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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第2章 王族親衛隊
35/130

目線の先

34話です

「アーサーさん、アーノルドさん…」

 源たちの個室に乱入してきたこのアメリカ人2人は、米海兵隊の特殊部隊、怪獣殲滅大隊の隊員だった。そして、源と共に富士工業地帯に侵入した知り合いでもあった。

「すいません、連れが無礼を…って、ミナモトにアカモトじゃないか。それに…レストア?」

 アーノルドは咄嗟に身構えた。その目線の先は、もちろん千秋である。

「ああ、彼はレストアとは別人ですよ。うちの新入りです」

 源は急いであらぬ誤解を訂正した。

「レストアではない……そういえば、自衛隊が一機、協会倉庫からパワードスーツを鹵獲していたな。それがあの甲冑か」

「はい、彼はエンジニアなので、その調整のために着ているとか」

「そういうことか。すまん、誤解していた」

「いえ、驚くのも無理はありませんよ…ってうわ!」

 源は思わず体をのけぞらせた。なぜなら、酔っぱらったアーサーがアーノルドの目を盗み、源の目の前にあった枝豆を強奪したからである。

「おー、このグリーンピース中々塩っけが効いててうめえな」

 アーサーは何と、枝豆のガワごと食べている。

「アーノルドさん、これは…」

「生ビールをジョッキ5杯だ。俺が飲ませすぎた…」

 アーノルドはあれは失敗だったという風に首を振った。まさかのアーノルドが原因だった。

「お、肉」

 その間にも、アーサーは緑屋が焼こうとしていた上カルビを奪った。それが不味かった。

「おい、てめえ…」

 緑屋がキレた。手に持っていたトングは、怒りで震えてカチカチと音が鳴っている。

「ンだよ、チビ。別にこんな切れ端どうってことねーだろが」

 アーサーは余裕綽々で肉を飲み込んだ。そういえばこのイケメン、口がすこぶる悪いのだった。

「おおありだアメリカ野郎ぉ!」

 緑屋はトングをしっかりと握りこむと、アーサーにとびかかった。

「ちょ、タンマタンマ!」

 それを間一髪で諏訪部が止めた。アーサーは愉快そうに赤本の肩を叩いた。

「ハハハ、お前じゃ無理だよ。そうだアカモト、お前とは一回やりあってみたかったんだ。立てよアカモト」

 もう収集がつかない。隣の白石はなるべく関わらないようにと静かに肉を食べている。アーノルドは、すでに諦めかけていた。むしろ楽しんでいるようにも思える。アメリカ人はいつもこうである。

「アーノルドさん、二人でアーサーさんを止めましょうよ。これじゃあ被害が増えるだけです」

 それに源はまだ塩タンしか味わっていない。

「そうは言っても、こいつ力だけは強いからかなり強引なやりかたをしないと止まらないぞ?」

「強引って、殴るとかですか?」

「銃でわき腹を撃つ」

 つまり不可能である。あのイケメン、まるでゴジラみたいなスペックをしている。

「まあとりあえずミナモトはそこの彼女を止めてくれ。明らかにアレクの眼球を突こうとしているからな。俺はどうにかアレクの説得を試みる」

 彼女とは緑屋のことである。今はなんとか諏訪部が一人で持ちこたえている。いや、その後ろに千秋がいるのだが、どうも入っていくタイミングがつかめていない様子だ。

「緑屋さん、落ち着いてください!」

 源は千秋に見本を見せるように、華麗に諏訪部の加勢をした。

「うるせえ!コイツ、私のカルビを、カルビを生で食いやがった!」

 悲痛な叫びだった。源は諏訪部と二人がかりで何とか緑屋を抑え込むと、なおも抵抗する緑屋に諏訪部は自分のビールを飲ませた。

「諏訪部さん、それは…!」

「こうなれば仕方がない、最終手段を使わせてもらうよ」

 諏訪部がビールを一気に緑屋の口に流し込むと、途端に緑屋がおとなしくなった。

「目をつぶっていますし、寝たんですかね」

「これはタメだよ。この浅い眠りから覚めた時が本番だ。その前にあの、おっとイケメンだな。あのイケメンを止めるぞ!」

「アーサーさんです」

「よし、イケメンのアーサーを止めるぞ!」

 諏訪部は緑屋をその場に寝かせると、後ろのアーサーを振り向いた。が、そこにはすっかり襟元がよれよれになったYシャツを着た赤本が水を飲んでいるばかりで、アーサーはいなかった。アーサーは、源の座布団を占領して白石に絡んでいた。

「キミ、結構かわいいじゃん。この後、俺のプライベートジェットでニューヨークにでも連れっていってあげるけど、どう?」

 などとキメ顔で言っている。ナンパにしてもセンス皆無だ。

「遠慮しておきます」

 それを白石はさらっと受け流す。アーサーはそんな白石の対応がよほど予想外だったのか、少し戸惑っている。

「ニューヨークだよ?それも天上階に連れて行くってのに。あ、もしかしてニューヨーク知らない?」

「知っていますよ。その上で、お断りします」

 お断り、のところに語気を込めて白石は言った。

「…あーあ、そうかよ。もったいねえな、アンタ」

「そうですか」

 白石はどこまでいっても塩対応だ。やけにあしらい方が上手い。やはりナンパされたことも多いのだろうか。そんな白石に、アーサーは気分を害したのかその顔から笑みが薄れた。そこに、千秋が白石越しにアーサーと相対した。予想外の第三者乱入である。

