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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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作戦会議

 翌朝、駿府城公園の広場に音もなく静かに一機の試作九式ステルス輸送機が着陸した。が、その姿は見えず吹き付ける風だけがその存在を伝えていた。シェリンは風圧に少し目を細めながら無線を繋げた。

「ヒューストン、迷彩を解除して」

 その瞬間、オスプレイのような輸送機の全貌がゆっくりと浮き上がってきた。その様子はまるで幽霊のようである。そして輸送機の後部ハッチが開いた。その中を見て、隣にいた赤本は言った。

「やはり貴方でしたか、出羽元長官……」

 そこには、特殊作戦群の面々の中、出雲と共に立つ出羽がいた。鋭い眼はそのままに、現役の時と比べて明らかに老けて見えた。出羽は出雲とともに赤本と源の前に歩いてくる。

「久しぶりだな、二人とも」

「お元気そうで何よりです。出羽さん」

 そして赤本は出羽と握手をする。

「まったく、私が元気でも仕方ないんだがな。そして源、お前も変わりないな」

 出羽はそう言ってフランクに笑った。

「見た目は、ですけどね」

 源はそう答えると出羽と握手をする。現役では考えられなかった出羽の笑顔に赤本と源は驚いていた。

(重い職責から解放されたんだ。きっと本来はこういう人なんだろう)

「でも、よかったのですか?貴方はもう勇退されたはずだ」

「私が前線に出るわけではない。だから、自分にできることは最後までやり遂げたいんだ。君もそうだろ?出雲群長」

 急に話を振られた出雲は少しびっくりした様子で答える。

「自分ですか?それはまあ、はい。出し惜しみはしたくないです。どんな犠牲を払っても、怪人をぶっ殺したい」

 出雲はぐぐっと拳を握りしめる。出雲の言葉からは強い憎しみと後悔が漏れていた。

「出雲隊長……」

 そう言いかけた赤本を出羽が制すると、代わりに言った。

「伊地知ならそう言っただろうな。だが、君はどうなのだ。また部下を死なせたいのか?」

「それは……」

 出雲は拳を解く。

「……いえ、失言でした。もうあんな事は二度と起こしたくない。これ以上仲間の墓が増えるのは、自分もごめんだ」

 すると、出羽は出雲の肩を叩いた。

「よく言った。お前も群長らしくなってきたじゃないか」

 出羽はそう満足そうに言った。そこにシェリンと、戦闘服姿の白髪をポニーテールで纏めた大柄の老人が歩いてきた。

「どう?感動の再会はできたかしら」

「感動とまではいかないが、上々ですよ。シェリン隊長」

 出羽はかしこまってそう答える。それが気に入らなかったのか、シェリンは苦言を呈した。

「だから対等に接してくれていいのに。もうお父様たちとは縁を切ったの」

(やっぱりシェリンはお偉い所の令嬢なのか)

 じゃあ襲われたって話も……そう考えると赤本の胸にモヤッとした不快な気持ちが広がる。そんなことは露知らず、シェリンは隣に立つ老兵然とした老人の肩にポンと手を置いた。

「あ、そうだ。紹介してなかったわね。彼はセルゲイ・ヒューストン。えーっと、私の執事よ」

「お目付け役です。お嬢様、私の肩に手を置くのはおやめください」

 ヒューストンはそう訂正すると、シェリンの手を肩から放した。

「まあとにかくそんな感じ。じゃあ早速作戦会議といきましょうか。イズモ、手筈通りにお願いね」

 そう言われた出雲は無線に呼びかける。

「了解。アルファ1は周辺の警戒。ブラボー2は輸送機で待機しろ」

 そして一同は駐車場の仮設テントに入った。そこでシェリンは思い出したように言った。

「そうだ忘れてた。アカモト、特殊処理班を全員集めてくれるかしら」

「ああ、分かった」

 赤本は白石たちをテントに入れると、作戦会議が始まった。

「じゃあまず作戦目標から話しましょうか。目標は大きく分けて二つ。内部に滞在している怪人のせん滅。そしてマザーコアの完全破壊よ」

「マザーコア……」

 源は呟いた。2年前、長崎で浄化したあの特別なコアはマザーコアと呼ばれていた。

「名称の確認をするわね。ここでの怪人は私たちの調査でマーキングされたものを指すわ。建物内は人間と怪人が混在している。だからマークをした。データは後で共有するわ。そして、マザーコアね」

