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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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もっとわがままに

「自分に、考えがあります」

 会議室の沈黙を破り、源はそう言った。神原はそんな源に尋ねる。

「その考えとは?」

 源は澱みなく答えた。

「電波灯台です。長良長官の仰っていた新潟のものを使い、それを編成部隊に組み込みます」

 その発言に周囲はざわつく。

「あれはもう使い物にならんはずだろう」

「何をするつもりだ?」

 赤本も思わず源に声を掛ける。

「源、お前……」

「アカモト」

 それをシェリンが制した。

「源は何かに気付いてる。顔を見れば分かるわ。だから彼を、信じてあげたら?」

「シェリン……」

「シェリンさん……」

 赤本と源はシェリンを見る。

「いい、ミナモト。こういう場でこそ、堂々としなさい」

 シェリンはそう言って源に綺麗なウィンクをした。源はそれを見て自分の緊張をほぐす。そして神原たちに向けて言った。

「まず考えなくてはいけないのは、隕石を取り巻く大怪獣たちです。これは現状から考えて、上海で浄化されたマザーコアとはまた別のもの。つまり隕石の内部にあるマザーコアに制御されていると考えられます。ですから隕石内部のマザーコアを浄化すれば、それに付随して大怪獣たちも同時に浄化できる!」

 源の発言に大臣たちの表情が変わる。そして神原の目には光が戻ってきていた。

「……なるほど。それで?」

「最終目標をマザーコアの浄化として、それまでに一度だけ大怪獣を突破する必要があります。そこで電波灯台です。外からの攻撃が効かないのなら内部から。遠隔での浄化により隕石までの進路をこじ開けます」

 神原は頷く。

「では、移動手段は?」

「海路になるでしょう。電波灯台を乗せるには船が最適です」

 そこで経済産業大臣が口を開く。

「タンカーでよければ、幾つか用意できます。当分使うあても無いですから」

 さらに防衛大臣も、

「……護衛艦が四隻、運用可能な状態で東京湾に留まっています。いずれも古い艦ですが」

 と神原に言った。神原は少し考えてから、源を見て尋ねた。

「誰が浄化を?」

 神原はあえてそう言った。そして源は予想通りの答えを返した。

「自分が浄化します。何体来ようが、全て」

(今度こそ俺がなんとかする。また傍観者でいる気なんて、さらさら無い)

 神原は源の様子を見て、フッと笑った。

(良い目をしている)

 そして言った。

「では本案を源案として詳細を検討する。アメリカにもその旨を送ろう」

 源は表情を明るくする。

「……!ありがとうございます!」

 そんな源に神原はくぎを刺す。

「勘違いするなよ、源君。これで終わりではない。これからが本番だぞ」

 源はその言葉にハッとする。

(そうだ。今喜んでどうする。それは、全部終わった後にとっておけ)

 源は姿勢を正して真っ直ぐに神原を見据える。そして答えた。

「はい!」

「では一時解散とする。第二回会議は24時間後だ」

 神原の言葉に各々が会議室を後にする。そんな中、神原は出羽を呼び止めた。

「出羽!」

 神原の呼びかけに、源たちを先に行かせて出羽は立ち止まる。

「総理、私に何か?」

 神原は笑って答える。

「なに。ただの世間話をとでも思ってな」

 出羽はつられて表情を緩める。

「世間話、ですか」

 神原は頷く。

「お前にはとても世話になった。あの対怪獣機構を正式に承認する日が来るとは思っていなかったよ」

「もっと早くても良かったぐらいです。彼女は我々の思っている以上に理性的で思慮深かった」

「……後悔しているのか?」

 出羽は答えた。

「大いにしています。だが、それは今やる事ではない」

「お前らしいな」

(やはり、変わっていない)

