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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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唯一の

『作戦開始』

 出雲がそう合図した瞬間、隊員たちはザッと倉庫に散った。出雲率いるアルファ隊は非常階段を使い下の階へと降りる。出雲は無線をつけた。

『こちらサイガアルファ、ポイント1に移動する』

『コマンド、サイガアルファ了解。移動せよ』

 そしてアルファ隊は地下2階、デパートに到着した。電気は消えており、避難灯の緑の光が所々に淡く光っている。

『ホーン4、5はポイントを制圧。アモを無音弾薬に切り替えろ』

 出雲は部隊から2組を割いてデパートのクリアリングを任せると、先を急いだ。そして数分後、非常階段を慎重に降りつつ、出雲は思った。

(そろそろか……)

 そして不意に無線が入った。

『こちらサイガデルタおよびエータ、ポイント0を制圧。ガスを注入する』

 その瞬間、けたたましい警報音と共に階段の明かりが消え、真っ赤な非常灯が点灯した。さらに警報音に混じって空調のごうごうと言う音が聞こえる。これで春麗タワーの地下は非致死性のガスに満たされる。

(民間人に配慮した非致死性とはいえ、粘膜に接触すれば焼かれるような激痛が走る。人間が発狂死するほどの劇物だ。並みの怪人には耐えられないだろう)

 事前に何度か試したのだ。効かないはずがない。アルファ隊はさらにホーン2と3に地下2階の設備区画を任せ、ホーン1と周たちと地下4階の秘匿区画に到達した。

(ついにここまで……)

 出雲は早まる鼓動に深呼吸をすると、非常階段の扉に手をかけた。その時だった。

「グ……う、ああ!」

 扉の向こうからうめき声が聞こえたのだ。途端に空気が張り詰める。そんな中、出雲は静かに無線をつけた。

『こちらサイガアルファ。コンタクト、ポイント3』

 そして部下に扉を任せ、自分はライフルを構える。

『開けろ』

 その合図とともに、扉が勢いよく開いた。そして目の前にうずくまる警備員に銃口をピタリと合わせた。が、出雲は引き金を引かない。

(……脳波の反応がない。こいつ、人間だ)

 出雲は躊躇していた。以前なら軽く引けた人差し指が、今は1ミリも動かない。出雲は額に汗を浮かべる。

(何を躊躇っているんだ!こいつは敵、殺しても問題はない!)

 隊員たちはそんな出雲を見かねて、1人が警備員にライフルを構えた。

『出雲隊長、自分が!』

 そしてパシュっという音と共に警備員の頭を撃ち抜いた。出雲は咄嗟にその隊員のライフルを掴む。

『貴様何をしてッ………いや、いい』

『も、申し訳ありませんッ…!』

 出雲はライフルから手を離す。隊員のライフルを握る手は震えていた。

(俺も同じだ)

 出雲はそう思ったのだ。今の今まで、考慮してこなかったのが不思議な程に、自分は躊躇なく敵の"人間"を殺せると思っていたのだ。

(……今は深く考えるな)

『弾薬を赤アモに切り替え』

 出雲はその問題から目を逸らすように、目の前に続く長い通路を進み始めた。出雲は、輸送車両の中で周が言っていた言葉を思い出す。

「奴らの地下施設は、数本の長い通路から各部屋が枝のようにのびています。入り口は一つで、他に小型のものが幾つか。部屋の配置は、奥に行くほど重要度が高くなっています」

 そして、

「ですから、1番手前の部屋のいくつかは、"居住部"です」

 周から無線が入る。

『出雲隊長……』

 出雲たちホーン1は、敵の居住部のど真ん中にいた。

『分かっている』

 その時、何かが物凄いスピードで近くの扉を蹴破った。それは兵士の格好をしていて、そして出雲たちを充血した目で睨みつけた。兵士は顔を血の出るほど掻き毟りながら唸った。

「これをやったのは、お前たちだな?人間…!」

 そして兵士はまるで獣のように両手を地面に付けると、ぐぐっと体を後ろに曲げた。

『射撃準備』

 出雲の合図で隊員たちは前後2列になり、銃を構える。今まで幾度となく行ってきた動きだ。そして出雲は思った。

(ああ、化け物相手ならなんて引き金が軽いんだ)

『射撃開始』

 その瞬間、兵士は前方の隊員に飛び掛かる。が、スラグ弾の弾幕を全身に食らい四肢がバラバラに砕け散った。

「ッ……!」

(こいつら、俺の四肢だけを正確に…!)

