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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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大仕掛け

「……はい、了解しました。では」

 赤本は無線を切ると源たちに言った。

「次の目的地が決まった。静岡県静岡市だ。殺害された怪獣が11体放置されているとのことだ」

「11体……」

 神田が思わず言った。ついこないだまで、怪獣の出現頻度は半年に一回ほど。それが一日で100倍以上の数が一斉に出現したのだ。しかもこの一斉出現は全世界で確認されている。

(まだ世界が滅んでいないのは奇跡だ)

 赤本は腕を組むと、深刻な顔をする神田に言った。

「その全てを浄化するわけじゃない。うち8体は通常兵器により頭部をコアごと破壊されている。つまり残りの3体を浄化すれいいわけだ」

「それでも、いつもの3倍だ。一体ずつ丁寧に浄化していたら間に合わないよ」

 諏訪部の言葉に赤本は頷く。

「その通りだ。だから俺と源、神田を中心に班を3つに分ける」

 そこで源が発言する。

「待ってください。俺は浄化担当です。それがリーダーでは、万が一の時に班員の安全を確保できません」

「お前は特別だとジウスドラ博士から聞いている。『多少無理をしても問題ない』ともな」

 それに、源は若干イラついた様子で反論する。

「そんなことを言っても、極論、俺が仲間を殺す可能性だってあるじゃないですか」

 源の発言に赤本は固まった。赤本の脳裏に自らの悲痛な叫びが浮かぶ。

『俺がこの手で殺したんだ!』

「それを言うか、お前は……」

 赤本は腕を解いた。不意に場の緊張が高まる。そこで諏訪部が言った。

「そのくらいにしなよ、二人とも。感情的になりすぎだ。それと源君……」

 諏訪部は普段見たこともない鋭い目で源を睨むと続ける。

「浄化事故の事は知ってるはずだよね。あの発言はいくらなんでも無神経すぎるよ。何様のつもりなの?君」

「まあ、私は源の言いたいことも分かる。けどな、人が足りねえんだ。それは分かるだろ?源」

 緑屋は諏訪部を目で制すると、そう言って源の肩をポンと叩く。源はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、やがて諦めたようには言った。

「……分かりました。先ほどの発言について謝罪します、赤本さん。それに皆さんにも。申し訳ありませんでした」

 源はそう言って頭を下げる。赤本はまた腕を組むと言った。

「もう気にしてない。お前ももう気にするな。それで、3グループの分け方だが……」

 赤本が話している間、白石は隣の源を横目で見ながら思った。

(やっぱりどこかおかしい。なんというか、冷たいんだ。私たちの事を”班員”って呼んだり、仲間を殺すかもしれないなんて言ったり。いつもの源君ならそんなこと絶対言わない)

 そしてカナもまた、源の様子に違和感を覚えていた。

(ミナモトのやつ、どうみても精神が不安定だ。特にその前触れになる出来事も無かったし、考えられるのは外部からの干渉か?そう仮定すると、挙げられる原因はさっきの浄化作業。あのコアに何かしらの細工がされていたと考えるのが自然だ。そもそもあの怪獣の落下も不自然だった。意図的にここに”落とされた”な)

 そしてカナは表情を険しくする。

(悪趣味なトラップだぜ。あんな大仕掛け、普通ならもっと直接的な損失を与える為に使う。そうじゃなきゃ割にあわねえ。それが今の段階だと、ただ源の精神を不安定にして、仲間同士の口論を生むだけのものにしか見えねえ。雑で投げやりだ。馬鹿にされてるようにすら感じる)

 誰が仕掛けたのか知らねえが、クズな野郎だ。カナの胸にはいいようのない不快感が広がっていた。

 と、そこで赤本の話がいったん終わった。

「……以上だ。もう一度確認するぞ。A班は俺、白石。B班は源、諏訪部、緑屋。C班は神田、トラグカナイ、周だ。現地へは自衛隊の確保した迂回路を使う。出発は15分後に格納庫前に集合。装備の点検を怠るなよ」

「了解!」

 赤本は情報の共有を終えると格納庫へ装甲車の調達へと向かった。諏訪部と緑屋は精密機器の点検。そして源と白石たちはブルーシートに座り、武器類の整備を始めた。

「源君、それ取ってくれない?」

「ああ、はい」

 白石は源からブレードメスを受け取ると、持ち手にこびりついた怪獣の血を丁寧に拭き取った。源の事を見ながら。

(変わったところは無し。いつもの源君だ。じゃあさっきの源君はなんなのだろう。ああなる条件でもあるのかな)

 その時、ジャキッという音とともにブレードメスの刃が飛び出す。

「わわっ!」

「なにしてんだよ。貸せ」

 慌てる白石に、カナがあきれた様子でブレードメスを取り上げる。

「お前、不器用なんだから気をつけろよな。人一倍」

「まあまあ。白石さんもわざとではないと思いますし……」

 周がそうフォローする。

「分かってんだよ、そんなことは。それよりもうっかりがダメなんだよ。うっかり刃物を露出させる。うっかりセーフティの外れた銃の引き金を引く。そういう凡ミスが周囲を危険に晒す。お前はちょっとシライシに甘すぎるぞ、チヒロ」