 シェリンは源を見る。

「北極の隕石の縮小版で、サーバーのようなものよ。コア同士のネットワークを司っているわ。世界中の怪獣の制御はこのマザーコアで行っているはずよ。これは2年前に一度源に破壊されているけど、完全な破壊じゃなかったってことね」

 まあマザーコアを破壊しかけるなんてのが、本来有り得ないことなんだけど。シェリンはそう続ける。

「ここから具体的な内容を詰めていくわ。まずデワさん、貴方の意見を聞かせてもらえるかしら」

 それに出羽は腕組みを解くと、目の前の地図を見ながら言った。

「……まずこちらとあちらの戦力を明確にする必要がある。我々は防衛戦隊3部隊36名、特殊作戦群150名、そこに赤本、源、神田、周、トラグカナイを含めた合計201名だ。対して春麗側は……」

「まって。アマネって、そこの小っちゃい女の子も戦闘要員なの?」

 シェリンが思わず口をはさんだ。カナが横目でシェリンの顔を睨む。そして出羽はシェリンを見て答えた。

「そうだ。彼女はその……」

 出羽は言葉に詰まる。どう言えばいいのか、言葉を選んでいる様子である。そこで周が口を開いた。

「神獣協会で30年ほど人体実験を受けていました。なので過程変異に近いことが可能です。この見た目は、成長が止まってしまったので」

 周は何ともないようにそう言った。だが、シェリンにはその表情には隠しきれない過去を思い出す苦悩が感じられた。

「……!」

(この子……)

