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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第2章 王族親衛隊
37/130

一抹の不安

36話です

 東京中央基地からは、幾度となく戦闘機と輸送機が飛び立っていた。まるで戦時下のようにも見えるそれは、大戦を経験した大人たちに一抹の不安を与えるのには十分な光景だった。

「戦闘機の空対地の戦闘だけでなく陸上部隊まで派遣するとは、自衛隊も本気だな」

 東雲はその光景を複雑な表情で見ていた。東雲は大戦前の生まれだった。

「東雲さん、今回の護衛隊長が」

「ああ、すまない」

 今源たちは、車両倉庫の前にいた。倉庫からは、戦車が幾度となく輸送機に乗せられていた。地面は履帯が地面を噛む振動で小刻みに揺れていた。東雲は倉庫の奥から出てきた屈強な自衛官と握手を交わした。

「東郷3佐です。現場まで確実にお守りいたします」

「そうしてくれると助かります。もう米軍は来ているんですか?」

「すでに検問で待機しています。ずいぶん少人数でしたので、もしかすると後からもう一軍が来る可能性もあります」

「そうですか。では我々の乗る車両はどこに?」

「こちらの装甲車を用意したのですが、前回の事もありますのでやはり輸送車にされた方が…」

「その必要はありません。自衛隊だけなら心もとないですが、今回は米軍がついています」

「米軍に怪人と互角かそれ以上に戦える実力なり方法があるのですか?」

 この東郷という軍人は米軍に懐疑的だった。それは彼の率いる部隊が大戦時に、米軍の救援部隊に見捨てられ、敵地の中で一か月生存した過去からくるものだった。アメリカ人は信用できない。大戦後の米国に対する世界の心情はこれに終始していた。

「方法も実力もあります。少なくとも今は、我々の味方です」

「……分かりました」

 東郷は渋々、東雲に車のキーを渡した。車内は随分狭く感じた。すでに諏訪部と緑屋は合流していて、さらに今回は千秋が加わっている。2メートル半の身長は装甲車の車内ではいささか窮屈だ。

「千秋、なるべくかがんでもらえるか。天井に頭がすれてキズがついている」

 赤本は助手席に座りながら、後ろの状態を心配している。

「大丈夫だよ赤本。千秋君はこの通り、余った2席を使えば十分収まるから」

 装甲車は10人乗りだ。その最後列は2列シートなのでそこを丸々千秋に明け渡した。どこか威圧感のある布陣である。

「では出発だ」

 東雲の運転する装甲車は、自衛隊の護送車列に加わり、首都高を通って北部防衛境界線へと向かった。砂漠化によって風化、破壊された旧東北新幹線沿いの街並みを通り過ぎ、宇都宮の検問に到着した。東雲の言う通り、米軍の車両が数台止まっている。そして、その内の一台から、防塵マスクをした兵士2人が降りてきた。そして一人は先頭車両に、もう一人は源たちの装甲車に近づいてきた。兵士は窓を叩くと、開けるようにジェスチャーした。東雲がそれに応じると、兵士は砂を簡単に払ってから車内に入ってきた。

「いや、日本は砂漠が多くて困るね。防塵マスクなんざ一年ぶりだぜ」

「まずは所属と名前を名乗ったらどうだ」

 赤本がそれに応える。兵士はマスクを取ると、車内の空気を思い切り吸った。見たところ黒人のようで、首筋には太い血管が浮き出ていた。ずいぶん体を鍛えているらしい。身長も180センチ後半で大きい。