 兵士は床に仰向けに倒れる。と同時に別の扉が開き、今度は2人の兵士が現れる。兵士の1人は、床に倒れる同胞の死体を見て驚く。

「貴様ら…!」

 その兵士はおそらくラケドニア語で何事かを隣の兵士に伝える。

(させるかよ!)

 出雲は瞬時に腰の拳銃を抜くと発砲した。次の瞬間、無数の散弾が兵士たちに突き刺さる。そこに隊員たちのショットガンライフルが火を吹く。2人の兵士は胴を吹き飛ばされた。

(この日の為に用意した拳銃用散弾が生きた!)

 隊員たちの連携も完璧。準備は無駄ではなかった。出雲は湧き上がる喜びを押し殺しながら無線をつける。

『周、頼む』

 重要なのはここからだった。

『はい』

 出雲たちの周囲のクリアリングが終わると、周は手袋を取り怪人たちの死体に歩いて行った。そしてしゃがむとその頭に両手で触れる。

(……よし。大丈夫)

 周は怪人のコアを浄化すると立ち上がった。その時だった。

『周、避けろ!』

『え?』

 次の瞬間、周の横を何かが掠める。そして目の前の出雲の脇腹に短刀が突き刺さった。その短刀を握る女は、鋭い目で出雲を睨み付けて言った。

「部下を差し向けて分かったぞ。貴様が賊の長だな?」

(ガスが効いてねえ!)

『クッ……撃てッ!』

 出雲の指示に、隊員たちは若干躊躇いながら発砲する。が、女はその隙を見逃さなかった。発砲されるや否や、出雲から短刀を引き抜きつつ後ろに飛び退いた。そして足元の死体を隊員たちに向かって蹴り上げた。射線を塞いだ死体はバラバラに吹き飛ぶ。その間に出雲は脇腹の傷が浅いのを確認すると、ナイフを取り出しながら言った。

『周、神田。先に行け!』

 周はそれを聞いて思わず言う。

『……!でも、出雲隊長は……』

『周!俺たちの役目は戦闘じゃない。ここに留まっていても邪魔になるだけだ!』

 神田はそう言うと、周の手を引いて非常階段に駆け出す。それを見届けた出雲は、目の前の女怪人を警戒しつつ無線をつける。

『こちらサイガアルファ。ポイント4に増援要請』

『こちらサイガベータ。負傷者多数、特権階級とコンタクト』

『こちらサイガシータ。怪人複数体とコンタクト。メディック要請』

『………』

 出雲は何も言わずに無線を切る。女の怪人はそれを見て言った。

「助けは来ない。貴様の仲間らは、私の同胞が悉く殺害するからだ。そして貴様も、ここで死ぬ」

 出雲はナイフを逆手に握る。

(脳波の波長からして、この女はエルギネ・キリウ・テトランタ。アシュキルの側近。そして、その戦闘記録は米軍特務処理部隊の一件だけ……)

 充分だ。

(ここから先が、真の戦いと思え)

『こちらサイガアルファ。出雲矢代、Dコードの使用を申請する』

『こちらコマンド。Dコードの使用を……許可する』

 そして無線は切れる。直前、死ぬなよと言われた気がした。出雲はガスマスクのボタンを押すと、耳元のイヤフォン型の機器に触れる。

(何をするつもりだ?)