「…何だよ、俺とやる気か?レストアもどき」

「その気配は女性に向けるべきものではないでしょう」

「説教かよ、俺聞かないぜ?そういうの」

「アナタには女性に対する配慮が足りません」

「だから説教は意味ねえって…」

「アレク、そこまでにしておけ。酔いも十分覚めただろう」

 と、ここでやっとアーノルドが動いてくれた。

「旦那…」

 流石のアーサーもアーノルドには頭が上がらないらしい。すごすごと引っ込んだ。

「すまなかった、この馬鹿の粗相をどうか許してくれ」

「……Yシャツ代だけもらいたい」

 赤本は自分のよれて使い物にならないYシャツを指さした。

「もちろん弁償させてもらう。それと、ここは我々に奢らせてくれ」

「それはありがたい話だが、些細なことで借しを作るのは避けたい。遠慮しておく」

「そうはいかない、すでに2部屋分の代金は支払っているし、日本の返金手続きは面倒だからな」

 まさかの発言であった。もしかして、最初からこうなることを予想していたのか?いや、もっと巧妙な、

「……そうか。ではまた現場で会おう」

 赤本もそれに気づいたのか難しい顔をしている。明らかに仕組まれている。であれば狙いは、

「ああ、そうさせてもらう。ただ、ミナモトには用事がある。なに、そう怖い顔をしなくとも、拉致なんてしないし、ここにSATが突入してくることもない。ただの世間話だ」

 一度は共闘したが、所詮は世界の覇者米国だ。有無をいわせずに自身の思惑を進めてくる。

「……5分で終わらせてくれ」

 赤本にはそう言うことしか出来なかった。

「了解した」

 アーノルドはアーサーの首根っこを掴むと、先に廊下に放り出した。そして自分も廊下に出ると、振り返ってそこに棒立ちになる源を見た。

「何を突っ立っているんだ。すぐに終わる話だから、早く来たまえ」

 源はごくりと唾を飲み込むと、アーノルドたちの待つ廊下に向かった。なぜか今、緊張している。一段低い廊下に降りると、アーノルドは隣の自分たちの個室へ源を案内した。そして席につくと、まずアーノルドはジョッキに残った酒を一気に飲み干した。

「あの、本当に5分で終わる話なんでしょうか……」

「あれはお前を連れ出すために同意しただけに過ぎない。だがまあ、こちらとしても長々と話すつもりはないがな」

「では話とは?」

「単刀直入に言うぞ。源、海兵隊に入れ」

「海兵隊って、僕がですか?」

「そうだ。ここでは君の力を十分に発揮することは出来ない。その秘められた力をな」

 その時源は思い出した。確か今日、出羽長官に言われた言葉だ。

『怪獣を一匹残らず殲滅することが出来る』

「それは、具体的にはどのような力なんですか?」

「具体的、か。まあいい、さわりの部分は教えよう。君は世界的に見てもほぼトップレベルの適合率を持っている。そして適合率が高ければ高いほど、怪獣に干渉する脳波の強度も高くなる。その強さは軍事転用が可能なレベルだ」

「まさか僕に人殺しをしろと?」

 そんなの絶対に嫌だ。

「話は最後まで聞け。いいか、その脳波を本来の用途以外で使うことは無い。これは断言できる。本来の目的とは勿論、怪獣の浄化だ。そして浄化にも種類がある。直接触って浄化する方法と、脳波を遠隔でコアに当てて、触れずに浄化する方法だ。君は世界で初めて、後者の方を成功させた」

「成功って、そんなことは…」

「特殊処理班に入る前、検査をしただろう。そこで君は疑似的に作成されたコアを触れずに浄化した」

 やっと思い出した。確かに初めて出羽長官と東雲班長に会った時、地球防衛省の地下でコアによく似た機械に触れさせられた。

「確か、直接触れずに精神体に干渉したとかなんとか……」

「そう、それこそが君の可能性だ。適合率とはその字面通り、怪獣にどれだけ近づけるかの値だ。それが逸脱している君は我々の、いや、人類の悲願を叶えることが出来る」

「…怪獣の根絶」

「そうだ。もう一度言うぞ、ミナモト。アメリカに来い。そうすれば、お前は世界の英雄になれる。それに、お前の過去全てを知ることが出来る。ミナモトとしての記憶も、もう一つの記憶も、同時にだ」

「僕の、記憶……」

 その全てを知ることが出来る。そして僕は、英雄になれる。

「おい、源!」

 その時、障子が勢いよく開き、赤本が部屋に入ってきた。

「予定変更だ、緑屋を取り押さえるからお前も来い」

「…アカモト。先に時間を指定したのはお前だ。それを破るつもりか?」

「ああ、破らせてもらう。うちの大事な班員たちをおびやかすような奴らとは正直関わりたくない」

「随分な言い様だな。俺が本国にこのことを報告してもいいんだぞ?」

「どうせ出来ないだろうが。それに、お前たちはそんなことはしない」

「…何だと?」

「そのまんまの意味だ。ほら源、行くぞ」

「え、ああ、はい」

 源は赤本に強引に腕を引っ張られ、個室から連れ出された。その直前、アーノルドは源に耳打ちした。

「我々はすでに受け入れる準備は出来ている。後はお前の選択次第だ、ミナモト」

 源はその言葉を記憶に強く焼き付けた。

「…源、奴らに何を言われた」

「その、海兵隊に来ないか、と」

「やはりか……すまん、こちらのミスだ」

「ミスだなんて、そんなことはないですよ。それよりも緑屋さんを」

「ああ、そうだった。源、お前はお冷をあるだけ持ってこい」

「はい!」

 やはり源は、この人しか自分の上司はいないと思ったのだった。

長々とすいません

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