「ただの世間話じゃねえか、兄弟。まあいい、俺はアメリカ海兵隊、MSB所属ジェイソン・カートマンだ。よろしく頼む」

「怪獣特殊処理班班長、東雲侑だ。用件は?」

「おっと、アンタが班長か。助手席の方かと思いましたぜ」

「用件は?」

 東雲は重ねて尋ねる。その右手は不快そうな顔をする赤本を制止していた。今にも殴り掛かりそうだ。

「ロステンシュタイン隊長からの伝言です。自衛隊隊員、および特殊処理班の班員たちは移動中の戦闘行動に関わる必要は無い、と」

「…あの少人数で我々を守り切ることは不可能ではないか?」

「俺たちは怪獣、怪人駆除の特化部隊です。今回の護衛においてこれ以上の適役はいない。正直自衛隊がいても公務員がいても足手まといになる」

「何だと?」

 赤本がシートベルトをはずして立ち上がろうとした。東雲はそれを無言で制した。

「何も馬鹿にしてるわけじゃねえ。これが安全確保の最善策なんだ」

 そこでカートマンに無線が入った。カートマンはそれを静かに聞くと、一言二言言葉を交わした。

「トーゴーは我々の提案を承諾した。シノノメ班長、貴方はどうするんです」

「東郷三佐が承諾した…」

 アメリカ嫌いかつ、歴戦の兵士である東郷三佐が米軍のこの無茶な要求を飲んだ。それは一体なぜなのか?

「…東郷三佐に何を見せたんだ」

「我々と怪人の戦闘記録ですよ。彼は自らの尊厳より部下の命を取った。勇気ある選択だ」

「その記録を見せてくれるか?」

「生憎、その許可は下りてないんですよ。一応軍事機密ですから。トーゴーは特例です」

 それではまだ納得がいかない。彼らの実力の程を、源はまだしも他の班員たちは知らないのだから。

「いいですか、我々の技術と経験は日本より30年進んでいます。この30年は大きい。日本は2日前、意思疎通の図れる怪人と接触した。我が国はそのときにはすでに怪人に対抗するすべを確立させていました」

「制限進化…」

 源はふと呟いた。怪人に対抗する手段、常人の何十倍もの身体能力を持つ怪人たちに勝つには銃火器は有効ではない。ならば自分たちを怪人に近づければいい。それが制限進化だった。

「その通り、さすが間近でその様子を見ただけあるじゃねえの。いいですか、この制限進化が我々の最大の武器だ。倫理を捨て、合理を追求したことによって生まれた人間を過程進化させる技術。それが制限進化だ」

「そんなこと、可能なのか?」

 東雲が信じられないという風にカートマンを見た。

「可能です。現に、神獣協会への突入作戦において制限進化により怪人を3体、一撃で葬っています」

 それは源も見た。アーサーがただのパンチ一発で怪人を木っ端みじんに吹き飛ばした。

「あの怪人を一撃で…」

 赤本は信じられないという風にその話を聞いた。怪人の強さは、実際に鍔迫り合った赤本もよく分かっていた。

「…もし、もしその話が本当だとしたら、確かに自衛隊は足手纏いになるかもしれない」

「赤本、お前…」

「東雲さん、彼らの話を受け入れましょう。東郷3佐がこの提案を飲んだ理由が分かりました。源、お前もそうだよな」

「はい、実際にこの目で見たから分かります。ここは米軍に任せるべきです」

「……分かった、ロステンシュタイン隊長に伝えてくれ。貴方たちに任せる、と。お前たちもそれで良いな?」

 東雲は白石達の方を振り返って聞いた。

「班長の判断に任せますよ。僕はどちらにしても信用できませんから」

「あの金髪野郎は嫌いだが、別に実力は疑ってない。私は任せても良いと思います」

「私も緑屋さんに同じくです」

「……」

「千秋は、どうだ?」

「……構いませんが、武器の携行は許可して欲しいです」

 千秋はいつにも増して慎重だった。それは怪人に対する、得体の知れないモノに対する恐怖と言うよりは、人間の盗賊や、それに類する者への警戒のようにも見えた。

「ンまあ、隊長もそこまでは規制しないだろうさ。一応、俺が話を通しておく。改めて、道中の安全は俺たちが必ず確保するからよろしくな、シノノメ班長」

「ああ、よろしく頼む」

 東雲は差し出された右手に、義手の無骨な機械の手で答えた。

「その義手、イカしてるぜ」

「それは良かった」

 こうして自衛隊と特殊処理班、そして米軍MSBの車列は、検問を通過して北上を始めた。その途中には因縁深い福島市街も含まれていた。


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