表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
123/132

もしかしたら

「安心したよ。ちゃんとあの時のことを覚えていたんだね」

 立川は目の前でうなだれる周に声をかける。

「あれから随分と楽しそうに過ごしていたから、てっきり千秋ちゃんのことは忘れたのかと……」

 そう立川が言いかけて、周は顔を上げて立川を睨みつけた。

『……忘れることなんてない。夢にまで見るあの光景を、忘れなどするものかッ!お前の、お前のせいで私の妹は死んだんだッ!』

 周の鬼気迫る怒声を浴びて、立川は顔色変えずに答える。

「それは酷い責任転嫁だ。彼女を殺した直接の犯人は君だろう」

『違うッ!』

 周は言う。周には、以前からもしかしたらという予測があった。

(それがついさっき、ようやく確信に変わった)

『……お前は人の思考を操れるんだろう?そのマザーコアを介して』

 立川は少し表情を動かす。

「ほう。その根拠は」

『長崎の記録を見た』

 立川はそれを聞いてふっと笑う。

「君の権限の範疇を超えているじゃないか。あれは軍機だ」

『馬鹿が。私が直接閲覧した訳じゃないに決まっている。そして……』

 周は立川を見据える。

(大丈夫、私は冷静だ。千秋を失った痛みは、すでに私の一部なんだ。どれだけ傷を抉られても、流す涙も枯れている。だから、ここでお前の化けの皮を剥いでやる)

『お前、源さんと直接会っただろう。それにレストアにも』

「……それで?」

『源さんとレストアを"操れる"とアタリを付けた。長崎での源さんとレストアは、時々不自然な行動を取っていた。まるで"敵を刺激するような行動"を。つまりは利敵行為。それも双方への』

「………」

『答えろ、立川。お前はどちらの味方だ。人か、ラケドニアか。それとも、どちらでもないのか』

 周の問いに立川は押し黙る。と思った矢先、突然立川は声をあげて笑い始めた。

「あっはっはっはっは!これは凄い!そこまで気付いたのは狛江君以来だよ」

(俺の本音に気付いたのは)

 それに周は言う。

『お前は誰の味方でもない。戦士であるはずのレストアに銃器で瀕死の東雲さんを殺させ、源さんに自己暗示をかけてマザーコアを破壊させた。そして今、ここにレストアがいないことがその証明だ。私たちの侵入を容易にするために、別の場所に誘導したな?』

「………」

 神田は周の話を聞いて思う。

(す、すごい。驚異的な洞察力だ。軍でもこれほどの逸材は見たこともない)

 それに、

(やっぱり、長崎の源は操られてたんだな)

 ずっと胸にあったわだかまりが、ようやく晴れた気がする。源は、やっぱり俺の知る源だ。

「……俺は、誰の味方なのか。いや、敵なのか」

 不意に立川がそう呟く。

「俺は俺の人生の敵さ。このクソみたいな人生を、さらに酷く醜いものにしてやろうと思っている」

『それは……』

「一種の、自傷行為だ。そんなことは分かってる」

 周の発言を遮るように、立川はそう言った。

「だが俺は、その行為に大義を見い出したんだ。人類とラケドニア人の絶滅という大義を」

『なぜ?』

 周は問う。

「そう聞いてくれるのは君ぐらいだろうな。少し、昔話をしようか」

 立川はそう言って語り始めた。

「今から33年前、第一次進攻の後。復興中の混乱に乗じて中東で侵略戦争が勃発した。この紛争は世界中に拡大し、第三次世界大戦へと発展した。自衛隊員だった俺の父はこの戦争に動員された。当時5歳だった俺を置いて……」

 立川は続ける。

「父は死んだ。レーザー兵器に焼かれて骨も残らなかった。当然ドックタグも。死んだのは佐渡だった。君も知っているだろう。あの有名な佐渡防衛戦だ。戦力差10倍で中国軍に勝利した歴史的な戦いだよ。だから戦後、その功績を称えて戦闘に参加した隊員と戦死者の遺族に勲章と賞与が与えられた。だが、父の分は無かった。行方不明とされていたからだ」

 立川はふうと息を吐いた。

「父のいた部隊を指揮していたのは出羽元長官だった。父は出羽に囮にされたんだ。反転攻勢のためのデコイ代わりさ。挙句父は死に、残された母と俺は賞与をもらえずに路頭に迷った。母は身を売り、俺は客の男に暴力をふられた。それから母も死んだ。客の男に人ならざる力で頭を砕かれた。その男は怪人だった」

 立川は周を見る。

「ここの怪人共は口を開けば復讐だなんだと喚いていた。俺の母親をぶち殺したくせに、文明人ぶって見かけだけの高尚な思想を掲げている。実に醜悪だ。人も、怪人も、上辺だけで中身は腐っている。俺にはその腐臭が鼻をついて敵わないんだ」

『だから、こんなことを?』

「だからこそ、だ。大義だと言っただろう」

 周はそれを聞いて一言だけ言った。

『哀れだな……』

「……なんだと?」

『お前は知らないんだ。人の優しさを。だから他人を表と裏でしか見れない』

 周は続ける。

『私はあの地獄から解放されて、知った。私のこのくすんだ目を肯定してくれる人を。私にパンケーキの味を教えてくれる怪人を。赤本さんたちは、私を家族のように扱ってくれた。私は、あの人達が好きなんだ』

『周ちゃん……』

『人に裏表なんてない。グラデーションみたいに色んな感情と感覚が混ざり合って、それが絶えず変化してる。お前の言う表も裏も、所詮一過的なものなんだ。お前はその理解を放棄した。だから自分の気持ちも分からない』

