いだ。他を当たれ」


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