 そうエルギネが思ったのも束の間、出雲は言った。

『生体ナンバーM1‐B、出雲矢代。精神を適合する』

 その瞬間、ガスマスクから鎮痛ガスが流れ込む。そして出雲の脳内で声がした。

「馬鹿野郎、何やってんだ!相手はエルギネだぞ!勝てるわけねえだろうが!」

(黙って力を貸せ。ジオナ・レン・サントラ。さもなくばお前から殺す)

「ッ……!クソッ!なんで俺がこんなことしねえといけねえんだ…!」

 そしてジオナの意識は消える。出雲は血の涙を拭うと、ミシリとナイフを再び握る。全身には力がみなぎり、嘘のように体が軽い。エルギネはその変わりように無意識に距離を取る。

「……その気配。貴様、脳に”入れた”な?それも、みすみす敵につかまるような奴隷崩れの腰抜けを」

 エルギネは出雲を嘲るようにニヤリと笑う。

「その程度で、私を殺せるとでも?」

『お前程度、これで十分だ』

(レストアに比べれば、何倍とマシだ)

 出雲は隊員たちに目くばせをすると、緊張と痛みで震える手を抑えるように、ナイフをも一度強く握りしめた。

(見ていてください、伊地知隊長)

『ウルフ1,突貫する』

 そして出雲とエルギネは衝突した。


 その頃、周と神田は非常階段で地下5階に到着していた。非常扉を守っていた兵士は、激痛に耐えられずに泡を吹いて倒れている。2人は倒れる兵士を浄化すると扉を押し開けた。

『これは……』

 神田は思わずそう呟く。目の前には、15メートルはあろうかという直径3メートルほどの巨大な円柱型の装置があった。そして目の前、装置の制御パネルのようなものの前に、白衣を羽織り、ネックレスをつけた一人の男が立っていた。男は言った。

「よく来たね、周千尋。私のかわいい娘」

 周は湧き上がる憎悪にギリギリと拳を握りしめながら、男を睨みつけた。そして唸るような声で言った。

『立川栄二ッ…!』

 周の様子に立川は嬉しそうな顔をする。

「覚えていてくれたんだね、千尋。そして、えーと……誰だっけ?」

 神田は拳銃を構えながら答える。

『神田明。長崎で会っているはずだ』

「ああ。元本土守備隊なんだ。なら、なんでこんな所にいるのかな」

 神田はそれには答えずに周に無線を繋ぐ。

『周ちゃん。奴の様子から見て、恐らく人間ではなくなっている。ここは協力して確実に……』

『……殺す』

『え?』

 その時、周は懐からブレードメスを取り出していた。

(まさか……)

『よせ周!どんな罠が仕掛けられているかもまだ…!』

 が、周は神田の警告も聞かずに立川目掛けて駆け出した。そして立川の喉元にブレードメスの刃先が届きかけた時、メスの刃先は見えない壁に突き刺さった。周はそのまま叫ぶ。

『なぜお前が、そのネックレスをつけているんだッ!』

 立川はその場から一歩も動かずに答える。

「いいだろ?これ。”彼女”の唯一の形見だったとか何とか。確かにお気に入りだったよな。覚えているよ。あの中で、君と彼女だけが最後まで生き残った」

『ッ……!それは、お前の身に着けて良い物じゃない!』

「君にも相応しくないだろ?」

 その言葉に、周はハッとする。

(あの二人は、一体どういう関係なんだ……)

 神田は銃を構えながら思った。そして立川は周を見下ろしながら言った。

「自分の事は棚に上げて、俺ばかり悪者か?彼女を殺したのは、紛れもなく君だというのに」

『……なに?』

『………』

 周は黙り込む。それに追い打ちをかけるように立川は続けた。

「これもまたよーく覚えているよ。彼女の血を被り、何事もなかったかのようにそれを拭う君を。俺は良く覚えている。この目で、目の前で見たのだから!なあ、M2223号ッ!」

 周は突き立てたブレードメスを下ろす。その暗い瞳は、ようやく癒え始めていた深い傷を眺めていた。

(……私には、このただ長いだけの人生の中で、一人だけ大切な人がいた。家族と呼べる人が、いた)


 私は、家具一つない殺風景な部屋で目が覚めた。

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