「自分の気持ち……」

 立川は視線を落とす。

(思えば俺は、そんなことを考えたことは無かったな。でも、もしかしたら俺は……)

 立川はそう思うと手に握っていたデバイスのボタンを押した。すると、立川の目の前に張られていた重力隔壁が解除された。さらに、後ろの円柱型の装置が起動して、外壁が下にスライドした。そこには、細長い柱に埋め込まれたマザーコアが見えた。そしてなんと、防御隔壁は作動していなかった。

(俺の、本当の気持ち……)

「……周千尋。俺は、これからどうなると思う?」

 周は神田に何事かを囁くと答えた。

『さあね。自分で考えたら?』

 そして周はその場に立ち尽くす立川の横を通り、装置の台に足をかけた。その時、立川は呟いた。

「……そうだな。俺は、自分に正直でいようと思う」

 俺の、本当の気持ち。

(全員、苦痛に悶えて死ねばいい)

 立川は横の操作パネルに触れようとした。その瞬間、ターンという音と共に操作パネルに弾丸がめり込んだ。

「なッ!」

 さらに1発の弾丸が立川の心臓を正確に貫く。立川はその場に崩れ落ちながら神田を睨みつける。

「お前、は……」

 神田は銃のリロードをすると答えた。

『てめえの不幸に他人を巻き込むな』

 神田はそう言いながら先ほどの周の言っていたことを思い出す。

『立川は絶対に改心しません。心が芯から歪んでしまっていますから。ですから、立川が何か怪しい動きをとれば、近くにある操作パネルと立川を撃ち抜いてください』

(君の言う通りだったよ、周ちゃん。この男は、哀れだな)

 そして周はマザーコアの前に立つ。それを立川は血を吐きながら見上げる。

「お前に……ゴホッ!マザーコアが浄化できるかな?ゴホッ!」

 周は立川の言葉を無視して深呼吸をする。そしてマザーコアに触れて呟いた。

『過程変異』

 次の瞬間、周の意識は見覚えのある殺風景な部屋に移っていた。


 その頃、出雲は失った左腕を庇いながらエルギネと対峙していた。すでに部下のうち2人が戦闘不能に陥っている。

(装備のおかげで致命傷は避けているが、戦えなければ意味がない!)

 全滅、という言葉が頭をよぎる。

(それだけは駄目だ。もう2度と仲間は死なせない)

 でも、それは実現可能なのか?相手はエルギネ。怪人の中でも確実に上位の実力を誇る相手だ。

(増援がいる。でも上は怪人が部隊の足止めをしている)

 勝つ為には、二つの要素が不可欠。そう出雲は考えた。

(誰かの犠牲と、源王城の到着だ)

 源の到着まで、誰かが命をかけてエルギネを足止めする。そしてその犠牲とは、

(……俺だな。片腕のない俺は明らかに足手纏い。俺にできる事はもう、肉壁しかない)

 すいません、出羽さん。

『あなたとの約束は、守れそうにない』

「何をぶつぶつと言っている。片腕は落としたのだ。もう死ね、人間」

 エルギネは短刀を出雲に向ける。出雲は隣の部下の肩に手を置く。

『石見、俺が合図したら後ろに走れ』

『それはどういう……』

『奴の真ん前で自爆する』

『な……!』

 石見は思わず出雲を見る。が、出雲の意思は変わらなかった。

『頼むぞ』

『た、隊長!』

 出雲は腰の手榴弾を握り込む。そしてエルギネを睨みつけた。

(タダで死んでやるものかよ)

 そして出雲が手榴弾のピンを抜こうとした瞬間、突如としてエルギネは握っていた短刀を落とした。そのままエルギネは糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

『な、何が……』

 出雲たちが困惑したのも束の間、他の部隊から無線が入った。

『こちらサイガシータ。ポイント2クリア』

 さらに無線が入る。

『こちらサイガベータ。ポイント3にトラグカナイ現着』


「あなたが『万能のトラグカナイ』ですね?」

 長い通路の真ん中で、トラグカナイとアミネレアは対峙していた。トラグカナイの後ろには、負傷して立つことすらままならない隊員たちがいる。どの隊員もわざと致命傷にならない傷を負っていた。アミネレアは自分の手についた血を舐めると言った。

「私、貴女の血に興味があるんです。男の血は、もう飽きましたから」

 トラグカナイは表情を変えず平坦に言う。

「そこを退け」

(私は一刻も早くアシュキルに合わなければいけない)

 あの人のために。

「うふふ。空気がより張り詰めましたね。つい先ほど、大勢死んだ気配がしました。私と貴女は無事のようですが」

「そこを退け」

 なおもトラグカナイは言う。

「無理です、よ!」

 アミネレアはそう答えると、とてつもない速さで短刀を投擲する。トラグカナイはそれを、なんと刀身をつまんでキャッチした。さらにそのまま刃を折ってしまった。

「退かないんだな?」

 アミネレアは思わず距離を取る。

(なんという身体能力。どんなからくりでしょう)

「お手並み拝見……」

 そうアミネレアが言おうとした瞬間、トラグカナイの手がアミネレアの頭を貫いていた。そしてトラグカナイの手には一つのコアが握られていた。

「な、に……」

(カルディア社の最終生産型か。道理で……)

「お前、弱いんだよ。コアの性能に頼りすぎだ」

 トラグカナイはコアを握りつぶすと、その頭から腕を引き抜く。

(こんな雑魚に時間を取っていられない。早くアシュキルの元へ急がなければ……)

 トラグカナイはそう考えると地下4階へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