ヘッドハンター作戦 攻勢
25話です
上層に上がったレストアは、まず周囲の建物の数と配置を把握した。
(……恐らく爆薬の類がそこかしこに仕掛けられているな。それも実に巧妙に張り巡らされている。だがそれにも規則性が存在するのが常。その違和感をたどれば自ずと敵の居所も分かるというものだ)
レストアは地面すれすれに張られた何本ものピアノ線を難なく跨いでいくと、背中に担いできた大剣を取り出し、目の前の支柱にそれを投擲した。支柱にはビルが入っており、大剣は亜音速でその一室に綺麗に突き刺さった。その衝撃で周囲の部屋も粉々に吹き飛び、大剣の刺さったところを中心に壁が大きく崩壊した。さらに落下するがれきに交じって、バラバラになった人の手足も幾つか見えた。
「そこは最初に見えていたぞ。迷彩が甘い」
レストアはそのままフロア中心部に続く大通りに入った。入ってすぐ、両隣のビルのいくつかの窓がピカッと光ったかと思うと、レストアは爆炎に包まれた。
『こちらウルフ3、対戦車ミサイル全弾命中。繰り返す、全弾命中』
『ウルフ2了解。第2波攻撃開始』
『それはならん!』
突然、ベータ隊の内部無線から大きな声が鳴り響いた。
『我が名はレストア!貴様らの半分を我が屠った!もはや我らの力の差は歴然!ちんけな火薬玉では我にかすり傷すら与えることは不可能ぞ!何度言えば分かるというのだ!』
『構わん、第2波攻撃開始』
出雲はそれに動じず命令を下した。すると今度は両側のビルの一階が爆発を起こし、レストアの上に建物が落下してきた。それにレストアは逃げることをしなかった。そして、巨大な質量がレストアを圧し潰した。するとまたもや無線が聞こえてきた。
『……唯の重しで我を殺せると?』
その言葉と共にがれきの山の一部が一気に盛り上がり、そこからものすごいスピードで何かが飛翔した。それはレストアだった。
『空中に目標を補足。地対獣ミサイル発射』
レストアがそのまま天井を掴もうとしたとき、レストアは巨大な火球に包まれた。周囲の建物は、その爆風によって窓ガラスが全壊し、ビルの陰に退避していたベータ隊隊員たちもその衝撃波で一部負傷者が出た。
『ぬう!』
レストアはその火球からボロボロになりながら脱出すると、そのまま工場施設に落下した。
『今のは何だ、人間。これはかなり効いたぞ…』
『目標は178ブロックに落下した模様。至急対処せよ』
『黙するのもまた答え、か。いいだろう、我も出し惜しみは辞めよう。その身をもってかかってこい』
レストアは大きくへこんだベルトコンベアの上に立ち上がると、そばにあった巨大な鉄パイプを掴み、また大通りに出た。
『さあ、何処からくる?』
すると真上から声がした。レストアが驚いて上を向くと、100メートルもある高層ビルから数名の隊員たちがレストア目がけて降ってきていた。手に持つ短刀をしっかりと握りしめ、体から殺気が漲っていた。
「ウルフ1、突貫する」
「我が意表を突かれるとはな!」
それにレストアは思わず避けた。着地したウルフ1の隊員たちは、手に握りしめた短刀を逆手に持ちかえると、腰に巻いていたロープをすばやく解き、レストアと相対した。
「……中々の手練れと見た。名を名乗られよ」
「ベータ隊隊長」
出雲はそれだけ言うと、レストアに切りかかった。それにレストアも鉄パイプで応えるが、その強靭な一振りを、出雲は間一髪で避けていた。そしてレストアの間合いの内側に入ると、腰の拳銃を取り出し、その甲冑の隙間から内臓に向けて全弾叩き込んだ。