 カナはそう言って周の頭をわしわしと撫でる。周はカナの腕を掴んで抵抗する、

「うにゅ!撫でないでくださいよ。いつも言ってるじゃないですか」

 その様子を見て白石はあきれる。

(あなたもよっぽど甘いですよ……)

 と、カナは周の頭から手を放す。そして思い出したように言った。

「ああ、そうだ。シライシ、ちょっとこっちに来い」

「私ですな?」

「他に誰がいんだよ」

 カナはそう言いながら目くばせをする。どうやら、重要な話らしい。2人はその場から立ち上がる。

「ミナモト、そのメスチェックしておいてくれないか?機関部に血がついてると動かなくなる」

 源は何も言わずカナの目を見据える。

「……!」

(圧がすげえ。まさか疑ってんのか?)

 カナは額にうっすらと汗をにじませる。やがて源は言った。

「……分かった」

 カナは内心ほっとする。

「頼む」

 そしてカナと白石は少し離れた場所に移動した。

「それでなんですか?話って」

「ミナモトのことだ。お前も気付いてんだろ」

「……はい」

 そして白石は続ける。

「あの怪獣のコアを浄化した後からでした。源君がどこか冷たいような、そんな感じがするんです」

(やっぱりあのコアが原因か)

「浄化中に何か変わったことはあったか?」

 白石は首を振る。

「何も。いつものように灰色のコアの色が一瞬で透明になって、割れました」

「コアのメインシステムごと怪獣の意識を破壊するってやつか」

 カナは口に手を当てて考える。

(どんな方法で源の意識をイジったのかが分からねえな)

「あの、トラグカナイさんは何か知ってるんですか?」

「知らねえよ。ただ、アイツは明らかにおかしい。外部からの干渉を受けてる」

「赤本さんたちにも一旦このことを話しましょう」

「ダメだ」

 カナは即答する。

「なんでですか?赤本さんたちなら……」

「ミナモトに極力勘付かれたくねえんだよ。あの精神状態じゃ、どう誤解されるか分からねえ。最悪殺し合いになるぞ」

「そんな!」

 白石は思わず声を上げる。

「大きな声をだすな。もしもの話だ」

「じゃあ、私たちだけで?」

「ああ。原因を突き止め、源の精神を正常に戻す」

「そんなことできますかね……」

「出来るか出来ないかじゃなく、とにかくやるんだよ。アイツがあのままじゃ、その、なんだ。嫌だろ」

 カナは口ごもると、どこか恥ずかしそうに言った。白石はその様子を見て驚きつつも少し笑う。

(それほどにこの人は源君が心配なんだ。なんだ、あなたもよっぽど不器用じゃないですか)

「ふふっ」

「なに笑ってんだよ」

「いえ。私も決心が付きました。お互い頑張りましょう、源君のために」

 それを聞いて、カナも少し表情を緩める。

「……ああ。もういくぞ」

 2人が戻ると、すでに源と周は武器類の手入れを終えていた。

「遅かったな。なんの話をしてたんだ?」

 源が二人に尋ねる。カナがそれに答えようとした時、白石がそれを遮って言った。

「そんな簡単に聞いちゃだめだよ、源君。女同士の内緒話なんだから」

「お、おい。何言ってんだよ」

 カナは少し顔を赤らめる。源はその様子を見てふっと笑った。

「それもそうだな。にしても、いつから仲良くなったんだ?二人とも」

「仲良くねえって!」

 カナがそう反論すると、どっと笑いが起きる。そして白石は一緒に笑いながら思った。

(私が絶対、源君を助けるんだ)


 そして予定時刻、赤本の調達した装甲車に荷物を積み込むと、特殊処理班は静岡への移動を開始した。

「あれ、怪獣の死骸ですよね……」

 神田が窓の外を見ながら言う。そこには、東京湾に浮かぶ小島のようなものがあった。その周りには飴細工のようにひしゃげた電波灯台が辛うじて立っている。そこで隣に座る諏訪部が言った。

「ああいうのが今、日本各地の沿岸に浮かんでるんだよ。まだ慣れない?神田君」

「いや、なんというか。俺はあんなものを東京に向けて放っていたのかと思うと……」

 かつて本土守備隊として、南部連合軍として戦っていた過去がよみがえる。神田は拳を握りしめた。

「俺は、どうかしてたッ!」

「君はそれに気づけたんだ。だから今ここにいる」

 諏訪部はそう言いながら隣の座席の源を見る。源はじっとタブレットの画面を見つめていた。

(こういうの、同僚より友達の役目だと思うんだけど……)

 諏訪部は源に声をかけようとしたが、止めた。

(また空気を悪くしてもしょうがないか)

 そして3時間後、赤本達はなんの問題も起きず静岡市に到着した。


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