 シェリンは驚きの表情を作る。そして何か言いたげな様子だったがぐっと堪えて言った。

「……ごめんなさい。私が無神経だったわ」

「いえ、シェリンさんの指摘も当然ですから。私みたいな人間は本来、ここにいるべきじゃない……」

 周はそう言ってハッとした。

「す、すみません!今のは忘れてください!何でも無いですから!」

 周は慌てて誤魔化す。出羽は周の様子を気にしながら口を開く。

「……そうか。では続けるぞ。春麗側の戦力は概ね予測がつく。都市部の防衛にあたる人数には上限があるからだ。それを踏まえると……」

 出羽がそう話し始めた後、周の隣にいた神田が周に小声で言った。

「ここにいるべきじゃないってのは、よく分かるよ」

「……え?」

「俺だって、本当はとっくに捕まって終身刑になっていてもおかしくない身だ。俺のこの手でコアの作動スイッチを押したんだ。今でも夢に見る」

「なんでそんな話を?」

 周の問いに、神田は少し考えて答える。

「君は俺とは違う。君は被害者だ。だから、なんというか思い詰めすぎないで欲しい」

 周はそれを聞いてちょっと驚いた顔をする。そして言った。

「……優しいんですね」

 でも、やっぱり神田さんには分からない。私がどんな人間なのか。私がどうやってあの牢獄で生き延びてきたのかを、知らない。

「……となる。よって人数比は201対2000。さらに武装と個々の練度を鑑みると戦力比は5倍。相手が5倍だ」

「思ったよりシビアね……」

 シェリンは顎に手を当てる。源は出羽に尋ねた。

「これだけの戦力差がある相手に取れる選択肢は限られています。ダメ元で聞くんですが、他国から兵力を割いてもらうことは……」

「無理だな。あくまでこの作戦は極秘だ。春麗側にバレれば大怪獣で周囲を固められるだろう。そうなれば近寄ることすら不可能になる」

「それに、私たち対怪獣機構は国連非公認。今さら協力はしてくれないわ」

 シェリンもそう言って首を振る。すると出雲が言った。

「なら具体的な侵入方法を考えるべきだな。味方の増援は含めずに」

「すると輸送機による屋上への降下は?」

 赤本がそう提案する。

「パラシュートが使えない。落下の衝撃に耐えられるのはシェリン隊長くらいだろう」

「そうね……となるとやっぱり、地上からどうにかするしかないかしら」

「だったら、制限進化のできる人員を通常の人員と分ければどうですかね」

 源はそう言うと地図の赤マルを指さす。

「ここが春麗タワー。その隣に高層マンションがあります。このマンションからタワーに飛び移る」

「それを私たちがするって訳ね」

 シェリンは源の言わんとしている事を理解したようだった。そこでずっと黙っていたカナが口を開いた。

「俺も概ね賛成だが、全員を固めるのには反対だ。増援が望めない以上、俺たちには常に全滅のリスクがある。特に制限進化のできない適合率の並みな人員が地下に向かった場合、怪人を倒しても浄化ができない。誰か適当に浄化担当を割り振るべきだ」

 カナの発言に出羽が頷く。

「なるほど。源の言っていた飛び移り案が採用された場合、本隊は地上からの突入になる。そうなればタワーの制圧は源たち別動隊。そして地下の制圧はおのずと本隊の役目になるだろう。トラグカナイの意見は取り入れるべきだと思う」

 出雲も賛成する。

「自分もそう思います。では、誰を本隊に?」

 その問いに、みな一瞬押し黙る。誰が最適なのか。自分はいくのか、誰をいかせるのか。各々が考えていた。その時、一人が手を挙げた。それは周だった。

「私が本隊に入ります。私のホログラム装甲は小回りがあまり利きませんし、源さんや赤本さんの戦闘スタイルと相性が悪いですから」

 赤本たち特殊処理班の面々は周を見る。

「周……」

「大丈夫です。奴らの地下施設のことは、私が一番詳しいですから」

「では周千尋を特戦群に加える。頼むぞ、周」

 周は出雲の言葉によどみなく答えた。

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 そして会議はいよいよ大詰めに入りつつあった。

「このマンションは富裕層向けで防犯カメラが多数ある。それに金属探知機も最新のものだ。武装の持ち込みはできないぞ」

 出雲が言う。

「そこは無問題。ちょっとハッキングすれば通れるわ」

「ちょっとハッキングって……」

 赤本が思わずそう言った。

「あれ、ちょっとマズい言い方しちゃったかしら。心配しなくても、偶然機械の不具合が起きるだけだから。ね、ヒューストン」

 シェリンに言われて、ヒューストンは不本意そうに黙る。

「じゃあマンションへの侵入はクリアだな。飛び移るのはタワーの何階だ?」

 出羽がそう言うと、

「このタワーには55階にせりでたプールがあります。マンションの高さが60階なのでそのプールに飛び込むのが妥当かなと」

 源が答える。

「幅跳び50メートルか……できるんだな?」

「はい。できます」

 源は断言する。今までの体験で、どれほどの力を引き出せるのかは分かっている。

「本隊は地下に続く搬入口から侵入する。ここは軍のトラックが頻繁に出入りしているから、何台か乗っ取ることになるだろう」

 出雲がそう言うと、最後に出羽が言った。

「これで作戦は決まった。目標である怪人のせん滅とマザーコアの破壊を第一に考え行動するように。そして、これは正規の軍事作戦ではない。失敗すれば、例え生き残っても国際法違反で裁かれることになる。だが、成功すれば世界を救うことができるかもしれない。いや、できる。みなで一丸となり、巨大な敵を粉砕する拳になるのだ!」

 出羽の言葉に、場の空気が引き締まる。続けて出羽は言った。

「最後に一つ。決して命を無駄にするな。生きて勝利を分かち合おう。以上だ」

 そして2日後、光学迷彩によって姿を消した一機の輸送機が上海に向けて旅立った。


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