 神原は満足そうにそう言うと続けた。

「ところで出羽、これは提案なのだが……」

 神原はそこで瞬時躊躇った。そして意を決して言った。

「もう一度、地球防衛省長官を務めてくれないか?」


 その頃、源たちは居住区に向かう為に廊下を歩いていた。源は歩きながら両手を組んでぐっと伸びをする。

「はー、疲れた。早く寝たい……」

「同感だ」

 赤本も流石に疲れた様子である。が、

「あら、2人ともスタミナ無いわね。元自衛隊のエリートじゃないの?」

 シェリンは平気そうな様子で、からかうようにそう言った。赤本は不服そうに答える。

「ここ数年はデスクワークが主だったんだ。スタミナも衰えるさ」

「言い訳は聞きたくありません。私の彼氏なのだから身体能力も抜群でありなさい」

「すっかり忘れてたよ。そういえば君はそういう性格だったな……」

 赤本は思わずため息をつく。そしてふと源の方を見てみると、源は驚きの表情を作っていた。

「か、彼氏って……本当に付き合ったんですか!?」

 それにシェリンが答える。

「本当にって、貴方私が適当に告白をしていたとでも?」

「正直、その場の空気に流されて何となく好きになってしまったような、一過性のものかと……」

「お前も大概な性格してるよ」

 赤本は源の言葉に呆れる。だが、シェリンは思いの外動揺している様子だった。

「……まあ、そういう感も否めないわね。でも、その事は忘れて頂戴。勝手な言い分だけど、その。自分でも恥ずかしいと思ってるから……」

 シェリンは苦々しい表情でそう言った。どうやら、過去の自分の言動を思い返して共感性羞恥に襲われているようである。赤本はそんなシェリンを横目に言う。

「まあ、そういうことだ。タイミングが悪いのは承知している」

「流石に驚きましたよ……。でも、相性良さそうですよ?」

「本当に!?」

 シェリンはパッと顔を明るくして源に詰め寄る。

「は、はい。本当に……」

 源は壁際に追い込まれつつそう答える。するとシェリンは嬉しそうに赤本の方を見る。

「だって!聞いた?」

「聞いたよ。あと、ここは通行する人たちの邪魔になる。早く居住区まで戻ろう」

「なによ。もっと喜んでくれてもいいじゃない」

 赤本に言われてようやくシェリンも歩き始めた。ご機嫌なシェリンの後ろで赤本は源に尋ねる。

「源」

「なんです?」

 赤本はチラッと源を見ると、気恥ずかしそうに尋ねる。

「……さっき言ってたことなんだが。俺とシェリンの相性が良いって、どうしてそう思ったんだ?」

 源は少し考えると答えた。

「うーん。別に特別な理由は無いんですけど。2人とも真面目じゃないですか。やらないといけないことは絶対に手を抜かないというか。妥協しないというか。さっきの会議でもシェリンさんは神原総理に自分の立場を認めさせた訳ですし」

 源は続ける。

「あとは単純に美男美女じゃないですか。2人が並んでいるとしっくりきます」

 赤本は源の話を聞いて尋ねる。

「なるほど。まあ俺が美男かは置いておいて、俺ってそんなに真面目に見えるか?」

「逆に自分の事を真面目じゃないと思ってるんですか?赤本さんが仕事で手を抜いてる所とか、一度も見た事ないですよ。寧ろ真面目すぎるくらいです」

「そうかな」

 赤本はまだピンと来ていない様子である。

「ちょっと、何の話してるの?」

 そこにシェリンが入ってくる。

「赤本さんがいかに真面目かについて話してたんですよ」

「あら。それは興味深いわね。私にも聞かせて」

 何か言いたそうにする赤本を制して源が笑顔で答える。

「もちろんです」

「ここではやめてくれ……」

 やがて源たちは居住区に続く分厚いゲートをくぐった。すると行政区の厳粛な空気は、雑多な住宅街の騒々しい空気へと一変した。カッチリとした強化外壁の通路は直径5キロの広大なドーム状に一気に開け、天上のスクリーンには地上の夜景が映し出されていた。そして目の前にはマンションの立ち並ぶ大通りが伸びていた。