「…怪人、お前は一つ勘違いをしている。お前がさっき自信満々に叩き潰したのは我々の中でも最弱の部隊だ。だから誘拐された人々の救助という任務を帯びていた。それをお前たち怪人は悉く潰してきたわけだが、ここで一つ言っておく。俺の部隊は隊内でナンバー2だ。そしてお前の仲間を全て殺害し、金城の元に向かっているのが、我らのナンバー1、自衛隊最強の特殊部隊だ」
レストアはどす黒い血を鋼鉄のマスクの隙間から垂れ流しながら笑った。
「はっはっはっはっは!これは愉快!我の臓物に風穴を開けられる戦士なぞ一握り。お前たちにはそれのさらに上までいるとは、是非一度、存分に殺し合いたいものだ!」
「何を言っている?お前はここで死ぬんだ」
「うむ、このままではな。だが貴様も一つ思い違いをしているぞ?我の体躯に風穴を開けられる戦士は少ない。確かにそう言った。そしてそれ以上に、我を殺せたものは一人としていないのよな。この意味が分かるか?まだまだお前は狩られる側だということだ」
レストアは手負いとは思えないスピードで出雲を蹴り飛ばすと、そばにいた隊員たちを一人ずつ、丁寧かつ迅速に頭を捻りつぶし殺害した。
「我はティレやカタのように非力ではないぞ?」
レストアはそのままウルフ1を壊滅させると、応援に回ろうとしていたウルフ2に目を付けた。ウルフ2は発砲することはなく、ただ合理的に近くの構造物に回避行動をとった。
(いい判断だ。この束の間で、いくら我が手傷を追っているからと言って、まだ銃火器が有効ではないことを冷静に判断している。これがナンバー2という奴か。さぞ良質な訓練を受けてきたのだろうな)
レストアは若干の後悔を感じたが、この感情は今に始まったことではないので、それに流されることは無かった。
「さて、これを片付ければあとは大君だけだな」
レストアは隊員たちが逃げ込んだビルの一階にはいると、すさまじいスピードでその支柱を破壊し始めた、
「意趣返しといったところだ。せめて一瞬で絶命しろ」
レストアが支柱を数本破壊すると、すぐに建物全体が傾き始め、ついに全体が崩れ始めた。その大部分は大通りと向かいの商業施設に落下し、隊員たちはレストアの言った通り、脱出する暇もなく、そのがれきに押しつぶされた。
「あとは大君だけか」
レストアはそう呟くと、支柱に刺さったままの大剣を取りにジャンプするためしゃがんだ。
「どこに行く」
不意にがれきの上から声が聞こえた。レストアはそれに振り返ると、真っ白な制服に身を包んだ男が二人立っていた。その手には奇抜な形をした剣が握られている。
「……誰だ。先の連中とは服装も得物も違うが」
「怪獣特殊処理班、赤本、東雲だ。お前を浄化しに来た」
「浄化?あのむごたらしい殺害方法のことか?ということは貴様、大君の護衛役か…」
レストアは持っていた鉄パイプをしっかりと握りしめると、二人を睨みつけた。
「すでに我が投擲で射殺したと思っていたが、いやはや、運命というものは実に面白い。いいだろう、アカモト、シノノメ。同業のよしみでその勝負、受けて立ってやる」
「それは有難い。ところで大君とは誰だ?」
「……ミナモトという名を言えばわかるだろう。早くそこから降りてこい」
赤本はそれを聞いてあの戦車のような図体をした怪人が何を目的としているのかを悟った。
「東雲さん、奴は源を狙っています。僕が前に出ますから、東雲さんは奴があの大剣を取りに行く隙を潰してください。あれがあると、多分俺たちは負けます」
「……分かった。奴が体を再生しきる前にカタを付けるぞ、赤本」
「はい!」
赤本は術刀を構えると、勢いよくがれきの山から飛び降りた。
「今度はそう簡単にやられるではないぞ!護衛役!」
「お前がな!」
赤本はその姿勢を変えることなく、術刀を振りかぶると、真っ直ぐレストアの脳天に振り下ろした。
強さの表現が難しい