「すごいな……」

 源たちは思わず上を見上げる。さらにそよそよと夜風まで吹いてきた。

「これじゃあ地上と変わりませんね」

「悪くないわね。これはこれでロマンチックじゃない」

 そして独特の夜景を楽しんだ3人は迎えの車に乗り中心部に移動する。そこに職員寮があるのだ。

「おーい!こっちこっち!」

 職員寮の前には白石たちが待っていてくれていた。諏訪部はこちらに大きく手を振ってその存在を知らせる。一行は合流して寮のエントランスに移動した。

「どうだったよ、会議は」

「上々だ。源が頑張ってくれたんだ」

 諏訪部と赤本が話している間、源はキョロキョロと周囲を窺っていた。

「どうしたの?源君」

 白石の問いに源は答える。

「いや。トラグカナイはどこにいるのかなって」

 その言葉に白石たちに気まずい空気が流れる。白石は源に説明する。

「それが、もう部屋に戻っちゃって……」

 源は少し表情を暗くする。

「……そっか」

(以前の関係には、2度と戻れない)

「私、呼んでこようか?」

「大丈夫。アイツも疲れてるだろうから」

 それから2人の間には気まずい空気が流れて始めた。白石が何か言おうとするものの言葉が出てこない。それを察してか赤本と諏訪部も会話を止める。その様子を見かねたシェリンが、おもむろにため息をつく。

「はぁ、まったく」

 そして白石の肩にポンと手を置くと言った。

「シライシ、ちょっと話があるんだけど」

「は、え?私ですか?」

「決まってるでしょ。ほら、こっち」

 シェリンはそう言って白石を引っ張っていった。

「ちょっとクリスタルさん!話って何なんですか!」

 白石はシェリンの腕力に敵わずに、エントランスから少し離れたソファに座らされる。そしてシェリンもその隣に腕を組み座る。シェリンは言った。

「シェリンでいいわ」

「そこじゃなくて!私、何かシェリンさんの気に触る事でも言いましたか?」

「言ってないわよ」

「じゃあなんで……」

 シェリンは戸惑う白石を見据えて言った。

「見てられなかったから。貴方のことが」

「………」

「最初から疑問に思ってたの。ねえ、白石」

 シェリンはもう一度白石を見る。もう白石から戸惑いの表情は消えていた。シェリンは言った。

「あの時アカモトが止めなかったら、私の事撃ってたでしょ」

 白石の表情が固くなる。

「それはどういう……」

「貴方は私に似てるのよ。自分の大切なものの為ならどんな事も躊躇しない。ある意味で究極の自己中心的性格。私はあの時貴方から、確かにソレを感じた。銃口はピッタリと私のこめかみを狙っていた」

「も、もういいですか?そろそろ戻らないと……」

 白石はそう言って腰を上げようとする。

「源は貴方のこと、どう思ってるのかしら」

 白石はそのまま腰を下ろす。

「いつも一歩引いて、自分の意見は二の次。好きなんでしょ?彼のことが。なのに私の見る限り碌にアプローチもしてないでしょ」

「……余計なお世話です」

「そうね。でも貴方も分かってるんでしょ?このままじゃ駄目だって。恋愛だけの問題じゃないってね」

 白石はぎゅっと両手を握る。

「このままじゃ、駄目……」

「ちょっと強い言い方をすれば、貴方はなぜかその強い行動力を活かさずに、消極的な姿勢を取って楽をしている。それはチームの、何より貴方の為にならないわ」

 白石は項垂れて床の絨毯を見つめる。

(そんなこと、本当はとっくに気付いてた。でも、怖い)

 白石は顔を上げるとシェリンを見る。

「……じゃあ私は、どうすれば良いんですか?」

 シェリンは先程までの厳しい表情から一変し、フランクな笑顔で答えた。

「そんなの簡単よ。もっとわがままになりなさい」

「もっと、わがままに……」

(昔、誰かに似たような事を言われた気がする)

 不意にシェリンが白石の肩に腕を回す。

「貴方ならきっと乗り越えられるわよ。貴方はその強さを持ってる」

 そしてポンポンと肩を叩くと言った。

「信じて。これでも私、防衛戦隊総隊長なんだから」

 白石はベッドの上でシェリンとの会話を思い出しながら思った。

(シェリンさんの言っている事は正しい。でも、私は未だに克服できていないんだ。なぜなら、あの時の事を思い出してしまうから……)

 白石はそのまま溜まった疲労に任せて深い眠りについた。その晩、白石は夢を見た。

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